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第214話 邪神ちゃんの蒐集仲間
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「へえ、そんな風になってんのか」
話を聞き終えたシンミアは頭の後ろで手を組んで、椅子にもたれ掛かっている。
「ええ、ほとんどの邪神はフェリスメルかクレアールに居ますが、ラータはセンティアで、コネッホはモスレ。この二人だけは別の場所に居ますね」
「そっか、ティグリスと蛇の奴は分かんのないのか」
ヘンネの言い分に、シンミアはその姿勢のままため息を吐いている。だが、ヘンネはその言葉に反応した。
「虎の邪神ティグリスは名前が出てくるのに、蛇の邪神は出てこないのですね」
こう指摘するヘンネに、シンミアは目をぱちぱちとさせていた。思わぬ指摘だったからだ。
「……確かにそうだな。だが、蛇の奴だけはなぜか名前も姿も思い出せねえ。……もしかして、お前らもなのか?」
シンミアが真面目な面持ちでヘンネに確認すると、ヘンネも黙って頷いた。これにはシンミアもびっくりせざるを得なかった。
「ドラコですら覚えていないのです。私たちが忘れてしまうのも無理はないでしょう。おそらく彼女は、そういった魔法を私たちに掛けていったのだと思います」
「なるほどねえ。あいつならやりかねないわ」
肘をつきながら納得するシンミア。名前も姿も思い出せないのに、性格くらいは思い出せるようだ。蛇の邪神は一体どんな魔法を掛けていったのやら。
「てーか、ティグリスの野郎もどこをほつき歩いてるんだ? まあ、あちきも人の事は言えねえがよ」
「確かにそうですね。これも蛇の邪神の力の影響と言えるのでしょう。かなりの年月が経ち、私たちの互いの距離を遠ざける事はできなくなったと考えるべきなのでしょうか」
シンミアの言葉に、ヘンネはそのような考察をした。それだけの長い期間、邪神と呼ばれる存在に影響を及ぼす蛇の邪神の魔法とは、本当に恐ろしいものである。
「力が弱まったおかげか、私たちは再びフェリスを中心として集まり出しましたからね。なんだかんだ言って、みんなあの自由気ままな猫に惹かれてるんですね」
「確かに、そういうこったろうな」
話が一段落すると、シンミアがパンと膝を打つ。
「よし、続きはドラコんとこに行ってからだ。いいよな、ヘンネ」
睨むように話すシンミアに、
「ええ、そうしましょうか」
ヘンネは静かに同意したのだった。
そして、やってきたドラコの薬草園。ずっと管理人がドラコだったせいか、自然とそういう風に呼ばれつつあるようだった。
「ドラコーっ、ちょっといいかしら」
ヘンネがドラコの姿を見かけて声を掛ける。
「うぬ、なんじゃ?」
その声に顔を上げるドラコ。相変わらずのお嬢様ルックで畑作業をする姿は、実に違和感まみれである。
「おお、その生意気そうな面は、シンミアではないか。久しぶりじゃのう、かっかっかっ!」
お嬢様スタイルで笑うドラコをの姿を見て、シンミアもようやくそれがドラコだと認識した。言葉遣いも特徴的なので、それも断定するに有用な要素だった。
「何をやってるんだ、ドラコ。そんな格好で」
「見て分からぬか。薬草の世話をしておるのじゃよ。誰もやろうとせんのでな、わしがこうやってやるしかないというわけじゃ、不本意じゃがの……」
そんな風に言いながらも、ドラコは薬草の周りの雑草を引き抜いたり、肥料を与えたりとてきぱきと薬草の世話をしている。
「慣れた手つきだな、ドラコ。あちきも手伝おうか?」
褒めているようだが、シンミアはどうにも気になって仕方がないようだった。
「かっかっかっ、物珍しいものが好みのお前さんが、この地に縛り付けられるような事に手を出すつもりか? かっかっかっ、やめておけ。こいつは強敵じゃからの」
ドラコはシンミアに視線を送りながら、楽しそうに笑いながら薬草の世話を続けていた。
確かにそうなのだ。シンミアはトレジャーハンターとして昔から世界中を飛び回っていたのだ。
ちなみにその時に集めたものの一部は、フェリスの祠にも保管されていた。だが、フェリスが無頓着だったがゆえにしばらく放置されていたのだが、ドラコが訪れた際にすべて回収されていた。
「確かに集めるのは好きなんだがよ、昔ほど興味があるってわけじゃねえ」
シンミアはぽりぽりと頭を掻いている。その表情はどこかくらい、影のあるものに見えた。
「……ここに来たのも事情がありそうじゃのう。わしでよければ話は聞くぞ?」
「すまねえな。こういう話はフェリスよりドラコにした方がいい気がするからな」
居なくても安定してディスられるフェリスである。本当に真面目な話をするには、フェリスは向かないようだった。
「ふぅ、それでしたら私は退散した方がいいですかね。商業組合の仕事もありますし」
「ああ、すまないなヘンネ。仕事中に付き合わせちまってよ」
「構いませんよ、私たちの仲なのですから。では、ドラコとごゆっくりどうぞ」
ヘンネはそう言って、薬草園から商業組合へと戻っていった。
薬草園に残されたドラコとシンミアは、薬草園に建てられたドラコの住処へと移動していく。
「薬草の世話はもういいのか?」
「なに、あそこまで生長すれば、後は時々肥料と水をやればいいだけじゃ。薬草どもは過酷な環境で生きている植物じゃぞ?」
シンミアに確認されたドラコは、ドヤ顔を決めながら答えていた。そして、あれこれと話をしながら、建物の中へとシンミアを迎え入れたのだった。
話を聞き終えたシンミアは頭の後ろで手を組んで、椅子にもたれ掛かっている。
「ええ、ほとんどの邪神はフェリスメルかクレアールに居ますが、ラータはセンティアで、コネッホはモスレ。この二人だけは別の場所に居ますね」
「そっか、ティグリスと蛇の奴は分かんのないのか」
ヘンネの言い分に、シンミアはその姿勢のままため息を吐いている。だが、ヘンネはその言葉に反応した。
「虎の邪神ティグリスは名前が出てくるのに、蛇の邪神は出てこないのですね」
こう指摘するヘンネに、シンミアは目をぱちぱちとさせていた。思わぬ指摘だったからだ。
「……確かにそうだな。だが、蛇の奴だけはなぜか名前も姿も思い出せねえ。……もしかして、お前らもなのか?」
シンミアが真面目な面持ちでヘンネに確認すると、ヘンネも黙って頷いた。これにはシンミアもびっくりせざるを得なかった。
「ドラコですら覚えていないのです。私たちが忘れてしまうのも無理はないでしょう。おそらく彼女は、そういった魔法を私たちに掛けていったのだと思います」
「なるほどねえ。あいつならやりかねないわ」
肘をつきながら納得するシンミア。名前も姿も思い出せないのに、性格くらいは思い出せるようだ。蛇の邪神は一体どんな魔法を掛けていったのやら。
「てーか、ティグリスの野郎もどこをほつき歩いてるんだ? まあ、あちきも人の事は言えねえがよ」
「確かにそうですね。これも蛇の邪神の力の影響と言えるのでしょう。かなりの年月が経ち、私たちの互いの距離を遠ざける事はできなくなったと考えるべきなのでしょうか」
シンミアの言葉に、ヘンネはそのような考察をした。それだけの長い期間、邪神と呼ばれる存在に影響を及ぼす蛇の邪神の魔法とは、本当に恐ろしいものである。
「力が弱まったおかげか、私たちは再びフェリスを中心として集まり出しましたからね。なんだかんだ言って、みんなあの自由気ままな猫に惹かれてるんですね」
「確かに、そういうこったろうな」
話が一段落すると、シンミアがパンと膝を打つ。
「よし、続きはドラコんとこに行ってからだ。いいよな、ヘンネ」
睨むように話すシンミアに、
「ええ、そうしましょうか」
ヘンネは静かに同意したのだった。
そして、やってきたドラコの薬草園。ずっと管理人がドラコだったせいか、自然とそういう風に呼ばれつつあるようだった。
「ドラコーっ、ちょっといいかしら」
ヘンネがドラコの姿を見かけて声を掛ける。
「うぬ、なんじゃ?」
その声に顔を上げるドラコ。相変わらずのお嬢様ルックで畑作業をする姿は、実に違和感まみれである。
「おお、その生意気そうな面は、シンミアではないか。久しぶりじゃのう、かっかっかっ!」
お嬢様スタイルで笑うドラコをの姿を見て、シンミアもようやくそれがドラコだと認識した。言葉遣いも特徴的なので、それも断定するに有用な要素だった。
「何をやってるんだ、ドラコ。そんな格好で」
「見て分からぬか。薬草の世話をしておるのじゃよ。誰もやろうとせんのでな、わしがこうやってやるしかないというわけじゃ、不本意じゃがの……」
そんな風に言いながらも、ドラコは薬草の周りの雑草を引き抜いたり、肥料を与えたりとてきぱきと薬草の世話をしている。
「慣れた手つきだな、ドラコ。あちきも手伝おうか?」
褒めているようだが、シンミアはどうにも気になって仕方がないようだった。
「かっかっかっ、物珍しいものが好みのお前さんが、この地に縛り付けられるような事に手を出すつもりか? かっかっかっ、やめておけ。こいつは強敵じゃからの」
ドラコはシンミアに視線を送りながら、楽しそうに笑いながら薬草の世話を続けていた。
確かにそうなのだ。シンミアはトレジャーハンターとして昔から世界中を飛び回っていたのだ。
ちなみにその時に集めたものの一部は、フェリスの祠にも保管されていた。だが、フェリスが無頓着だったがゆえにしばらく放置されていたのだが、ドラコが訪れた際にすべて回収されていた。
「確かに集めるのは好きなんだがよ、昔ほど興味があるってわけじゃねえ」
シンミアはぽりぽりと頭を掻いている。その表情はどこかくらい、影のあるものに見えた。
「……ここに来たのも事情がありそうじゃのう。わしでよければ話は聞くぞ?」
「すまねえな。こういう話はフェリスよりドラコにした方がいい気がするからな」
居なくても安定してディスられるフェリスである。本当に真面目な話をするには、フェリスは向かないようだった。
「ふぅ、それでしたら私は退散した方がいいですかね。商業組合の仕事もありますし」
「ああ、すまないなヘンネ。仕事中に付き合わせちまってよ」
「構いませんよ、私たちの仲なのですから。では、ドラコとごゆっくりどうぞ」
ヘンネはそう言って、薬草園から商業組合へと戻っていった。
薬草園に残されたドラコとシンミアは、薬草園に建てられたドラコの住処へと移動していく。
「薬草の世話はもういいのか?」
「なに、あそこまで生長すれば、後は時々肥料と水をやればいいだけじゃ。薬草どもは過酷な環境で生きている植物じゃぞ?」
シンミアに確認されたドラコは、ドヤ顔を決めながら答えていた。そして、あれこれと話をしながら、建物の中へとシンミアを迎え入れたのだった。
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