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第265話 邪神ちゃんは目的地に到着する
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レックスからどんどん東へ進んでいくフェリスたち。先を急ぐために、ドラコの背に乗っての移動となっている。
ところが、その眼下に見える辺りの景色はどんどんと険しく殺風景になっていく。
「うーむ、いくらなんでも酷いもんじゃのう……。わしの住処も殺風景な場所じゃったが、そこに引けを取らんくらいに酷い有様じゃな」
見渡す限りの荒野が広がり、植物の類もほとんど見当たらなくなっていた。これでは生き物も住めない死の大地といった感じだ。正直見ていられなかった。
「フェリス、余計な力を使うでないぞ。ここから先は何が起こるか分からん場所だ。やるならそれが終わってからにするとよい」
「うっ、なんでバレてるのよ。あたしの力を使えば、こんな風景一瞬で解決できるのに……」
ドラコに指摘されたフェリスは、体をびくっとさせて不満を口にしていた。
「ふふっ、お優しいですのね、フェリス様は」
マイオリーがにこにこと笑っている。
「ですが、ここはドラコの言う通りですよ、フェリス。残虐非道と言われた魔族サイコシスの本拠地に向かうのです。力は温存するべきです」
「分かったわよ、ラータ。あーあ、ストレスが溜まるわ……」
ラータにまで諭されて、フェリスは頬を膨らませていた。
この状況下でもオピスだけは沈黙を守っていた。ちらりとフェリスたちに視線を遣りながらも、顔は常に東を見ていた。まるで何かに狙いを定めたようにも見える。
それぞれがそれぞれに思う中、ドラコはどんどんと東へと飛んでいく。
「オピス、あとどのくらいで目的地に着くんじゃ。わしの記憶も曖昧じゃからな、ここはお前さんに頼るしかない」
ドラコの声に、オピスは辺りの景色を見る。
「まだまだですわね。もうしばらく進んでくれません?」
「やれやれ、まだまだか。これでもクレアールからモスレまでの倍は飛んだんだがな。バルボルはどれだけ広いんじゃ……」
オピスの言葉に、さすがのドラコも愚痴をこぼしていた。
「心配しないでくれません? ちゃんと目的地には近づいていますから。もうしばらくすると、立ち枯れた森が見えるはずですからね」
「立ち枯れるって……。あれから200年以上も経つのじゃぞ? そんなもの、景色が変わってしまっておろうに……」
オピスの説明に呆れるドラコだったが、
「あっ、あれじゃないかしらね」
突然、フェリスが叫んだのだった。
その指が指し示す方向には、確かに立ち枯れた大きな森が見えてきたのだった。
「ずいぶんと大きい森じゃのう。それにしても立ち枯れておるというに、よく森として成り立っておるな」
「それが、サイコシス様のお力なのですわ!」
ドラコが感心していると、オピスは声高らかに言い放っていた。多少そういう気はあるように思われていたが、オピスは熱心なサイコシス信者のようである。
「ふむぅ、それなら向こうに見えるあそこは、わしが住んでおった谷か。これだけの距離なら、フェリスがわしの所まで来れたのもすごく納得がいくものじゃわい」
ドラコがこう言うものの、その谷はマイオリーに見つける事はできなかった。フェリスとラータもかろうじてというところだ。ドラゴンは、どのくらい目がいいのだろうか。
「そんな事なんてどうでもいいですわ。ドラコ、あそこに降りてちょうだい」
「急かすでないぞ。立ち枯れておるとはいえ気が多すぎる。ちゃんと場所を探さねば、わしはおろかお前さんたちも傷を負いかねん。それと、おぬしに命令される筋合いはないぞ」
ドラコは不機嫌そうに反応しながらも、旋回しながら降りる場所を探している。
「ふむ、この辺りじゃな」
場所を見定めたドラコは、ゆっくりとその高度を下げていく。ある程度まで地上に近付くと、
「マイオリー以外は降りておくれ。この高さなら大丈夫じゃろう?」
「分かったわ」
ドラコが降りるように言ってくるので、フェリスたちはドラコの背から飛び降りていた。
「マイオリーはしっかり背に掴まっておるのじゃぞ」
「はい、ドラコ様」
背中にマイオリーだけを残したドラコは、その姿を徐々に少女形態へと変化させていく。背中に乗せたままでも変身とは、なかなかに器用な事をするものだ。
マイオリーを背中におぶった状態で見事に着地を決めたドラコ。その目の前には、朽ち果てた屋敷が佇んでいた。
「懐かしいですわ。これこそサイコシス様のお屋敷。朽ちてはいますが、かなり形を留めておりますね」
うっとりとした表情をしながら、オピスは屋敷を眺めている。
「確かに、この屋敷だわ。あたしがまだただの白猫だった頃の事も蘇ってくるわね」
フェリスもフェリスで懐かしさを感じているようである。
だが、その時だった。
「ぶもおーーーんっ!」
雄たけびが響き渡る。魔物が出現したようだ。
「あらあら、いけない子ですわね。他人の感傷を邪魔するだなんてお痛、許されると思ってますのかしら」
真っ先に反応したのはオピスだった。
「さあ、果てなさい!」
オピスの目が怪しく光る。邪眼の発動だった。
「ぶ、ぶ、ぶも?」
たまたまうろついていたところにフェリスたちが現れて、縄張りを荒らしたと思って突っ込んできた単眼の牛頭の魔物は、オピスの邪眼によって自ら果てた。
「クーの元の種族みたいなやつね。でも、単眼のタイプなんて見た事がないわ」
「これがわしたちの力によってバルボルのさらに東に追い込められておった魔物なんじゃろうな」
「そんな奴、捨て置きましょう。あたくしたちはサイコシス様のお屋敷を改めないといけませんのよ」
「だから、お前が仕切るなと言うておるじゃろうが。あまり気を急くと仕損じる。少し休め」
先を急ぎ過ぎるオピスを窘めるドラコ。その声にやむなく、オピスも少し休憩を入れる事を了承するのだった。
ところが、その眼下に見える辺りの景色はどんどんと険しく殺風景になっていく。
「うーむ、いくらなんでも酷いもんじゃのう……。わしの住処も殺風景な場所じゃったが、そこに引けを取らんくらいに酷い有様じゃな」
見渡す限りの荒野が広がり、植物の類もほとんど見当たらなくなっていた。これでは生き物も住めない死の大地といった感じだ。正直見ていられなかった。
「フェリス、余計な力を使うでないぞ。ここから先は何が起こるか分からん場所だ。やるならそれが終わってからにするとよい」
「うっ、なんでバレてるのよ。あたしの力を使えば、こんな風景一瞬で解決できるのに……」
ドラコに指摘されたフェリスは、体をびくっとさせて不満を口にしていた。
「ふふっ、お優しいですのね、フェリス様は」
マイオリーがにこにこと笑っている。
「ですが、ここはドラコの言う通りですよ、フェリス。残虐非道と言われた魔族サイコシスの本拠地に向かうのです。力は温存するべきです」
「分かったわよ、ラータ。あーあ、ストレスが溜まるわ……」
ラータにまで諭されて、フェリスは頬を膨らませていた。
この状況下でもオピスだけは沈黙を守っていた。ちらりとフェリスたちに視線を遣りながらも、顔は常に東を見ていた。まるで何かに狙いを定めたようにも見える。
それぞれがそれぞれに思う中、ドラコはどんどんと東へと飛んでいく。
「オピス、あとどのくらいで目的地に着くんじゃ。わしの記憶も曖昧じゃからな、ここはお前さんに頼るしかない」
ドラコの声に、オピスは辺りの景色を見る。
「まだまだですわね。もうしばらく進んでくれません?」
「やれやれ、まだまだか。これでもクレアールからモスレまでの倍は飛んだんだがな。バルボルはどれだけ広いんじゃ……」
オピスの言葉に、さすがのドラコも愚痴をこぼしていた。
「心配しないでくれません? ちゃんと目的地には近づいていますから。もうしばらくすると、立ち枯れた森が見えるはずですからね」
「立ち枯れるって……。あれから200年以上も経つのじゃぞ? そんなもの、景色が変わってしまっておろうに……」
オピスの説明に呆れるドラコだったが、
「あっ、あれじゃないかしらね」
突然、フェリスが叫んだのだった。
その指が指し示す方向には、確かに立ち枯れた大きな森が見えてきたのだった。
「ずいぶんと大きい森じゃのう。それにしても立ち枯れておるというに、よく森として成り立っておるな」
「それが、サイコシス様のお力なのですわ!」
ドラコが感心していると、オピスは声高らかに言い放っていた。多少そういう気はあるように思われていたが、オピスは熱心なサイコシス信者のようである。
「ふむぅ、それなら向こうに見えるあそこは、わしが住んでおった谷か。これだけの距離なら、フェリスがわしの所まで来れたのもすごく納得がいくものじゃわい」
ドラコがこう言うものの、その谷はマイオリーに見つける事はできなかった。フェリスとラータもかろうじてというところだ。ドラゴンは、どのくらい目がいいのだろうか。
「そんな事なんてどうでもいいですわ。ドラコ、あそこに降りてちょうだい」
「急かすでないぞ。立ち枯れておるとはいえ気が多すぎる。ちゃんと場所を探さねば、わしはおろかお前さんたちも傷を負いかねん。それと、おぬしに命令される筋合いはないぞ」
ドラコは不機嫌そうに反応しながらも、旋回しながら降りる場所を探している。
「ふむ、この辺りじゃな」
場所を見定めたドラコは、ゆっくりとその高度を下げていく。ある程度まで地上に近付くと、
「マイオリー以外は降りておくれ。この高さなら大丈夫じゃろう?」
「分かったわ」
ドラコが降りるように言ってくるので、フェリスたちはドラコの背から飛び降りていた。
「マイオリーはしっかり背に掴まっておるのじゃぞ」
「はい、ドラコ様」
背中にマイオリーだけを残したドラコは、その姿を徐々に少女形態へと変化させていく。背中に乗せたままでも変身とは、なかなかに器用な事をするものだ。
マイオリーを背中におぶった状態で見事に着地を決めたドラコ。その目の前には、朽ち果てた屋敷が佇んでいた。
「懐かしいですわ。これこそサイコシス様のお屋敷。朽ちてはいますが、かなり形を留めておりますね」
うっとりとした表情をしながら、オピスは屋敷を眺めている。
「確かに、この屋敷だわ。あたしがまだただの白猫だった頃の事も蘇ってくるわね」
フェリスもフェリスで懐かしさを感じているようである。
だが、その時だった。
「ぶもおーーーんっ!」
雄たけびが響き渡る。魔物が出現したようだ。
「あらあら、いけない子ですわね。他人の感傷を邪魔するだなんてお痛、許されると思ってますのかしら」
真っ先に反応したのはオピスだった。
「さあ、果てなさい!」
オピスの目が怪しく光る。邪眼の発動だった。
「ぶ、ぶ、ぶも?」
たまたまうろついていたところにフェリスたちが現れて、縄張りを荒らしたと思って突っ込んできた単眼の牛頭の魔物は、オピスの邪眼によって自ら果てた。
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「そんな奴、捨て置きましょう。あたくしたちはサイコシス様のお屋敷を改めないといけませんのよ」
「だから、お前が仕切るなと言うておるじゃろうが。あまり気を急くと仕損じる。少し休め」
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