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第264話 邪神ちゃんは東へ向かう
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バルボルに入って最初の街、それがこの街レックスである。
バルボルを構成する四部族の最後の『ル』であるルミア族が営む街で、街の光景はいたって普通といった感じだった。
フェリスやラータのような目立つ姿が歩いていても街の人たちはあまり気にするような様子もない。無関心なのか見慣れているだけなのか、これだけではなんとも判断がつかなかった。
「今後の予定を話しするから、今日はここで泊まりますわよ」
街の様子を見ていたオピスがそう喋ると、
「そうね。ここら辺もだいぶ地理が変わっちゃってるだろうし、一度確認をしておいた方がいいわね」
フェリスはそれに賛同していた。というわけで、フェリスたちはレックスの宿屋へとやって来た。
「おやおや、亜人さんたちが来るとは珍しいね。うちに泊まっていくのかい?」
宿屋の受付に居たのは恰幅の良い女性だった。いかにもおかみさんというような、どっしりと構えた女性である。
「はい、旅をしておりますので、ゆっくり休ませて頂きたいと思います」
ここで対応したのはマイオリーだった。にっこりと微笑んでおかみさんに話している。
「そうかいそうかい、それは大変だねえ。ここレックスはまだ治安のいい方だから、安心しておくれ。ここからさらに東に進んだあたりともなると、魔物との戦いでかなり神経だっているからね」
「そうですか。情報ありがとうございます」
ここでいきなり有用な情報が得られた。どうやらレックスから東へ向かった場所では、魔物との戦いが行われているらしい。いろいろとここで話をしたいところだが、とりあえずは用意された宿の部屋へと移動するフェリスたちなのである。
部屋に移動するなり、フェリスたちは作戦会議を始める。
フェリスたちの目指すはサイコシスが住んでいた屋敷である。そこへたどり着ければ、フェリスやオピスの事が分かるかも知れないからだった。あと、ついでに幅を利かせ始めた魔物たちを分からせるのもこの旅の目的である。フェリスたちは部屋の中で真剣に作戦会議に打ち込んだ。
「オピス、正直に答えてちょうだいよ?」
「なぜかしら。敵であるあなたに正直に情報を渡すとでも思っていますの?」
フェリスのけんか腰な口調に、オピスも敵意剥き出しで対応する。
「お前ら、こういう時くらいそういうのはやめてくれんかのう。今くらいは個人的な感情は控えてくれ」
ドラコが威嚇しながら言い聞かせると、フェリスもオピスもおとなしくなった。さすがは年の功というものだ。
「そうですね。今はいがみ合っている時ではありませんね。東側は魔物の被害が大きいようですし、このまま放っておけば、この辺りもいずれ魔物の被害が出始めてしまいます。そうすれば、モスレあたりに到達するのも時間の問題でしょう」
マイオリーはこの先の状況をそのように見ている。
確かにその通りなのだ。一度魔物を勢いづかせてしまえば、おそらくドラコの気配を感じても止まる事がなくなる可能性だってある。そうなる前にとっとと魔物を叩いて追い返さなければならないのだ。
「ここ最近はわしが離れておったのもあってか、また勢いづいておるんじゃろうな。本当にこういう事には反応が早すぎて困るわい」
ドラコも呆れるくらいである。魔物とはいっても、その存在は野生生物に近い。それほどまでに知能という点についてはほとんどないのである。知能を身に付ければ、それは魔物ではなく魔族に足を突っ込む事になる。
このいい例がルディだ。インフェルノウルフという魔物でありながら邪神に名を連ねているのは、知能を得たためである。だが、その魔物時代の単純な思考が抜けてはいないので、邪神としての位は低い。だからこそ、上位の邪神であるフェリスにああも簡単にあしらわれてしまうのである。
「サイコシス様の屋敷も、ちょうどその方向にありますもの。あたくしたちの目的地とも合致致しますわ」
「そうかそうか。わしも少しずつだがこの辺りの事を思い出せてきたぞ。わしが住んでいた巣もその東側の方になる。まあ何にせよ、魔物が押し寄せておるというのなら、急いだ方がいいじゃろうのう」
オピスの話にドラコの意見も加わって、フェリスたち一行の向かう先は、その魔物の勢いが増した東側という事に決まった。
「それじゃ、今日はせっかく宿に泊まるんだし、その戦いに備えてしっかり体を休めましょうか」
「うむ、それがいいと思います」
「そうですね」
フェリスの提案に、ラータとマイオリーが賛成している。ドラコとオピスも反対する要素がなかったので、全員一致でこの日はしっかりと宿で休む事になったのだった。
翌日、宿で朝食を済ませたフェリスたちは、レックスを出てさらに東側を目指して進んでいく。その際に門番たちから止められそうになったが、
「私の使命は困っている人たちを救う事です」
マイオリーが聖女オーラを放って門番たちを黙らせていた。その時の様子はまるで後光が差しているかのように神々しく見えたのだった。こうなれば、門番たちも止める事を諦めるしかなかったのである。
レックスを発ったフェリスたち。東側の地には一体何が待ち受けているのだろうか。
バルボルを構成する四部族の最後の『ル』であるルミア族が営む街で、街の光景はいたって普通といった感じだった。
フェリスやラータのような目立つ姿が歩いていても街の人たちはあまり気にするような様子もない。無関心なのか見慣れているだけなのか、これだけではなんとも判断がつかなかった。
「今後の予定を話しするから、今日はここで泊まりますわよ」
街の様子を見ていたオピスがそう喋ると、
「そうね。ここら辺もだいぶ地理が変わっちゃってるだろうし、一度確認をしておいた方がいいわね」
フェリスはそれに賛同していた。というわけで、フェリスたちはレックスの宿屋へとやって来た。
「おやおや、亜人さんたちが来るとは珍しいね。うちに泊まっていくのかい?」
宿屋の受付に居たのは恰幅の良い女性だった。いかにもおかみさんというような、どっしりと構えた女性である。
「はい、旅をしておりますので、ゆっくり休ませて頂きたいと思います」
ここで対応したのはマイオリーだった。にっこりと微笑んでおかみさんに話している。
「そうかいそうかい、それは大変だねえ。ここレックスはまだ治安のいい方だから、安心しておくれ。ここからさらに東に進んだあたりともなると、魔物との戦いでかなり神経だっているからね」
「そうですか。情報ありがとうございます」
ここでいきなり有用な情報が得られた。どうやらレックスから東へ向かった場所では、魔物との戦いが行われているらしい。いろいろとここで話をしたいところだが、とりあえずは用意された宿の部屋へと移動するフェリスたちなのである。
部屋に移動するなり、フェリスたちは作戦会議を始める。
フェリスたちの目指すはサイコシスが住んでいた屋敷である。そこへたどり着ければ、フェリスやオピスの事が分かるかも知れないからだった。あと、ついでに幅を利かせ始めた魔物たちを分からせるのもこの旅の目的である。フェリスたちは部屋の中で真剣に作戦会議に打ち込んだ。
「オピス、正直に答えてちょうだいよ?」
「なぜかしら。敵であるあなたに正直に情報を渡すとでも思っていますの?」
フェリスのけんか腰な口調に、オピスも敵意剥き出しで対応する。
「お前ら、こういう時くらいそういうのはやめてくれんかのう。今くらいは個人的な感情は控えてくれ」
ドラコが威嚇しながら言い聞かせると、フェリスもオピスもおとなしくなった。さすがは年の功というものだ。
「そうですね。今はいがみ合っている時ではありませんね。東側は魔物の被害が大きいようですし、このまま放っておけば、この辺りもいずれ魔物の被害が出始めてしまいます。そうすれば、モスレあたりに到達するのも時間の問題でしょう」
マイオリーはこの先の状況をそのように見ている。
確かにその通りなのだ。一度魔物を勢いづかせてしまえば、おそらくドラコの気配を感じても止まる事がなくなる可能性だってある。そうなる前にとっとと魔物を叩いて追い返さなければならないのだ。
「ここ最近はわしが離れておったのもあってか、また勢いづいておるんじゃろうな。本当にこういう事には反応が早すぎて困るわい」
ドラコも呆れるくらいである。魔物とはいっても、その存在は野生生物に近い。それほどまでに知能という点についてはほとんどないのである。知能を身に付ければ、それは魔物ではなく魔族に足を突っ込む事になる。
このいい例がルディだ。インフェルノウルフという魔物でありながら邪神に名を連ねているのは、知能を得たためである。だが、その魔物時代の単純な思考が抜けてはいないので、邪神としての位は低い。だからこそ、上位の邪神であるフェリスにああも簡単にあしらわれてしまうのである。
「サイコシス様の屋敷も、ちょうどその方向にありますもの。あたくしたちの目的地とも合致致しますわ」
「そうかそうか。わしも少しずつだがこの辺りの事を思い出せてきたぞ。わしが住んでいた巣もその東側の方になる。まあ何にせよ、魔物が押し寄せておるというのなら、急いだ方がいいじゃろうのう」
オピスの話にドラコの意見も加わって、フェリスたち一行の向かう先は、その魔物の勢いが増した東側という事に決まった。
「それじゃ、今日はせっかく宿に泊まるんだし、その戦いに備えてしっかり体を休めましょうか」
「うむ、それがいいと思います」
「そうですね」
フェリスの提案に、ラータとマイオリーが賛成している。ドラコとオピスも反対する要素がなかったので、全員一致でこの日はしっかりと宿で休む事になったのだった。
翌日、宿で朝食を済ませたフェリスたちは、レックスを出てさらに東側を目指して進んでいく。その際に門番たちから止められそうになったが、
「私の使命は困っている人たちを救う事です」
マイオリーが聖女オーラを放って門番たちを黙らせていた。その時の様子はまるで後光が差しているかのように神々しく見えたのだった。こうなれば、門番たちも止める事を諦めるしかなかったのである。
レックスを発ったフェリスたち。東側の地には一体何が待ち受けているのだろうか。
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