邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第260話 邪神ちゃんに問い詰められる

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 冒険者組合に到着したフェリスたちだが、あいにく新しい組合長は不在にしており、受付嬢に事情を話してどうにか一室を貸してもらえる事になった。この間もまったく言葉がなく、ドラコが受付嬢と話をしたくらいだった。ものすごく険悪な雰囲気である。
 貸してもらえた冒険者組合の一室で、机を取り囲んで座るフェリスたち。その重苦しい空気の中、口を開いたのは年の功であるドラコだった。
「さて、とりあえずだ。実に久しいのう、オピスや?」
 睨むようにしてオピスを見るドラコ。その視線に完全に震え上がるオピス。真正面からぶつかれば完璧に勝ち目のない相手だから、オピスが怯えるのは仕方がない。フェリスには全力の邪眼がどうにか通じたものの、ドラコにはそれすら通じないのだ。
 それにしても、幼女の睨みに屈する妖麗な女性という構図は、傍から見ればなんとも奇妙な場面である。
「まあまあドラコ様。そこまで怯えさせる必要はないのでしょうか。今は話をしに来ているだけなのですから」
「確かにそうじゃのう。いろいろと言いたい事もあるし、最初から威圧しても仕方はないのう……」
 マイオリーの言葉に、ドラコは威圧を解く。それでも、オピスの激しい動悸は治まりそうにはなかった。こう見えてもオピスはかなり小心者なのである。
「マイオリーよ、改めて紹介するぞ」
 咳払いをしたドラコが、マイオリーに場に居る邪神たちを紹介する。
「わしとフェリス、それとラータはいいとして、他の連中じゃな」
 ドラコがまず目を向けたのはシンミアだった。
「一緒に居ったようじゃから知ってはおるとは思うが、この生意気そうな顔は猿の邪神シンミアじゃ。意外と他人の面倒見がいい気のいい奴でな、普段はお宝を求めて放浪しておる」
「生意気そうで悪かったな」
 ドラコの紹介で気に入らなかったところに文句を言うシンミア。その態度にマイオリーはつい笑ってしまった。
「わしと一緒に来たこの奇抜な髪色の奴が、虎の邪神のティグリスじゃ。基本は格闘術を使うが、棒や棍といった棒術系の使い手でもある。一時期はわしも面倒を見た事があるぞ」
「ティグリスと申す。強いのであるなら、一度お手合わせをお願いする」
「こらこら、ティグリス。こやつは聖教会のトップである聖女マイオリーじゃぞ。下手に手を出したらお尋ね者になるぞ」
「な、なんと!? これは失礼した」
 ドラコがマイオリーを紹介しながらティグリスを止めると、慌ててティグリスは頭を下げていた。礼儀正しいのである。
「すまんな、マイオリー。こやつはフェリスと会う前はとにかく口より手がすぐに飛んでくる暴れん坊だったんでな。それこそ、戦い好きな邪神らしい邪神だったんじゃ」
「なるほど、みなさんは邪神を名乗るだけの悪さをしていたという事ですか」
「全員が全員ではないがな。全員が呼ばれるだけの何かしらの背景があったというわけじゃ」
 確かにそうである。今のフェリスたちは大して悪い事をしているわけでもない。ほとんどが自称邪神という状態である。フェリスだって、ほとんど悪戯レベルの事しかしていないわけなのだから。
「中でもオピスは特にひねた奴でのう。わざと反対の事を言って混乱させようとしたもんじゃよ。まあ、わしらには通じなんだがな。それで騙せたのなんて、素直な牛の邪神のクーくらいじゃ。ハバリーにすら疑われるのじゃからな」
 きょとんとした顔でドラコが再びオピスに顔を向けると、やっぱりオピスはびくっと震え上がっていた。その説明を真剣に聞くマイオリーである。
「それにしても、そのオピスさんはどうしてフェリス様にあんな敵意を?」
 ここまで聞いたマイオリーが改めてドラコに尋ねる。
「それは二人の共通項である魔族サイコシスの存在じゃのう。オピスはサイコシスの弟子である魔族の一人じゃ。フェリスはそのサイコシスが拾って眷属化した上で可愛がっておった白猫じゃからのう。そりゃオピスが怒るのも無理はなかろうて」
 ドラコが同情めいた顔をオピスに向けると、オピスはぎりっと歯を食いしばっていた。同情されるのは大嫌いなようだ。
「冷静に考えれば、あたしが逆の立場だったらやっぱり同じように感じたかもね」
「それはあるじゃろうな。じゃが、オピスの場合は蛇の魔族というのが効いておった。蛇系の魔族は嫉妬心が強いのが特徴じゃからな」
 なるほどといった感じで揃いも揃ってオピスを見るフェリスたち。さすがに一斉に見られるとオピスは表情を歪ませていた。その中でブルムはさすがの場違い感のために、一切喋らずに様子を見守っていた。
「フェリスとの因縁の話はこれくらいでいいじゃろうかな」
 ドラコがほぼ一人で喋っていたのだが、まだ何か言いたい様子である。フェリスたちもここはすべてドラコに任せて黙っている。
「さて、オピスよ。ひとつ確認はいいかな?」
「……なんですのよ」
 ドラコの問い掛けにオピスは歯を食いしばって睨むようにドラコを見る。その体はよく見ると震えている。相変わらずの虚勢のようである。
「ティグリスをバルボルへと向かわせた理由を聞いてよいかな?」
「なんだ、ティグリスもバルボルに行かされたのかよ。あちきも向かってたんだ」
 シンミアが思わず口を挟んでしまう。
「ええ、そうよ。でも、途中でフェリスの名前を聞いてはっと我に返ったよ」
「あちきと同じじゃねえか」
「ちょっと二人とも黙ってくれんか? わしはオピスと話をしておるんじゃ」
「う……く……」
 ドラコが凄めば、シンミアもティグリスも黙り込んでしまった。さすがは古龍の威厳である。
 再びオピスに視線を向けたドラコ。その鋭い眼差しにはついにオピスも耐え切れなくなってきていた。
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