邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第215話 邪神ちゃんは疲労困憊

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 シンミアがクレアールにやって来ていた頃、フェリスメルでは……。
「うーん、だいぶできてきたわね」
 フェリスが相変わらずシードル造りをしていた。あれからというもの、村の食堂ではエールと共にお酒の定番になりつつあったシードル。フェリスによる恩恵のせいで材料となるリンゴはすぐに補充できるし、発酵も7日間で終わってしまうので、意外と足りているようである。ただ、その分フェリスはものすごく忙しかった。
「ぜえぜえ……。冒険者も職人たちも、酒飲みばかりじゃないのよ……」
 酒を仕込みながらフェリスが愚痴っている。
 こんな状況のために毎日リンゴの生長促進をしては酒を仕込むという事の繰り返しで、さすがのフェリスも目の下にクマを作り始めていた。自慢の毛並みもちょっと荒れてきている。
「フェリス様、無理はなさらないで下さい……」
 メルにもものすごく心配される状態であった。
「確かに、さすがによろしくないですね。さすがに休まれてはいかがでしょうか」
 ついでに果樹園の主人にも新派される始末である。
「でも、この発酵、本来なら何か月もかかる作業なのよ。最低でも3か月。その間、特に職人たちが我慢できるかしらってね……」
「いえいえ、さすがに天使様に倒れられては困ります。そちらは私どもでどうにか説得しますので、どうか休んで下さいませ」
 必死な様子で果樹園の主人に説得された事で、
「分かったわ。これを仕込んだら休ませてもらうから、残りは任せたわよ」
 と言って休む決意をしたのだった。
「はい、お任せ下さいませ、天使様」
 そんなわけで、最後の仕込みを終えたフェリスは、ふらふらしながらメルに付き添われて家に戻っていったのだった。

 家に戻ったフェリスはお風呂に入る気力もなく、そのままぐっすりと眠りに就いた。こんな状態になっているとは、本当に無茶のし過ぎだった。
 こんな状態になったフェリスを、メルは初めて見たのである。それはとてつもなく落ち着かなくなるというものだった。そのためにフェリスが眠っている間は、メルはどうにも落ち着かなくて家の事をして気を紛らわせていた。
「フェリス様……、元気になられるといいのですが」
 ところが、どうしても気を紛らわせ切れず、メルはちょくちょくフェリスに視線を送ってしまうのだった。
「おう、戻ったぞ」
 夕方になってルディが家に戻ってくる。いつもならフェリスやメルが出迎えてくれるのだが、その反応がなくてルディは玄関で首を傾げていた。
「おーい、フェリス、メル。居るのか?」
 反応のなさに心配になって、家の中に呼び掛けるルディ。しばらくすると、ようやくメルが出てきた。
「おかえりなさい、ルディ様」
「ああ、居たのかメル。あまりに遅かったので心配したぞ」
 はっきりと言うルディに、メルは少し表情を曇らせた。
「何かあったのか?」
 ルディは何かを察知して、メルに問い掛ける。
「あ、いえ。フェリス様が……」
「フェリスがどうかしたのか?」
 メルの表情が気になるルディ。態度もおかしいので、ルディはメルに詳しく話を聞いた。
「なんだ、酒造りで張り切り過ぎてぶっ倒れたのか。妙なところで張り切りすぎるのは、悪い癖だな」
 ルディは呆れていた。そして、眠っているフェリスの顔をじっと見ている。
「まあ、この分ならまる2日くらい眠っていれば大丈夫だろ。その間はメルは付きっきりにしていればいい。俺たちが居るんだし、カバーはできるさ」
「あ、ありがとうございます、ルディ様」
 ルディがメルに言い聞かせていると、メルは半泣き状態でルディに礼を言っていた。普段は自由奔放なインフェルノウルフのルディも、こういう時は頼りになるものである。さすがはフェリスの仲間として、邪神の座に名を連ねているだけの事はあるのだ。
「まあなんだ。フェリスが調子に乗るのはよくある事だが、きっかけとしては俺にも責任があるからな。俺がお調子者ってだけじゃねえところを、みんなに見せてやるからな」
 ルディは変な方向で気合いを入れていた。そのルディのあまりの滑稽さにメルもつい笑ってしまったのだった。
「ルディ様、ありがとうございます。元気が出ました」
「お、おう……。それならよかったぜ」
 メルが笑顔でそんな事を言うものだから、さすがのルディもちょっと反応に困ってしまった。
 とりあえず、なんにしても今日明日は確実にフェリスは眠っている事になる。その間は何があっても対応ができないので、その間どうするかというのは実に問題だった。
「そうだな、ひとっ走りアファカに伝えてくるぜ。メルはその間にご飯を用意しててくれよな」
「畏まりました。行ってらっしゃいませ、ルディ様」
 メルが見送る中、ルディはものすごい勢いで商業組合に向けて駆けていったのだった。
 その後、フェリスが酒の作り過ぎで倒れた話は村に伝わり、しばらく酒を自重する流れになったのだった。それに加えて、お見舞い品を手にやって来る村人がしばらく絶えなかった。
 フェリスメルにおいて、フェリスの影響力は想像以上に強いのだった。
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