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第236話 邪神ちゃんは聖都に赴く
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「うきゃきゃきゃ、ここがセンティアか。ペコラが昔働いていたっていう聖教会の本拠地だな」
クレアールを去ったシンミアは、どういうわけかセンティアに到着していた。聖女を筆頭とする聖教会の本拠地である街に、猿の邪神が平然と立ち入ろうとしているのである。
「いやあ、一度は来てみたかったんだよなぁ。フェリスやドラコも気に入ったっていう聖女の面、しっかりとこの目で拝んでやりてえぜ」
にししと笑いながら、シンミアは無事に門を通ってセンティアへと入っていったのだった。意外とあっさりであった。
センティアの街は相変わらずの賑わいっぷりである。聖教会のお膝元とあって、本当に多くの人が行き交う場所となっているのだ。商業都市以上にあちこちからの物品が集まっており、さすがのシンミアもかなり目移りしているようである。
「うっひゃあ、なかなかすげえな、これは」
あまりの品揃えに、シンミアの反応がつい大きくなってしまっていた。先日寄っていたフェリスメルやクレアールもそれなりの品揃えがあったのだが、それをはるかに凌いでいるのだから、それも仕方ないというものである。
「これだけ揃ってりゃ、あちきの目に適う逸品もあったりするんだろうなぁ。徹底的に探索するぞ」
シンミアはものすごく意気込んで街の散策を開始したのである。
その頃の聖教会では……。
「街に新たな魔族がやって来ましたね」
今代の聖女であるマイオリーが、しっかりと反応していた。本当にこの聖女は有能である。
「いかが致しましょうか、聖女様」
聖女の侍女であるメイベルが、マイオリーに意見を求めている。
「ラータ、居ますか?」
「はっ、ここに」
メイベルに手を向けて控えるように指示するマイオリー。その代わりにそのように声を掛けると、メイベルの影からネズミの邪神であるラータが姿を現した。
「此度のこの気配……。私たちの古い知り合いである猿の邪神、シンミアのものでございます。珍しい物好きですが、別に害があるわけではございません」
「そうなのですね」
ラータの報告に、マイオリーは小さく頷きながら反応する。
「いかが致しましょうか。お望みとあるなら、私が出迎えに行って参りますが……?」
ラータの問い掛けに、マイオリーは少しだけ考え込む。そして、
「そうですね。ラータの知り合いであるのでしたら、お招き致しましょうか」
と、聖教会に招き入れる事にしたのだった。
「御意に」
そう返事をしたラータは早速移動を開始したのだった。
「へえ、ここは鍛冶工房か。ちょいと見ていくかな」
センティアの街の散策をしていたシンミアが、一軒の鍛冶工房を見つけて興味深そうにしていた。
トレジャーハンターをするシンミアにとっての武器は短剣だ。見た目からは分からないが、実は短剣を数本持ち歩いているのである。どうやらその時その時で使い分けているようなのだ。
「邪魔するよ」
「邪魔するなら帰ってくれ」
シンミアが中に声を掛けると、中からはそういう返事があった。
「うきゃきゃ、文字通りに受け取って返してくるとは、ずいぶんと素直な職人だな」
「ふん、うるさいな、猿風情が」
奥から不機嫌なアイロンが出てきた。相変わらずちびっこいおっさんである。
「ドワーフにそこまで言われる筋合いはないな。てか、あちきの正体が分かってる感じがするな」
「そこまで駄々漏れの魔力を感じられぬようでは職人なんぞやっとれんわ。何の用だ」
「なーに、鍛冶工房があったから興味を感じて入ってきただけさ。面白そうな短剣はあるかい?」
「ふん、短剣使いか。待っておれ、今持ってくる」
アイロンは不機嫌にしながらも奥へと引っ込んでいく。その間、シンミアは工房の入口の部屋を食い入るように見回していた。
そうやって見ているうちに、アイロンが奥から短剣を持って戻ってきた。
「おい、持ってきたぞ。……ってずいぶんとじっくり見てやがるな。そんなに気になるか?」
「ん、ああ。あちきみたいなトレジャーハンターは冒険者同様に死と隣り合わせなんでな、装備品には神経質になるんだよ」
「ああ、それは確かにそうだな」
シンミアの言い分が理解できるアイロン。その態度をシンミアがものすごく気に入ったようである。
「うきゃきゃきゃ、ここまで話の分かる職人はそう多くはない。実に嬉しい限りだぞ」
「おいこら、首を掴むな、絞まるだろうが」
ヘッドロックをするシンミアに、ぺちぺちとシンミアの腕を必死に叩くアイロン。本当に苦しそうである。
「おっと、悪い悪い」
さすがにアイロンの必死の抵抗に、シンミアはその手を離したのだった。
げほげほと咳き込むアイロンに、シンミアは謝罪の気持ちながらに軽く回復魔法を使っていた。さすがトレジャーハンター、そういった魔法も使えるようだった。
「なんじゃ、回復魔法が使えるのか。最近の魔族というのは変わり者が多いな」
「うききき、褒められると困るなぁ」
「褒めてないぞ」
照れるシンミアに即ツッコミを入れるアイロンである。まるで漫才のような流れだ。
「何をやっているのです、シンミア」
唐突に聞こえた声に、シンミアとアイロンの二人が揃って工房の入口に目をやる。するとそこには全身を真っ黒な衣装に身を包んだ女性が立っていたのだった。
クレアールを去ったシンミアは、どういうわけかセンティアに到着していた。聖女を筆頭とする聖教会の本拠地である街に、猿の邪神が平然と立ち入ろうとしているのである。
「いやあ、一度は来てみたかったんだよなぁ。フェリスやドラコも気に入ったっていう聖女の面、しっかりとこの目で拝んでやりてえぜ」
にししと笑いながら、シンミアは無事に門を通ってセンティアへと入っていったのだった。意外とあっさりであった。
センティアの街は相変わらずの賑わいっぷりである。聖教会のお膝元とあって、本当に多くの人が行き交う場所となっているのだ。商業都市以上にあちこちからの物品が集まっており、さすがのシンミアもかなり目移りしているようである。
「うっひゃあ、なかなかすげえな、これは」
あまりの品揃えに、シンミアの反応がつい大きくなってしまっていた。先日寄っていたフェリスメルやクレアールもそれなりの品揃えがあったのだが、それをはるかに凌いでいるのだから、それも仕方ないというものである。
「これだけ揃ってりゃ、あちきの目に適う逸品もあったりするんだろうなぁ。徹底的に探索するぞ」
シンミアはものすごく意気込んで街の散策を開始したのである。
その頃の聖教会では……。
「街に新たな魔族がやって来ましたね」
今代の聖女であるマイオリーが、しっかりと反応していた。本当にこの聖女は有能である。
「いかが致しましょうか、聖女様」
聖女の侍女であるメイベルが、マイオリーに意見を求めている。
「ラータ、居ますか?」
「はっ、ここに」
メイベルに手を向けて控えるように指示するマイオリー。その代わりにそのように声を掛けると、メイベルの影からネズミの邪神であるラータが姿を現した。
「此度のこの気配……。私たちの古い知り合いである猿の邪神、シンミアのものでございます。珍しい物好きですが、別に害があるわけではございません」
「そうなのですね」
ラータの報告に、マイオリーは小さく頷きながら反応する。
「いかが致しましょうか。お望みとあるなら、私が出迎えに行って参りますが……?」
ラータの問い掛けに、マイオリーは少しだけ考え込む。そして、
「そうですね。ラータの知り合いであるのでしたら、お招き致しましょうか」
と、聖教会に招き入れる事にしたのだった。
「御意に」
そう返事をしたラータは早速移動を開始したのだった。
「へえ、ここは鍛冶工房か。ちょいと見ていくかな」
センティアの街の散策をしていたシンミアが、一軒の鍛冶工房を見つけて興味深そうにしていた。
トレジャーハンターをするシンミアにとっての武器は短剣だ。見た目からは分からないが、実は短剣を数本持ち歩いているのである。どうやらその時その時で使い分けているようなのだ。
「邪魔するよ」
「邪魔するなら帰ってくれ」
シンミアが中に声を掛けると、中からはそういう返事があった。
「うきゃきゃ、文字通りに受け取って返してくるとは、ずいぶんと素直な職人だな」
「ふん、うるさいな、猿風情が」
奥から不機嫌なアイロンが出てきた。相変わらずちびっこいおっさんである。
「ドワーフにそこまで言われる筋合いはないな。てか、あちきの正体が分かってる感じがするな」
「そこまで駄々漏れの魔力を感じられぬようでは職人なんぞやっとれんわ。何の用だ」
「なーに、鍛冶工房があったから興味を感じて入ってきただけさ。面白そうな短剣はあるかい?」
「ふん、短剣使いか。待っておれ、今持ってくる」
アイロンは不機嫌にしながらも奥へと引っ込んでいく。その間、シンミアは工房の入口の部屋を食い入るように見回していた。
そうやって見ているうちに、アイロンが奥から短剣を持って戻ってきた。
「おい、持ってきたぞ。……ってずいぶんとじっくり見てやがるな。そんなに気になるか?」
「ん、ああ。あちきみたいなトレジャーハンターは冒険者同様に死と隣り合わせなんでな、装備品には神経質になるんだよ」
「ああ、それは確かにそうだな」
シンミアの言い分が理解できるアイロン。その態度をシンミアがものすごく気に入ったようである。
「うきゃきゃきゃ、ここまで話の分かる職人はそう多くはない。実に嬉しい限りだぞ」
「おいこら、首を掴むな、絞まるだろうが」
ヘッドロックをするシンミアに、ぺちぺちとシンミアの腕を必死に叩くアイロン。本当に苦しそうである。
「おっと、悪い悪い」
さすがにアイロンの必死の抵抗に、シンミアはその手を離したのだった。
げほげほと咳き込むアイロンに、シンミアは謝罪の気持ちながらに軽く回復魔法を使っていた。さすがトレジャーハンター、そういった魔法も使えるようだった。
「なんじゃ、回復魔法が使えるのか。最近の魔族というのは変わり者が多いな」
「うききき、褒められると困るなぁ」
「褒めてないぞ」
照れるシンミアに即ツッコミを入れるアイロンである。まるで漫才のような流れだ。
「何をやっているのです、シンミア」
唐突に聞こえた声に、シンミアとアイロンの二人が揃って工房の入口に目をやる。するとそこには全身を真っ黒な衣装に身を包んだ女性が立っていたのだった。
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