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第222話 邪神ちゃんと騒がしいお客
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王国料理協会とは、その名の通り、王国が中心となって設立された世界中の料理を追求する一種の研究機関である。
その本部となるのは、シンミアの睨んだ通り、フェリスメルも所属する王国ブランシェル王国だった。
協会に所属する者たちは研究に余念がなく、知識と自慢の舌をもって日夜料理の研究に勤しんでいるのだ。
そんな変わり者が多く所属する王国料理協会の耳に、ある日の事、とある情報がもたらされた。なんでも、王国内のとある村で見慣れない料理がたくさん出回り始めたというものである。
当然ながら、その情報に協会は飛びついた。
まずはフェリスメルの場所を調べ、調査員を送り込む。その情報を元に向かうメンバーを選択し、商業組合を通じて食堂へと予約を放り込んだのである。
そして現在、この状況に至ったというわけである。
(むうう、いにしえの文献で見た事がある料理が目の前に!)
(この鼻の奥を刺激する香り……。ダメだ、お腹が鳴ってしまう。は、早く食べてしまいたい!)
(この盛り付け、見た目、香り、それに味と食感……。すべてを、すべてを全身に刻み付けて帰らねば!)
構成している協会員は確かに貴族が多いのだが、食に対するこだわりは人一倍強かったのだ。やって来た面々全員がそんな事を思っているのだから、相当というか筋金入りである。
(さっさと食っちまえばいいのに、何を震えてんだよ、あいつら……)
遠巻きに見ているシンミアは呆れていた。
そんな中、シンミアは協会員たちの動きに気が付いた。1つの料理ごとに、何人か人を変えながらメモを取っていたのである。全員がメモを取れば目立つし、一人だけなら偏りが出る。そのために、食べる人間がカモフラージュになりながら、料理ごとに三人くらいずつがメモを取っていたのである。
(はあん、そういう事ね)
シンミアは気付きながらも黙っている。まあ、自身も手癖の悪いトレジャーハンターだから、気持ちが分からなくもないのだろう。
「シンミア様? どうかなさったのですか?」
「いや、なんでもねーな」
メルが聞いてくるものだから、シンミアは知らんぷりをしたのだった。
そして、メインディッシュが運ばれてくる。フェリスメルはボアとクルーク肉が肉類としては特産となっている。それらを焼いたり煮込んだりした料理が、協会員たちの前に並べられたのである。
「おお、これは……っ!」
事前に名前だけ聞いて注文を出していた料理の実物を見て、感動の声を上げている。並んでいるのはステーキ、ソテー、それとシチューだが、どれもこれも見慣れた料理なはずなのに、どうしてここまで大げさな反応をしているのだろうか。
「これは、ボアのステーキか……」
男性の協会員がおそるおそるナイフを入れる。すると……。
「な、これがボアの肉なのか?!」
「なんと、すんなり切れてしまったぞ!」
そう、力を込めずとも、ナイフを当てて軽く押しただけで切れてしまったのだ。焼いたにもかかわらずである。
「だが、これだけ簡単に切れるという事は、食感はどうなんだ?」
フォークに刺して口へと運び入れると、またまた衝撃が男性を襲う。
「な、なんだと!? 食感が……食感があるぞ!」
そう、歯ごたえがあるのである。未知なる料理にてんやわんやの大騒ぎである。
「てめえらうるせえっ! ここでの飯くらいもう少し静かに食えやっ!」
「あっ、これは失礼」
食堂に来ていた他の客から思わずクレームが飛んできてしまい、協会員はおとなしく謝っていた。自分の非は認める紳士的な人物たちのようである。
そこからは騒ぎたくなるものの控えめにしながら、一生懸命メインディッシュを食す協会員たちである。
メインディッシュが終わると、いよいよデザートである。希望を出しておいたプリンとケーキが運ばれてくると、これまたテンションがだだ上げになる協会員たち。しかし、貴族でもあるので先程のような失態は二度としないのが彼らなのである。
「これがプリンか。カップに入っているのだな」
「これがケーキ。白くてふわふわした感じですわね」
まずは見た目と香りを楽しんでいる。ここまで追加注文を入れるなど散々食べてきた面々だが、まだ余裕で食べられそうである。
「私には固そうに見えるな。どこをどう見たらそう思えるんだ?」
「この甘い香りですわよ。これはまさしくふわふわですわよ」
協会員同士でも意見が分かれているようだった。
「それはそれとして、実際に食べていようではないか。意見はまたその時にでも出し合おう」
「そうですわね。ケーキはこのフォークで食べますのね」
ケーキとプリンを目の前に、協会員たちが一斉にフォークとスプーンを手に構える。
「実食」
その中の誰かがそう言うと、全員が一斉にひと口取って口へと運ぶ。
「あまーいっ!」
……一斉にこれである。
「うーん、素晴らしいですわ」
「私にはちょっと甘すぎますかな。だが、食感としては面白いので、もう少し控えめなら選択肢としてもありだと思いますな」
実際の評価は協会員たちごとに違うようだった。
そして、すべてを完食した協会員たちは、従業員へと声を掛ける。
「素晴らしい料理の数々をありがとう。ここのシェフを連れてきてもらってもいいかな?」
「はい、しばらくお待ち下さい」
従業員が奥へと消えていくと、代わりに髪の毛がもこもことした女性が出てきた。そう、ここの料理の責任者である邪神ペコラ、その人だった。
その本部となるのは、シンミアの睨んだ通り、フェリスメルも所属する王国ブランシェル王国だった。
協会に所属する者たちは研究に余念がなく、知識と自慢の舌をもって日夜料理の研究に勤しんでいるのだ。
そんな変わり者が多く所属する王国料理協会の耳に、ある日の事、とある情報がもたらされた。なんでも、王国内のとある村で見慣れない料理がたくさん出回り始めたというものである。
当然ながら、その情報に協会は飛びついた。
まずはフェリスメルの場所を調べ、調査員を送り込む。その情報を元に向かうメンバーを選択し、商業組合を通じて食堂へと予約を放り込んだのである。
そして現在、この状況に至ったというわけである。
(むうう、いにしえの文献で見た事がある料理が目の前に!)
(この鼻の奥を刺激する香り……。ダメだ、お腹が鳴ってしまう。は、早く食べてしまいたい!)
(この盛り付け、見た目、香り、それに味と食感……。すべてを、すべてを全身に刻み付けて帰らねば!)
構成している協会員は確かに貴族が多いのだが、食に対するこだわりは人一倍強かったのだ。やって来た面々全員がそんな事を思っているのだから、相当というか筋金入りである。
(さっさと食っちまえばいいのに、何を震えてんだよ、あいつら……)
遠巻きに見ているシンミアは呆れていた。
そんな中、シンミアは協会員たちの動きに気が付いた。1つの料理ごとに、何人か人を変えながらメモを取っていたのである。全員がメモを取れば目立つし、一人だけなら偏りが出る。そのために、食べる人間がカモフラージュになりながら、料理ごとに三人くらいずつがメモを取っていたのである。
(はあん、そういう事ね)
シンミアは気付きながらも黙っている。まあ、自身も手癖の悪いトレジャーハンターだから、気持ちが分からなくもないのだろう。
「シンミア様? どうかなさったのですか?」
「いや、なんでもねーな」
メルが聞いてくるものだから、シンミアは知らんぷりをしたのだった。
そして、メインディッシュが運ばれてくる。フェリスメルはボアとクルーク肉が肉類としては特産となっている。それらを焼いたり煮込んだりした料理が、協会員たちの前に並べられたのである。
「おお、これは……っ!」
事前に名前だけ聞いて注文を出していた料理の実物を見て、感動の声を上げている。並んでいるのはステーキ、ソテー、それとシチューだが、どれもこれも見慣れた料理なはずなのに、どうしてここまで大げさな反応をしているのだろうか。
「これは、ボアのステーキか……」
男性の協会員がおそるおそるナイフを入れる。すると……。
「な、これがボアの肉なのか?!」
「なんと、すんなり切れてしまったぞ!」
そう、力を込めずとも、ナイフを当てて軽く押しただけで切れてしまったのだ。焼いたにもかかわらずである。
「だが、これだけ簡単に切れるという事は、食感はどうなんだ?」
フォークに刺して口へと運び入れると、またまた衝撃が男性を襲う。
「な、なんだと!? 食感が……食感があるぞ!」
そう、歯ごたえがあるのである。未知なる料理にてんやわんやの大騒ぎである。
「てめえらうるせえっ! ここでの飯くらいもう少し静かに食えやっ!」
「あっ、これは失礼」
食堂に来ていた他の客から思わずクレームが飛んできてしまい、協会員はおとなしく謝っていた。自分の非は認める紳士的な人物たちのようである。
そこからは騒ぎたくなるものの控えめにしながら、一生懸命メインディッシュを食す協会員たちである。
メインディッシュが終わると、いよいよデザートである。希望を出しておいたプリンとケーキが運ばれてくると、これまたテンションがだだ上げになる協会員たち。しかし、貴族でもあるので先程のような失態は二度としないのが彼らなのである。
「これがプリンか。カップに入っているのだな」
「これがケーキ。白くてふわふわした感じですわね」
まずは見た目と香りを楽しんでいる。ここまで追加注文を入れるなど散々食べてきた面々だが、まだ余裕で食べられそうである。
「私には固そうに見えるな。どこをどう見たらそう思えるんだ?」
「この甘い香りですわよ。これはまさしくふわふわですわよ」
協会員同士でも意見が分かれているようだった。
「それはそれとして、実際に食べていようではないか。意見はまたその時にでも出し合おう」
「そうですわね。ケーキはこのフォークで食べますのね」
ケーキとプリンを目の前に、協会員たちが一斉にフォークとスプーンを手に構える。
「実食」
その中の誰かがそう言うと、全員が一斉にひと口取って口へと運ぶ。
「あまーいっ!」
……一斉にこれである。
「うーん、素晴らしいですわ」
「私にはちょっと甘すぎますかな。だが、食感としては面白いので、もう少し控えめなら選択肢としてもありだと思いますな」
実際の評価は協会員たちごとに違うようだった。
そして、すべてを完食した協会員たちは、従業員へと声を掛ける。
「素晴らしい料理の数々をありがとう。ここのシェフを連れてきてもらってもいいかな?」
「はい、しばらくお待ち下さい」
従業員が奥へと消えていくと、代わりに髪の毛がもこもことした女性が出てきた。そう、ここの料理の責任者である邪神ペコラ、その人だった。
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