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第229話 邪神ちゃんと恐怖の団体
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夕方戻ってきたヘンネはものすごく疲れているような感じだった。おそらくその原因は王国料理協会のせいだろう。フェリスだって逃げ出すくらいなのだから、厄介な連中には間違いないのである。
「はあ……、何なんですかね、あの人たちは」
戻ってきたヘンネの開口一番がそれである。商人として我慢強いはずのヘンネがこの言い草なのだから、相当面倒だったようだ。
「お疲れ様、ヘンネ」
「ああ、フェリス、ありがとう」
フェリスが差し出した飲み物をごくごくと飲み干すヘンネである。
「なるほど、あれならフェリスが逃げるのも分かりますよ」
「相当面倒な連中だったようじゃのう。何があったんじゃ」
ヘンネが愚痴を言いまくるので、さすがにドラコも気になっている様子である。
「いやまあ、それなんですがね……」
口ごもったようにしながら、ヘンネは事のあらましを話し始めた。
ヘンネとアファカは、王国料理協会に早期にお引き取りを願おうと、レシピを持って彼らの泊まる宿へと出向いたのだが、そこはもぬけの殻で誰も居らず、職人街の食堂一号店へと向かった。そこには王国料理協会の一部の人間がしつこくペコラに会おうとして押し問答が繰り広げられていた。
それを仲裁しようとして割って入ると、連中は今度はヘンネとアファカに食って掛かる始末。それをどうにか落ち着かせようとするも、かなり興奮してしまっているようで手に負えない。騒ぎを聞きつけたペコラが出てきて催眠魔法で王国料理協会の人間を眠らせて鎮静化させるという、ずいぶんと面倒な事になっていたようだ。本当に困った連中である。
そして、宿へと連れ戻してお説教の後、通常の1.5倍の値段でレシピを4つほど売りつけて帰ってきたという事らしい。ただ、アファカ曰く「1.5倍でも安い」との事である。そのくらいには迷惑を被っていたようだった。
「それは……大変じゃったのう……」
ドラコですら同情してしまうレベルの迷惑ぶりだった。
「しかし、よくそれで納得してくれたわね」
「今回特に反応が大きかった料理のレシピでしたからね。ペコラたちから聞き取りしておいて正解でしたよ」
「さすがアファカさんだわ」
ヘンネの言葉に、ついつい言葉を漏らすフェリスである。
「ええ、彼女は人間ながらにも観察力など優れていますからね。私としても助かります」
腕を組みながら同意するヘンネ。そして、言葉を続ける。
「それと、クルークを少し買っていかれたようですよ。卵の確保が必要ですからね、売りつけたレシピの料理には」
「あら、そうなのね。飼育の仕方は大丈夫なのかしら」
「そちらも育て方の冊子を付けて売ってあげましたので、大丈夫だと思いますよ。おそらく他人任せでしょうけれど」
どうやら王国料理協会の面々は鳥の卵を確保するためにクルークも買い付けていったようである。何と言ってもクルークは魔物な上に飼育方法に少し癖があるので、ちょっと心配になるところである。
「それに、アファカは一人つけるみたいな事を言っていましたし」
さすがはアファカ。本当に抜け目がない人である。
「そうか。なら明日くらいになればひと安心かの?」
「さあ、どうでしょうかね。食にどん欲な人たちが、あの程度で諦めるとは思えませんよ」
ドラコが確認すると、ヘンネは腕組みをしながら渋い顔で唸っていた。
「あちきが追っ払おうか?」
「ケンカはやめて下さい」
シンミアが口を挟めば、即却下するヘンネである。この速さには、シンミアも不満たっぷりの表情である。
「となれば、しばらく様子見ね……。あたしたちもあっちに戻れないわ」
「困りましたね、それは」
フェリスもメルもお手上げである。
「まあ、こっちまで来る事はないとは思いますが、そうなったらマイムかコネッホか聖女様のところまで逃げるしかありませんね」
「まあ、あくまでもそれは最終手段ね」
ヘンネが怖い事を言うものだから、フェリスは少し震えながら真面目にその案に賛成していた。ぶっちゃけ、そうならない事を祈るばかりである。
「まあ、どうなるかは明日を待とうじゃないか。もう日が暮れるし休むとしようぞ」
「賛成。ヘンネ、ありがとうね。アファカさんにもお礼を言っておいて」
「商業組合として当然の事をしたまでです。あと、お礼はフェリスが直接言って下さい」
「……それもそうね。安心できるようになったら直接言いに行くわ」
そんなわけで、フェリスたちはヘンネを見送り、フェリスはメルと一緒にクレアールの自分の家に、シンミアはドラコと一緒に薬草園の小屋へと戻っていった。
突如として起きた料理狂想曲。王国料理協会ははたしておとなしく引き下がるのだろうか。それともまだ引っ掻き回そうとしてくるのか。正直フェリスは気が気ではなかった。
それにしても、あのフェリスにここまでの恐怖を与えてしまう王国料理協会という団体。料理にかける情熱は邪神をも凌駕してしまう恐ろしい団体だったようだ。
はてさて、彼らは翌日にはおとなしくフェリスメルから立ち去るのか。フェリスだけではなくペコラもものすごく強く祈る気持ちでその夜を過ごしたのだった。
「はあ……、何なんですかね、あの人たちは」
戻ってきたヘンネの開口一番がそれである。商人として我慢強いはずのヘンネがこの言い草なのだから、相当面倒だったようだ。
「お疲れ様、ヘンネ」
「ああ、フェリス、ありがとう」
フェリスが差し出した飲み物をごくごくと飲み干すヘンネである。
「なるほど、あれならフェリスが逃げるのも分かりますよ」
「相当面倒な連中だったようじゃのう。何があったんじゃ」
ヘンネが愚痴を言いまくるので、さすがにドラコも気になっている様子である。
「いやまあ、それなんですがね……」
口ごもったようにしながら、ヘンネは事のあらましを話し始めた。
ヘンネとアファカは、王国料理協会に早期にお引き取りを願おうと、レシピを持って彼らの泊まる宿へと出向いたのだが、そこはもぬけの殻で誰も居らず、職人街の食堂一号店へと向かった。そこには王国料理協会の一部の人間がしつこくペコラに会おうとして押し問答が繰り広げられていた。
それを仲裁しようとして割って入ると、連中は今度はヘンネとアファカに食って掛かる始末。それをどうにか落ち着かせようとするも、かなり興奮してしまっているようで手に負えない。騒ぎを聞きつけたペコラが出てきて催眠魔法で王国料理協会の人間を眠らせて鎮静化させるという、ずいぶんと面倒な事になっていたようだ。本当に困った連中である。
そして、宿へと連れ戻してお説教の後、通常の1.5倍の値段でレシピを4つほど売りつけて帰ってきたという事らしい。ただ、アファカ曰く「1.5倍でも安い」との事である。そのくらいには迷惑を被っていたようだった。
「それは……大変じゃったのう……」
ドラコですら同情してしまうレベルの迷惑ぶりだった。
「しかし、よくそれで納得してくれたわね」
「今回特に反応が大きかった料理のレシピでしたからね。ペコラたちから聞き取りしておいて正解でしたよ」
「さすがアファカさんだわ」
ヘンネの言葉に、ついつい言葉を漏らすフェリスである。
「ええ、彼女は人間ながらにも観察力など優れていますからね。私としても助かります」
腕を組みながら同意するヘンネ。そして、言葉を続ける。
「それと、クルークを少し買っていかれたようですよ。卵の確保が必要ですからね、売りつけたレシピの料理には」
「あら、そうなのね。飼育の仕方は大丈夫なのかしら」
「そちらも育て方の冊子を付けて売ってあげましたので、大丈夫だと思いますよ。おそらく他人任せでしょうけれど」
どうやら王国料理協会の面々は鳥の卵を確保するためにクルークも買い付けていったようである。何と言ってもクルークは魔物な上に飼育方法に少し癖があるので、ちょっと心配になるところである。
「それに、アファカは一人つけるみたいな事を言っていましたし」
さすがはアファカ。本当に抜け目がない人である。
「そうか。なら明日くらいになればひと安心かの?」
「さあ、どうでしょうかね。食にどん欲な人たちが、あの程度で諦めるとは思えませんよ」
ドラコが確認すると、ヘンネは腕組みをしながら渋い顔で唸っていた。
「あちきが追っ払おうか?」
「ケンカはやめて下さい」
シンミアが口を挟めば、即却下するヘンネである。この速さには、シンミアも不満たっぷりの表情である。
「となれば、しばらく様子見ね……。あたしたちもあっちに戻れないわ」
「困りましたね、それは」
フェリスもメルもお手上げである。
「まあ、こっちまで来る事はないとは思いますが、そうなったらマイムかコネッホか聖女様のところまで逃げるしかありませんね」
「まあ、あくまでもそれは最終手段ね」
ヘンネが怖い事を言うものだから、フェリスは少し震えながら真面目にその案に賛成していた。ぶっちゃけ、そうならない事を祈るばかりである。
「まあ、どうなるかは明日を待とうじゃないか。もう日が暮れるし休むとしようぞ」
「賛成。ヘンネ、ありがとうね。アファカさんにもお礼を言っておいて」
「商業組合として当然の事をしたまでです。あと、お礼はフェリスが直接言って下さい」
「……それもそうね。安心できるようになったら直接言いに行くわ」
そんなわけで、フェリスたちはヘンネを見送り、フェリスはメルと一緒にクレアールの自分の家に、シンミアはドラコと一緒に薬草園の小屋へと戻っていった。
突如として起きた料理狂想曲。王国料理協会ははたしておとなしく引き下がるのだろうか。それともまだ引っ掻き回そうとしてくるのか。正直フェリスは気が気ではなかった。
それにしても、あのフェリスにここまでの恐怖を与えてしまう王国料理協会という団体。料理にかける情熱は邪神をも凌駕してしまう恐ろしい団体だったようだ。
はてさて、彼らは翌日にはおとなしくフェリスメルから立ち去るのか。フェリスだけではなくペコラもものすごく強く祈る気持ちでその夜を過ごしたのだった。
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