邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第209話 邪神ちゃんの勝手な真似は許されない

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 ドラコとコネッホたちが話をしている頃、フェリスは再びシードルの仕込みを行っていた。しかも鼻歌を歌いながら。一度仕込んだ事で大体の感覚が分かったのだろう。ちなみにだが、今回は樽を4つに増やして仕込んでいる。
「思ったより好評だったから、作り甲斐があるってものね。ただ、リンゴ自体は他にも使い道があるから、そっちの方も増やさないとね」
 フェリスはそんな独りごとを言いながら仕込みを行っている。リンゴを樽の中にぶち込んでまとめて洗浄、魔法で切り刻んでから発酵させていく。相変わらずやる事の規模が違い過ぎる。
 発酵の促進で、1週間もあれば再びお酒が完成する。そうなれば食堂での提供も始められるだろう。ただ、飲み過ぎだけはやめさせないといけないが。ドラコですら酔いかけていたくらいだし、注意は必要そうである。
 とりあえず、仕込みも終わって暇になったフェリスは、再び村の散策に出る。
 久しぶりに職人街にある食堂へと顔を出すフェリス。ここでは同じ邪神のうち、羊のペコラが働いている。あの聖教会でも料理をしていた事のあるペコラの腕前は確かなもので、その料理の評判はとても良い。それでいて教えるのも上手なので、彼女の下に着いた料理人たちは、めきめきとその腕前を上げていた。
「ペコラー、来たわよ」
「フェリス、何の用なのだ?」
 フェリスが挨拶すると、ペコラが首を傾げるようにして返事をしてくる。ちょうどピークも過ぎた時間を狙ったので、少し休憩モードのようである。
「新しいお酒の意見を聞こうと思ってね。特産のリンゴを発酵させたやつなんだけど」
「あー、シードルか。懐かしいのだ」
 料理人であるペコラはすぐに思い当たったようである。さすがである。
 ペコラも休憩を取って、フェリスと同じ席に座る。
「で、シードルってお店に出せると思う?」
「エールは一般的だけど、苦手な人も居るのだ。それを思うと違う味わいのお酒だから、出すのも手だとは思うのだ」
 フェリスの質問に、ペコラはいけるというような返答をしている。ただ、顔を見れば本人が飲みたがっているのは一目瞭然だった。
「……今日4樽ほど仕込んでおいたからね。あたしの魔法を使って促進させてあるから、1週間後には飲めるようになるわ」
 フェリスがそう言えば、ペコラは顔をにんまりとさせる。
「それは楽しみなのだ。1週間はつらいけど待つのだ」
 本当に満面の笑みである。ペコラもエールは苦手なようだった。
「でもね、そうなるとリンゴの生産量が今のままじゃ足りなくなるのよね。もどかしいところだわ」
「確かにそうなのだ。リンゴは家畜の餌にも使うし、料理にもたくさん使っているのだ。足りなくなるのは困るのだ」
 ペコラも困るようだし、現状にフェリスは大きなため息を吐く。
「これ以上好き勝手やれば、またドラコやヘンネからいろいろとお小言もらいそうだしなぁ……。許されるなら近くの丘を一か所リンゴ林に変えちゃうんだけどね……」
「ああ、川を引いてきた時にできた丘の事なのか?」
「そうそう、それよ」
 そう、地面を掘ったルディが適当に積み上げた土の塊。それが川沿いにちょこちょこと見られる小高い丘なのである。ただ土が盛り上げられただけの丘は、大雨が降ろうものなら簡単に崩れてしまうだろう。となれば、フェリスが言うリンゴ林はきっと役に立つだろう。
「それだったらさっさとアファカさんやヘンネに言って許可を貰えばいいのだ。リンゴが足りなくなるという現状を訴えれば、あの二人ならきっと許してくれるのだ」
 困り果てたフェリスにペコラは遅い食事を取りながらアドバイスを送った。
 ペコラとの話を終えたフェリスは、すぐさまアファカの居るフェリスメルの商業組合へと向かった。ペコラに説得というか強く言われたので仕方なくである。リンゴが無くなれば、アップルパイが作れなくなるので、食堂としても困るからだった。
 気の進まないフェリスだったが、背に腹は代えられないと覚悟を決めてアファカに面会をお願いすると、あっさりと会う事ができた。意外と手は空いていたようだ。
「フェリスさんが来るとは、珍しいですね」
 アファカからはこう言われる始末だが、確かに商業組合に顔を出す事自体はあまりなかった。
「それで、今日は一体どんなご用件ですか?」
 アファカからのたった一言が重く感じられる。フェリスのやらかしの数々を考えれば、それは必然の結果といえるのだ。
「あのですね。リンゴの木を近くの丘に植えようと思いましてね。ルディが掘り起こしたままの状態だと、いろいろ危険でしょうし、リンゴはこれからもっと必要になりますから」
 フェリスは身構えながら話をしている。そうとうにアファカには迷惑を掛けてきては怒られていたので、反射的にそうなってしまうのである。しかし、アファカからの返答は、
「ええ、いいですよ」
 という了承だった。
「ええ? いいの?」
「いいんですよ。事前に言いに来たんですし、フェリスさんの今までの事を考えたら突発的ですけれどそう悪いものでもなかったですからね」
「じゃあ、今まで怒られてたのは……」
「誰にも相談しないで勝手にしてたからです。分かってるのと分からないのとではその後の処理に影響が出るんですから、怒られて当然です」
 アファカにここまで強く言われては、さすがのフェリスも反省である。
 とまあ、そんなこんなでリンゴを植える丘とその世話をする人員の派遣やらなんやらをアファカと相談して決めたのだった。
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