邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第225話 邪神ちゃんは逃げる

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「シンミア、今日はクレアールに逃亡よ」
 朝起きるなり、フェリスが慌てた様子でシンミアに話し掛ける。
「なんだよ、フェリス……。まだ夜は明けてないぞ……」
 シンミアは寝ぼけ眼ではあるものの、しっかりと反応している。
「明ける前に逃げるわよ。メルも連れて行くわ」
 理由は言わないものの、シンミアは『逃げる』の単語でピンと来たようである。
「ああ、王国料理協会から逃げるんだな。確かに、昨日わざわざ家にまで来た連中だもんな。……まっ、そういう事ならあちきも付き合うさ」
 というわけで、フェリスは眠るメルを抱えてシンミアと一緒に家から逃げ出した。連中が帰るまでクレアールで過ごすつもりのようである。
 なぜクレアールかというと、街を造る際に建てた仮設の自宅がいまだ健在だからである。あれがあれば問題なく過ごせるのだ。
 シンミアにとっては正直どうでもいい話だが、まあフェリスが付き合えというのならと断らなかったのだ。正直、そのくらいにはシンミアも王国料理協会にはいい印象は持ってないし、興味もない。
 そんなわけで、フェリスの家にはルディだけが残されたのだった。

 夜の明けきらないクレアールの街に、フェリスとシンミアはメルを抱えてやって来た。門番たちはその姿に驚いていたものの、フェリスがやって来たとあってはすんなりと通してしまった。
「さて、ドラコの家……じゃなかった、薬草園に行くわよ」
「言い直したところで、実際もうあそこはドラコの家だろう……」
 フェリスがどかどかと歩いていく後ろを、シンミアは呆れたような目で見つめながらついていった。
「……事情は分かった。ならしばらくはこっちに居るとよいぞ。ここに居る限りはわしがどうにかしてやるわい」
「さすがはドラコ、頼りになるわ」
 朝食も食べずにやって来たので、今はドラコの家で食事をしながら話をするフェリスたち。ドラコがすんなり了承してくれた事で、フェリスはとても喜んでいるようである。
「ふえっ!? えっ、ここどこですか?!」
 ようやくメルが目を覚ます。寝てる間に連れてこられたので、家じゃない事に気が付いて辺りをきょろきょろと見回している。
「ここはドラコの家よ、メル」
「ふえっ?! フェリス様?」
 フェリスが場所を告げると、メルは目の前の光景に固まっていた。なにせ目の前にはフェリスの顔があったのだから。そこでようやく、メルはフェリスの膝の上に座らされている事に気が付いた。
「ふぁあああっ!! わ、私フェリス様の、う、上に?!?!」
 混乱するメルが暴れるが、フェリスは落ち着いてメルを膝上から降ろす。床に立つ事で、ようやくメルは落ち着きを取り戻したのだった。
「フェリス様、なぜドラコ様の家に?!」
「ほら、昨日王国料理協会とかいう連中が家に来たでしょ。鬱陶しいから逃げてきたのよ。あたしは家に押しかけてくる連中って嫌いなのよね。知らない連中なら余計の事嫌だわ」
 フェリスは本当に不機嫌そうに話している。
「ちょうど起きた後だったから、やって来たのは知ってるのよ。シンミアが追い返してくれなかったら、一体どうなってたか分からないわね」
「あ、あうう……」
 フェリスがこう言うものだから、メルはものすごく慌てた表情をしている。それもそうだろう。メルだけだったら間違いなく家に招き入れていただろうから。フェリスの言葉にメルは落ち込んでしまった。
「メルはみんなに優しいものね。そんなに気にしなくてもいいわよ」
「フェリス様……」
 フェリスの優しさが心にしみるメルなのである。
「まあそういう話はこれくらいにしておいて、飯でも食わんかのう。ほれ、温まるものを作ってきたぞ」
「気が利くわね、さすがはドラコ」
 フェリスが反応すると、メルもようやく落ち着いて一緒に食卓を囲む。そして、ようやく朝食をもりもりと食べたのだった。
 食事をしながら王国料理協会の話を聞くドラコ。その反応の第一声はというと、
「まあなんとも食い意地の張った連中よな。まあ、うまい飯を追い求める気持ちは分からんでもないが、それは根掘り葉掘り聞く事ではないぞ」
 呆れとしか言えない言葉だった。
「やっぱりそうよね。あたしの家までやって来た事を考えると、ペコラにもいろいろ聞き回っているんでしょうね」
「それはあり得るな。昨日、ヒッポスとクーに会いに行った時も、食堂の前に何人か居たみたいだからな」
「なによそれ……。まるで営業妨害じゃないのよ」
 シンミアの証言を聞いて、正直腹立たしくなるフェリスである。
「ドラコ、ヘンネに伝えて、連中に一部のレシピを売りつけてやって。もちろん、値段は釣り上げてね」
「かっかっかっ、迷惑料を上乗せさせるんじゃな。分かった、もう少し明るくなったら出向くとするよ。まだヘンネもアファカも起きておらんじゃろうかな」
 まだ陽が昇ったばかりの時間なので、出向くには早いと判断したようである。だが、こういう時はやはり頼りになるドラコなのだった。
 行き過ぎた情熱は、ただただ迷惑になる。それをその身をもって思い知らされるフェリスなのであった。
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