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第269話 邪神ちゃんの成れの果て
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「フェリスゥゥゥ……、コロス」
オピスだった化け物が、咆哮を上げている。だが、よく見るとその体はどことなく形を保ててはいない。少しずつだが崩れ始めている。
「無茶苦茶をしおってからに……。どうやらあの術は不完全なようじゃな」
「その様ですね。体の形が保てていません」
「なんて哀れな……。フェリス様への妬みだけで動いているようなものですね……」
崩れていく体から漏れ出る慟哭に、恐ろしさよりも哀れみが勝ってしまう。
だが、次の瞬間、そんな感情が吹き飛んでしまう。
「グルアァァッ!」
化け物の目と口から何やら光のようなものがほとばしったのだ。
次の瞬間、その光が当たった場所が激しく爆発して燃え上がる。それはかなり先の場所まで届いているようで、あまりの威力にフェリスたちの顔は青ざめた。
「なんてこった。あれは純粋な魔力の塊じゃな。あの体の状態であの威力じゃが、そう何度も放てぬようじゃな」
ドラコが冷静に分析している。実際、ドラコの指摘したように、化け物の体の崩れる速度が増していた。
「崩れるのを待つのもいいけど、その前に被害が酷い事になりそうね。でも、あれをあたしたちでどうにかできるのかしらね」
「分からんが、やってみるしかなかろう」
フェリスたちは正直焦りを覚えていた。崩れてかけているとはいえ、自分たちの力が通じるかは分からないし、下手をするとあの魔法の餌食になる。だが、放っておくとその魔法によって周囲にも多大な被害が出てしまう。あの距離だとバルボル全土はおろか、ブランシェル王国にも届きそうだからだ。
「こうなったら、オピスを止めるしかありませんね。このまま死なせてしまうには、あまりにもつらすぎます」
マイオリーが提案する。オピスの事を呼び捨てにしているあたり、マイオリーも哀れむ事ができても、同情はできないようだった。
「しかし、止めるにしてものう……。ドラゴン状態のわしといい勝負の体躯じゃ。戦う事はできても、さすがのわしもあの魔法光線だけはどうにもならんぞ」
珍しくドラコが弱気である。そのくらいにはあの魔法光線の威力が高かったのだ。
「連発できぬ事を祈って、仕掛けるしかありませんな」
ラータも打つ手なしといったところだ。
「まったく、オピスの奴ったら……」
フェリスも呆れ果てる限りである。
「とにかくあたしたちでどうにか止めるしかないわね!」
そして、意を決して化け物と化したオピスへと戦いを挑む事になった。
目と口とはいったものの、そこはオピス本体の顔だ。よく見ると混ざり合った他の魔物たちの顔もあちこちに浮かんでいる。合成魔獣キメラの成り損ないというのが合うくらいの醜い風貌である。しかし、こんな醜悪な化け物になり果ててまで、オピスは一体何がしたかったのだろうか。理解に苦しむばかりだ。
「聖女様は私が守りながら戦う。二人に任せる事になるが、聖女様を死なせるわけにはいかないのでね」
「了解。任せておいて」
ラータの声にフェリスとドラコが頷く。
「あれも魔物だというのなら、まずは私が援護しませんとね」
マイオリーも守られてばかりでは性に合わないのか、跪いて祈りを捧げ始める。
「グアアアッ!」
だが、化け物はその気配を察知したのか、ぶよぶよとした醜い腕を振り上げている。
「そうはいかんのう。年長者として若者はちゃんとしつけんとなぁ」
ドラコが尻尾で応戦する。
バシンと尻尾が当たったかと思うと、なんと形を崩して尻尾を素通りしてしまった。そして、再び形を取り戻し、さらにマイオリー目がけて襲い掛かる。
「まったく、面倒な能力ね!」
すかさずフェリスが飛び掛かる。
「肉球ーー、パーンチ!」
振りかぶった右の拳を化け物の手にぶつけるフェリス。すると、化け物の腕は崩れる事なく、フェリスの拳によって跳ね返されてしまった。
「ほう、やるなフェリス」
「あったりまえよ。あたしはみんなのリーダーなんだからね!」
ドヤ顔を決めるフェリス。
フェリスがうまく化け物の攻撃を弾いてくれたおかげで、マイオリーの祈りが発動する。
「我らが神よ、聖女マイオリーの名においてあなたの力をお貸し下さい」
閉じていた目を見開くマイオリー。
「聖域展開!」
マイオリーが手を掲げると、キラキラとした光が化け物目がけて飛んでいく。そして、化け物に命中すると、一気に周囲に光の魔法陣が出現した。
「グギャアアッ!」
すると、化け物はいかにも苦しそうな声を上げている。ちなみにドラコやフェリスも光の魔法陣の範囲内に居るのだが、なぜか影響が出ているのは化け物だけだった。
「これは……不思議じゃのう。わしらには影響がないぞ」
「こういう魔法って、基本的に魔族なら問答無用で食らうと思ったんだけど、そうでもないっぽいかな」
さすがに二人も困惑しているようである。
「フェリス、ドラコ。相手が怯んでいるのですから、ぼーっとしないで下さい。苦しんでいるとはいっても、動けないとは限らないのですからね」
「おおっと、そうじゃった。しょうがない、面倒な相手じゃが、いっちょもんでやるかのう」
ラータが真面目にツッコミを入れてくるので、ドラコは手をがっしりと合わせて気合いを入れていた。
「まったく、勝手な真似をし派手に暴れて死のうとか、あたしが許すとでも思ってるわけ?!」
苦しむ化け物に、フェリスも今さらながらに怒りがふつふつと湧いてきていた。
「リーダーとして、あんたに教育的指導をしてあげるわよ」
変なポーズを決めながら、フェリスは化け物に宣戦布告をするのだった。
オピスだった化け物が、咆哮を上げている。だが、よく見るとその体はどことなく形を保ててはいない。少しずつだが崩れ始めている。
「無茶苦茶をしおってからに……。どうやらあの術は不完全なようじゃな」
「その様ですね。体の形が保てていません」
「なんて哀れな……。フェリス様への妬みだけで動いているようなものですね……」
崩れていく体から漏れ出る慟哭に、恐ろしさよりも哀れみが勝ってしまう。
だが、次の瞬間、そんな感情が吹き飛んでしまう。
「グルアァァッ!」
化け物の目と口から何やら光のようなものがほとばしったのだ。
次の瞬間、その光が当たった場所が激しく爆発して燃え上がる。それはかなり先の場所まで届いているようで、あまりの威力にフェリスたちの顔は青ざめた。
「なんてこった。あれは純粋な魔力の塊じゃな。あの体の状態であの威力じゃが、そう何度も放てぬようじゃな」
ドラコが冷静に分析している。実際、ドラコの指摘したように、化け物の体の崩れる速度が増していた。
「崩れるのを待つのもいいけど、その前に被害が酷い事になりそうね。でも、あれをあたしたちでどうにかできるのかしらね」
「分からんが、やってみるしかなかろう」
フェリスたちは正直焦りを覚えていた。崩れてかけているとはいえ、自分たちの力が通じるかは分からないし、下手をするとあの魔法の餌食になる。だが、放っておくとその魔法によって周囲にも多大な被害が出てしまう。あの距離だとバルボル全土はおろか、ブランシェル王国にも届きそうだからだ。
「こうなったら、オピスを止めるしかありませんね。このまま死なせてしまうには、あまりにもつらすぎます」
マイオリーが提案する。オピスの事を呼び捨てにしているあたり、マイオリーも哀れむ事ができても、同情はできないようだった。
「しかし、止めるにしてものう……。ドラゴン状態のわしといい勝負の体躯じゃ。戦う事はできても、さすがのわしもあの魔法光線だけはどうにもならんぞ」
珍しくドラコが弱気である。そのくらいにはあの魔法光線の威力が高かったのだ。
「連発できぬ事を祈って、仕掛けるしかありませんな」
ラータも打つ手なしといったところだ。
「まったく、オピスの奴ったら……」
フェリスも呆れ果てる限りである。
「とにかくあたしたちでどうにか止めるしかないわね!」
そして、意を決して化け物と化したオピスへと戦いを挑む事になった。
目と口とはいったものの、そこはオピス本体の顔だ。よく見ると混ざり合った他の魔物たちの顔もあちこちに浮かんでいる。合成魔獣キメラの成り損ないというのが合うくらいの醜い風貌である。しかし、こんな醜悪な化け物になり果ててまで、オピスは一体何がしたかったのだろうか。理解に苦しむばかりだ。
「聖女様は私が守りながら戦う。二人に任せる事になるが、聖女様を死なせるわけにはいかないのでね」
「了解。任せておいて」
ラータの声にフェリスとドラコが頷く。
「あれも魔物だというのなら、まずは私が援護しませんとね」
マイオリーも守られてばかりでは性に合わないのか、跪いて祈りを捧げ始める。
「グアアアッ!」
だが、化け物はその気配を察知したのか、ぶよぶよとした醜い腕を振り上げている。
「そうはいかんのう。年長者として若者はちゃんとしつけんとなぁ」
ドラコが尻尾で応戦する。
バシンと尻尾が当たったかと思うと、なんと形を崩して尻尾を素通りしてしまった。そして、再び形を取り戻し、さらにマイオリー目がけて襲い掛かる。
「まったく、面倒な能力ね!」
すかさずフェリスが飛び掛かる。
「肉球ーー、パーンチ!」
振りかぶった右の拳を化け物の手にぶつけるフェリス。すると、化け物の腕は崩れる事なく、フェリスの拳によって跳ね返されてしまった。
「ほう、やるなフェリス」
「あったりまえよ。あたしはみんなのリーダーなんだからね!」
ドヤ顔を決めるフェリス。
フェリスがうまく化け物の攻撃を弾いてくれたおかげで、マイオリーの祈りが発動する。
「我らが神よ、聖女マイオリーの名においてあなたの力をお貸し下さい」
閉じていた目を見開くマイオリー。
「聖域展開!」
マイオリーが手を掲げると、キラキラとした光が化け物目がけて飛んでいく。そして、化け物に命中すると、一気に周囲に光の魔法陣が出現した。
「グギャアアッ!」
すると、化け物はいかにも苦しそうな声を上げている。ちなみにドラコやフェリスも光の魔法陣の範囲内に居るのだが、なぜか影響が出ているのは化け物だけだった。
「これは……不思議じゃのう。わしらには影響がないぞ」
「こういう魔法って、基本的に魔族なら問答無用で食らうと思ったんだけど、そうでもないっぽいかな」
さすがに二人も困惑しているようである。
「フェリス、ドラコ。相手が怯んでいるのですから、ぼーっとしないで下さい。苦しんでいるとはいっても、動けないとは限らないのですからね」
「おおっと、そうじゃった。しょうがない、面倒な相手じゃが、いっちょもんでやるかのう」
ラータが真面目にツッコミを入れてくるので、ドラコは手をがっしりと合わせて気合いを入れていた。
「まったく、勝手な真似をし派手に暴れて死のうとか、あたしが許すとでも思ってるわけ?!」
苦しむ化け物に、フェリスも今さらながらに怒りがふつふつと湧いてきていた。
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