邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
266 / 290

第266話 邪神ちゃんとサイコシスの屋敷

しおりを挟む
「さあ、休んだんだし、早く行きますわよ!」
 オピスがやけに急かしてくる。いくら自分が慕う主の屋敷を目の前にしてとはいえ、この気の逸りようはちょっと異常に思える。初めは叱っていたドラコも、さすがに呆れてものも言えなくなってきていた。
「急ぐのは構わないが、長らく放置されていた場所です。何が起こるか分かりませんので、慎重に進んだ方がいいですね」
 ラータはかなり警戒しているようだった。さすがは隠密を得意とするだけの事はある。どうやらサイコシスの屋敷からただならぬ魔力の波動を感じているようだった。
「さすがは残虐で知られた魔族の屋敷。中からはすさまじいまでの魔力が感じられます。あれから200年以上経つというのに、いまだにその魔力は健在のようですね」
「ふふっ、さすがはサイコシス様ですわ」
 ラータの警戒に、オピスはものすごく得意げになっている。このようにフェリスとドラコはまったく理解ができなかった。
 ちなみにマイオリーはラータと同様にものすごく警戒をしている。魔族たちと馴染み過ぎて感覚が狂ってきているかと思ったが、屋敷から漏れ出す魔力に身構えており、その感覚は正常のままだったようだ。
「やれやれ……。オピスは止められそうにないな。仕方ない、こやつに付き合うしかあるまいて」
 ドラコもついに諦めたようで、この言葉にフェリスたちは真剣な表情で頷いた。
「さあ、参りますわよ」
 ずんずんと歩いていくオピスの後ろを、フェリスたちは黙ってついて行く事になった。サイコシスの屋敷の中では一体何が待ち受けているのだろうか。

 半分崩壊しているとはいえ、1階部分はそのままの形で保たれていた。
「形は保たれてはいますが、家具などはかなり崩れてしまっていますね。怪しい気配はしますが、魔物などは居ないようです」
 屋敷の中を散策しながら、マイオリーはそのように言っている。さすがは聖女といったところだろうか。
「さすがは聖女様ですね。ちなみに私も同じような感じを受けております」
 すかさずラータがよいしょする。
 だが、オピスはそれにはまったく反応しないでずんずんと進んでいく。まるで何かに導かれているかのように迷いのない歩みだった。
「これは、周りを警戒するよりも、オピスを警戒した方がよさそうね」
「うむ、そんな感じじゃな。さすがに何をしでかすか分からん」
 フェリスとドラコはこそこそと話をしている。そんな中でもオピスは一切耳を貸す事なく、まっすぐと屋敷の2階へ上がっていく。
「それにしても妙な魔力の流れじゃ。さすがのわしとて、こんな魔力は感じた事がないぞ」
 オピスを追いかけているフェリスたち。ドラコがこう喋った以外はほぼ無言である。オピスがどんどんと進んでいってしまうがために、追いかけるので精一杯なのだ。
「まったく……、普段はのそのそ歩くくせに、なんて足の速さなのよ……」
 フェリスが愚痴っている。この中では一番足の速いフェリスですらこれだ。聖女のマイオリーは、今ではラータに抱っこされていた。完全にオピスの足について行けていないからだ。急に抱っこされたので、その瞬間ばかりはマイオリーは可愛い声を上げていた。しかし、この雰囲気の中ではすぐに表情を引き締め、ラータに抱かれたままオピスの後を追いかけていた。
 とある部屋にたどり着いた時、ようやくオピスの動きが止まった。そこはどうやら、サイコシスの書斎のようである。
 オピスを追いかけてきたフェリスたちの息が上がっているというのに、どういうわけかオピスはまったく呼吸が乱れていない。蛇の邪神であるオピスが完全に魔法使い型だというのに、一体どこにそんな体力があったというのだろうか。
 いろいろと疑問は浮かぶところだが、ようやくオピスが止まってくれた事でひと息つけるというものである。フェリスたちは落ち着いて呼吸を整えている。
「まったく、なんだっていうのよ……」
 両ひざに手をつきながら、ゆっくりと呼吸を整えるフェリス。その口からは愚痴がこぼれている。
「まったく、突飛な行動は控えてもらいたいものですね」
 普段は落ち着いているラータも、こればかりは憤りを隠せないようである。
 ところが、オピスはまったくこれに耳を貸さない。黙って部屋をきょろきょろと見回している。その様子からするに、フェリスたちの事がまったく意識の中から欠如しているようにすら見えた。
「ふふっ、ここよ……。ここだわ!」
 突然不気味な笑みを浮かべるオピス。そして、ゆっくりと壁に向かって歩み始めた。
 一体何をする気だというのだろうか。フェリスたちはその様子をじっと見ている事しかできなかった。
 オピスが壁に手を当てると、突然壁が光を放つ。
 あまりの眩しさに、フェリスたちは手をかざすなどして目を守るために光を遮る。そして、光が収まったかと思うと、壁には大きな穴が開いていた。どうやら隠し通路のようだった。
「こんなものがあっただなんて……」
 サイコシスの屋敷で暮らしていたフェリスだが、この壁の穴の事は知らなかったようだ。
「さあ、あたくしの望むものはこの先ですわ。待っていて下さいな!」
 オピスは叫ぶと、開いた通路の中へと飛び込んでいった。
「ちょっと待ちなさい!」
 フェリスたちもその後を追う。
 サイコシスの屋敷に隠された通路。その先には一体何が待ち構えているというのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

乙女ゲームのモブに転生しました!?(私は最強のモブになる!)

虹子 (にこ)
ファンタジー
突然乙女ゲーム(虹の彼方へ)のモブに転生!? 神様にこのゲームの世界と元いた世界が繋がると言われ危ない人達を裁いて欲しいと頼まれる。 だが私は推し活をする為に生きる!!

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 読者様のおかげです!いつも読みに来てくださり、本当にありがとうございます! 1/17 HOT 1位 ファンタジー 12位 ありがとうございました!!! 1/16 HOT 1位 ファンタジー 15位 ありがとうございました!!! 1/15 HOT 1位 ファンタジー 21位 ありがとうございました!!! 1/14 HOT 8位 ありがとうございました! 1/13 HOT 29位 ありがとうございました! X(旧Twitter)やっています。お気軽にフォロー&声かけていただけましたら幸いです! @toytoinn 

地の果ての国 イーグル・アイ・サーガ

オノゴロ
ファンタジー
狂気の王が犯した冒涜の行為により闇に沈んだダファネア王国。 紺碧の王都は闇の王に取り憑かれ漆黒の死都と化した。 それを救わんと立ち上がったのは、運命の旅路をともにする四人。 たった一人残された王の血脈たるミアレ姫。王国の命運は姫の一身にかかっている。 それを守るブルクット族の戦士カラゲル。稲妻の刺青の者。この者には大いなる運命が待っている。 過去にとらわれた祭司ユーグは悔恨の道を歩む。神々の沈黙は不可解で残酷なものだ。 そして、空を映して底知れぬ青き瞳を持つ鷲使いの娘クラン。伝説のイーグル・アイ。精霊と渡り合う者。 聖地に身を潜める精霊と龍とは旅の一行に加護を与えるであろうか。これこそ物語の鍵となる。 果てしない草原に木霊するシャーマンの朗唱。それは抗いがたい運命を暗示するいにしえの言葉。 不死の呪いを受けた闇の道化。死霊魔法に侵される宿命の女。これもまた神々の計画なのか。 転がり始めた運命の物語はその円環を閉じるまで、その奔流を押しとどめることはできない。 鷲よ! 鷲よ! 我らの旅を導け! 陽光みなぎる青空の彼方、地の果ての国へと!

惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンだった深海玲司は仕事帰りに雷に打たれて命を落とし、異世界に転生してしまう。  秀でた能力もなく前世と同じ平凡な男、「レイ」としてのんびり生きるつもりが、彼には一つだけ我慢ならないことがあった。  ——パンである。  異世界のパンは固くて味気のない、スープに浸さなければ食べられないものばかりで、それを主食として食べなければならない生活にうんざりしていた。  というのも、レイの前世は平凡ながら無類のパン好きだったのである。パン好きと言っても高級なパンを買って食べるわけではなく、さまざまな「菓子パン」や「惣菜パン」を自ら作り上げ、一人ひっそりとそれを食べることが至上の喜びだったのである。  そんな前世を持つレイが固くて味気ないパンしかない世界に耐えられるはずもなく、美味しいパンを求めて生まれ育った村から旅立つことに——。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...