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第244話 邪神ちゃんと怯える虎
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ティグリスの口から出てきたバルボルという国は、ヘンネが説明していた通り、ここ50年の間で誕生した比較的新しい国である。元々東の方は少数部族たちがそれぞれに自治をしていたのだが、フェリスたちが集まっていた数100年前の戦いの際に魔族の勢力によって強力な魔物を送り込まれ散り散りになってしまっていた。
だが、そんな彼らは自分たちの土地を取り戻すために一致団結し、魔物を押しやって一部ながらもその土地を取り戻したのだ。その事によって生まれた国というのが、そのバルボルなのである。国の名前の由来は、主要な部族たちの頭文字を繋げたものだというが、その詳細を知る者は今では少なくなってしまっているようである。
そんなバルボル国だが、人の住む地域以外にはまだまだ魔物の脅威が残っており、危険な地域という事には変わりないのである。ティグリスはそんな所へと出向いていたのだ。邪神はそこそこの強さを持つとはいえど、さすがに心配をするなという方が無理なのだ。なので、説明の最中にもフェリスとヘンネからひたすら心配される始末だった。
「しっかし、武者修行っていったって、なんでそんな所に急に行く気になったのよ」
「分からない。でも、行かなきゃいけないような気がしたのよね」
フェリスの言葉に、ティグリスは首を捻りながら答えている。自分でもよく分かっていないようだった。
「ふーむ、まるで何かの暗示をかけられたような行動ですね。でも、私たちに暗示をかけられるような相手となると、心当たりの数が絞れますね」
ヘンネは唸りながらそう推理している。ただ、これはフェリスでも思いついたようで、ヘンネの言葉にこくこくと頷いている。
「ティグリスもルディみたいな単純な思考回路をしているけれど、暗示にかかるようなおまぬけさんじゃないものね。となると、どこかで蛇の邪神と接触した可能性があるわ」
「ええっ?! 蛇かぁ……、私、彼女は苦手なんだけどな……」
蛇の邪神と接触した可能性を指摘されると、ティグリスは露骨に嫌な顔をする。蛇の邪神を苦手としている邪神は結構多いようである。ちなみにフェリスやドラコ、ヘンネはあまりそういうところはないようだ。
「その可能性は高いですね。ドラコにですら暗示をかけられる彼女です。苦手意識を掻い潜って暗示をかけるなんて、赤子の手を捻るようなものでしょう」
フェリスの推理を支持するヘンネである。
そのヘンネの言葉に身震いのするティグリス。邪神とはいえど苦手なものは苦手だし、怖いものは怖い。何と言っても、フェリスだって王国料理協会から逃げ出すくらいなのだから。
「でもまあ、フェリスへの興味が強すぎたがゆえに、こうやってクレアールに来たのでしょうね。主要な取引先であるゼニスさんの商会は、バルボルとも取引がありますからね」
ヘンネはこんな事を言っていた。クレアールとフェリスの事を隣国にまで広めているとか、ゼニスもだいぶやってくれているようである。感心するどころかもはや怖いレベルである。フェリスはあまりゼニスにもやり過ぎないように言いたくなってきていた。
だけども、それよりもまずは目の前の状況だ。
さっきからヘンネがティグリスを睨み付けている。そのあまりに強い目力に、ティグリスは完全に怯え上がっている。
「そうだよ。私たちはフェリスの魅力に惹かれて集まったんだから、フェリスが最優先に決まってるじゃないですか!」
圧力に負けて叫ぶティグリス。その声にヘンネはうんうんと頷き、フェリスは目を白黒させて固まっていた。そんな気はしていたものの、改めて言われると恥ずかしいフェリスなのである。
「こほん。そんな事よりも、バルボルに行く前の事をしっかり思い出してもらえないかしら。蛇とは一回ちゃんとお話しておかなきゃって思うからね」
ヘンネの圧力から解放されたと思ったら、今度はフェリスが圧力を掛けてくる。代わる代わる圧力を掛けられてしまっては、ティグリスはさすがに涙目である。
「で、バルボルに行く前に最後に居たのはどこのなのよ?」
フェリスからずずいっと圧力を掛けられるティグリス。
「悪いけれど覚えてない! 必死に思い出すから、今は、今だけは勘弁して!」
ついには完全に泣き出してしまったティグリスである。完全に格上の相手から半ば脅されればそうなってしまうのは無理もなかった。
さすがにこうなってしまえば話を聞くどころではない。ヘンネの提案で、ティグリスはしばらくドラコに預けられる事になったのだった。フェリスの仲間の中でも、人の扱いには一番長けているのがドラコなのである。ドラコに預けておけばティグリスも落ち着くだろう、ヘンネはそう考えたわけである。
「まっ、仕方ないわね。そうしましょうか」
これにはフェリスも同意するのだった。フェリスは人には好かれるが、ちゃんと接せられるかといったらそうでもないのだ。どこか面倒くさがりだし、むしろ人を振り回すタイプだ。それに、ティグリスにはどちらかと言われたら怖がられている。それでは安心して預ける事はできないのだった。
ヘンネと別れてドラコの薬草園に向かうフェリスとティグリス。ティグリスはフェリスとヘンネの圧力からようやく逃れられると、少し安心したような表情を見せていたのだった。
だが、そんな彼らは自分たちの土地を取り戻すために一致団結し、魔物を押しやって一部ながらもその土地を取り戻したのだ。その事によって生まれた国というのが、そのバルボルなのである。国の名前の由来は、主要な部族たちの頭文字を繋げたものだというが、その詳細を知る者は今では少なくなってしまっているようである。
そんなバルボル国だが、人の住む地域以外にはまだまだ魔物の脅威が残っており、危険な地域という事には変わりないのである。ティグリスはそんな所へと出向いていたのだ。邪神はそこそこの強さを持つとはいえど、さすがに心配をするなという方が無理なのだ。なので、説明の最中にもフェリスとヘンネからひたすら心配される始末だった。
「しっかし、武者修行っていったって、なんでそんな所に急に行く気になったのよ」
「分からない。でも、行かなきゃいけないような気がしたのよね」
フェリスの言葉に、ティグリスは首を捻りながら答えている。自分でもよく分かっていないようだった。
「ふーむ、まるで何かの暗示をかけられたような行動ですね。でも、私たちに暗示をかけられるような相手となると、心当たりの数が絞れますね」
ヘンネは唸りながらそう推理している。ただ、これはフェリスでも思いついたようで、ヘンネの言葉にこくこくと頷いている。
「ティグリスもルディみたいな単純な思考回路をしているけれど、暗示にかかるようなおまぬけさんじゃないものね。となると、どこかで蛇の邪神と接触した可能性があるわ」
「ええっ?! 蛇かぁ……、私、彼女は苦手なんだけどな……」
蛇の邪神と接触した可能性を指摘されると、ティグリスは露骨に嫌な顔をする。蛇の邪神を苦手としている邪神は結構多いようである。ちなみにフェリスやドラコ、ヘンネはあまりそういうところはないようだ。
「その可能性は高いですね。ドラコにですら暗示をかけられる彼女です。苦手意識を掻い潜って暗示をかけるなんて、赤子の手を捻るようなものでしょう」
フェリスの推理を支持するヘンネである。
そのヘンネの言葉に身震いのするティグリス。邪神とはいえど苦手なものは苦手だし、怖いものは怖い。何と言っても、フェリスだって王国料理協会から逃げ出すくらいなのだから。
「でもまあ、フェリスへの興味が強すぎたがゆえに、こうやってクレアールに来たのでしょうね。主要な取引先であるゼニスさんの商会は、バルボルとも取引がありますからね」
ヘンネはこんな事を言っていた。クレアールとフェリスの事を隣国にまで広めているとか、ゼニスもだいぶやってくれているようである。感心するどころかもはや怖いレベルである。フェリスはあまりゼニスにもやり過ぎないように言いたくなってきていた。
だけども、それよりもまずは目の前の状況だ。
さっきからヘンネがティグリスを睨み付けている。そのあまりに強い目力に、ティグリスは完全に怯え上がっている。
「そうだよ。私たちはフェリスの魅力に惹かれて集まったんだから、フェリスが最優先に決まってるじゃないですか!」
圧力に負けて叫ぶティグリス。その声にヘンネはうんうんと頷き、フェリスは目を白黒させて固まっていた。そんな気はしていたものの、改めて言われると恥ずかしいフェリスなのである。
「こほん。そんな事よりも、バルボルに行く前の事をしっかり思い出してもらえないかしら。蛇とは一回ちゃんとお話しておかなきゃって思うからね」
ヘンネの圧力から解放されたと思ったら、今度はフェリスが圧力を掛けてくる。代わる代わる圧力を掛けられてしまっては、ティグリスはさすがに涙目である。
「で、バルボルに行く前に最後に居たのはどこのなのよ?」
フェリスからずずいっと圧力を掛けられるティグリス。
「悪いけれど覚えてない! 必死に思い出すから、今は、今だけは勘弁して!」
ついには完全に泣き出してしまったティグリスである。完全に格上の相手から半ば脅されればそうなってしまうのは無理もなかった。
さすがにこうなってしまえば話を聞くどころではない。ヘンネの提案で、ティグリスはしばらくドラコに預けられる事になったのだった。フェリスの仲間の中でも、人の扱いには一番長けているのがドラコなのである。ドラコに預けておけばティグリスも落ち着くだろう、ヘンネはそう考えたわけである。
「まっ、仕方ないわね。そうしましょうか」
これにはフェリスも同意するのだった。フェリスは人には好かれるが、ちゃんと接せられるかといったらそうでもないのだ。どこか面倒くさがりだし、むしろ人を振り回すタイプだ。それに、ティグリスにはどちらかと言われたら怖がられている。それでは安心して預ける事はできないのだった。
ヘンネと別れてドラコの薬草園に向かうフェリスとティグリス。ティグリスはフェリスとヘンネの圧力からようやく逃れられると、少し安心したような表情を見せていたのだった。
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