邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第231話 邪神ちゃんと去る者

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 王国料理協会はもう一泊していき、その日の朝の内にフェリスメルを発っていった。これでようやく静かになるだろう。ドラコの脅しもあるし、二度と来ないでもらいたいものだ。
「やれやれ、ようやく帰ったか。フェリス、これで安心して向こうに戻れるぞ」
 朝早くからやって来たフェリスメルの商業組合の職員の報告で、ドラコたちは事態を知った。
「そ、そうね」
 話を聞いたフェリスはあんぐりと驚いている。まったく昨日の内にそんな事が起きていたとは知らなかったからだ。
「ドラコにも手間をかけさせちゃったわね。助かったわ、ありがとう」
「こう見えてもわしは平和主義者ぞ。安寧を乱す奴らが嫌いなんじゃよ」
 ドラコは腕組みをしながらフェリスをじっと見ている。とりあえず、これでフェリスとメルの二人は村に戻る事ができる。
「おぬしもご苦労じゃったな。ヘンネには伝えたのかえ?」
「いえ、ドラコ様に真っ先に伝えるようにと、アファカ様から言われております」
「そうかそうか。では、ヘンネにも伝えてくるがよいぞ」
「はい、これで失礼致します」
 商業組合の職員は伝えるだけ伝えると、ドラコの家を慌ただしく去っていった。
 その姿を見送ったドラコは、シンミアの方を見る。
「時にシンミアよ」
「うん? なんだ、ドラコ」
「お前さんはどうするつもりじゃ? トレジャーハンターを続けるのか、クレアールに留まるのか、どちらにしてもわしは止めはせんが、お前さんの考えを聞いておきたい」
 少々ぼさっとしていたシンミアだが、ドラコから真剣な質問をぶつけられて少し考え込み始めた。
 そもそもシンミアがやって来たのは、クレアールという新しい街を見に来た事だ。その過程でフェリスの名前を知ったという。滞在するかどうかはまた別の問題だったのだ。
「そうだなぁ。トレジャーハンターとして世界を旅してみたい気の方が強いから、また旅に出ようと思うぜ。蛇の情報の事もあるだろうしな」
「そうか……。まあ止めはせぬよ。わしらは基本的に何にも縛られぬからな」
 シンミアがそう言うと、ドラコはすごく納得したように話している。口ぶりを見るに、その結論は最初から分かっていたようである。
「そうね。あたしも別に止めやしないわよ、シンミア」
 フェリスも納得しているようである。
「それとシンミア、ティグリスの事は何か知っておらんか?」
「ああ、虎の邪神の事か? あちきもさすがにそこまでは知らねえ。あいつもあちきやルディと並んで乱暴者だからな、今頃は強い奴でも求めてさまよってるんじゃねえのか?」
 ドラコの質問に答えるシンミア。虎の邪神はティグリスという名前で、どうやら武闘派な邪神のようである。それを聞いたフェリスとドラコは、ふむと納得したようである。
「フェリス様のお知り合いっていろんな方がいらっしゃるのですね……」
 この話を聞いていたメルが、どう反応していいか分からないような顔で呟いていた。
「まあね。よくそんな面々があたしの元に集まってきたものだと思うわよ」
 フェリスはメルの頭を撫でながらそんな事を言っている。確かに、地味に個性派ぞろいのフェリスの知り合いの邪神たちである。
「かっかっかっ、やはりわしとフェリスの二人が揃っておったのが大きいかのう。最強種とも言われるわしとそれを従えるフェリスじゃからな。普通にすれば敵うとは思わんじゃろうて」
 ドラコが大笑いをしている。
 まあ確かに、ドラゴンは強い魔物という認識が一般的である。それゆえに、ドラゴンが仲間に居るだけで、大抵の者は逃げるか降参するかのどちらになるのだ。そのドラゴンと一緒に居るというだけで、フェリスは強者だと思われて邪神が集まってきたのだ。……蛇の邪神を除いては。
「正直、フェリスは残虐な魔族サイコシスの使い魔じゃったのだが、性格にはその微塵も感じられん。じゃが、その力は計り知れんのよなぁ。実際、一瞬で家を建ててしまうなどのとんでも魔法を披露してくれておるからな」
 ドラコはそんな事を言っている。つまり、最強種のドラゴンから見ても、フェリスには理解不能な部分が多いという事なのである。
「とりあえず、ティグリスを見つけたら連れてきてやるよ。あいつもフェリスには会いたがっているだろうしな」
 流れを無視して、シンミアはそう言って旅支度を始めていた。
「そっか。まあ、見つけたら頼むわね」
「任せとけって」
 支度を終えたシンミアは、そう言ってクレアールの街を去っていった。留まるかと思われたのだが、やはり好奇心には勝てなかったよう。元々安定を好まない性格だし、仕方がないのかも知れない。
 シンミアが旅に出て一番残念がったのが、意外とメルだった。面倒見の良さがかなり印象に残っていたようである。
「フェリス様。また会えますよね?」
「まあね。邪神ともなれば不死身みたいなものだものね。そのうち、また会えるわよ」
 会えるかも知れないというのが正確なところだろう。邪神なんてのは魔族以上に気ままなのだ。いつになるかなんてのは、誰にも分からないのである。
 こうして、騒がしい存在が去って、静かなフェリスメルの日常がようやく戻ってきたのであった。
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