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第237話 邪神ちゃんと聖女のお呼び出し
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「おいおい、ラータ。えらく目立つ格好だな。よくそれでここまで来れたもんだぜ」
振り返ったシンミアが声を掛けながら黒ずくめの女性に近付いていく。
「ご心配なく。私の得意分野は隠密ですからね、こんな格好でも気付かれる事なくここまで来れるのですよ」
ラータは顔色一つ変えずにシンミアと向き合っている。少し険悪な雰囲気を感じたアイロン。
「おいおい、入口で突っ立ってると商売の邪魔だ。うちの工房の応接室を貸してやるから、そこで話をしてくれ」
慌ててシンミアたちに声を掛けていた。それを聞いたシンミアとラータはそれに従って工房の中へと入っていった。
工房の応接室に移動したシンミアとラータは、椅子に腰掛ける。
「お前さんたち、どうやら知り合いのようだな。しかし、そっちのネズミの魔族は見た事がないな」
アイロンは二人に語り掛けている。それに対して二人とも反応を示さないで、ひたすら睨み合っていた。
「ラータ、なんでお前がこんな所に居るのだ? てっきりフェリスの近くに居ると思ったんだが」
「私は今は聖女様のお側で仕えております。なにやら聖教会内で不穏な空気を感じましたのでね、その警戒のために滞在しているのですよ」
「はっ、よくもまあ、お前みたいな闇魔法の使い手を聖教会内に置く気になったな、その聖女様ってのは」
「聖女様はとても慈悲深い方です。それはフェリスもドラコも認めたほどですよ」
「うげっ、あの二人に認められるったら相当じゃねえか。今代の聖女も相当の力の持ち主って事か……」
たったこれだけの会話だというのに、アイロンはその内容に目を白黒させていた。どこからどう反応すればいいのか分からない。ただ、はっきり分かった事はというと……。
「そうか、二人ともあの邪神たちの知り合いだったのか」
「ええ、フェリスもドラコも、私たちとは旧知の仲です。そういえば、先日の生誕祭の際にこちらに寄られていましたね」
ラータはアイロンの言葉で生誕祭の時を思い出していた。少し懐かしい感じである。
「おう、あの二人の知り合いってんなら、もう少し俺の仕上げたものを持っていくかい? さっきの分は売りつけるが、おまけでもう1個ずつくらいならくれてやる」
「いいのか?」
気前が良くなるアイロンに、シンミアがちょっと疑ってかかる。
「ああ、いい金属を渡してもらったからな」
だが、アイロンはにやりと笑って二言はないと言わんばかりにドヤ顔を決めていた。
「そうか。あいつ、ハバリーの能力の金属抽出で作ったインゴットを渡したのか。純度の高い金属ってなかなか手に入らねえからな」
「がははははっ、その通りだ。魔法銀のインゴットは正直驚いたぞ」
シンミアの推理に、アイロンが大声で笑いながら肯定していた。まったく、金属の純度の高いインゴットなど、普通ならばお目に掛かれたものではないというのに……。気前のいいフェリスたちなのである。
「いやまあ、妙な気前の良さはあいつにとっちゃいつもの事だからな。だが、さすがにただでもらうってのはあちきは気が引けるぜ」
「シンミアは妙なところで律儀ですからね。まあ、そういう私も気が引けるのですが」
「がはははっ、お前ら本当に魔族かよ」
シンミアもラータもただでもらうのを躊躇していると、アイロンが大口を開けて笑っている。強欲で相手の言う事を聞きやしないのが、魔族の一般的なイメージだからだ。そこからかけ離れた二人の態度ともなれば、笑いたくもなるのである。
「残念だが魔族だぜ」
シンミアはドヤ顔で言い放っていた。それを見たアイロンがさらに笑いこけたのは言うまでもない。
「それはそれとして、シンミア」
「なんだ、ラータ」
笑いの止まらないアイロンは放っておいて、ラータが本来の話に戻すべく、真剣な表情でシンミアに声を掛ける。
「聖女様がシンミアの事を気に掛けていらっしゃる。どうだ、これから会いに行ってみないか?」
ラータの提案に、シンミアは驚きを隠せなかった。まさかの聖女からのお呼び出しである。正直邪神たちにとって聖女は敵でしかないはずなのだが、今のシンミアにとっては、ただの興味深い相手でしかなくなっていた。
「はっ、これは嬉しい限りだな。そっちから招いてくれるって言うんなら、行かなきゃいけねえよね?」
乗り込む気満々である。
「フェリスとドラコも会っているのだから、シンミアとてさして問題ではないでしょう。戦ったところは見た事ありませんが、聖女様の持つ力はかなりお強いですから」
ラータがこう言えば、シンミアの顔がますます興味深そうな表情に変わっていく。こうなるとシンミアは早速行動を起こす。
「よしラータ。あちきをさっさと聖女に会わせな。そっちがその気だってんなら、あちきだって聖女の事を見定めてやらあ」
シンミアは気合い十分のようである。それが証拠に、両手の拳をさっきからがっちりとかち合わせている。まったく血の気の多い邪神である。
「シンミア、別にけんかをしに行くわけではないぞ。まったくそこを勘違いしてもらっては困る」
「はっ、元々あちきは血の気の多い魔族なんだ。抑え込めると思ってるのか?」
怖い顔をして笑うシンミアに、さすがのラータも呆れ返るしかない。
「なんだ、もう行くってのか。とりあえずさっきの短剣のお代だけは忘れずに払っていっておくれ」
「おお、そうだったな。いい武器を見させてもらって感謝するぜ」
アイロンが話に入れなくて困っていたのだが、ここぞとばかりに二人の会話に割って入っていた。そう、さすがに代金だけは忘れてもらっちゃ困るのだ。
そんなこんなで、無事に用事を済ませてアイロンの工房を立ち去るシンミアとラータだった。
振り返ったシンミアが声を掛けながら黒ずくめの女性に近付いていく。
「ご心配なく。私の得意分野は隠密ですからね、こんな格好でも気付かれる事なくここまで来れるのですよ」
ラータは顔色一つ変えずにシンミアと向き合っている。少し険悪な雰囲気を感じたアイロン。
「おいおい、入口で突っ立ってると商売の邪魔だ。うちの工房の応接室を貸してやるから、そこで話をしてくれ」
慌ててシンミアたちに声を掛けていた。それを聞いたシンミアとラータはそれに従って工房の中へと入っていった。
工房の応接室に移動したシンミアとラータは、椅子に腰掛ける。
「お前さんたち、どうやら知り合いのようだな。しかし、そっちのネズミの魔族は見た事がないな」
アイロンは二人に語り掛けている。それに対して二人とも反応を示さないで、ひたすら睨み合っていた。
「ラータ、なんでお前がこんな所に居るのだ? てっきりフェリスの近くに居ると思ったんだが」
「私は今は聖女様のお側で仕えております。なにやら聖教会内で不穏な空気を感じましたのでね、その警戒のために滞在しているのですよ」
「はっ、よくもまあ、お前みたいな闇魔法の使い手を聖教会内に置く気になったな、その聖女様ってのは」
「聖女様はとても慈悲深い方です。それはフェリスもドラコも認めたほどですよ」
「うげっ、あの二人に認められるったら相当じゃねえか。今代の聖女も相当の力の持ち主って事か……」
たったこれだけの会話だというのに、アイロンはその内容に目を白黒させていた。どこからどう反応すればいいのか分からない。ただ、はっきり分かった事はというと……。
「そうか、二人ともあの邪神たちの知り合いだったのか」
「ええ、フェリスもドラコも、私たちとは旧知の仲です。そういえば、先日の生誕祭の際にこちらに寄られていましたね」
ラータはアイロンの言葉で生誕祭の時を思い出していた。少し懐かしい感じである。
「おう、あの二人の知り合いってんなら、もう少し俺の仕上げたものを持っていくかい? さっきの分は売りつけるが、おまけでもう1個ずつくらいならくれてやる」
「いいのか?」
気前が良くなるアイロンに、シンミアがちょっと疑ってかかる。
「ああ、いい金属を渡してもらったからな」
だが、アイロンはにやりと笑って二言はないと言わんばかりにドヤ顔を決めていた。
「そうか。あいつ、ハバリーの能力の金属抽出で作ったインゴットを渡したのか。純度の高い金属ってなかなか手に入らねえからな」
「がははははっ、その通りだ。魔法銀のインゴットは正直驚いたぞ」
シンミアの推理に、アイロンが大声で笑いながら肯定していた。まったく、金属の純度の高いインゴットなど、普通ならばお目に掛かれたものではないというのに……。気前のいいフェリスたちなのである。
「いやまあ、妙な気前の良さはあいつにとっちゃいつもの事だからな。だが、さすがにただでもらうってのはあちきは気が引けるぜ」
「シンミアは妙なところで律儀ですからね。まあ、そういう私も気が引けるのですが」
「がはははっ、お前ら本当に魔族かよ」
シンミアもラータもただでもらうのを躊躇していると、アイロンが大口を開けて笑っている。強欲で相手の言う事を聞きやしないのが、魔族の一般的なイメージだからだ。そこからかけ離れた二人の態度ともなれば、笑いたくもなるのである。
「残念だが魔族だぜ」
シンミアはドヤ顔で言い放っていた。それを見たアイロンがさらに笑いこけたのは言うまでもない。
「それはそれとして、シンミア」
「なんだ、ラータ」
笑いの止まらないアイロンは放っておいて、ラータが本来の話に戻すべく、真剣な表情でシンミアに声を掛ける。
「聖女様がシンミアの事を気に掛けていらっしゃる。どうだ、これから会いに行ってみないか?」
ラータの提案に、シンミアは驚きを隠せなかった。まさかの聖女からのお呼び出しである。正直邪神たちにとって聖女は敵でしかないはずなのだが、今のシンミアにとっては、ただの興味深い相手でしかなくなっていた。
「はっ、これは嬉しい限りだな。そっちから招いてくれるって言うんなら、行かなきゃいけねえよね?」
乗り込む気満々である。
「フェリスとドラコも会っているのだから、シンミアとてさして問題ではないでしょう。戦ったところは見た事ありませんが、聖女様の持つ力はかなりお強いですから」
ラータがこう言えば、シンミアの顔がますます興味深そうな表情に変わっていく。こうなるとシンミアは早速行動を起こす。
「よしラータ。あちきをさっさと聖女に会わせな。そっちがその気だってんなら、あちきだって聖女の事を見定めてやらあ」
シンミアは気合い十分のようである。それが証拠に、両手の拳をさっきからがっちりとかち合わせている。まったく血の気の多い邪神である。
「シンミア、別にけんかをしに行くわけではないぞ。まったくそこを勘違いしてもらっては困る」
「はっ、元々あちきは血の気の多い魔族なんだ。抑え込めると思ってるのか?」
怖い顔をして笑うシンミアに、さすがのラータも呆れ返るしかない。
「なんだ、もう行くってのか。とりあえずさっきの短剣のお代だけは忘れずに払っていっておくれ」
「おお、そうだったな。いい武器を見させてもらって感謝するぜ」
アイロンが話に入れなくて困っていたのだが、ここぞとばかりに二人の会話に割って入っていた。そう、さすがに代金だけは忘れてもらっちゃ困るのだ。
そんなこんなで、無事に用事を済ませてアイロンの工房を立ち去るシンミアとラータだった。
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