223 / 290
第223話 邪神ちゃんと王国料理協会
しおりを挟む
「あーしが、この食堂の料理人のペコラなのだ」
王国料理協会の面々を前に、堂々と挨拶をするペコラ。
これだけの料理を作っている人物が、まさかこんなに小さな女性だとは思っていなかった協会員たちはものすごくショックを受けていた。
「あー、多分聖女様からの話を聞いていると思うが、あーしが聖教会で料理番をしていた邪神なのだ。見た目は参考にしないでほしいのだ」
「なんと、この方が聖女様に認められた邪神の一人なのか!」
協会員たちの間に衝撃と動揺が走る。
見た目は13~15歳くらいの少女だが、その実は云100年と生きる邪神。それがペコラなのである。商売と料理を得意とし、特に料理の腕前は超一流な邪神なのである。
「そうなのだ。ささっ、敬うのだ!」
「ははー」
調子に乗るペコラに対して、深々と跪く協会員たち。一体何を見せられているのだろうか。
「あははは、ここは食堂の中だからそういうのはやめるのだ。その代わり、質問があるなら受け付けるのだ」
予想外の行動に、ペコラは苦笑いをしている。とにかく落ち着くように協会員たちに言い聞かせている。
「何やってんだか、あいつら……」
それを見ていたシンミアは呆れた反応しかできなかった。
そんなシンミアに構う事なく、ペコラと協会員たちのやり取りは続いていく。使った食材や調理法など、さすが料理協会を名乗るだけあって、料理についてあれこれを根掘り葉掘りと尋ねているようだった。
ペコラもペコラで、惜しげもなくその方法を披露していた。それというのも、教えたからといって再現できるかと言われたら結構無茶なものがたくさんあるからだ。特にクルークは一般的に仕入れるのはほぼ不可能である。フェリスメルやクレアールのクルークはおとなしいものの、本来なら入手はそこそこ困難な存在なのである。つまり、ペコラにしてみたら、真似できるのならしてみなさいという挑発というわけなのだった。
双方の思惑が渦巻く中、討論会が行われている。王国料理協会の方は20人くらいで押しかけているので、数の暴力で言えばペコラには勝ち目はないはずである。だけども、さすがにそこは商売人の心得のあるペコラである。20人程度に何を言われようとも動じないのである。いろいろ言われながらも、しっかりとそれに対して受け答えをしている。これが邪神というものである。だてに200年以上も生きてはいないのだ。
「このケーキというものは、何を使っているのでしょうか。とてもこのふわふわを再現するのは難しそうですが……」
「このフェリスメルで作られている小麦、砂糖、牛乳、クルークの卵で作っているのだ。このフェリスメルではすべてが揃うから作りたい放題なのだ」
「なんと!」
ケーキに対するペコラの答えに、協会員たちは衝撃を受けていた。それというのも砂糖は高級品、卵も入手困難な高級品だからだ。それらを簡単に手に入れられているのだから、まずその点で驚かざるを得なかったのだ。
「最初にお出しになられたお酒も、味わった事のないものでした。これは一体何なのでしょうか」
別の協会員からも質問が飛んでくる。
「それはリンゴを絞った果汁を発酵させて作ったお酒なのだ。リンゴも特産だからできる一品なのだ」
「なんと、リンゴから作ったお酒ですか! これは、興味深い」
ペコラが回答すると、ものすごく唸り始めた協会員である。食への探求心があふれ出ているようだった。これが王国料理協会という存在なのである。そこには貴族も庶民も魔族も関係ないようである。
「うむ、我々の知らない食の世界がこれほどまでにあるとは……。なんとも奥深いものですな」
「ええ、貴族ですから何でも味わえると思っていましたが、ただの過信でございましたね。世界は、広いですわ」
協会員たちは感動に打ち震えていた。
「そうなのだ。食とは無限の世界なのだ」
ペコラがそう言っていると、厨房から声が聞こえてくる。
「ペコラー、言われて牛乳プリンを作ったけど、もう持っていって大丈夫なの?」
フェリスである。どうやら、先日作っていた牛乳プリンを作らされていたようである。
「フェリス、さっさと持ってくるのだ」
「はいはい。もうちょっと待っててね、すぐ持っていくから」
「できてから言うのだ!」
できてないのかよと突っ込むペコラである。このやり取りに、王国料理協会の面々から笑いが起きた。ついでに他の客からも笑われていた。このやり取りだけで、食堂の中が一気に和んだ気がした。
(あちきは一体何を見せられているのだろうか……)
シンミアは正直もう飽きていた。飽きてきたので、横で疲れた様子を見せているメルを愛でて気を紛らわせていた。
「さあ、お待たせしたわ。あたしフェリスが送る、最新作の料理よ!」
どんと運ばれてくる、カップの数々。器だけならさっきのプリンと変わらなかった。
「なんだこれは、さっきのプリンとどこが違……」
「白い!」
カップの中を覗き込んだ協会員たちが叫ぶ。
「普通のプリンの卵のところを牛乳に置き換えたものよ。ささっ、召し上がれ!」
自信たっぷりのドヤ顔を決めるフェリス。おそるおそるプリンを手に取って口に運ぶ協会員。どういうわけか食堂に居た他の客たちも、その様子を静かに眺めていた。知らない間に一体化していたのである。
「これは、うまいぞ」
「卵を使ったプリンとはまた違った味わいですわね」
「むむむ、フェリスメル、なんて羨ましい村なんだ……」
どうやら、王国料理協会の面々にも牛乳プリンは好評のようだった。これを受けて、食堂内の他の客からも牛乳プリンへの注文が殺到して、フェリスはそれを作るためにてんてこ舞いとなったのだった。嬉しい悲鳴である。
王国料理協会の面々を前に、堂々と挨拶をするペコラ。
これだけの料理を作っている人物が、まさかこんなに小さな女性だとは思っていなかった協会員たちはものすごくショックを受けていた。
「あー、多分聖女様からの話を聞いていると思うが、あーしが聖教会で料理番をしていた邪神なのだ。見た目は参考にしないでほしいのだ」
「なんと、この方が聖女様に認められた邪神の一人なのか!」
協会員たちの間に衝撃と動揺が走る。
見た目は13~15歳くらいの少女だが、その実は云100年と生きる邪神。それがペコラなのである。商売と料理を得意とし、特に料理の腕前は超一流な邪神なのである。
「そうなのだ。ささっ、敬うのだ!」
「ははー」
調子に乗るペコラに対して、深々と跪く協会員たち。一体何を見せられているのだろうか。
「あははは、ここは食堂の中だからそういうのはやめるのだ。その代わり、質問があるなら受け付けるのだ」
予想外の行動に、ペコラは苦笑いをしている。とにかく落ち着くように協会員たちに言い聞かせている。
「何やってんだか、あいつら……」
それを見ていたシンミアは呆れた反応しかできなかった。
そんなシンミアに構う事なく、ペコラと協会員たちのやり取りは続いていく。使った食材や調理法など、さすが料理協会を名乗るだけあって、料理についてあれこれを根掘り葉掘りと尋ねているようだった。
ペコラもペコラで、惜しげもなくその方法を披露していた。それというのも、教えたからといって再現できるかと言われたら結構無茶なものがたくさんあるからだ。特にクルークは一般的に仕入れるのはほぼ不可能である。フェリスメルやクレアールのクルークはおとなしいものの、本来なら入手はそこそこ困難な存在なのである。つまり、ペコラにしてみたら、真似できるのならしてみなさいという挑発というわけなのだった。
双方の思惑が渦巻く中、討論会が行われている。王国料理協会の方は20人くらいで押しかけているので、数の暴力で言えばペコラには勝ち目はないはずである。だけども、さすがにそこは商売人の心得のあるペコラである。20人程度に何を言われようとも動じないのである。いろいろ言われながらも、しっかりとそれに対して受け答えをしている。これが邪神というものである。だてに200年以上も生きてはいないのだ。
「このケーキというものは、何を使っているのでしょうか。とてもこのふわふわを再現するのは難しそうですが……」
「このフェリスメルで作られている小麦、砂糖、牛乳、クルークの卵で作っているのだ。このフェリスメルではすべてが揃うから作りたい放題なのだ」
「なんと!」
ケーキに対するペコラの答えに、協会員たちは衝撃を受けていた。それというのも砂糖は高級品、卵も入手困難な高級品だからだ。それらを簡単に手に入れられているのだから、まずその点で驚かざるを得なかったのだ。
「最初にお出しになられたお酒も、味わった事のないものでした。これは一体何なのでしょうか」
別の協会員からも質問が飛んでくる。
「それはリンゴを絞った果汁を発酵させて作ったお酒なのだ。リンゴも特産だからできる一品なのだ」
「なんと、リンゴから作ったお酒ですか! これは、興味深い」
ペコラが回答すると、ものすごく唸り始めた協会員である。食への探求心があふれ出ているようだった。これが王国料理協会という存在なのである。そこには貴族も庶民も魔族も関係ないようである。
「うむ、我々の知らない食の世界がこれほどまでにあるとは……。なんとも奥深いものですな」
「ええ、貴族ですから何でも味わえると思っていましたが、ただの過信でございましたね。世界は、広いですわ」
協会員たちは感動に打ち震えていた。
「そうなのだ。食とは無限の世界なのだ」
ペコラがそう言っていると、厨房から声が聞こえてくる。
「ペコラー、言われて牛乳プリンを作ったけど、もう持っていって大丈夫なの?」
フェリスである。どうやら、先日作っていた牛乳プリンを作らされていたようである。
「フェリス、さっさと持ってくるのだ」
「はいはい。もうちょっと待っててね、すぐ持っていくから」
「できてから言うのだ!」
できてないのかよと突っ込むペコラである。このやり取りに、王国料理協会の面々から笑いが起きた。ついでに他の客からも笑われていた。このやり取りだけで、食堂の中が一気に和んだ気がした。
(あちきは一体何を見せられているのだろうか……)
シンミアは正直もう飽きていた。飽きてきたので、横で疲れた様子を見せているメルを愛でて気を紛らわせていた。
「さあ、お待たせしたわ。あたしフェリスが送る、最新作の料理よ!」
どんと運ばれてくる、カップの数々。器だけならさっきのプリンと変わらなかった。
「なんだこれは、さっきのプリンとどこが違……」
「白い!」
カップの中を覗き込んだ協会員たちが叫ぶ。
「普通のプリンの卵のところを牛乳に置き換えたものよ。ささっ、召し上がれ!」
自信たっぷりのドヤ顔を決めるフェリス。おそるおそるプリンを手に取って口に運ぶ協会員。どういうわけか食堂に居た他の客たちも、その様子を静かに眺めていた。知らない間に一体化していたのである。
「これは、うまいぞ」
「卵を使ったプリンとはまた違った味わいですわね」
「むむむ、フェリスメル、なんて羨ましい村なんだ……」
どうやら、王国料理協会の面々にも牛乳プリンは好評のようだった。これを受けて、食堂内の他の客からも牛乳プリンへの注文が殺到して、フェリスはそれを作るためにてんてこ舞いとなったのだった。嬉しい悲鳴である。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

悪役令嬢は始祖竜の母となる
葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。
しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。
どうせ転生するのであればモブがよかったです。
この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。
精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。
だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・?
あれ?
そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。
邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる