邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
229 / 290

第229話 邪神ちゃんと恐怖の団体

しおりを挟む
 夕方戻ってきたヘンネはものすごく疲れているような感じだった。おそらくその原因は王国料理協会のせいだろう。フェリスだって逃げ出すくらいなのだから、厄介な連中には間違いないのである。
「はあ……、何なんですかね、あの人たちは」
 戻ってきたヘンネの開口一番がそれである。商人として我慢強いはずのヘンネがこの言い草なのだから、相当面倒だったようだ。
「お疲れ様、ヘンネ」
「ああ、フェリス、ありがとう」
 フェリスが差し出した飲み物をごくごくと飲み干すヘンネである。
「なるほど、あれならフェリスが逃げるのも分かりますよ」
「相当面倒な連中だったようじゃのう。何があったんじゃ」
 ヘンネが愚痴を言いまくるので、さすがにドラコも気になっている様子である。
「いやまあ、それなんですがね……」
 口ごもったようにしながら、ヘンネは事のあらましを話し始めた。

 ヘンネとアファカは、王国料理協会に早期にお引き取りを願おうと、レシピを持って彼らの泊まる宿へと出向いたのだが、そこはもぬけの殻で誰も居らず、職人街の食堂一号店へと向かった。そこには王国料理協会の一部の人間がしつこくペコラに会おうとして押し問答が繰り広げられていた。
 それを仲裁しようとして割って入ると、連中は今度はヘンネとアファカに食って掛かる始末。それをどうにか落ち着かせようとするも、かなり興奮してしまっているようで手に負えない。騒ぎを聞きつけたペコラが出てきて催眠魔法で王国料理協会の人間を眠らせて鎮静化させるという、ずいぶんと面倒な事になっていたようだ。本当に困った連中である。
 そして、宿へと連れ戻してお説教の後、通常の1.5倍の値段でレシピを4つほど売りつけて帰ってきたという事らしい。ただ、アファカ曰く「1.5倍でも安い」との事である。そのくらいには迷惑を被っていたようだった。

「それは……大変じゃったのう……」
 ドラコですら同情してしまうレベルの迷惑ぶりだった。
「しかし、よくそれで納得してくれたわね」
「今回特に反応が大きかった料理のレシピでしたからね。ペコラたちから聞き取りしておいて正解でしたよ」
「さすがアファカさんだわ」
 ヘンネの言葉に、ついつい言葉を漏らすフェリスである。
「ええ、彼女は人間ながらにも観察力など優れていますからね。私としても助かります」
 腕を組みながら同意するヘンネ。そして、言葉を続ける。
「それと、クルークを少し買っていかれたようですよ。卵の確保が必要ですからね、売りつけたレシピの料理には」
「あら、そうなのね。飼育の仕方は大丈夫なのかしら」
「そちらも育て方の冊子を付けて売ってあげましたので、大丈夫だと思いますよ。おそらく他人任せでしょうけれど」
 どうやら王国料理協会の面々は鳥の卵を確保するためにクルークも買い付けていったようである。何と言ってもクルークは魔物な上に飼育方法に少し癖があるので、ちょっと心配になるところである。
「それに、アファカは一人つけるみたいな事を言っていましたし」
 さすがはアファカ。本当に抜け目がない人である。
「そうか。なら明日くらいになればひと安心かの?」
「さあ、どうでしょうかね。食にどん欲な人たちが、あの程度で諦めるとは思えませんよ」
 ドラコが確認すると、ヘンネは腕組みをしながら渋い顔で唸っていた。
「あちきが追っ払おうか?」
「ケンカはやめて下さい」
 シンミアが口を挟めば、即却下するヘンネである。この速さには、シンミアも不満たっぷりの表情である。
「となれば、しばらく様子見ね……。あたしたちもあっちに戻れないわ」
「困りましたね、それは」
 フェリスもメルもお手上げである。
「まあ、こっちまで来る事はないとは思いますが、そうなったらマイムかコネッホか聖女様のところまで逃げるしかありませんね」
「まあ、あくまでもそれは最終手段ね」
 ヘンネが怖い事を言うものだから、フェリスは少し震えながら真面目にその案に賛成していた。ぶっちゃけ、そうならない事を祈るばかりである。
「まあ、どうなるかは明日を待とうじゃないか。もう日が暮れるし休むとしようぞ」
「賛成。ヘンネ、ありがとうね。アファカさんにもお礼を言っておいて」
「商業組合として当然の事をしたまでです。あと、お礼はフェリスが直接言って下さい」
「……それもそうね。安心できるようになったら直接言いに行くわ」
 そんなわけで、フェリスたちはヘンネを見送り、フェリスはメルと一緒にクレアールの自分の家に、シンミアはドラコと一緒に薬草園の小屋へと戻っていった。

 突如として起きた料理狂想曲。王国料理協会ははたしておとなしく引き下がるのだろうか。それともまだ引っ掻き回そうとしてくるのか。正直フェリスは気が気ではなかった。
 それにしても、あのフェリスにここまでの恐怖を与えてしまう王国料理協会という団体。料理にかける情熱は邪神をも凌駕してしまう恐ろしい団体だったようだ。
 はてさて、彼らは翌日にはおとなしくフェリスメルから立ち去るのか。フェリスだけではなくペコラもものすごく強く祈る気持ちでその夜を過ごしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

私のバラ色ではない人生

野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。 だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。 そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。 ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。 だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、 既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。 ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。

処理中です...