邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第220話 邪神ちゃんは面倒見がよい

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 ハバリーの口から出た『王国料理協会』とは一体何者なのだろうか。とりあえず『料理』と付いているという事は、ペコラの経営する食堂に用事があってやって来るものだと思われる。だからこそ予約が入れられているわけなのだ。
「なんだか怪しいわね」
 フェリスはうさん臭さを感じていた。
 とはいえ、今の世の中の料理の水準は、数100年前と比べても格段に劣っている。そうなってくれば、質の向上を求めて研究に明け暮れるような人物が出てきても、なんら不思議のないものである。
 これは一体どんな連中の集まりなのか気になるフェリスは、再びペコラの居る一号店へと向かったのだった。
「あちきはどうでもいいんだがな~」
 シンミアは正直興味なさそうである。
 ところが、フェリスが無視できないのは、その料理というのに自分もバリバリに関わってしまっているからだ。特に振る舞われようとしているシードルは、最近フェリスが製造を始めたものだからなおの事である。
「まあ、あんたも付き合いなさいよ。夕食はあたしのおごりでペコラの料理よ」
 フェリスがこう言うと、シンミアの顔色が変わった。
「おお、いいねえ。ペコラの料理はうまいからなぁ。あちき、わくわくしてきたぞ」
 現金なものである。食い意地が張っているというのもあるだろうが、時々強情なシンミアすら虜にしてしまうのが、ペコラの料理なのである。
 さて、再びやって来た職人街にある食堂一号店。夕方のピークが近いとあって、厨房は戦場のようである。ましてや予約客までいるのだから、そりゃ忙しくなるのも無理はなかった。
「ああ、フェリス様。いいところに来て下さいました~……」
 メルがヘロヘロになりながらフェリスにしがみついてきた。予約団体用の料理の準備で大忙しの厨房。さすがにメルには厳しかったようである。
「お疲れ様、メル。シンミアの相手でもして休んでてちょうだい。あたしが代わるわよ」
「はい、お願いします~……」
 メルはヘロヘロとよろけながら、シンミアにぽすっともたれ掛かった。
 迷惑がるかと思われたシンミアだったが、意外にもメルの事を心配していたようである。
「へえ、これがフェリスの眷属か。結構可愛いな。フェリスの妹みたいなものなら、あちきにとっても妹みたいなもんだ。ちゃんと面倒見てやるから、フェリスはペコラを手伝ってやってくれ」
「あら、意外。シンミアにそういう器量あったのね」
 シンミアの言い分に、ぽろっと本音がこぼれるフェリスである。
「あのなあ、あちきがトレジャーハンターやってる理由も知らないくせに、そういう事を言うなよ」
「知らないんだからしょうがないでしょ」
 シンミアが露骨に不快感を示すと、フェリスも負けじとさらっと言ってのける。仲がいいんだか悪いんだか、よく分からない二人だ。
「まあいっか。どうせフェリスには分からない話だろうしな。あちきは隅の方でメルの様子を見といてやるよ」
 そう言って、シンミアは客席の方へと出ていったのだった。
「あの人ごみの中に出ていくなんて、まったくメルが休めないじゃないのよ……」
 シンミアの行動に、フェリスは正直呆れてしまっていた。
 とりあえずメルをシンミアに任せて、フェリスはペコラと向き合う。
「で、とりあえず何をしたらいい?」
「フェリスは一般客用の料理を頼むのだ。あーしたちは予約客用の料理で手一杯なのだ」
「了解。任せておいて」
 お互いにやる事を確認すると、フェリスとペコラはそれぞれの料理にかかる。
 料理に関してはペコラの方が上手なのだが、フェリスには特殊な能力があって、配下の邪神の能力を劣化ながらにコピーしてしまう。そのために、ペコラの料理の腕前もそれなりに引き継いでいて、そこそこ上手に料理を作れてしまうのだ。
 とはいっても、さすがに料理となると手は抜けないフェリスは厨房スタッフと一緒に夕方のピークの注文を次々とこなしていく。食堂の立ち上げでも立ち会っていたフェリスなので、増えた料理の種類にも対応しているあたりはさすがと言える。
「ふぅ、これを毎日こなしてるってわけ? よくペコラも倒れないわね」
 シードルの造り過ぎで過労になったフェリスは、思わず感心してしまう。
「フェリス様は魔法も使い過ぎましたからね。ペコラ様は体力だけですからなんとかなっているようなんです」
 厨房のスタッフから真面目な答えが返ってくる。そう、体力と魔力を同時に使い過ぎたフェリスと、体力だけしか消耗していないペコラの違いというわけだった。
「あっ、そういう事ね」
 妙に納得してしまうフェリスなのである。
 そうやって注文をこなしていると、いよいよ客席の方が賑やかになってきた。
「ペコラ様、ご予約の『王国料理協会』の方々が見えられました」
「……ようやく来たのだ」
 ペコラは表情を引き締める。いくら邪神とはいえど、これは真剣勝負である。自慢の腕前と自慢の舌のただならぬ決闘なのである。
 ピリピリとした空気が張り詰める厨房。ペコラですらここまで警戒する『王国料理協会』の事が、俄然気になるフェリスなのであった。
 しかし、フェリスは一般客向けの料理を作っているため、気になりながらも手を止める事は叶わないのである。
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