邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
227 / 290

第227話 邪神ちゃんの薬草豆知識

しおりを挟む
 クレアールに避難しているフェリスは、ドラコの薬草園を手伝っていた。メルも一緒である。ただし、フェリスは薬草に触れられないので、お世話はメルの役目である。
「手伝うっていうのに何もするなってどういう事よ」
「仕方ないですよ、フェリス様。フェリス様の恩恵の発動条件が分からない以上、不用意に触られてしまってはドラコ様の機嫌を損ねてしまいます」
「むぅ、納得がいかない……」
 フェリスは薬草園の一角の四阿でかなりふて腐れていた。薬草に触れないのなら、どういう手伝いをすればいいのか分からないのだ。
「フェリスは家の掃除をしたり、ご飯を用意していればそれでよいんじゃよ」
 ヘンネと話をつけてきたドラコが戻ってきたようだ。そして、戻ってきた早々フェリスの愚痴を聞かされる羽目になったので、ドラコは呆れ顔でフェリスに声を掛けていた。
「えー、薬草園に来てるのに世話させてよ」
「ダメじゃな。お前さんは自分の能力を制御できておらん。手当たり次第に恩恵を振りまくようでは、とても触らせる事もできん。そこを早くどうにかするんじゃな」
「ぶーぶー」
 ドラコに正論をぶちかまされて、口を尖らせるフェリス。そこには邪神を名乗り、ある程度の勢力持つ者としての矜持は感じられなかった。だが、この子どもっぽさもまた、フェリスの魅力なのである。
「はあ、ここの事はメルに任せておくとして、あたしはこっちの自分の家を掃除してくるわ……」
「ああ、その方がいいじゃろうのう。ここに居ってもお前さんは邪魔だけじゃからな。やれる事をしておいた方がいいぞ」
「うぎぎ……」
 一言多いドラコを睨み付けながらも、フェリスは薬草園から街の入口付近にある自分の仮設の家へと向かっていった。
「さて、フェリスを追っ払ったからには、続きをするとするかの。いい感じで薬草が育っておるから、そろそろ摘み取って商業組合に卸さんとな」
「あ、私手伝います」
「うむ、頼むぞ、メル」
 メルはドラコを手伝って薬草を摘み取っていく。
「葉っぱだけ取るものと根っこからすべて取るものがあるから気を付けるじゃぞ。あと、花を付けておるものは摘んではいかん。根から摘むものは周りの土ごと掘り起こして土を払い落とすんじゃ」
「分かりました、やってみます」
 ドラコのアドバイスで、メルが薬草の採取に取り掛かる。通常の薬草は根ごとすべて摘むタイプで、葉っぱと根っこで用途が異なるのである。
 葉っぱはよく知られている一般的なポーションに使われるのだが、根っこの方は病気や毒に効きやすい効果を持つらしいのだ。根っこはいろいろと吸い上げるので、その性質で病原菌や毒素を集めてしまうからではないかと言われているのだが、その詳細は明らかになっていない。それが薬草というものなのである。
「茎も茎で役目があるからのう。余すところがないのがこの薬草の特徴じゃぞ」
「そうなんですね。私、また一つ賢くなりました」
「しっかり覚えておくんじゃぞ。こいつとは似たような草があるから気を付けんと毒草を掴まされるからな」
「ひええ、しっかり覚えます!」
 ドラコが言うと、メルはものすごく怯えたように叫んでいた。その様子を見たドラコはくすくすと笑っていた。
「まあ、メルは筋がよい。覚える事が多くて大変かも知れんが、落ち着いていれば大丈夫じゃ」
 ドラコはそう言いながら、薬草摘みの作業を続けたのだった。
 1時間もすると、籠一杯の薬草が積み上がっていた。
「ふぅ、夕方にはヘンネがやって来るだろうから、その時までは倉庫に寝かせておくかな」
「それならその直前に摘んだ方がよかったのでは?」
 ドラコが額の汗を拭っていると、メルがその様な質問をする。その質問に、ドラコは腰に手を当てて大笑いをしていた。
「かっかっかっかっ、確かにそうかも知れんが、これは間引きのついでじゃよ。見ての通り、畑には薬草がたくさん植わっておる。この状態を長く続ければ、薬草に十分な栄養が行き渡らんからな。野菜なんかもそうじゃろう?」
「あっ、確かにそうですね」
 メルは言われて気が付く。確かに薬草園にはかなりの量の薬草が植わっていた。それこそ所狭しというにふさわしい密度である。そこで、特に成長しきった方の薬草から収穫しておいたというわけなのである。
「薬草は普通の植物と違って、育ちが悪いものでも環境を整えてやればちゃんと育つ。それゆえに間引かれるのは成長しきった方となるわけじゃな。これも薬草の豆知識ぞ、よく覚えておくといい」
「はい、ドラコ様」
 素直に真剣な表情で返事をするメルの姿に、ドラコは非常に満足したようだった。
 しばらくすると、クレアールの自宅を掃除していたフェリスが戻ってくる。
「そろそろお昼にするわよ。持ってきたからそこの四阿で一緒に食べましょう」
「おお、そんな時間か。よし、一度作業を中断するぞ。収穫は十分量あるからのう」
「はい、ドラコ様。それでは手を洗ってきます」
 フェリスの声を聞いたドラコに言われ、メルは律儀に手を洗いに行った。さすがに泥だらけの手で物は食べられないのだ。手を洗って戻ってきたメルと一緒に、フェリスたちは四阿で食事をする。
「だいぶ摘めたみたいね。あとはヘンネ待ちってところ?」
「まあそういう事じゃな。あの厄介者どもの対応じゃから、夕方までは戻って来れんじゃろう。それまでは倉庫で寝かせておくつもりじゃ」
「ああ……。それが賢明かもね」
 というわけで、しばらくは摘んだ薬草は倉庫に寝かされる事になったのだ。
 そして、ドラコの見立て通り、夕方にヘンネが戻ってきて、摘んだ薬草を引き取って商業組合に戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...