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第255話 邪神ちゃん、不意の邂逅
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コネッホから家を追い出されたオピスは、仕方なくモスレの街を歩いている。フェリスとの付き合いだの数100年という時間だので、サイコシスの弟子だった彼女もだいぶ丸くなっていた。そうでなければ、今頃モスレの街は地獄絵図になっていただろう。
(あたくしも、生き残ろうとしてずいぶんおとなしくなったものよね。こんな事ではサイコシス様に顔向けはできないでしょうけれど、サイコシス様の最期を思えば、あたくしにはこうするしかなかったものね)
幻惑系の魔法を得意とするオピスだが、それ以外は意外と能力が低いのだ。通じない相手との戦いとなれば、あっさり死ぬ可能性だってある。死ぬのは嫌だという思いが強い小心者なのだ。
そこで生き残りの策としてオピスが活用したのは、元々の体の柔軟性を利用した踊りと幻惑系の魔法を利用した占いなのである。ちなみに幻惑系の魔法で人を操る事ができるのだが、オピスはそこまで能力が高くないので痕跡が残ってしまう。それが原因で死にかけた事があるので、今ではそれを封印しているのだ。だって、死にたくないじゃないというわけだ。
というわけで、オピスはおとなしく街の散策をしているというわけである。
だが、そうやって街を歩いていたオピスだが、とある曲がり角に差し掛かった時、その影から突然出てきた人物とぶつかってしまった。
「いったーい、誰よっ?!」
尻餅をついて倒れてしまったオピスは、つい声を荒げてしまう。だが、ぶつかって倒れた相手を見て、オピスの表情が固まってしまったのだ。
「げっ……」
「あたたたた……。もう誰なのよ!」
目の前に居たのは全身白い毛並みに赤色のおかっぱ頭の猫。そう、ぶつかった相手は、コネッホの手紙によってモスレにやって来たフェリスだったのだ。
「くっ……」
会うつもりではあったが、このタイミングでは一番会いたくない相手に出くわしてしまったがために、オピスはそっぽを向いて逃げ出そうとする。ところが、そのオピスの手をしっかりとフェリスは掴んでいた。
「ちょっとお待ちなさいよ。あたしもよそ見してたから謝るけどさ、あんたも何か一言くらい言いなさいよね」
オピスはとっととこの場を去りたいのだが、力ではフェリスに勝てずに、どうしても自分の腕を掴むその手を振りほどけなかった。
(くそっ、この程度を振りほどけないなんて、あたくしったら、本当に非力ですわね!)
歯を食いしばって手を振り回すが、フェリスの手は微動だにしなかった。
「ちょっと落ち着きなさいよ。いきなりぶつかって気が動転するのも分かるけど、いくらなんでも落ち着きが無さすぎない?」
フェリスが面食らって、ものすごく不機嫌な顔でオピスを見ている。あれだけ全力で暴れられれば怒りたくもなってしまうものだ。
「まったく、怪我無いの? とりあえずこっち向いてちょうだい」
フェリスがひたすら顔を背けているオピスの顔を覗き込もうとしている。これにはさすがのオピスもやばいと感じていた。
今もこうやっている間に、フェリスはオピスの魔力に触れ続けている。その状態で顔を見られれば、確実に思い出されてしまうと、オピスは危機感を持っていたのだ。
能力を使ってさっさと逃げ出したいオピスだが、この騒ぎに辺りから人が集まってきていた。こうも目撃者が多くなると、魔法によって作用させる範囲が広まるので、精度が低くなってしまう。人間にどんな影響が出るか分からないのはどうでもいいのだが、肝心のフェリスに通じなくなってしまう。オピスはギリギリと歯を食いしばっていた。
(くそっ、こうなったら、別の能力を使って逃げるしかないしらね)
オピスはフェリスから逃げるためにいろいろと画策する。だが、もう時は遅かった。
「顔を見せなさい!」
いい加減にブチキレたフェリスが、オピスの腕を引っ張って自分の方へと向かせたのだ。
ぐるりと向きを変えるオピス。そして、フェリスとまともに顔が合ってしまう。
「あ……」
その顔を見たフェリスが、思わず声を上げる。だが、それでもオピスの腕は離さなかった。
「おぴ……す……?」
フェリスが思い切り目を見開いている。
フェリスの呟きを聞いたオピスは、さすがに終わったと思った。ところが、その次にフェリスが取った行動は予想外なものだった。
「なんだ、オピスじゃないの。久しぶり、何100年ぶりかしら。元気そうでなによりだわ」
予想外なくらいにフェリスの表情は明るかった。その様子に、周りに集まってきた野次馬たちは「なんだ、知り合いか」とぞろぞろと散り始めた。最悪の結果となった割に、オピスはフェリスの言動に呆然としてしまっていた。だが、そんなものは次の瞬間吹き飛んでしまっていた。
「さーて、あたしたちに記憶を封じる魔法を使った理由を、たーっぷりと聞かせてもらおうじゃないの。ついでにコネッホも問い質してやるわよ?」
フェリスの瞳が怪しく光っていた。
あまりにフェリスが怖い表情をするものだから、オピスは本気でフェリスに怯えていたのだった。
その姿は、さすが邪神仲間のリーダーたる者だと思わせるフェリスなのである。
(あたくしも、生き残ろうとしてずいぶんおとなしくなったものよね。こんな事ではサイコシス様に顔向けはできないでしょうけれど、サイコシス様の最期を思えば、あたくしにはこうするしかなかったものね)
幻惑系の魔法を得意とするオピスだが、それ以外は意外と能力が低いのだ。通じない相手との戦いとなれば、あっさり死ぬ可能性だってある。死ぬのは嫌だという思いが強い小心者なのだ。
そこで生き残りの策としてオピスが活用したのは、元々の体の柔軟性を利用した踊りと幻惑系の魔法を利用した占いなのである。ちなみに幻惑系の魔法で人を操る事ができるのだが、オピスはそこまで能力が高くないので痕跡が残ってしまう。それが原因で死にかけた事があるので、今ではそれを封印しているのだ。だって、死にたくないじゃないというわけだ。
というわけで、オピスはおとなしく街の散策をしているというわけである。
だが、そうやって街を歩いていたオピスだが、とある曲がり角に差し掛かった時、その影から突然出てきた人物とぶつかってしまった。
「いったーい、誰よっ?!」
尻餅をついて倒れてしまったオピスは、つい声を荒げてしまう。だが、ぶつかって倒れた相手を見て、オピスの表情が固まってしまったのだ。
「げっ……」
「あたたたた……。もう誰なのよ!」
目の前に居たのは全身白い毛並みに赤色のおかっぱ頭の猫。そう、ぶつかった相手は、コネッホの手紙によってモスレにやって来たフェリスだったのだ。
「くっ……」
会うつもりではあったが、このタイミングでは一番会いたくない相手に出くわしてしまったがために、オピスはそっぽを向いて逃げ出そうとする。ところが、そのオピスの手をしっかりとフェリスは掴んでいた。
「ちょっとお待ちなさいよ。あたしもよそ見してたから謝るけどさ、あんたも何か一言くらい言いなさいよね」
オピスはとっととこの場を去りたいのだが、力ではフェリスに勝てずに、どうしても自分の腕を掴むその手を振りほどけなかった。
(くそっ、この程度を振りほどけないなんて、あたくしったら、本当に非力ですわね!)
歯を食いしばって手を振り回すが、フェリスの手は微動だにしなかった。
「ちょっと落ち着きなさいよ。いきなりぶつかって気が動転するのも分かるけど、いくらなんでも落ち着きが無さすぎない?」
フェリスが面食らって、ものすごく不機嫌な顔でオピスを見ている。あれだけ全力で暴れられれば怒りたくもなってしまうものだ。
「まったく、怪我無いの? とりあえずこっち向いてちょうだい」
フェリスがひたすら顔を背けているオピスの顔を覗き込もうとしている。これにはさすがのオピスもやばいと感じていた。
今もこうやっている間に、フェリスはオピスの魔力に触れ続けている。その状態で顔を見られれば、確実に思い出されてしまうと、オピスは危機感を持っていたのだ。
能力を使ってさっさと逃げ出したいオピスだが、この騒ぎに辺りから人が集まってきていた。こうも目撃者が多くなると、魔法によって作用させる範囲が広まるので、精度が低くなってしまう。人間にどんな影響が出るか分からないのはどうでもいいのだが、肝心のフェリスに通じなくなってしまう。オピスはギリギリと歯を食いしばっていた。
(くそっ、こうなったら、別の能力を使って逃げるしかないしらね)
オピスはフェリスから逃げるためにいろいろと画策する。だが、もう時は遅かった。
「顔を見せなさい!」
いい加減にブチキレたフェリスが、オピスの腕を引っ張って自分の方へと向かせたのだ。
ぐるりと向きを変えるオピス。そして、フェリスとまともに顔が合ってしまう。
「あ……」
その顔を見たフェリスが、思わず声を上げる。だが、それでもオピスの腕は離さなかった。
「おぴ……す……?」
フェリスが思い切り目を見開いている。
フェリスの呟きを聞いたオピスは、さすがに終わったと思った。ところが、その次にフェリスが取った行動は予想外なものだった。
「なんだ、オピスじゃないの。久しぶり、何100年ぶりかしら。元気そうでなによりだわ」
予想外なくらいにフェリスの表情は明るかった。その様子に、周りに集まってきた野次馬たちは「なんだ、知り合いか」とぞろぞろと散り始めた。最悪の結果となった割に、オピスはフェリスの言動に呆然としてしまっていた。だが、そんなものは次の瞬間吹き飛んでしまっていた。
「さーて、あたしたちに記憶を封じる魔法を使った理由を、たーっぷりと聞かせてもらおうじゃないの。ついでにコネッホも問い質してやるわよ?」
フェリスの瞳が怪しく光っていた。
あまりにフェリスが怖い表情をするものだから、オピスは本気でフェリスに怯えていたのだった。
その姿は、さすが邪神仲間のリーダーたる者だと思わせるフェリスなのである。
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