邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第223話 邪神ちゃんと王国料理協会

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「あーしが、この食堂の料理人のペコラなのだ」
 王国料理協会の面々を前に、堂々と挨拶をするペコラ。
 これだけの料理を作っている人物が、まさかこんなに小さな女性だとは思っていなかった協会員たちはものすごくショックを受けていた。
「あー、多分聖女様からの話を聞いていると思うが、あーしが聖教会で料理番をしていた邪神なのだ。見た目は参考にしないでほしいのだ」
「なんと、この方が聖女様に認められた邪神の一人なのか!」
 協会員たちの間に衝撃と動揺が走る。
 見た目は13~15歳くらいの少女だが、その実は云100年と生きる邪神。それがペコラなのである。商売と料理を得意とし、特に料理の腕前は超一流な邪神なのである。
「そうなのだ。ささっ、敬うのだ!」
「ははー」
 調子に乗るペコラに対して、深々と跪く協会員たち。一体何を見せられているのだろうか。
「あははは、ここは食堂の中だからそういうのはやめるのだ。その代わり、質問があるなら受け付けるのだ」
 予想外の行動に、ペコラは苦笑いをしている。とにかく落ち着くように協会員たちに言い聞かせている。
「何やってんだか、あいつら……」
 それを見ていたシンミアは呆れた反応しかできなかった。
 そんなシンミアに構う事なく、ペコラと協会員たちのやり取りは続いていく。使った食材や調理法など、さすが料理協会を名乗るだけあって、料理についてあれこれを根掘り葉掘りと尋ねているようだった。
 ペコラもペコラで、惜しげもなくその方法を披露していた。それというのも、教えたからといって再現できるかと言われたら結構無茶なものがたくさんあるからだ。特にクルークは一般的に仕入れるのはほぼ不可能である。フェリスメルやクレアールのクルークはおとなしいものの、本来なら入手はそこそこ困難な存在なのである。つまり、ペコラにしてみたら、真似できるのならしてみなさいという挑発というわけなのだった。
 双方の思惑が渦巻く中、討論会が行われている。王国料理協会の方は20人くらいで押しかけているので、数の暴力で言えばペコラには勝ち目はないはずである。だけども、さすがにそこは商売人の心得のあるペコラである。20人程度に何を言われようとも動じないのである。いろいろ言われながらも、しっかりとそれに対して受け答えをしている。これが邪神というものである。だてに200年以上も生きてはいないのだ。
「このケーキというものは、何を使っているのでしょうか。とてもこのふわふわを再現するのは難しそうですが……」
「このフェリスメルで作られている小麦、砂糖、牛乳、クルークの卵で作っているのだ。このフェリスメルではすべてが揃うから作りたい放題なのだ」
「なんと!」
 ケーキに対するペコラの答えに、協会員たちは衝撃を受けていた。それというのも砂糖は高級品、卵も入手困難な高級品だからだ。それらを簡単に手に入れられているのだから、まずその点で驚かざるを得なかったのだ。
「最初にお出しになられたお酒も、味わった事のないものでした。これは一体何なのでしょうか」
 別の協会員からも質問が飛んでくる。
「それはリンゴを絞った果汁を発酵させて作ったお酒なのだ。リンゴも特産だからできる一品なのだ」
「なんと、リンゴから作ったお酒ですか! これは、興味深い」
 ペコラが回答すると、ものすごく唸り始めた協会員である。食への探求心があふれ出ているようだった。これが王国料理協会という存在なのである。そこには貴族も庶民も魔族も関係ないようである。
「うむ、我々の知らない食の世界がこれほどまでにあるとは……。なんとも奥深いものですな」
「ええ、貴族ですから何でも味わえると思っていましたが、ただの過信でございましたね。世界は、広いですわ」
 協会員たちは感動に打ち震えていた。
「そうなのだ。食とは無限の世界なのだ」
 ペコラがそう言っていると、厨房から声が聞こえてくる。
「ペコラー、言われて牛乳プリンを作ったけど、もう持っていって大丈夫なの?」
 フェリスである。どうやら、先日作っていた牛乳プリンを作らされていたようである。
「フェリス、さっさと持ってくるのだ」
「はいはい。もうちょっと待っててね、すぐ持っていくから」
「できてから言うのだ!」
 できてないのかよと突っ込むペコラである。このやり取りに、王国料理協会の面々から笑いが起きた。ついでに他の客からも笑われていた。このやり取りだけで、食堂の中が一気に和んだ気がした。
(あちきは一体何を見せられているのだろうか……)
 シンミアは正直もう飽きていた。飽きてきたので、横で疲れた様子を見せているメルを愛でて気を紛らわせていた。
「さあ、お待たせしたわ。あたしフェリスが送る、最新作の料理よ!」
 どんと運ばれてくる、カップの数々。器だけならさっきのプリンと変わらなかった。
「なんだこれは、さっきのプリンとどこが違……」
「白い!」
 カップの中を覗き込んだ協会員たちが叫ぶ。
「普通のプリンの卵のところを牛乳に置き換えたものよ。ささっ、召し上がれ!」
 自信たっぷりのドヤ顔を決めるフェリス。おそるおそるプリンを手に取って口に運ぶ協会員。どういうわけか食堂に居た他の客たちも、その様子を静かに眺めていた。知らない間に一体化していたのである。
「これは、うまいぞ」
「卵を使ったプリンとはまた違った味わいですわね」
「むむむ、フェリスメル、なんて羨ましい村なんだ……」
 どうやら、王国料理協会の面々にも牛乳プリンは好評のようだった。これを受けて、食堂内の他の客からも牛乳プリンへの注文が殺到して、フェリスはそれを作るためにてんてこ舞いとなったのだった。嬉しい悲鳴である。
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