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第266話 邪神ちゃんとサイコシスの屋敷
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「さあ、休んだんだし、早く行きますわよ!」
オピスがやけに急かしてくる。いくら自分が慕う主の屋敷を目の前にしてとはいえ、この気の逸りようはちょっと異常に思える。初めは叱っていたドラコも、さすがに呆れてものも言えなくなってきていた。
「急ぐのは構わないが、長らく放置されていた場所です。何が起こるか分かりませんので、慎重に進んだ方がいいですね」
ラータはかなり警戒しているようだった。さすがは隠密を得意とするだけの事はある。どうやらサイコシスの屋敷からただならぬ魔力の波動を感じているようだった。
「さすがは残虐で知られた魔族の屋敷。中からはすさまじいまでの魔力が感じられます。あれから200年以上経つというのに、いまだにその魔力は健在のようですね」
「ふふっ、さすがはサイコシス様ですわ」
ラータの警戒に、オピスはものすごく得意げになっている。このようにフェリスとドラコはまったく理解ができなかった。
ちなみにマイオリーはラータと同様にものすごく警戒をしている。魔族たちと馴染み過ぎて感覚が狂ってきているかと思ったが、屋敷から漏れ出す魔力に身構えており、その感覚は正常のままだったようだ。
「やれやれ……。オピスは止められそうにないな。仕方ない、こやつに付き合うしかあるまいて」
ドラコもついに諦めたようで、この言葉にフェリスたちは真剣な表情で頷いた。
「さあ、参りますわよ」
ずんずんと歩いていくオピスの後ろを、フェリスたちは黙ってついて行く事になった。サイコシスの屋敷の中では一体何が待ち受けているのだろうか。
半分崩壊しているとはいえ、1階部分はそのままの形で保たれていた。
「形は保たれてはいますが、家具などはかなり崩れてしまっていますね。怪しい気配はしますが、魔物などは居ないようです」
屋敷の中を散策しながら、マイオリーはそのように言っている。さすがは聖女といったところだろうか。
「さすがは聖女様ですね。ちなみに私も同じような感じを受けております」
すかさずラータがよいしょする。
だが、オピスはそれにはまったく反応しないでずんずんと進んでいく。まるで何かに導かれているかのように迷いのない歩みだった。
「これは、周りを警戒するよりも、オピスを警戒した方がよさそうね」
「うむ、そんな感じじゃな。さすがに何をしでかすか分からん」
フェリスとドラコはこそこそと話をしている。そんな中でもオピスは一切耳を貸す事なく、まっすぐと屋敷の2階へ上がっていく。
「それにしても妙な魔力の流れじゃ。さすがのわしとて、こんな魔力は感じた事がないぞ」
オピスを追いかけているフェリスたち。ドラコがこう喋った以外はほぼ無言である。オピスがどんどんと進んでいってしまうがために、追いかけるので精一杯なのだ。
「まったく……、普段はのそのそ歩くくせに、なんて足の速さなのよ……」
フェリスが愚痴っている。この中では一番足の速いフェリスですらこれだ。聖女のマイオリーは、今ではラータに抱っこされていた。完全にオピスの足について行けていないからだ。急に抱っこされたので、その瞬間ばかりはマイオリーは可愛い声を上げていた。しかし、この雰囲気の中ではすぐに表情を引き締め、ラータに抱かれたままオピスの後を追いかけていた。
とある部屋にたどり着いた時、ようやくオピスの動きが止まった。そこはどうやら、サイコシスの書斎のようである。
オピスを追いかけてきたフェリスたちの息が上がっているというのに、どういうわけかオピスはまったく呼吸が乱れていない。蛇の邪神であるオピスが完全に魔法使い型だというのに、一体どこにそんな体力があったというのだろうか。
いろいろと疑問は浮かぶところだが、ようやくオピスが止まってくれた事でひと息つけるというものである。フェリスたちは落ち着いて呼吸を整えている。
「まったく、なんだっていうのよ……」
両ひざに手をつきながら、ゆっくりと呼吸を整えるフェリス。その口からは愚痴がこぼれている。
「まったく、突飛な行動は控えてもらいたいものですね」
普段は落ち着いているラータも、こればかりは憤りを隠せないようである。
ところが、オピスはまったくこれに耳を貸さない。黙って部屋をきょろきょろと見回している。その様子からするに、フェリスたちの事がまったく意識の中から欠如しているようにすら見えた。
「ふふっ、ここよ……。ここだわ!」
突然不気味な笑みを浮かべるオピス。そして、ゆっくりと壁に向かって歩み始めた。
一体何をする気だというのだろうか。フェリスたちはその様子をじっと見ている事しかできなかった。
オピスが壁に手を当てると、突然壁が光を放つ。
あまりの眩しさに、フェリスたちは手をかざすなどして目を守るために光を遮る。そして、光が収まったかと思うと、壁には大きな穴が開いていた。どうやら隠し通路のようだった。
「こんなものがあっただなんて……」
サイコシスの屋敷で暮らしていたフェリスだが、この壁の穴の事は知らなかったようだ。
「さあ、あたくしの望むものはこの先ですわ。待っていて下さいな!」
オピスは叫ぶと、開いた通路の中へと飛び込んでいった。
「ちょっと待ちなさい!」
フェリスたちもその後を追う。
サイコシスの屋敷に隠された通路。その先には一体何が待ち構えているというのだろうか。
オピスがやけに急かしてくる。いくら自分が慕う主の屋敷を目の前にしてとはいえ、この気の逸りようはちょっと異常に思える。初めは叱っていたドラコも、さすがに呆れてものも言えなくなってきていた。
「急ぐのは構わないが、長らく放置されていた場所です。何が起こるか分かりませんので、慎重に進んだ方がいいですね」
ラータはかなり警戒しているようだった。さすがは隠密を得意とするだけの事はある。どうやらサイコシスの屋敷からただならぬ魔力の波動を感じているようだった。
「さすがは残虐で知られた魔族の屋敷。中からはすさまじいまでの魔力が感じられます。あれから200年以上経つというのに、いまだにその魔力は健在のようですね」
「ふふっ、さすがはサイコシス様ですわ」
ラータの警戒に、オピスはものすごく得意げになっている。このようにフェリスとドラコはまったく理解ができなかった。
ちなみにマイオリーはラータと同様にものすごく警戒をしている。魔族たちと馴染み過ぎて感覚が狂ってきているかと思ったが、屋敷から漏れ出す魔力に身構えており、その感覚は正常のままだったようだ。
「やれやれ……。オピスは止められそうにないな。仕方ない、こやつに付き合うしかあるまいて」
ドラコもついに諦めたようで、この言葉にフェリスたちは真剣な表情で頷いた。
「さあ、参りますわよ」
ずんずんと歩いていくオピスの後ろを、フェリスたちは黙ってついて行く事になった。サイコシスの屋敷の中では一体何が待ち受けているのだろうか。
半分崩壊しているとはいえ、1階部分はそのままの形で保たれていた。
「形は保たれてはいますが、家具などはかなり崩れてしまっていますね。怪しい気配はしますが、魔物などは居ないようです」
屋敷の中を散策しながら、マイオリーはそのように言っている。さすがは聖女といったところだろうか。
「さすがは聖女様ですね。ちなみに私も同じような感じを受けております」
すかさずラータがよいしょする。
だが、オピスはそれにはまったく反応しないでずんずんと進んでいく。まるで何かに導かれているかのように迷いのない歩みだった。
「これは、周りを警戒するよりも、オピスを警戒した方がよさそうね」
「うむ、そんな感じじゃな。さすがに何をしでかすか分からん」
フェリスとドラコはこそこそと話をしている。そんな中でもオピスは一切耳を貸す事なく、まっすぐと屋敷の2階へ上がっていく。
「それにしても妙な魔力の流れじゃ。さすがのわしとて、こんな魔力は感じた事がないぞ」
オピスを追いかけているフェリスたち。ドラコがこう喋った以外はほぼ無言である。オピスがどんどんと進んでいってしまうがために、追いかけるので精一杯なのだ。
「まったく……、普段はのそのそ歩くくせに、なんて足の速さなのよ……」
フェリスが愚痴っている。この中では一番足の速いフェリスですらこれだ。聖女のマイオリーは、今ではラータに抱っこされていた。完全にオピスの足について行けていないからだ。急に抱っこされたので、その瞬間ばかりはマイオリーは可愛い声を上げていた。しかし、この雰囲気の中ではすぐに表情を引き締め、ラータに抱かれたままオピスの後を追いかけていた。
とある部屋にたどり着いた時、ようやくオピスの動きが止まった。そこはどうやら、サイコシスの書斎のようである。
オピスを追いかけてきたフェリスたちの息が上がっているというのに、どういうわけかオピスはまったく呼吸が乱れていない。蛇の邪神であるオピスが完全に魔法使い型だというのに、一体どこにそんな体力があったというのだろうか。
いろいろと疑問は浮かぶところだが、ようやくオピスが止まってくれた事でひと息つけるというものである。フェリスたちは落ち着いて呼吸を整えている。
「まったく、なんだっていうのよ……」
両ひざに手をつきながら、ゆっくりと呼吸を整えるフェリス。その口からは愚痴がこぼれている。
「まったく、突飛な行動は控えてもらいたいものですね」
普段は落ち着いているラータも、こればかりは憤りを隠せないようである。
ところが、オピスはまったくこれに耳を貸さない。黙って部屋をきょろきょろと見回している。その様子からするに、フェリスたちの事がまったく意識の中から欠如しているようにすら見えた。
「ふふっ、ここよ……。ここだわ!」
突然不気味な笑みを浮かべるオピス。そして、ゆっくりと壁に向かって歩み始めた。
一体何をする気だというのだろうか。フェリスたちはその様子をじっと見ている事しかできなかった。
オピスが壁に手を当てると、突然壁が光を放つ。
あまりの眩しさに、フェリスたちは手をかざすなどして目を守るために光を遮る。そして、光が収まったかと思うと、壁には大きな穴が開いていた。どうやら隠し通路のようだった。
「こんなものがあっただなんて……」
サイコシスの屋敷で暮らしていたフェリスだが、この壁の穴の事は知らなかったようだ。
「さあ、あたくしの望むものはこの先ですわ。待っていて下さいな!」
オピスは叫ぶと、開いた通路の中へと飛び込んでいった。
「ちょっと待ちなさい!」
フェリスたちもその後を追う。
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