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第219話 邪神ちゃんと知らない団体
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食堂から移動する事ほんのわずか。ハバリーの居る工房も食堂の一号店のある職人街の中心地にあるのである。
「ハバリー、来たわよ」
工房に顔を覗かせるなり声を掛けるフェリス。その声に反応したのは木工職人のウッドだった。
「これはフェリスさん、ハバリーさんなら裏手の作業場ですぜ」
「あら、そうなの。ありがとう」
ハバリーの居場所を言ってくれたので、お礼を言ってシンミアを連れて裏手の作業場へと移動していくフェリス。
それにしても、表側にも結構職人の人数が増えていた。まあ、ここなら失敗してもハバリーの能力で元に戻せるから、いい練習の場になるのだろう。ハバリーの金属抽出は、つくづくチートレベルの能力である。
それはともかくとして、裏手の作業場へと移動していくフェリスとシンミア。
作業場に入ると、そこでは真剣な表情のハバリーが居た。目の前には職人たちが居るので、おそらくは教えている真っ最中なのだろう。言葉も音もない静かな空間である。
不意にハバリーが手に持っているハンマーが振り下ろされる。それからというもの、しばらくはカンカンと金属を叩く音が響き渡る。金属を打って形を整えているのだろう。
「これで、鍋の出来上がりです」
ようやく言葉を発したかと思えば、そこには深鍋が置かれていた。煮込みなどに使う深鍋を、なぜ今作っていたのだろうか。甚だ疑問である。
「ハバリー、もういいかしら」
「うわっと、フェリス。それにシンミアも。どうしたんだ?」
フェリスが声を掛けると、ハバリーがもの凄く驚いていた。どれくらいかというと、前髪がめくれて隠れている目が見えるくらいだった。
「いやあ、新しい街ができたっていうから気になってやって来たんだよ。そしたら、お前らも居るって聞いて会いに来たってわけさ」
シンミアは正直に理由を話していた。なるほどそういうわけだったのか。
確かに新しい街ができれば、みんな興味を示す。それは邪神も同じだったようだ。だが、それと同時にシンミアにとって興味を示す事があった。
「センティアの聖女様が邪神と親しいとか聞いてな。その話を詳しく聞いたらフェリスとドラコの名前が出てくるじゃねえか。しかも、その新しい街に関わってる。そりゃ俄然興味が湧くってものよ」
シンミアは頭の後ろで手を組んでにししと笑っていた。
なんともまあ、聖女と仲良くなった事がかなり影響を及ぼしているようだった。
さらに確認をしてみれば、聖女と仲の良い邪神が造った街とかいって、クレアールは売り込みに出されている模様。そんな遠くにまでそんな風に伝わっているとは、さすがのフェリスも驚きを隠せなかった。
「んなわけで、あちきがここに来たのもクレアールを見る事とフェリスとドラコに会う事なんだ。ハバリーはおまけだけどさ、元気そうにやってるみたいで安心したぜ。うきゃきゃ」
そんなシンミアをぼーっと見つめるハバリーと職人たちである。
「ところで、なんで鍋を作ってるのよ」
そこへフェリスがガラッと話題を変えて質問を飛ばしてくる。
「えっああ。実はもうそろそろやって来る団体さんに売るものとして作ってるんだ」
「団体さん? それって食堂の予約客と関係あるのかしら」
ハバリーの回答に、フェリスはふと思い当たる事を口にしてしまう。
「そうそう、その予約客の事。王国料理協会っていう団体さんなんだよ、やって来るのは」
ハバリーが出した団体の名前を聞いて、フェリスはなんとなく察しがついた。
「あー、それでシードルも出すとか言ってたのか。このフェリスメルは結構昔の料理を再現したりするから、目に留まるわよね……」
フェリスは正直言って面倒くさそうな気配を感じ取っていた。なにせ、実質このフェリスメルにしかないような料理がたくさんあるからだ。ペコラが一時期居たセンティアにもそれなりに過去の遺物となった料理は出ているが、種類では明らかにフェリスメルの方が多い。そうなれば、そういった美食家や料理人たちが目を付けないわけがなかったのである。
「そう、だから、その料理で使う道具なんかを、職人たちに教えながらこうやってこしらえていたわけ。その結果はそこを見れば分かるよ」
ハバリーが顔を向けた先には、深鍋平鍋などなど、様々な鍋が山積みにされていた。お玉などもちゃんと置いてあった。
「で、その職人たちの腕前はどうなの?」
「まだまだ」
ハバリーにこう評された職人たちは、しょげしょげと項垂れていた。ハバリーは職人としての腕前も高いから、そう評されるのも仕方のない事だった。
「みんなにはまだまだ修行をしてもらわないといけない。鍛冶ともなると到底無理だろうね」
「そっか。じゃあ、邪魔しちゃ悪いから、あたしたちはもう行くわね」
「うん、シンミアもまた遊びに来てよ」
「おう、そうさせてもらうぜ」
フェリスはそう言って、ハバリーと別れて工房を後にしたのだった。
それにしても、ハバリーから教えられた王国料理協会なる団体は一体何者なのか。もしへんてこで害になるようだったら、フェリスメルから叩き出さなければならない。
もうそろそろやって来るというその団体を、フェリスは警戒心たっぷりに待ち構えるのだった。
「ハバリー、来たわよ」
工房に顔を覗かせるなり声を掛けるフェリス。その声に反応したのは木工職人のウッドだった。
「これはフェリスさん、ハバリーさんなら裏手の作業場ですぜ」
「あら、そうなの。ありがとう」
ハバリーの居場所を言ってくれたので、お礼を言ってシンミアを連れて裏手の作業場へと移動していくフェリス。
それにしても、表側にも結構職人の人数が増えていた。まあ、ここなら失敗してもハバリーの能力で元に戻せるから、いい練習の場になるのだろう。ハバリーの金属抽出は、つくづくチートレベルの能力である。
それはともかくとして、裏手の作業場へと移動していくフェリスとシンミア。
作業場に入ると、そこでは真剣な表情のハバリーが居た。目の前には職人たちが居るので、おそらくは教えている真っ最中なのだろう。言葉も音もない静かな空間である。
不意にハバリーが手に持っているハンマーが振り下ろされる。それからというもの、しばらくはカンカンと金属を叩く音が響き渡る。金属を打って形を整えているのだろう。
「これで、鍋の出来上がりです」
ようやく言葉を発したかと思えば、そこには深鍋が置かれていた。煮込みなどに使う深鍋を、なぜ今作っていたのだろうか。甚だ疑問である。
「ハバリー、もういいかしら」
「うわっと、フェリス。それにシンミアも。どうしたんだ?」
フェリスが声を掛けると、ハバリーがもの凄く驚いていた。どれくらいかというと、前髪がめくれて隠れている目が見えるくらいだった。
「いやあ、新しい街ができたっていうから気になってやって来たんだよ。そしたら、お前らも居るって聞いて会いに来たってわけさ」
シンミアは正直に理由を話していた。なるほどそういうわけだったのか。
確かに新しい街ができれば、みんな興味を示す。それは邪神も同じだったようだ。だが、それと同時にシンミアにとって興味を示す事があった。
「センティアの聖女様が邪神と親しいとか聞いてな。その話を詳しく聞いたらフェリスとドラコの名前が出てくるじゃねえか。しかも、その新しい街に関わってる。そりゃ俄然興味が湧くってものよ」
シンミアは頭の後ろで手を組んでにししと笑っていた。
なんともまあ、聖女と仲良くなった事がかなり影響を及ぼしているようだった。
さらに確認をしてみれば、聖女と仲の良い邪神が造った街とかいって、クレアールは売り込みに出されている模様。そんな遠くにまでそんな風に伝わっているとは、さすがのフェリスも驚きを隠せなかった。
「んなわけで、あちきがここに来たのもクレアールを見る事とフェリスとドラコに会う事なんだ。ハバリーはおまけだけどさ、元気そうにやってるみたいで安心したぜ。うきゃきゃ」
そんなシンミアをぼーっと見つめるハバリーと職人たちである。
「ところで、なんで鍋を作ってるのよ」
そこへフェリスがガラッと話題を変えて質問を飛ばしてくる。
「えっああ。実はもうそろそろやって来る団体さんに売るものとして作ってるんだ」
「団体さん? それって食堂の予約客と関係あるのかしら」
ハバリーの回答に、フェリスはふと思い当たる事を口にしてしまう。
「そうそう、その予約客の事。王国料理協会っていう団体さんなんだよ、やって来るのは」
ハバリーが出した団体の名前を聞いて、フェリスはなんとなく察しがついた。
「あー、それでシードルも出すとか言ってたのか。このフェリスメルは結構昔の料理を再現したりするから、目に留まるわよね……」
フェリスは正直言って面倒くさそうな気配を感じ取っていた。なにせ、実質このフェリスメルにしかないような料理がたくさんあるからだ。ペコラが一時期居たセンティアにもそれなりに過去の遺物となった料理は出ているが、種類では明らかにフェリスメルの方が多い。そうなれば、そういった美食家や料理人たちが目を付けないわけがなかったのである。
「そう、だから、その料理で使う道具なんかを、職人たちに教えながらこうやってこしらえていたわけ。その結果はそこを見れば分かるよ」
ハバリーが顔を向けた先には、深鍋平鍋などなど、様々な鍋が山積みにされていた。お玉などもちゃんと置いてあった。
「で、その職人たちの腕前はどうなの?」
「まだまだ」
ハバリーにこう評された職人たちは、しょげしょげと項垂れていた。ハバリーは職人としての腕前も高いから、そう評されるのも仕方のない事だった。
「みんなにはまだまだ修行をしてもらわないといけない。鍛冶ともなると到底無理だろうね」
「そっか。じゃあ、邪魔しちゃ悪いから、あたしたちはもう行くわね」
「うん、シンミアもまた遊びに来てよ」
「おう、そうさせてもらうぜ」
フェリスはそう言って、ハバリーと別れて工房を後にしたのだった。
それにしても、ハバリーから教えられた王国料理協会なる団体は一体何者なのか。もしへんてこで害になるようだったら、フェリスメルから叩き出さなければならない。
もうそろそろやって来るというその団体を、フェリスは警戒心たっぷりに待ち構えるのだった。
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