邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
238 / 290

第238話 邪神ちゃんと緊張の対面

しおりを挟む
中は思っていたよりも明るかった。なんだかこの世界を無茶苦茶に変えた元凶の会社の割には普通の所だ。メインホールは広くて綺麗だ。清掃も行き届いている。もっと秘密基地っぽくて汚いところだと思っていた。なんか拍子抜けだな。

ここから桃を探すのには骨が折れそうだ。だがそれはの話だ。俺には秘策がある。

ポケットから1枚の布切れを取り出した。これは桃が着ていた服の切れ端である。もしも、桃とはぐれたりした時にヒルに探してもらえるように一応持っておいたのだ。

ヒルに切れ端を嗅がせる。ヒルはイヌ科なので鼻がいい。だから桃の匂いを追跡して居場所を見つけることができるのだ。

ヒルが地面に鼻をつけて歩き始めた。俺も後ろをついていく。












しばらく歩いていると、ふと気になることがあった。人がいない。人っ子一人いない。正面入口を守ってる人がいるから誰もいないってことはないはずだ。しかしいない。

置いてあったウォーターサーバーは最近使われてた形跡があった。だから完全に人がいないっていうのはないと思う。なんかよく分からない所だな。

それに結構入り組んでいる。とゆうより会社っぽくない。完全に研究所のようだ。そこら辺に自動で動いてるロボットや書類が置いてある。












またさらにしばらく進んでいると非常用扉の所についた。ここの前でヒルも立ち止まった。

「……ここにいるのか?」
「ワン」
「ワンじゃ分からんよ」

扉は銀色でまぁどこにでもある非常用扉という感じだ。分厚さは普通くらい。この先に桃がいるのかは分からないがとりあえず行ってみることにしよう。

ドアノブに手をかけた。しかし扉はあかない。扉の横を見てみると、小型のテレビみたいなのがついてあった。この扉に鍵穴はないから、こっちでパスワードでも打つのだろう。

小型のテレビみたなのに触れてみる。ピコッという電子音が鳴った。

「指紋認証中……画面から指を離さないでください」
「は?……え?」

画面から若い女の人の声が聞こえた。言われるがまま指をつける。

「指紋認証中……指紋認証中……合致しました。お入りください糞餓鬼様」
「は?おいなんだその名前。つーかなんで合致したんだよ」

カチャンと扉の鍵が開く音がした。なんか色々と納得できない。なんで俺の指紋が登録されてるんだろう。でも開いたしな……行くか。





扉の先は薄暗い廊下だった。空気がひんやりしててお化け屋敷みたいな雰囲気をしている。地面は大理石で踏む度にキュッキュッという音が出る。

灯りが見えた。何か音もする。ここから先には何があるんだろうか。とりあえず行かないとな。





そこはとても白くて、広い所だった。半径約30mくらいの円柱の空間でそこから壁に沿って下に螺旋階段が続いている。下までは目測で100mはある。すごい高い。

1番下には木箱や車が置いてある。もし落ちてもそれがクッションになれば生き残れるかもな。やりたくはないが。


道なりに沿って階段を降りる。ヒルの追跡はまだ終わってはいない。手すりもないのでうっかり横に転けたら落ちてしまう。うっかりで済む怪我ではなくなるぞ。


何段か降りるとと横に廊下を見つけた。ヒルもそこに入っていった。電気はついているのでホラー的な展開になることはないだろう。俺もその廊下に入っていった。




不気味な所だ。殺風景な白い通路がずっと続いている。どこかで変化はないかと探すが曲がり角があるくらいで何も無い。匂いも全くしない。まるで夢の世界に来たようだ。

ヒルはこんな所でも匂いを嗅ぎとることができるのかと感心した。俺だとなんか発狂しそうだ。



ガタッ

音がした。即座に矢をつがえて構える。ヒルも音を聞いたようで、唸りはじめた。

カツン……カツン……。

誰かが歩いてくる音がする。ここは十字路。どこに誰がいるかも分からない。弓を構えながら辺りを見渡す。何もない。でも音はする。頭がおかしくなりそうだ。

カツン……カツン……カツン。

音が止まった。近くにいる。もしかしたらこの階ではなく下の階かもしれない。呼吸が乱れる。気が狂いそうなほど何もない空間にいながらという状況。俺にはとんでもないストレスが溜まっていた。

ストレスに耐えられない。だが走り出したらその何かに位置がバレる可能性がある。それはまずい。だから走るのではなく、すり足で移動する。これなら音は出ない。

少しずつだ。とにかくここから離れたい。ヒルも俺の状況を感じ取ったのか、できるだけ音を立てないようにしてくれている。この子は多分、そこら辺の人間よりも頭がいいんだろうな。


10mくらい移動した時、気がついた。音が止まっている。足音が聞こえない。聞こえないなら聞こえないでいいのだがそういう問題ではない。さっきまで聞こえていた音が無くなったのだ。

なぜ消えたのだ。疑問が頭を突っ走った。気のせいでは絶対にない。確実に何かがいる。その何かが俺を狙っている。体重が3倍に増えたような感覚に陥った。




ミシミシ……。

何か音が聞こえた。下からだ。見たところ廊下や階段は新品だった。だから老朽化で音を立てたのではない。何かが下で何かをしているのだ。


ドス。

下から手が出てきた。黒い手袋をつけている。一瞬何が起こったのか分からなかった。まぁ当たり前だろう。

その手は凄まじい力で俺の足首を掴んできた。

「なっっ――」

声を出す暇もなく、俺は地面へと引っ張られた。辺りの地面が崩れ落ち、俺の体もろとも下の階へと落ちていった。といっても4mほどだが。


辺りに砂煙が充満していた。地面に背中がぶつかる。痛い……が、これくらいは慣れた。まだ足首には掴まれてる感覚がする。

突然、砂煙の中から大柄の女性が出てきた。
俺の足首を掴んでいるのはこの女だ。
俺はそれを瞬時に理解した。

女が俺の腹めがけて拳を叩きつけてきた。当たるともちろんヤバい。体を捻って拳から逃げる。俺の体がいた位置に叩きつけられた拳はかなり硬いであろう地面に綺麗な穴を空けていた。

当たったら死ぬ。直感でそんなことはわかった。とりあえず女の手を離させないといけない。

クイーバーから矢を取り出して女の手に突き刺した。女の体が少し震えた。しかし手は一向に離れる気配はない。なんなら強くなった。

女がこっちに顔を向けた。明らかな殺意のこもった目をしている。これはヤバい。まじでヤバい。

俺は体を捻って女の鼻にめがけて蹴りを入れた。女の手が緩まった。その隙に女の腕を蹴り飛ばして、ゴロゴロと転がりながら女との距離をとった。


立ち上がって女の方を確認する。女との距離は5m。下の階には来たが、上の階とあまり風景は変わらない。

少し冷静になって女の容姿を見てみた。女の体格はとんでもなくでかく、身長は2mもありそうだ。髪は茶髪でロング。黒いスーツと手袋をしており、スタイルもいい。洋画に出てくる強い女の人みたいだ。

女が立ち上がった。この硬い地面に穴を空けられるほどのパワー。こいつも化け物だろう。気おつけないと。

「……チッ」

舌打ちをされた。俺も舌打ちをしたいくらいなんだがな。

「脱走者の次は侵入者……私を過労死させる気なの?」
「……別に休んでくれても俺は構わないけど?」
「それができたらいいんだけどね……でも、あの人のことを考えるならあなたを殺さないといけないの」
「一方通行の恋は痛い目を見ることが多いぞ」
「うるさい口ね。さっさと喋れなくしてやるわ」

女が手袋を引いた。手袋は結構薄いようで女の大きい手が強調されている。まさか黒幕の本拠地に入っていきなりボス戦とはな。……上等だ。

俺は弦を引いた。












続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...