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第213話 邪神ちゃんのトレジャーハンター
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「うきききき……。とうとう来ちまったわ、ここがクレアールか」
クレアールの街の入口に、長い尻尾を振り回す気の荒そうな女性が立っていた。勝ち誇ったかのように堂々と立っている女性に、道行く人がちらちらと視線を送っている。
「おいおい、あちきは見せもんじゃねえんだ。見てくんなら金払ってくれ、うききき」
女性がそう言うと、道行く人たちはそそくさと足早に歩き去っていった。
その人たちをケラケラと笑いながら、女性は街の入口に居る門番へと近付いていく。
「よう、ここがクレアールで合ってるな?」
気さくどころかぶしつけに訪ねる女性。
「ああ、そうだ」
それに対して、淡々と答える門番。
「そうか。なら、フェリスって邪神が居ると思うんだが、どこか教えろ」
「フェリス様なら、クレアールではなくフェリスメルに居られる。クレアールに常駐しているのは、商業組合長のヘンネ様と薬草園のドラコ様の二人だ」
言葉遣いの悪い女性に対して、門番もそれ相応の態度と口調で応対している。だが、女性はそんな事は気にしているようではなかった。
「そうか、どっちの方がここからは近いか?」
「それなら商業組合の方だ。正面に進んで噴水が見えたらそこの右手がそうだからな」
「そうかそうか、それはありがとう。これは取っておけ」
女性は門番に左の拳をぶつける。そして、手のひらを返して開くと、そこにはお金が握られていた。攻撃されたと思って身構えた門番たちが驚いた顔で見ている。
「あちきはこれでも商人だ。世界の珍しいものを求めてさまようシンミア様とはあちきの事さ」
「は、はあ……」
名乗りを上げたシンミアの行動に、門番はつい呆然としてしまった。
「それじゃ、街に入らせてもらうぞ」
そう言って、シンミアは手を振りながらクレアールの街へと入っていったのだった。
シンミアとはフェリスの仲間である猿の邪神である。ショートボブの茶色い髪の毛と長い尻尾が特徴である。すらっとした体のシンミアはそれは美しい限りで、周りの視線を集めてしまう。だが、その性格は粗暴で野蛮。口調からしてもよく分かるだろう。いわゆる猿山のボスみたいなものである。
「おっ、ここが商業組合だな?」
噴水の右側にある建物の看板を見て、シンミアは顎に手を当てて小さく頷いた。そして、むんと気合いを入れて商業組合の建物へと入っていった。
「たのもー!」
シンミアが商業組合に入るなり、中に向かって呼び掛ける。その声に、中に居た面々はなんだなんだと入口の方に視線を向けてきた。しばらくすると、中の方からバタバタと駆け出してくる音が聞こえてきた。
「その声はシンミアですか。どうしたんですか、突然」
「おーヘンネ、久しぶりだな。20年くらいぶりか?」
中から現れたヘンネに、ものすごく気さくに声を掛けるシンミアである。それにしても20年ぶりとは、この二人はそんな最近にも会った事があったようである。
「それくらいですかね。何の用なんですか、とりあえず中に入ってきて下さい」
「おう、邪魔するよ」
ヘンネの呼び掛けに、シンミアは中へと入っていく。シンミアに近付きながら、ヘンネは職員に飲み物を用意するように指示を出す。
「本当に、突然ですね。今日はどうしてここへ?」
「近くに寄った時に、最近新しい街ができたって話を聞いてな。それでここまで来たってわけよ」
ヘンネの質問に、けらっけらと明るい表情で答えるシンミア。
「そうですか。でも、あなたが来てくれてちょっと助かりそうですよ」
「おっ、それはどういうこった?」
ヘンネの言い分にシンミアが食いついた。
「ドラコが薬草園を造って薬草を育てているのですが、現在ドラコしか見れる人が居ないんですよ。そのせいでドラコがちょっとストレスを溜めていましてね。植物に詳しいシンミアが来てくれたのなら、それが解消できるのではと期待してしまうんです」
「なるほどなあ。だったらさっさとドラコのところへ連れてってくれ」
ヘンネが理由を話すと、さらに食いついてくるシンミア。その勢いに押されてしまうヘンネである。
「ちょ、ちょっと待って下さい。その前にせっかくここへ来たんですから少しお話していきましょう。今ならドラコもちょっと忙しいですし、お昼の時間に合わせれば問題ないと思いますから」
「ちっ、しょうがねえな。くだらない話なら昔のよしみっていったって容赦しねえからな」
「まったく、相変わらず暴力的ですね。でも、ここは商業組合です。それこそいろんな情報が集まる場所ですよ?」
凄んでくるシンミアに呆れるヘンネだが、にやりと笑い返す余裕がある。ヘンネだって邪神なのだ。けんかで負けるつもりはないのである。ヘンネの笑みに、シンミアは頭をぼりぼりと掻く。
「あーやめたやめた。情報は欲しいからな、ぶん殴るのは無しだ」
「まったく、少しは落ち着いて行動して下さい。そうやって衝動的に動くからいろいろトラブルを起こすんですよ。ただでさえ口調が乱暴ですのに」
「悪いな、これは性分なんで直りそうにないわ」
このシンミアの態度に、ヘンネは諦めてため息を吐くしかなかった。そうして、シンミアを連れて組合長室へとやって来た。
「それじゃ、とりあえず私たちの今の様子から話をしましょうか」
ヘンネは、自分たちの邪神たちの現状を話し始めたのだった。
クレアールの街の入口に、長い尻尾を振り回す気の荒そうな女性が立っていた。勝ち誇ったかのように堂々と立っている女性に、道行く人がちらちらと視線を送っている。
「おいおい、あちきは見せもんじゃねえんだ。見てくんなら金払ってくれ、うききき」
女性がそう言うと、道行く人たちはそそくさと足早に歩き去っていった。
その人たちをケラケラと笑いながら、女性は街の入口に居る門番へと近付いていく。
「よう、ここがクレアールで合ってるな?」
気さくどころかぶしつけに訪ねる女性。
「ああ、そうだ」
それに対して、淡々と答える門番。
「そうか。なら、フェリスって邪神が居ると思うんだが、どこか教えろ」
「フェリス様なら、クレアールではなくフェリスメルに居られる。クレアールに常駐しているのは、商業組合長のヘンネ様と薬草園のドラコ様の二人だ」
言葉遣いの悪い女性に対して、門番もそれ相応の態度と口調で応対している。だが、女性はそんな事は気にしているようではなかった。
「そうか、どっちの方がここからは近いか?」
「それなら商業組合の方だ。正面に進んで噴水が見えたらそこの右手がそうだからな」
「そうかそうか、それはありがとう。これは取っておけ」
女性は門番に左の拳をぶつける。そして、手のひらを返して開くと、そこにはお金が握られていた。攻撃されたと思って身構えた門番たちが驚いた顔で見ている。
「あちきはこれでも商人だ。世界の珍しいものを求めてさまようシンミア様とはあちきの事さ」
「は、はあ……」
名乗りを上げたシンミアの行動に、門番はつい呆然としてしまった。
「それじゃ、街に入らせてもらうぞ」
そう言って、シンミアは手を振りながらクレアールの街へと入っていったのだった。
シンミアとはフェリスの仲間である猿の邪神である。ショートボブの茶色い髪の毛と長い尻尾が特徴である。すらっとした体のシンミアはそれは美しい限りで、周りの視線を集めてしまう。だが、その性格は粗暴で野蛮。口調からしてもよく分かるだろう。いわゆる猿山のボスみたいなものである。
「おっ、ここが商業組合だな?」
噴水の右側にある建物の看板を見て、シンミアは顎に手を当てて小さく頷いた。そして、むんと気合いを入れて商業組合の建物へと入っていった。
「たのもー!」
シンミアが商業組合に入るなり、中に向かって呼び掛ける。その声に、中に居た面々はなんだなんだと入口の方に視線を向けてきた。しばらくすると、中の方からバタバタと駆け出してくる音が聞こえてきた。
「その声はシンミアですか。どうしたんですか、突然」
「おーヘンネ、久しぶりだな。20年くらいぶりか?」
中から現れたヘンネに、ものすごく気さくに声を掛けるシンミアである。それにしても20年ぶりとは、この二人はそんな最近にも会った事があったようである。
「それくらいですかね。何の用なんですか、とりあえず中に入ってきて下さい」
「おう、邪魔するよ」
ヘンネの呼び掛けに、シンミアは中へと入っていく。シンミアに近付きながら、ヘンネは職員に飲み物を用意するように指示を出す。
「本当に、突然ですね。今日はどうしてここへ?」
「近くに寄った時に、最近新しい街ができたって話を聞いてな。それでここまで来たってわけよ」
ヘンネの質問に、けらっけらと明るい表情で答えるシンミア。
「そうですか。でも、あなたが来てくれてちょっと助かりそうですよ」
「おっ、それはどういうこった?」
ヘンネの言い分にシンミアが食いついた。
「ドラコが薬草園を造って薬草を育てているのですが、現在ドラコしか見れる人が居ないんですよ。そのせいでドラコがちょっとストレスを溜めていましてね。植物に詳しいシンミアが来てくれたのなら、それが解消できるのではと期待してしまうんです」
「なるほどなあ。だったらさっさとドラコのところへ連れてってくれ」
ヘンネが理由を話すと、さらに食いついてくるシンミア。その勢いに押されてしまうヘンネである。
「ちょ、ちょっと待って下さい。その前にせっかくここへ来たんですから少しお話していきましょう。今ならドラコもちょっと忙しいですし、お昼の時間に合わせれば問題ないと思いますから」
「ちっ、しょうがねえな。くだらない話なら昔のよしみっていったって容赦しねえからな」
「まったく、相変わらず暴力的ですね。でも、ここは商業組合です。それこそいろんな情報が集まる場所ですよ?」
凄んでくるシンミアに呆れるヘンネだが、にやりと笑い返す余裕がある。ヘンネだって邪神なのだ。けんかで負けるつもりはないのである。ヘンネの笑みに、シンミアは頭をぼりぼりと掻く。
「あーやめたやめた。情報は欲しいからな、ぶん殴るのは無しだ」
「まったく、少しは落ち着いて行動して下さい。そうやって衝動的に動くからいろいろトラブルを起こすんですよ。ただでさえ口調が乱暴ですのに」
「悪いな、これは性分なんで直りそうにないわ」
このシンミアの態度に、ヘンネは諦めてため息を吐くしかなかった。そうして、シンミアを連れて組合長室へとやって来た。
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