邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第212話 邪神ちゃんのとんでもない事

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 モスレに戻ったコネッホは、早速工房でリンゴを取り出した。
「うん、収穫した時のままの状態で保たれているな。さすがは魔法鞄だ」
 そう言いつつ、早速ナイフで切り分けていくコネッホ。皿に盛り付けてブルムにも差し出した。
「ほれ、あたいのわがままに付き合ってくれた礼だ。特に害はないから安心して食べなさい」
 よく見ればブルムが少々抵抗があるように感じたので、コネッホはそう言って安心させようとしている。
「ふむ、まあ、ひと晩で種から実になったとなれば怖がるのは分かるが、それをやらかしたのはフェリスだ。何を恐れる必要があろうか」
 コネッホはそう言ってそのままひと切れを口に放り込んだ。しゃくしゃくといい音が響き渡る。
「うん、すごい甘さだな、このリンゴは」
 ごくんと飲み込んだコネッホは、真面目な顔をしてそう言い切った。
 フェリスの恩恵を受けたものは、どういうわけか最高品質になってしまう。このリンゴにもそれは適用されたようだった。本当に恐ろしい能力である。
「あっ、本当。すごく甘い」
 おそるおそる食べてみたブルムもこの通りである。そのくらいにフェリスのリンゴは絶品なのである。
「これじゃいくらでも食べられちゃいます」
「気持ちは分からんでもないが、1個だけじゃぞ。元々錬金術用に買ったものなんだからな」
「あっ、すみません、師匠」
 ついつい手が止まらなくなってしまったブルムは、コネッホに怒られてようやくその手が止まったのだった。
「やれやれ、こんな能力を持っているから邪神とか言われるんだぞ、フェリス」
 コネッホはそんな事を言っているが、フェリスは自ら望んで邪神を称しているのだ。おそらくこんな忠告は聞き入れる事はないだろう。だが、昔からだったにもかかわらず、コネッホは失念してしまっていたようだ。
「さて、シードルなるものを作ってみるとしようかな」
「はい、師匠」
 意気込むコネッホとブルムだが、実は問題があった。
「で、肝心のお酒とやらはどういった作り方をしているのかな?」
 そうお酒の作り方を知らなかったのだ。
 錬金術によるものの作り方というのは、通常の工程での一部を魔法に置き換えて行うというものである。なので、フェリスのシードル造りも錬金術によるものなのだ。自然発酵をさせるところを魔法で促進させているのである。だけれども、こういう事ができるのは作り方を知っているからこそできるので、知らなければどういった魔法を作用させればいいのかすら分からないのである。
「えっと、エールと同じようなものだと思います。液体を発酵させていたはずです」
「ふむ。それなら何とかなりそうだな」
 ブルムの答えた内容からアタリをつけてみるコネッホ。試しにリンゴ2個を取り出した。
「これを液体にして発酵させればいいんだな?」
「はい、多分」
 答えるものの、声が小さくなるブルム。自信がないのである。
 だが、作り方に目星をつけたコネッホの行動は早かった。
「ぬんっ!」
 リンゴをまずは魔法で圧縮して果汁を搾り出す。リンゴ2個ではそんなに量は取れないが、そこはコネッホの錬金術、どうとでもなるのである。いつもポーション作りで使っている容器に、リンゴの果汁が搾り出された。
「これを発酵させればいいんだな」
「おそらくは」
 コネッホに尋ねられたブルムは、やはり自信なさげに答えた。それにもかかわらず、コネッホは自信たっぷりにリンゴの果汁に魔法を掛けた。
「錬金術師を名乗る以上、できない事などあってたまるものか。よく見ておけ、弟子よ。これが錬金術師というものだ」
 コネッホが魔法を使ってしばらくすると、果汁が突然ぼこぼこと泡を出し始めた。発酵が始まったのである。たったものの数分で、魔法による発酵が始まるとは、さすがはコネッホである。
「こ、こんなに簡単に?!」
 いろいろと魔法を使うブルムだが、こういう事自体は初めてなのでものすごく驚いている。
「さて、しばらく待つとしようか」
 コネッホはそう言って、小さな穴の開いた蓋を乗せると別の事をやり始めたのだった。
「薬草の方も実にいい感じのものだ。ドラコの奴、やってくれたな」
 そう、クレアールで仕入れてきた薬草だった。ドラコが作った薬草は人工栽培のものにしてはかなりの品質だった。これが古龍の力というものだろうか。だからこそ、コネッホも満足していたのだ。
「これなら今まででも最高ランクのポーションを作れると思うぞ。どうだ、ブルムもやってみないか?」
「わ、わ、私はまだ遠慮しておきます。そんな恐れ多いです……」
 まだ錬金術を始めたばかりのブルムは、首を横に振って全力で断ってきた。素人がそんな高品質なものをいきなり扱うなんていう事はまずないからだ。
「ははは、あの薬草園が定着すれば、この品質が普通になる。そう遠慮するものじゃないぞ」
 コネッホはこう言って笑っていた。
 そうこうしているうちに、果汁の泡立ちが止まっていた。
「うむ、発酵が終わったようだな。さすがは魔法、早いものだ」
 蓋を取って、小さなコップにちょっと入れて試飲をしてみるコネッホ。
「ドラコのところで飲んだものに味が近いな。同じ味にはならなかったが、悪くはない。ブルムも飲んでみるといい」
「あ、はい。頂きます」
 ブルムも少しもらう。
「確かに、そんな感じですね。でも、どうして味が違うんでしょうかね」
「使ったリンゴとか発酵時間だとか要因はありそうだな。これまた研究しがいがありそうだ」
 首を捻るブルムに対して、怪しげに笑うコネッホ。どうやら研究者魂に火がついたようだった。
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