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第208話 邪神ちゃんと薬草の注意点
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翌朝の事だった。
ドラコは目を覚ますと、上級薬草の植えてある拡張された部分へと向かった。すっかり酔いは醒めているようで、その足取りはしっかりとしていた。
「ふむ、昨日ひと晩放置していたが、だいぶ生長しているからか安定しておるな」
一株だけなせいで広い畑にポツンと目立つ。その上級薬草にドラコは近付いていく。
「ふむふむ、状態には問題がなさそうじゃのう。ここにはわし特製の結界が張ってあるから不逞の輩は近付けんじゃろうが、それでもやはり心配じゃったのう」
上級薬草に問題がない事を確認すると、ドラコはほっと胸をなでおろしていた。
それにしても、なかなか薬草たちの生長は速いものである。まだひと月も経っていないというのに、ドラコの腰丈ほどの高さまで生長している。
しかし、この大きさはというと、一般的な薬草と比べてでかすぎるのである。普通の薬草はドラコの膝丈程度までしか育たない。高さにしておおよそ30cmに届くかどうかである。それが70cm程度まで伸びているというのは異常なのである。だというのに、コネッホもヘンネも気にしている様子はない。もしかして、野生の薬草の事をすっかり忘れてしまっているのだろうか。
「おはようございます、ドラコ。そろそろ株分けですかね」
「おお、ヘンネ。そうじゃのう。花が咲いて種が採れるまではまだ時間が掛かるじゃろうからな。数を増やすというのなら、それも手かも知れんのう」
株分けとはある程度の茎のまとまりごとに根を分けて移植する方法だ。できる植物できない植物はあるものの、薬草は可能な部類に入る。なにせ、種1個から茎が数本生えるのである。これは薬草が劣悪な環境でも生き残れるようにと適応してきた結果である。茎を増やして花をたくさんつけるのだ。
「じゃが、この1株しかないからのう。できれば慎重になりたいところじゃよ」
「まあ、その気持ちは分かりますね。では、このまま花をつけて種が採れるまで様子見ですかね」
「うむ、そういう事になるな。最低でももうひと月といったところじゃろう」
ドラコの言葉に、ヘンネは驚いていた。商人をしているヘンネでも知らないとは、薬草の生態は謎に包まれているのようなのである。
「そう驚いてくれるな。わしでも知らぬ事がまだ多いのじゃぞ。じゃが、これだけ生命力が強いとなると、管理して増やした時には弊害が出る事が考えられる」
「と、言いますと?」
「端的に言うと増えすぎる事じゃな。下手をすると他の植物の生態系を脅かす事にもなりかねん。増やすのなら、他所に影響が出ぬようにする必要があるじゃろうな」
「ああ、なるほど……。確かにそうですね」
ヘンネはドラコの言い分に納得がいったようである。
「ふわあ、居ないと思ったらこんな所に居たのか。探したぞ」
「おはよう、ございます……」
ドラコとヘンネが話していると、コネッホとブルムがやって来た。二人とも眠そうである。
「ようやく起きましたか、コネッホ。ずいぶんと飲んでましたものね」
「まあな。久しぶりの酒だと思うと、つい飲み過ぎてしまった。フェリスに文句の一つでも言わないといけないな」
「そうですね」
「もっと寄こせと」
「えっ?」
コネッホに同意したヘンネが、直後の言葉で固まっていた。まさか欲しがる方向の苦情だとは思っていなかったからだ。
「いけませんよ、コネッホ。あなたは錬金術師なのですから、嗜むにしてもほどほどにして下さい。そんなに飲みたければ、弟子を育ててからにして下さいよ?」
ヘンネからお小言が繰り出される。
「まあ、そうだな。ブルムは筋がいいし、魔法使いという事もあって下地がある。そのうちいい錬金術師に育つよ」
「そ、そんな師匠。過大評価ですって……」
コネッホがブルムを評価していると、そのブルムはものすごく謙遜していた。
「まあ、さて。長居し過ぎるとモスレで卸すポーションの納品に支障が出るかな? というわけだドラコ、薬草を売ってくれ」
コネッホはぽりぽりと頭を掻きながらドラコに交渉を持ち掛ける。
「わしは相場は知らんぞ。ヘンネ、薬草の相場はいくらくらいじゃ」
「そうですね、一握りが銀貨1枚ですね。一握りというのはだいたいこんなくらいの量ですよ」
ヘンネは薬草の量を示しながらドラコに説明していく。
「一握りだとポーション4個くらいにしかならないから、まぁそんなものだね」
コネッホが肯定している。ちなみにコネッホのポーションで1個銅貨60枚、4個作れるなら銀貨2枚と銅貨40枚になるので手間賃など入れればそんなものだろうか。
「安いのう。どこでも手に入るとはいえ、危険度に比べれば安すぎないか? 金貨にしようと思うたら、頭の大きさよりも多い量が必要になるではないか」
ドラコは少々呆れた様子で話している。
「地味な作業で人気がないのですけれど、その買取価格も原因でしょうね」
「じゃろうなぁ」
だが、錬金術師からすれば材料が安く手に入るので嬉しいらしい。そんな彼らのポーションは大体1個銅貨50枚である。コネッホのポーションが少し高いのは、それだけ効果が高い事によるものだが、ポーションとしては安すぎないだろうか。ただヘンネに言わせれば、庶民たちにも手の出しやすいものという事で価格を抑えているとの事。それが薬草の買取価格にも影響しているという事のようである。魔物の素材は最低でも銀貨以上の買取になるので、魔物の討伐の方に人が流れるのは当然だろう。
「なんとも不遇じゃのう……」
ドラコはこう言うのが精一杯だった。
「とはいえ、あまり相場から逸脱するのもよろしくなかろう。お試しという事を含めて一握りを半額の銅貨50枚でどうじゃ」
「そうだな。ブルムの特訓の事もあるしそれでいいだろう」
そういうわけで、ドラコの育てた薬草はコネッホに売られる事になったのだった。
ドラコは目を覚ますと、上級薬草の植えてある拡張された部分へと向かった。すっかり酔いは醒めているようで、その足取りはしっかりとしていた。
「ふむ、昨日ひと晩放置していたが、だいぶ生長しているからか安定しておるな」
一株だけなせいで広い畑にポツンと目立つ。その上級薬草にドラコは近付いていく。
「ふむふむ、状態には問題がなさそうじゃのう。ここにはわし特製の結界が張ってあるから不逞の輩は近付けんじゃろうが、それでもやはり心配じゃったのう」
上級薬草に問題がない事を確認すると、ドラコはほっと胸をなでおろしていた。
それにしても、なかなか薬草たちの生長は速いものである。まだひと月も経っていないというのに、ドラコの腰丈ほどの高さまで生長している。
しかし、この大きさはというと、一般的な薬草と比べてでかすぎるのである。普通の薬草はドラコの膝丈程度までしか育たない。高さにしておおよそ30cmに届くかどうかである。それが70cm程度まで伸びているというのは異常なのである。だというのに、コネッホもヘンネも気にしている様子はない。もしかして、野生の薬草の事をすっかり忘れてしまっているのだろうか。
「おはようございます、ドラコ。そろそろ株分けですかね」
「おお、ヘンネ。そうじゃのう。花が咲いて種が採れるまではまだ時間が掛かるじゃろうからな。数を増やすというのなら、それも手かも知れんのう」
株分けとはある程度の茎のまとまりごとに根を分けて移植する方法だ。できる植物できない植物はあるものの、薬草は可能な部類に入る。なにせ、種1個から茎が数本生えるのである。これは薬草が劣悪な環境でも生き残れるようにと適応してきた結果である。茎を増やして花をたくさんつけるのだ。
「じゃが、この1株しかないからのう。できれば慎重になりたいところじゃよ」
「まあ、その気持ちは分かりますね。では、このまま花をつけて種が採れるまで様子見ですかね」
「うむ、そういう事になるな。最低でももうひと月といったところじゃろう」
ドラコの言葉に、ヘンネは驚いていた。商人をしているヘンネでも知らないとは、薬草の生態は謎に包まれているのようなのである。
「そう驚いてくれるな。わしでも知らぬ事がまだ多いのじゃぞ。じゃが、これだけ生命力が強いとなると、管理して増やした時には弊害が出る事が考えられる」
「と、言いますと?」
「端的に言うと増えすぎる事じゃな。下手をすると他の植物の生態系を脅かす事にもなりかねん。増やすのなら、他所に影響が出ぬようにする必要があるじゃろうな」
「ああ、なるほど……。確かにそうですね」
ヘンネはドラコの言い分に納得がいったようである。
「ふわあ、居ないと思ったらこんな所に居たのか。探したぞ」
「おはよう、ございます……」
ドラコとヘンネが話していると、コネッホとブルムがやって来た。二人とも眠そうである。
「ようやく起きましたか、コネッホ。ずいぶんと飲んでましたものね」
「まあな。久しぶりの酒だと思うと、つい飲み過ぎてしまった。フェリスに文句の一つでも言わないといけないな」
「そうですね」
「もっと寄こせと」
「えっ?」
コネッホに同意したヘンネが、直後の言葉で固まっていた。まさか欲しがる方向の苦情だとは思っていなかったからだ。
「いけませんよ、コネッホ。あなたは錬金術師なのですから、嗜むにしてもほどほどにして下さい。そんなに飲みたければ、弟子を育ててからにして下さいよ?」
ヘンネからお小言が繰り出される。
「まあ、そうだな。ブルムは筋がいいし、魔法使いという事もあって下地がある。そのうちいい錬金術師に育つよ」
「そ、そんな師匠。過大評価ですって……」
コネッホがブルムを評価していると、そのブルムはものすごく謙遜していた。
「まあ、さて。長居し過ぎるとモスレで卸すポーションの納品に支障が出るかな? というわけだドラコ、薬草を売ってくれ」
コネッホはぽりぽりと頭を掻きながらドラコに交渉を持ち掛ける。
「わしは相場は知らんぞ。ヘンネ、薬草の相場はいくらくらいじゃ」
「そうですね、一握りが銀貨1枚ですね。一握りというのはだいたいこんなくらいの量ですよ」
ヘンネは薬草の量を示しながらドラコに説明していく。
「一握りだとポーション4個くらいにしかならないから、まぁそんなものだね」
コネッホが肯定している。ちなみにコネッホのポーションで1個銅貨60枚、4個作れるなら銀貨2枚と銅貨40枚になるので手間賃など入れればそんなものだろうか。
「安いのう。どこでも手に入るとはいえ、危険度に比べれば安すぎないか? 金貨にしようと思うたら、頭の大きさよりも多い量が必要になるではないか」
ドラコは少々呆れた様子で話している。
「地味な作業で人気がないのですけれど、その買取価格も原因でしょうね」
「じゃろうなぁ」
だが、錬金術師からすれば材料が安く手に入るので嬉しいらしい。そんな彼らのポーションは大体1個銅貨50枚である。コネッホのポーションが少し高いのは、それだけ効果が高い事によるものだが、ポーションとしては安すぎないだろうか。ただヘンネに言わせれば、庶民たちにも手の出しやすいものという事で価格を抑えているとの事。それが薬草の買取価格にも影響しているという事のようである。魔物の素材は最低でも銀貨以上の買取になるので、魔物の討伐の方に人が流れるのは当然だろう。
「なんとも不遇じゃのう……」
ドラコはこう言うのが精一杯だった。
「とはいえ、あまり相場から逸脱するのもよろしくなかろう。お試しという事を含めて一握りを半額の銅貨50枚でどうじゃ」
「そうだな。ブルムの特訓の事もあるしそれでいいだろう」
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