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第240話 邪神ちゃんと新たな問題
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「はあ、あれからというもの、平和になったわね」
「それはいいんじゃが、なぜここに来ておる」
シンミアがセンティアを訪れている頃、フェリスはクレアールのドラコの薬草園を訪れていた。世話の手伝いとしてメルも一緒である。
「だって、フェリスメルに居ても、あたしのやる事ないんだもの。暇だからこっちに来たってわけ、文句あるの?」
「文句はない。じゃが、フェリスに薬草を触らせるわけにはいかんぞ。正直お前さんは、わしにも理解できん謎を多く抱えておるようじゃからな」
フェリスが不機嫌そうに言い返すが、ドラコも言いたい事ははっきり伝えておく。お互いの仲だからこそ、こうも言い合えるのである。
「まあねえ。牛とか小麦とか果樹とか、思い当たる点が多過ぎるものね……。問題なのは肝心のあたしがそれを全く理解していないってのも、散々言われて分かってるわよ。でもね……」
「そうじゃのう。どうしてそんな能力を持ったのか、それが分からんのが最大の問題じゃ。触れただけで発動するとか聞いた事もないわい」
文句を言おうとしているフェリスだが、ドラコにこう言われれば黙るしかなかった。自分自身が把握しきれていない能力というのが一番面倒なのは間違いないのだから。
「でも、だからこそフェリス様は皆さんに慕われているんですよ。私はそう思うんです」
薬草園の手入れを一通り終えてきたメルが話に加わる。
「まあそうじゃのう。無駄に人を惹きつけるからのう、この猫はな」
ドラコは自分たちフェリスの元に集まった邪神たちを思い返しながら、半ば愚痴っていた。
確かに、蛇の邪神を除けば、知らず知らずにフェリスの元に集まってきていた。水の精霊であるマイムだってそうだ。
「第一、わしが人間どもと暮らそうなどと考えるなど、以前を思えばありえない事だったからのう。過去の聖女であるマリアですら成し得んかった事を、この猫はやり遂げたんじゃからな」
ドラコがフェリスの頭をぐいぐいと押しながら話している。
「……ドラコ、頭痛いんだけど?」
さすがのフェリスもこれには怒っているようである。
「おお、悪い悪い」
フェリスが不機嫌になれば、ドラコは慌てて手を退けていた。
「メルよ、フェリスの眷属である事は十分誇っていいと思うぞ」
「はい、そう思います」
ドラコがそう言えば、メルは力強く返事をしていた。フェリスはそのやり取りを見てどこかむず痒く感じてしまっていた。
私たちが昼ご飯を食べていると、ヘンネがやって来た。
「あら、フェリス。こっちに来ていたのですね」
開口一番これである。
「まあ、フェリスメルじゃやる事がないからね。それこそメルの家を手伝うくらいよ。それもないんだから、こっちに来るしかないでしょう?」
フェリスは半分やさぐれ気味にヘンネに答える。だが、ヘンネはこの答えを聞いてフェリスに話を持ち掛けてきた。
「ちょうどよかったわ。フェリスに手伝って欲しい事があるのよ。頼まれてくれるかしら」
どうやら何か困り事があるようである。
「なになに、どうしたのよ。手が空いてるからやれる事だったらしてあげるわ」
フェリスはずいぶんと食いついているようである。
「フェリスが造ったリンゴ園があるでしょう? そこの人手がまだ足りないのですよ。なので、ちょっと手伝ってきてもらいたいだけなの」
「ああ、シードル用のリンゴ園ね。そんなに広かったかしらね」
フェリスは人手不足になるような事があったか気になった。
「あなたね、どれだけ大きなリンゴ園を造ったのか思い出しなさい。まったく、クレアールだって人が足りないっていうのに、やる事ばかり増やさないで下さい!」
ところがどっこい、ヘンネから思いっきり叱られる始末である。こういう自覚の薄いところは、フェリスの悪いところなのだ。
「ちょっと、耳元で怒鳴らないでよ!」
頭の上にある猫耳をたたんで怒るフェリス。
「反論するんでしたら、お昼を済ませたらすぐに向かって下さい。行けばどれだけ酷い状況下すぐに分かりますから」
ヘンネは反論を許さずにそれだけ言い残すと薬草園を去っていった。用件はそれだけだったようである。
「ちょっと、あいつ、用事があったのはあたしだけって事?!」
「まあそういう事じゃな。知らなかった体でやって来るとはヘンネもやりおるのう」
フェリスが顔をしかめながら文句を言い、ドラコは平然とお昼を食べ続けながら感心していた。
「はあ、とりあえずリンゴ園に行かなきゃいけないみたいね。メル、あなたはどうするの?」
「えと……」
メルはドラコの顔色を窺っている。だが、ドラコは実に冷静なままである。
「メルよ、おぬしはフェリスの眷属じゃ。わしに断る必要はないぞ。ここはわし一人でも十分回っておるしな」
ドラコはメルを落ち着かせようと諭している。その声に、メルの気持ちは落ち着いたようである。
「……はい、分かりました。それではフェリス様のお手伝いに行って参ります」
「うむ、それでよい」
メルが本当に申し訳なさそうに言うのだが、ドラコは気にする事なくその言葉だけを返していた。
そんなわけで、お昼を食べ終わったフェリスは、メルを連れてリンゴ園へと一目散に向かったのである。
「それはいいんじゃが、なぜここに来ておる」
シンミアがセンティアを訪れている頃、フェリスはクレアールのドラコの薬草園を訪れていた。世話の手伝いとしてメルも一緒である。
「だって、フェリスメルに居ても、あたしのやる事ないんだもの。暇だからこっちに来たってわけ、文句あるの?」
「文句はない。じゃが、フェリスに薬草を触らせるわけにはいかんぞ。正直お前さんは、わしにも理解できん謎を多く抱えておるようじゃからな」
フェリスが不機嫌そうに言い返すが、ドラコも言いたい事ははっきり伝えておく。お互いの仲だからこそ、こうも言い合えるのである。
「まあねえ。牛とか小麦とか果樹とか、思い当たる点が多過ぎるものね……。問題なのは肝心のあたしがそれを全く理解していないってのも、散々言われて分かってるわよ。でもね……」
「そうじゃのう。どうしてそんな能力を持ったのか、それが分からんのが最大の問題じゃ。触れただけで発動するとか聞いた事もないわい」
文句を言おうとしているフェリスだが、ドラコにこう言われれば黙るしかなかった。自分自身が把握しきれていない能力というのが一番面倒なのは間違いないのだから。
「でも、だからこそフェリス様は皆さんに慕われているんですよ。私はそう思うんです」
薬草園の手入れを一通り終えてきたメルが話に加わる。
「まあそうじゃのう。無駄に人を惹きつけるからのう、この猫はな」
ドラコは自分たちフェリスの元に集まった邪神たちを思い返しながら、半ば愚痴っていた。
確かに、蛇の邪神を除けば、知らず知らずにフェリスの元に集まってきていた。水の精霊であるマイムだってそうだ。
「第一、わしが人間どもと暮らそうなどと考えるなど、以前を思えばありえない事だったからのう。過去の聖女であるマリアですら成し得んかった事を、この猫はやり遂げたんじゃからな」
ドラコがフェリスの頭をぐいぐいと押しながら話している。
「……ドラコ、頭痛いんだけど?」
さすがのフェリスもこれには怒っているようである。
「おお、悪い悪い」
フェリスが不機嫌になれば、ドラコは慌てて手を退けていた。
「メルよ、フェリスの眷属である事は十分誇っていいと思うぞ」
「はい、そう思います」
ドラコがそう言えば、メルは力強く返事をしていた。フェリスはそのやり取りを見てどこかむず痒く感じてしまっていた。
私たちが昼ご飯を食べていると、ヘンネがやって来た。
「あら、フェリス。こっちに来ていたのですね」
開口一番これである。
「まあ、フェリスメルじゃやる事がないからね。それこそメルの家を手伝うくらいよ。それもないんだから、こっちに来るしかないでしょう?」
フェリスは半分やさぐれ気味にヘンネに答える。だが、ヘンネはこの答えを聞いてフェリスに話を持ち掛けてきた。
「ちょうどよかったわ。フェリスに手伝って欲しい事があるのよ。頼まれてくれるかしら」
どうやら何か困り事があるようである。
「なになに、どうしたのよ。手が空いてるからやれる事だったらしてあげるわ」
フェリスはずいぶんと食いついているようである。
「フェリスが造ったリンゴ園があるでしょう? そこの人手がまだ足りないのですよ。なので、ちょっと手伝ってきてもらいたいだけなの」
「ああ、シードル用のリンゴ園ね。そんなに広かったかしらね」
フェリスは人手不足になるような事があったか気になった。
「あなたね、どれだけ大きなリンゴ園を造ったのか思い出しなさい。まったく、クレアールだって人が足りないっていうのに、やる事ばかり増やさないで下さい!」
ところがどっこい、ヘンネから思いっきり叱られる始末である。こういう自覚の薄いところは、フェリスの悪いところなのだ。
「ちょっと、耳元で怒鳴らないでよ!」
頭の上にある猫耳をたたんで怒るフェリス。
「反論するんでしたら、お昼を済ませたらすぐに向かって下さい。行けばどれだけ酷い状況下すぐに分かりますから」
ヘンネは反論を許さずにそれだけ言い残すと薬草園を去っていった。用件はそれだけだったようである。
「ちょっと、あいつ、用事があったのはあたしだけって事?!」
「まあそういう事じゃな。知らなかった体でやって来るとはヘンネもやりおるのう」
フェリスが顔をしかめながら文句を言い、ドラコは平然とお昼を食べ続けながら感心していた。
「はあ、とりあえずリンゴ園に行かなきゃいけないみたいね。メル、あなたはどうするの?」
「えと……」
メルはドラコの顔色を窺っている。だが、ドラコは実に冷静なままである。
「メルよ、おぬしはフェリスの眷属じゃ。わしに断る必要はないぞ。ここはわし一人でも十分回っておるしな」
ドラコはメルを落ち着かせようと諭している。その声に、メルの気持ちは落ち着いたようである。
「……はい、分かりました。それではフェリス様のお手伝いに行って参ります」
「うむ、それでよい」
メルが本当に申し訳なさそうに言うのだが、ドラコは気にする事なくその言葉だけを返していた。
そんなわけで、お昼を食べ終わったフェリスは、メルを連れてリンゴ園へと一目散に向かったのである。
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