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第246話 邪神ちゃんと最後のピース
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モスレの街では、コネッホは相変わらず錬金術で大忙しである。冒険者が怪我する事は当たり前だし、それ以外でも災害などの被害で怪我人が出る事だってある。傷や病気を癒せるポーションはとにかく需要が高いのだった。
そんなある日の事だった。モスレのコネッホを訪ねて一人の人物がやって来た。
「錬金術師のコネッホさんってあなたの事かしら」
唐突に家に入ってきて声を掛けてくる不審者。だが、コネッホはそんな事態にも動じる事なく、平然と対応する。
「よくここが分かったね」
作業が一段落したので、手を止めてくるりと振り返るコネッホ。
「まったく、今頃のこのこと姿を現すとは、一体どういうつもりなのかな」
コネッホは左手を腰に当てながら、その人物に声を掛けている。どうやら知り合いのような反応である。
「……その様子だと、あたくしの事を思い出したようね」
「思い出すも何も、あたいにはあんたの術は最初から効いていないよ。……ドラコにも効いていたからって安心してたんだろう?」
コネッホからの答えに、その人物は少しは驚いたようだったが、すぐに落ち着きを取り戻していた。そして、かぶっていたフードを取り払うと、美しい瑠璃色の長く波打った髪の毛の妖麗な女性の姿が現れた。全身ローブで覆われているので、体型や服装はよく分からない。分かるのは、コネッホより背が高いという事だけだった。
「効いたふりをして話を合わせるのも疲れたよ。とりあえず片付けるから適当に座って待っていてくれ」
「……片付けは相変わらずできてないのね」
「はははっ、フェリスにもドラコにも言われたよ。どうにもあたいには片付けるっていう事に苦手意識があるようだ」
コネッホが笑いながら言うと、女性はぎりっと唇を噛んでいる。だが、この場はおとなしくコネッホの言う通りに椅子に座って待つ事にした。
しばらくすると、ようやくコネッホが片付けを終わらせる。大して変わったようには見えないが、テーブルと床の上に隙間ができたようだった。
「……これで片付けたつもりなの?」
「足の踏み場があるだけマシだろう?」
コネッホの言葉に、女性は頭が痛くなってくる。どうやら、女性の知る限りのコネッホよりも状態が悪化しているような反応である。
「で、あたいに何の用なのか、詳しく聞かせてくれないか」
女性の反応を無視しながら、にこにこと語り掛けるコネッホ。
「用のないのにここに来たというのかい? オピス」
コネッホの視線が鋭くなる。だが、オピスがこの程度で怯むわけもなく、コネッホを顔を向かい合わせている。
「用っていうか、昔の仲間に会うのに用事は必要なのかしら?」
「まあ、要らないね」
オピスが聞き返すと、コネッホはしれっとそう答えていた。
この後、しばらく沈黙が続く。そして、あまりの沈黙にコネッホが口を開く。
「あたいたちがフェリスの元に集まりつつあるのが、気になっているのかな?」
「ごふっ、ごほっごほっ……」
コネッホのこの問いに、思わず咳き込んでしまうオピス。どうやら図星のようである。
「そりゃ気になるだろうな。あたいらを散り散りにするために画策したみたいだが、おおよそ200年が経ってその効果が薄まってきたんだからな」
コネッホにしっかり言い当てられてしまい、オピスはじっと睨みつけている。蛇とはいっても、睨まられて石化するという事はないようだ。
「フェリスってのは本当に不思議な子だよ。オピスと同じでサイコシスの元に居たっていうのにな。あの分だと、相当にサイコシスから目を掛けられていたんだろうな」
「ええ、そうよ。あたくしが羨ましく思うくらいには……ね」
出された紅茶を飲みながら、オピスは声を震わせながらコネッホの言葉に反応している。
「元々、サイコシス様の眷属はあたくしだけだったのよ? あんなどこから来たかも分からないような泥棒猫に奪われて……。この手でさっさと始末してやりたかったわよ!」
怖い顔をしながらコネッホに本音をぶちまけるオピス。コネッホはまったく反応がないので、この事は知っている雰囲気がある。落ち着いた雰囲気のコネッホの目の前で、オピスはぜえぜえと息を切らせている。
「……オピス、あんたがフェリスに嫉妬する気持ちは、よく分かるな」
「えっ?」
静かだったコネッホが語った言葉に、オピスは驚く。
「自由気ままな性格な割に、みんなにはものすごく好かれているからな、フェリスは」
「ああ、そういう……」
コネッホの言葉に、オピスはどこか納得してしまう。
「しかし、オピスはどうしたいのかな。あたいたちにあんな魔法を掛けてまで散り散りにしておきながら、結局何もしないままにあたいたちは再集結しつつあるんだからな。ラータとシンミア、それとティグリスの姿は確認してないけど、全員がフェリスと会っていても、もう不思議じゃない状況だよ」
コネッホがこう言うと、オピスは黙り込んでしまった。
「あたいはどっちにもつかない中立派だから心配しないでくれ。しかし、フェリスの持つ謎の魅力が無ければ、あたいたちがこうやって集まる事はなかっただろう。それに、あいつはあたいらの持つ力を劣化ながらに全部持ち合わせている」
「……なんですって?」
コネッホの話す内容に、眉をぴくりと動かすオピス。
「ちょっと、その話を詳しく聞かせてくれないかしら?」
「もちろんいいぞ。長くなりそうなのだけは覚悟しておいておくれ」
コネッホはそう注意しておくと、本当に長々しくフェリスの事を語り出したのだった。
そんなある日の事だった。モスレのコネッホを訪ねて一人の人物がやって来た。
「錬金術師のコネッホさんってあなたの事かしら」
唐突に家に入ってきて声を掛けてくる不審者。だが、コネッホはそんな事態にも動じる事なく、平然と対応する。
「よくここが分かったね」
作業が一段落したので、手を止めてくるりと振り返るコネッホ。
「まったく、今頃のこのこと姿を現すとは、一体どういうつもりなのかな」
コネッホは左手を腰に当てながら、その人物に声を掛けている。どうやら知り合いのような反応である。
「……その様子だと、あたくしの事を思い出したようね」
「思い出すも何も、あたいにはあんたの術は最初から効いていないよ。……ドラコにも効いていたからって安心してたんだろう?」
コネッホからの答えに、その人物は少しは驚いたようだったが、すぐに落ち着きを取り戻していた。そして、かぶっていたフードを取り払うと、美しい瑠璃色の長く波打った髪の毛の妖麗な女性の姿が現れた。全身ローブで覆われているので、体型や服装はよく分からない。分かるのは、コネッホより背が高いという事だけだった。
「効いたふりをして話を合わせるのも疲れたよ。とりあえず片付けるから適当に座って待っていてくれ」
「……片付けは相変わらずできてないのね」
「はははっ、フェリスにもドラコにも言われたよ。どうにもあたいには片付けるっていう事に苦手意識があるようだ」
コネッホが笑いながら言うと、女性はぎりっと唇を噛んでいる。だが、この場はおとなしくコネッホの言う通りに椅子に座って待つ事にした。
しばらくすると、ようやくコネッホが片付けを終わらせる。大して変わったようには見えないが、テーブルと床の上に隙間ができたようだった。
「……これで片付けたつもりなの?」
「足の踏み場があるだけマシだろう?」
コネッホの言葉に、女性は頭が痛くなってくる。どうやら、女性の知る限りのコネッホよりも状態が悪化しているような反応である。
「で、あたいに何の用なのか、詳しく聞かせてくれないか」
女性の反応を無視しながら、にこにこと語り掛けるコネッホ。
「用のないのにここに来たというのかい? オピス」
コネッホの視線が鋭くなる。だが、オピスがこの程度で怯むわけもなく、コネッホを顔を向かい合わせている。
「用っていうか、昔の仲間に会うのに用事は必要なのかしら?」
「まあ、要らないね」
オピスが聞き返すと、コネッホはしれっとそう答えていた。
この後、しばらく沈黙が続く。そして、あまりの沈黙にコネッホが口を開く。
「あたいたちがフェリスの元に集まりつつあるのが、気になっているのかな?」
「ごふっ、ごほっごほっ……」
コネッホのこの問いに、思わず咳き込んでしまうオピス。どうやら図星のようである。
「そりゃ気になるだろうな。あたいらを散り散りにするために画策したみたいだが、おおよそ200年が経ってその効果が薄まってきたんだからな」
コネッホにしっかり言い当てられてしまい、オピスはじっと睨みつけている。蛇とはいっても、睨まられて石化するという事はないようだ。
「フェリスってのは本当に不思議な子だよ。オピスと同じでサイコシスの元に居たっていうのにな。あの分だと、相当にサイコシスから目を掛けられていたんだろうな」
「ええ、そうよ。あたくしが羨ましく思うくらいには……ね」
出された紅茶を飲みながら、オピスは声を震わせながらコネッホの言葉に反応している。
「元々、サイコシス様の眷属はあたくしだけだったのよ? あんなどこから来たかも分からないような泥棒猫に奪われて……。この手でさっさと始末してやりたかったわよ!」
怖い顔をしながらコネッホに本音をぶちまけるオピス。コネッホはまったく反応がないので、この事は知っている雰囲気がある。落ち着いた雰囲気のコネッホの目の前で、オピスはぜえぜえと息を切らせている。
「……オピス、あんたがフェリスに嫉妬する気持ちは、よく分かるな」
「えっ?」
静かだったコネッホが語った言葉に、オピスは驚く。
「自由気ままな性格な割に、みんなにはものすごく好かれているからな、フェリスは」
「ああ、そういう……」
コネッホの言葉に、オピスはどこか納得してしまう。
「しかし、オピスはどうしたいのかな。あたいたちにあんな魔法を掛けてまで散り散りにしておきながら、結局何もしないままにあたいたちは再集結しつつあるんだからな。ラータとシンミア、それとティグリスの姿は確認してないけど、全員がフェリスと会っていても、もう不思議じゃない状況だよ」
コネッホがこう言うと、オピスは黙り込んでしまった。
「あたいはどっちにもつかない中立派だから心配しないでくれ。しかし、フェリスの持つ謎の魅力が無ければ、あたいたちがこうやって集まる事はなかっただろう。それに、あいつはあたいらの持つ力を劣化ながらに全部持ち合わせている」
「……なんですって?」
コネッホの話す内容に、眉をぴくりと動かすオピス。
「ちょっと、その話を詳しく聞かせてくれないかしら?」
「もちろんいいぞ。長くなりそうなのだけは覚悟しておいておくれ」
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