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第227話 邪神ちゃんの薬草豆知識
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クレアールに避難しているフェリスは、ドラコの薬草園を手伝っていた。メルも一緒である。ただし、フェリスは薬草に触れられないので、お世話はメルの役目である。
「手伝うっていうのに何もするなってどういう事よ」
「仕方ないですよ、フェリス様。フェリス様の恩恵の発動条件が分からない以上、不用意に触られてしまってはドラコ様の機嫌を損ねてしまいます」
「むぅ、納得がいかない……」
フェリスは薬草園の一角の四阿でかなりふて腐れていた。薬草に触れないのなら、どういう手伝いをすればいいのか分からないのだ。
「フェリスは家の掃除をしたり、ご飯を用意していればそれでよいんじゃよ」
ヘンネと話をつけてきたドラコが戻ってきたようだ。そして、戻ってきた早々フェリスの愚痴を聞かされる羽目になったので、ドラコは呆れ顔でフェリスに声を掛けていた。
「えー、薬草園に来てるのに世話させてよ」
「ダメじゃな。お前さんは自分の能力を制御できておらん。手当たり次第に恩恵を振りまくようでは、とても触らせる事もできん。そこを早くどうにかするんじゃな」
「ぶーぶー」
ドラコに正論をぶちかまされて、口を尖らせるフェリス。そこには邪神を名乗り、ある程度の勢力持つ者としての矜持は感じられなかった。だが、この子どもっぽさもまた、フェリスの魅力なのである。
「はあ、ここの事はメルに任せておくとして、あたしはこっちの自分の家を掃除してくるわ……」
「ああ、その方がいいじゃろうのう。ここに居ってもお前さんは邪魔だけじゃからな。やれる事をしておいた方がいいぞ」
「うぎぎ……」
一言多いドラコを睨み付けながらも、フェリスは薬草園から街の入口付近にある自分の仮設の家へと向かっていった。
「さて、フェリスを追っ払ったからには、続きをするとするかの。いい感じで薬草が育っておるから、そろそろ摘み取って商業組合に卸さんとな」
「あ、私手伝います」
「うむ、頼むぞ、メル」
メルはドラコを手伝って薬草を摘み取っていく。
「葉っぱだけ取るものと根っこからすべて取るものがあるから気を付けるじゃぞ。あと、花を付けておるものは摘んではいかん。根から摘むものは周りの土ごと掘り起こして土を払い落とすんじゃ」
「分かりました、やってみます」
ドラコのアドバイスで、メルが薬草の採取に取り掛かる。通常の薬草は根ごとすべて摘むタイプで、葉っぱと根っこで用途が異なるのである。
葉っぱはよく知られている一般的なポーションに使われるのだが、根っこの方は病気や毒に効きやすい効果を持つらしいのだ。根っこはいろいろと吸い上げるので、その性質で病原菌や毒素を集めてしまうからではないかと言われているのだが、その詳細は明らかになっていない。それが薬草というものなのである。
「茎も茎で役目があるからのう。余すところがないのがこの薬草の特徴じゃぞ」
「そうなんですね。私、また一つ賢くなりました」
「しっかり覚えておくんじゃぞ。こいつとは似たような草があるから気を付けんと毒草を掴まされるからな」
「ひええ、しっかり覚えます!」
ドラコが言うと、メルはものすごく怯えたように叫んでいた。その様子を見たドラコはくすくすと笑っていた。
「まあ、メルは筋がよい。覚える事が多くて大変かも知れんが、落ち着いていれば大丈夫じゃ」
ドラコはそう言いながら、薬草摘みの作業を続けたのだった。
1時間もすると、籠一杯の薬草が積み上がっていた。
「ふぅ、夕方にはヘンネがやって来るだろうから、その時までは倉庫に寝かせておくかな」
「それならその直前に摘んだ方がよかったのでは?」
ドラコが額の汗を拭っていると、メルがその様な質問をする。その質問に、ドラコは腰に手を当てて大笑いをしていた。
「かっかっかっかっ、確かにそうかも知れんが、これは間引きのついでじゃよ。見ての通り、畑には薬草がたくさん植わっておる。この状態を長く続ければ、薬草に十分な栄養が行き渡らんからな。野菜なんかもそうじゃろう?」
「あっ、確かにそうですね」
メルは言われて気が付く。確かに薬草園にはかなりの量の薬草が植わっていた。それこそ所狭しというにふさわしい密度である。そこで、特に成長しきった方の薬草から収穫しておいたというわけなのである。
「薬草は普通の植物と違って、育ちが悪いものでも環境を整えてやればちゃんと育つ。それゆえに間引かれるのは成長しきった方となるわけじゃな。これも薬草の豆知識ぞ、よく覚えておくといい」
「はい、ドラコ様」
素直に真剣な表情で返事をするメルの姿に、ドラコは非常に満足したようだった。
しばらくすると、クレアールの自宅を掃除していたフェリスが戻ってくる。
「そろそろお昼にするわよ。持ってきたからそこの四阿で一緒に食べましょう」
「おお、そんな時間か。よし、一度作業を中断するぞ。収穫は十分量あるからのう」
「はい、ドラコ様。それでは手を洗ってきます」
フェリスの声を聞いたドラコに言われ、メルは律儀に手を洗いに行った。さすがに泥だらけの手で物は食べられないのだ。手を洗って戻ってきたメルと一緒に、フェリスたちは四阿で食事をする。
「だいぶ摘めたみたいね。あとはヘンネ待ちってところ?」
「まあそういう事じゃな。あの厄介者どもの対応じゃから、夕方までは戻って来れんじゃろう。それまでは倉庫で寝かせておくつもりじゃ」
「ああ……。それが賢明かもね」
というわけで、しばらくは摘んだ薬草は倉庫に寝かされる事になったのだ。
そして、ドラコの見立て通り、夕方にヘンネが戻ってきて、摘んだ薬草を引き取って商業組合に戻ったのだった。
「手伝うっていうのに何もするなってどういう事よ」
「仕方ないですよ、フェリス様。フェリス様の恩恵の発動条件が分からない以上、不用意に触られてしまってはドラコ様の機嫌を損ねてしまいます」
「むぅ、納得がいかない……」
フェリスは薬草園の一角の四阿でかなりふて腐れていた。薬草に触れないのなら、どういう手伝いをすればいいのか分からないのだ。
「フェリスは家の掃除をしたり、ご飯を用意していればそれでよいんじゃよ」
ヘンネと話をつけてきたドラコが戻ってきたようだ。そして、戻ってきた早々フェリスの愚痴を聞かされる羽目になったので、ドラコは呆れ顔でフェリスに声を掛けていた。
「えー、薬草園に来てるのに世話させてよ」
「ダメじゃな。お前さんは自分の能力を制御できておらん。手当たり次第に恩恵を振りまくようでは、とても触らせる事もできん。そこを早くどうにかするんじゃな」
「ぶーぶー」
ドラコに正論をぶちかまされて、口を尖らせるフェリス。そこには邪神を名乗り、ある程度の勢力持つ者としての矜持は感じられなかった。だが、この子どもっぽさもまた、フェリスの魅力なのである。
「はあ、ここの事はメルに任せておくとして、あたしはこっちの自分の家を掃除してくるわ……」
「ああ、その方がいいじゃろうのう。ここに居ってもお前さんは邪魔だけじゃからな。やれる事をしておいた方がいいぞ」
「うぎぎ……」
一言多いドラコを睨み付けながらも、フェリスは薬草園から街の入口付近にある自分の仮設の家へと向かっていった。
「さて、フェリスを追っ払ったからには、続きをするとするかの。いい感じで薬草が育っておるから、そろそろ摘み取って商業組合に卸さんとな」
「あ、私手伝います」
「うむ、頼むぞ、メル」
メルはドラコを手伝って薬草を摘み取っていく。
「葉っぱだけ取るものと根っこからすべて取るものがあるから気を付けるじゃぞ。あと、花を付けておるものは摘んではいかん。根から摘むものは周りの土ごと掘り起こして土を払い落とすんじゃ」
「分かりました、やってみます」
ドラコのアドバイスで、メルが薬草の採取に取り掛かる。通常の薬草は根ごとすべて摘むタイプで、葉っぱと根っこで用途が異なるのである。
葉っぱはよく知られている一般的なポーションに使われるのだが、根っこの方は病気や毒に効きやすい効果を持つらしいのだ。根っこはいろいろと吸い上げるので、その性質で病原菌や毒素を集めてしまうからではないかと言われているのだが、その詳細は明らかになっていない。それが薬草というものなのである。
「茎も茎で役目があるからのう。余すところがないのがこの薬草の特徴じゃぞ」
「そうなんですね。私、また一つ賢くなりました」
「しっかり覚えておくんじゃぞ。こいつとは似たような草があるから気を付けんと毒草を掴まされるからな」
「ひええ、しっかり覚えます!」
ドラコが言うと、メルはものすごく怯えたように叫んでいた。その様子を見たドラコはくすくすと笑っていた。
「まあ、メルは筋がよい。覚える事が多くて大変かも知れんが、落ち着いていれば大丈夫じゃ」
ドラコはそう言いながら、薬草摘みの作業を続けたのだった。
1時間もすると、籠一杯の薬草が積み上がっていた。
「ふぅ、夕方にはヘンネがやって来るだろうから、その時までは倉庫に寝かせておくかな」
「それならその直前に摘んだ方がよかったのでは?」
ドラコが額の汗を拭っていると、メルがその様な質問をする。その質問に、ドラコは腰に手を当てて大笑いをしていた。
「かっかっかっかっ、確かにそうかも知れんが、これは間引きのついでじゃよ。見ての通り、畑には薬草がたくさん植わっておる。この状態を長く続ければ、薬草に十分な栄養が行き渡らんからな。野菜なんかもそうじゃろう?」
「あっ、確かにそうですね」
メルは言われて気が付く。確かに薬草園にはかなりの量の薬草が植わっていた。それこそ所狭しというにふさわしい密度である。そこで、特に成長しきった方の薬草から収穫しておいたというわけなのである。
「薬草は普通の植物と違って、育ちが悪いものでも環境を整えてやればちゃんと育つ。それゆえに間引かれるのは成長しきった方となるわけじゃな。これも薬草の豆知識ぞ、よく覚えておくといい」
「はい、ドラコ様」
素直に真剣な表情で返事をするメルの姿に、ドラコは非常に満足したようだった。
しばらくすると、クレアールの自宅を掃除していたフェリスが戻ってくる。
「そろそろお昼にするわよ。持ってきたからそこの四阿で一緒に食べましょう」
「おお、そんな時間か。よし、一度作業を中断するぞ。収穫は十分量あるからのう」
「はい、ドラコ様。それでは手を洗ってきます」
フェリスの声を聞いたドラコに言われ、メルは律儀に手を洗いに行った。さすがに泥だらけの手で物は食べられないのだ。手を洗って戻ってきたメルと一緒に、フェリスたちは四阿で食事をする。
「だいぶ摘めたみたいね。あとはヘンネ待ちってところ?」
「まあそういう事じゃな。あの厄介者どもの対応じゃから、夕方までは戻って来れんじゃろう。それまでは倉庫で寝かせておくつもりじゃ」
「ああ……。それが賢明かもね」
というわけで、しばらくは摘んだ薬草は倉庫に寝かされる事になったのだ。
そして、ドラコの見立て通り、夕方にヘンネが戻ってきて、摘んだ薬草を引き取って商業組合に戻ったのだった。
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