邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第251話 邪神ちゃんたちの珍道中

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 王都での用事を済ませたマイオリーたちは、早速モスレに向かって歩を進めていく。国王から借り受けた地図もあるので、迷わずに無事に進んでいる。
 王都までの道中もそうだが、ラータとシンミアの能力が非常に役に立っていた。ラータの隠密の能力で夜中に襲撃される事はなかったのである。盗賊に襲われたのがすべて日中というのはかなり不思議な事であるが、それはこのラータの能力のおかげだったのだ。気配などを完全遮蔽してしまうので、目の前に居ても分からないというチートっぷり。さすがは邪神である。
 シンミアの方はさすがにトレジャーハンターをしているだけあって、火起こしやら料理やらは難なくこなせている。実に生活力が高いのである。
「お二人のおかげで快適な旅ができています。本当にありがとうございます」
「今の私は聖女様にお仕えする身です。これしきの事、当然でございます」
 マイオリーが嬉しそうに感謝していると、ラータは淡々と答えている。
「まっ、あちきだって目の前で他人に死なれるのはまっぴらごめんだからな。しょうがなくだよ、しょうがなく」
 ぶっきらぼうに答えているシンミアだが、よく見ると顔が赤い。ものすごく照れているようである。どうやら間違いなくツンデレ属性の持ち主である。その姿を見てラータは無言になるし、マイオリーにいたってはくすくすと笑っていた。その姿を見てシンミアが顔を真っ赤にして怒鳴るものだから、マイオリーは更に笑っていた。やれやれである。
 王都からモスレも思ったより遠く、途中で立ち寄った街で路銀を稼ぎながら移動をしていく。組合で依頼を受けてそれをこなしていくのだ。
 とはいえども、さすがは聖女と邪神二人である。そんなに苦戦する依頼なんてものがあるのだろうか。いや、ほとんどなかった。さすがに依頼の場所が遠いところは避けたのだ。あまりモスレまでの移動で時間を取りたくなかったからだ。先を急ぐわけだし、路銀が稼げればいいのだから、そこまで面倒な依頼を受ける必要はなかったのである。
 そういう繰り返しをしながら、マイオリーたちは徐々にモスレに近付いていく。
「地図によりますと、あの峠を越えればモスレのようですね。少々の寄り道をしましたが、思ったよりも早く着きそうですね」
「はあ、やーっとかよ。二人揃って無一文とかやってらんなかったぜ」
 ラータの言葉に、シンミアはついつい道中の愚痴が出てしまう。
 そう、マイオリーとラータはお金を持ち合わせていなかったのだ。なので、王都までの道はシンミアのお金でつないでいたのである。無事に王都に着いて、そこで途中で退治した盗賊たちの懸賞金を得たものの、それでもやっぱり長旅ではお金が心許なくなってしまうのだ。ちまちま寄り道をしながらやって来たために、ついついシンミアは悪態をつきたくなってしまったのだった。
「仕方ありませんよ。聖教会は寄付で運用されていますし、聖女様は身銭を持たぬものなのです。仕組み的にそうなのですから、文句を言っても仕方ありませんよ」
 ラータが説教がましく言う。
「だったら、お前はどうなんだよ、ラータ。なんでお前まで無一文になってるんだよ!」
 すると、シンミアも負けじと反撃する。邪神とはいえどそもそも人間たちに紛れて暮らしていたのだ。多少なりとお金は持っていても不思議ではないはずなのだ。
「すべて寄付しましたから」
 ラータから返ってきた答えは実に単純だった。聖教会に身を置くにあたって、すべて寄付してしまったらしいのだ。これにはシンミアはあんぐりと口を開けて固まった。
「お前なぁ、後先を少しは考えて行動しやがれ!」
「考えた結果です。何か文句でもございますか?」
「あるに決まってんだろうが! あちきがどんだけここで苦労したと思ってんだよ!」
 あくまでも冷静なラータに、怒り心頭のシンミアがますますヒートアップしている。両者の性格の違いがよく出ている状況だった。
「まあまあ、落ち着いて下さい、お二人とも。無事にモスレに着けそうなのですから、それでよしと致しましょう」
 マイオリーも落ち着いていた。
「ちっ、さすがにフェリスとドラコのお気に入りの聖女様に嚙みついたとあっちゃあ、あちきも命がない。ラータ、センティアに戻ったらいっちょ勝負しようぜ」
「いいでしょう。いつでも受けて立ちますよ」
 もうここまで来たら売り言葉に買い言葉である。マイオリーでも収拾がつけられそうにないので、結局その言い分を認めざるを得なかった。
「やれやれ、ものすごく仲がよろしいのですね」
「よくない!」
 マイオリーのツッコミに、ラータとシンミアが揃って反応する。息がぴったりである。
 いろいろとあったものだが、センティアを発ってから20日ほどのマイオリーたちの旅も、目的地であるモスレのすぐそばまでやって来た。はたして三人は、無事にコネッホに会う事ができるのだろうか。そして、問題の邪神である蛇のオピスと遭遇してしまうのだろうか。
「あれがモスレの街ですな」
「ようやく着いたか……」
「結構大きな街ですね。どのような街なのか、楽しみです」
 峠を無事に越えたマイオリーたちの眼前に、モスレの街が見えてきたのだった。
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