邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第250話 邪神ちゃんたちの国王との謁見

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 そして、やってきてしまったブランシェル王国の城。謁見の間に通されてしまったマイオリーたちだが、緊張しているのはシンミアだけだった。マイオリーとラータは実に落ち着いている。
 ラータがシンミアを落ち着けている間に、謁見の間に国王が顔を出してしまった。仕方がないので、ラータはシンミアの頭を押さえて跪かせていた。
「これはお久しゅうございます、国王陛下」
「おお、マイオリーか、久しいな。聖女に下を向かせるのは良くない、顔を上げてよいぞ」
 国王がこう声を掛けてくるので、マイオリーは跪いた状態のまま顔を上げた。
「しかし、センティアから出てこられるとは、珍しい事もあるものだな。何か良からぬ事でも起きておるのか?」
 国王がマイオリーに、センティアから出てきた理由を尋ねている。すると、マイオリーはにこりと笑う。
「はい、国の東にあるモスレという街に邪神が住んでいるらしいので、様子を見に行こうと思いまして。あと、ここ王都にも雑用がございました次第です」
「ふむ、邪神か……。というか、マイオリーの連れて居る二人も、人間ではなさそうだが?」
 国王は、マイオリーの後ろに居るラータとシンミアを指して指摘している。
「はい、お二方も邪神でございます。ですが、邪神とは名ばかりで危険のない魔族の方々ですのでご安心下さい」
 マイオリーは笑顔を絶やさずにこのように答えるので、謁見の間に居る兵士たちからどよめきが起きていた。
「……なるほど、あの盗賊団があっさり壊滅したのがよく分かるぞ。邪神ともなれば力が段違いだ。そこらの盗賊ごときが敵う相手はないな……」
 国王は顔を押さえていた。
 実は、さっき門で引き渡していた盗賊たちの話がここまで伝わっていたのだ。最近近くの街道で悪さをしていた盗賊団なのだが、なかなか潰せなくてやきもきしていたらしい。
 しかし、そんな盗賊団も聖女たちの手に掛かればあの通りである。倒した盗賊をラータの闇魔法で隠しながら移動していたので、小刻みに襲い掛かってきてくれていたのだ。そのせいで気が付いたら相当な人数の盗賊が討伐されていたのである。闇魔法は怖いものである。
「あの盗賊団には困ったものだったから、潰してくれたのは嬉しいが……。うん、聖女に報酬を出すのもいかがなものかな」
 国王は頭を悩ませていた。
「でしたら、ラータとシンミア様へ報酬としてお渡しすればよろしいのではないでしょうか。私は聖女という立場上、そういうものは受け取れませんからね」
 マイオリーはにっこりと国王にそう告げていた。
「いやはや、まあそうだな。邪神とはいえど決まりは決まりだものな。おい、褒美を持ってまいれ」
「はっ!」
 悩んだ国王だったが、マイオリーの提案を受け入れて報酬を兵士に持ってこさせた。
「聖女とはそういった存在なのですか?」
 ラータがマイオリーに問い掛ける。
「はい、すべては慈悲により行われる行為。対価を求めてはならないと教えられております。聖女というものはそういうものなのです」
「はあ……、無報酬で働くってのかよ。あちきには分からないな」
 トレジャーハンターであるシンミアは、聖教会の仕組みというものがとても理解できなかったようである。まっ、仕方のない話である。
「しかしだ。いくら聖教会の方針だとはいえ、さすがに無報酬だと私の気が引ける。マイオリーよ、何かあるかな?」
 国王は思い悩んだのだが、マイオリーに何か望みがないかと尋ねる事にした。やっぱり何もしないのは人としてダメな気がしたのである。
「それでしたら、王国料理協会に制裁をお加え下さいませ」
「王国料理協会に? 何をやらかしたんだ、あいつらは」
 国王も王国料理協会の存在を知っていたようである。実は、国王も協会員の一人なのだ。
「シンミア様からお聞きした事ですが、フェリスメルに押しかけてかなり好き勝手やって下さったようなのです。営業妨害と取れるような事もしていたそうですので、しっかり厳罰をお与え頂けると助かりますね」
 マイオリーからは更なる笑顔が繰り出される。その笑顔に恐怖を感じた国王は、
「わ、分かった。フェリスメルに近付く事や、料理人たちの迷惑になるような事を禁ずるように通達を出す。ええい、今すぐ奴らに伝えてやれ!」
「か、畏まりました!」
 国王がやけになって叫ぶと、兵士がまた一人、謁見の間から駆け出していった。
 その姿を見送った国王が、再びマイオリーに目を向ける。
「して、モスレに行くと言っていたが、道は知っておるのか?」
「いえ、知りません」
 国王の問いにあっさりと答えるマイオリー。潔いのだが、それでいいのだろうか。その答えにため息を吐いた国王は、さらに兵士に命じて地図を持ってこさせる。まさか一度の謁見で三人も小間使いに出す事になるとは、なかなかない快挙である。
 一番最初に戻ってきたのは地図を取りに行った兵士だった。そして、戻って来た兵士に命じて、地図を広げてマイオリーたちに見せる。
「地図に書かれている城が現在地であるこの王都だ。そこから地図の右側、丸印があるだろう。そこがモスレだ」
 国王の言う通り、地図の右端には丸が打ってあり、そこに『モスレ』と書き込まれていた。
「街道も整っておるから、迷う事はないだろうが、知っていくのと知らずに行くのとでは大違いだからな。その地図は貸してやるから、気を付けて行ってくるのだぞ」
「ありがとうございます、国王陛下」
 国王の好意に、マイオリーは頭を下げる。
 これで地図が手に入ったので、迷う事なくモスレに迎えそうである。
 錬金術師コネッホへまた一歩近づいたマイオリーたちだった。
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