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第243話 邪神ちゃんが迫る恐怖
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クレアールの商業組合までやって来たフェリスたち。結局ティグリスは入口の前までずっと引きずられていた。ああ見えてヘンネのちょからは意外と強かったのだ。商業組合での事務仕事がメインだというのに、一体どこにそんな力があるのやら。ともかく、一般常識で測れないからこそ、フェリスたちは邪神だというのである。
クレアールの街は新興の街とあって、この日も職員たちが忙しく動いている。日数が経っているとはいえ、遠くまでその情報が伝播するにはやっぱり時間が掛かってしまうのである。
ついでにいうと、フェリスメルからも近い場所にあるために、その情報も求めに来る人物が多いのだ。やっぱりそこは街と村の差というものだろう。人は情報を求める時には、街へとやって来るのである。
そんな忙しい商業組合の中を、フェリスたちは奥へと抜けていく。
「これはヘンネ組合長。お戻りになられたのですね」
「ええ、今しがたですけれどね。客人を迎えていますので、もうしばらくあなた方に任せます」
「承知致しました。お任せ下さい」
奥へと移動していくヘンネたちを見て騒ごうとした者が居たが、このやり取りであっという間に静かになってしまった。商業組合長なら仕方がないのだ。さすがに組合に来ている人間たちでそれが分からない者は、誰も居ないのである。そして、奥へと進んでいくヘンネたちの後ろ姿を静かに見守っていた。
組合長の執務室へと入ったヘンネたち。とりあえずは職員が持ってきた紅茶を飲んで落ち着こうとしていた。
「酷いね、ヘンネ。私の首根っこを掴まえて引きずるなんて」
「そうでもしないと逃げたでしょうに。あなたは昔っから私を苦手にしていましたからね」
ティグリスの文句にも、ヘンネは落ち着き払って言葉を返している。これにはティグリスは言葉を詰まらせていた。
こういうやり取りができるからこそ、ヘンネは商業組合長をしていられるのだ。これよりきつい連中なんていうのは結構見るのだから、本気で舌戦をやり合えないとこの職に居続けるのは不可能なのである。
「シンミアもですが、こういうのにほいほいと釣られているようでは困りますよ。分かっていますか、ティグリス?」
紅茶を飲みながら、ヘンネは静かにティグリスに話し掛ける。
「まったく、どこでこの話を聞きつけたのやら。モスレの商業組合で紹介されたコネッホが一番まともな理由ですよ」
「コネッホも居るの?!」
ヘンネの愚痴の中で出た名前にティグリスが大声で反応する。これにはヘンネもフェリスも目を開いて固まっている。
「コネッホはモスレの街に住む錬金術師になってますよ。なんでもモスレの街の基礎を作ったのはコネッホらしいですけれどね」
咳払いをして気を取り直したヘンネは、改めて姿勢を正してティグリスに説明している。
「そっかそっか、コネッホも元気にしてるのね」
ティグリスは腕を組んで懐かしそうに噛みしめながら呟いている。
「そういえば、ティグリスはよく怪我をしてたから、ルディと一緒にコネッホに傷薬をよくもらってたっけか」
昔を思い出したフェリスが、懐かしむようにしながら話す。それにはティグリスも反応して頷いている。それにしても、そんな大昔の事をよく最近のように思い出せるものである。これが長命な邪神というものなのだろうか。
「こほん、改めて聞きますけれど、ティグリスはここの情報をどこで手に入れたのですか?」
「え……と……」
ヘンネが再びティグリスに迫るが、どうにも歯切れが悪いようだ。まったく一体どこで仕入れたというのだろうか。
「てぃーぐーりーすー? 素直に話した方が身のためよ?」
あまりの歯切れの悪さに、フェリスの方もじわじわと迫っていく。挟み込むように自分より格上の邪神に迫られて、ティグリスは恐怖に震えている。
「分かった、分かったからそれ以上迫らないで!」
ティグリス、まさかのガチ泣きである。さすがに泣き出されては、フェリスもヘンネも本意ではないのでおとなしく椅子に座ったのだった。
結局、ティグリスが落ち着くまでは少々時間を要してしまった。
「で、どこで話を聞いたのかしら」
「バルボルよ。ブランシェル王国の東隣の国と言えば分かるかしら」
フェリスは分からない風な感じだが、これを聞いたヘンネは深刻な表情を見せている。
「バルボルって、そんなわけないじゃないですか」
「ヘンネ?」
ヘンネの表情を見て、フェリスはつい声を掛けてしまう。
「ああ、フェリスは引きこもりだから知らないのですね。バルボルというのはここ50年内にできた新興国なのですよ。モスレと似たような時期にできたのですが、場所はモスレからさらに東に行った場所にある国なんです。モスレもこのブランシェル王国に含まれますからね」
「へえ~……」
興味なさそうな反応のフェリスである。
「というか、ティグリスはなんでそんな国に居たのよ」
「武者修行」
フェリスの問い掛けに、シンプルな答えが返ってくる。
「あそこは魔物が強いですからね。腕試しに行くのは分かりますね」
ヘンネが凄く納得していた。
「とりあえず、ティグリス。その時の話を詳しく聞かせてもらいましょうかね」
だが、ほっとしたのも束の間、すぐさま鋭いヘンネの視線がティグリスに向けられる。その視線に震えるティグリスは、仕方なくぽつぽつとその時の事を話し始めたのだった。
クレアールの街は新興の街とあって、この日も職員たちが忙しく動いている。日数が経っているとはいえ、遠くまでその情報が伝播するにはやっぱり時間が掛かってしまうのである。
ついでにいうと、フェリスメルからも近い場所にあるために、その情報も求めに来る人物が多いのだ。やっぱりそこは街と村の差というものだろう。人は情報を求める時には、街へとやって来るのである。
そんな忙しい商業組合の中を、フェリスたちは奥へと抜けていく。
「これはヘンネ組合長。お戻りになられたのですね」
「ええ、今しがたですけれどね。客人を迎えていますので、もうしばらくあなた方に任せます」
「承知致しました。お任せ下さい」
奥へと移動していくヘンネたちを見て騒ごうとした者が居たが、このやり取りであっという間に静かになってしまった。商業組合長なら仕方がないのだ。さすがに組合に来ている人間たちでそれが分からない者は、誰も居ないのである。そして、奥へと進んでいくヘンネたちの後ろ姿を静かに見守っていた。
組合長の執務室へと入ったヘンネたち。とりあえずは職員が持ってきた紅茶を飲んで落ち着こうとしていた。
「酷いね、ヘンネ。私の首根っこを掴まえて引きずるなんて」
「そうでもしないと逃げたでしょうに。あなたは昔っから私を苦手にしていましたからね」
ティグリスの文句にも、ヘンネは落ち着き払って言葉を返している。これにはティグリスは言葉を詰まらせていた。
こういうやり取りができるからこそ、ヘンネは商業組合長をしていられるのだ。これよりきつい連中なんていうのは結構見るのだから、本気で舌戦をやり合えないとこの職に居続けるのは不可能なのである。
「シンミアもですが、こういうのにほいほいと釣られているようでは困りますよ。分かっていますか、ティグリス?」
紅茶を飲みながら、ヘンネは静かにティグリスに話し掛ける。
「まったく、どこでこの話を聞きつけたのやら。モスレの商業組合で紹介されたコネッホが一番まともな理由ですよ」
「コネッホも居るの?!」
ヘンネの愚痴の中で出た名前にティグリスが大声で反応する。これにはヘンネもフェリスも目を開いて固まっている。
「コネッホはモスレの街に住む錬金術師になってますよ。なんでもモスレの街の基礎を作ったのはコネッホらしいですけれどね」
咳払いをして気を取り直したヘンネは、改めて姿勢を正してティグリスに説明している。
「そっかそっか、コネッホも元気にしてるのね」
ティグリスは腕を組んで懐かしそうに噛みしめながら呟いている。
「そういえば、ティグリスはよく怪我をしてたから、ルディと一緒にコネッホに傷薬をよくもらってたっけか」
昔を思い出したフェリスが、懐かしむようにしながら話す。それにはティグリスも反応して頷いている。それにしても、そんな大昔の事をよく最近のように思い出せるものである。これが長命な邪神というものなのだろうか。
「こほん、改めて聞きますけれど、ティグリスはここの情報をどこで手に入れたのですか?」
「え……と……」
ヘンネが再びティグリスに迫るが、どうにも歯切れが悪いようだ。まったく一体どこで仕入れたというのだろうか。
「てぃーぐーりーすー? 素直に話した方が身のためよ?」
あまりの歯切れの悪さに、フェリスの方もじわじわと迫っていく。挟み込むように自分より格上の邪神に迫られて、ティグリスは恐怖に震えている。
「分かった、分かったからそれ以上迫らないで!」
ティグリス、まさかのガチ泣きである。さすがに泣き出されては、フェリスもヘンネも本意ではないのでおとなしく椅子に座ったのだった。
結局、ティグリスが落ち着くまでは少々時間を要してしまった。
「で、どこで話を聞いたのかしら」
「バルボルよ。ブランシェル王国の東隣の国と言えば分かるかしら」
フェリスは分からない風な感じだが、これを聞いたヘンネは深刻な表情を見せている。
「バルボルって、そんなわけないじゃないですか」
「ヘンネ?」
ヘンネの表情を見て、フェリスはつい声を掛けてしまう。
「ああ、フェリスは引きこもりだから知らないのですね。バルボルというのはここ50年内にできた新興国なのですよ。モスレと似たような時期にできたのですが、場所はモスレからさらに東に行った場所にある国なんです。モスレもこのブランシェル王国に含まれますからね」
「へえ~……」
興味なさそうな反応のフェリスである。
「というか、ティグリスはなんでそんな国に居たのよ」
「武者修行」
フェリスの問い掛けに、シンプルな答えが返ってくる。
「あそこは魔物が強いですからね。腕試しに行くのは分かりますね」
ヘンネが凄く納得していた。
「とりあえず、ティグリス。その時の話を詳しく聞かせてもらいましょうかね」
だが、ほっとしたのも束の間、すぐさま鋭いヘンネの視線がティグリスに向けられる。その視線に震えるティグリスは、仕方なくぽつぽつとその時の事を話し始めたのだった。
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