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第207話 邪神ちゃんと酒と薬草と
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クレアールの薬草園は拡張がされた。しばらくすれば上級の薬草が花を咲かせて種が採れるようになるだろう。そうすると、上級の薬草も安定的に手に入るようになるだろう。古龍で邪神のドラコが関わった時点で、約束されたような未来である。
「かっかっかっ、いや、さすがのわしもここまでとは思うておらなんだわ」
ドラコは薬草園の一角に建てられた小屋で飲んでいるようである。
「しかしですね、ドラコ。上級の薬草が安定的に手に入るとなれば、これは流通の世界をぶち壊しますよ。冒険者も仕事が上がったりになりかねません」
ヘンネがそれに付き合いながら半ば愚痴っている。しかし、ドラコはそれすらも笑い飛ばしている。
「まだ仮定の世界じゃ。そう甘くいかんのが世の中ぞ。かっかっかっかっ」
フェリスが造ったシードルを飲みながら、ドラコがヘンネに言っている。
それにしても、見た目幼女が豪快に酒を飲む姿は何とも違和感のある絵面である。これでもドラコは軽く数100年を超えて生きている古の竜なのだ。邪神たちは少なくてもみんな200年は生きているのである。
「しかしまぁ、このシードルとかいう酒は、少々甘いかのう」
「仕方ありませんよ、フェリスメルのリンゴを使って、フェリスが魔法で造り上げたものですからね」
「フェリスが関わっておるなら仕方ないか。意外に甘党じゃからのう」
ヘンネの説明を聞いて納得するドラコなのである。本人が居なくてもネタになってしまうフェリス、さすがである。
「お酒も久しぶりだな。普段は錬金術に没頭しているから、結構飲む事すら忘れるんだ」
「師匠、それはどうかと思います」
コネッホとブルムもご相伴に預かっていた。
「しかしのう、上級の薬草ともなれば、コネッホが使いこなせばエリクサーもできてしまうのではないのか?」
「ドラコ、買いかぶり過ぎだ。いくらあたいでもそれは無理だ」
ドラコが冗談交じりに言えば、コネッホがすぐさま否定する。
「師匠、エリクサーとは?」
ブルムが気になって質問する。そこそこの冒険者でもあるブルムが知らないとは、いったいどんなものだろうか。
「冒険者であるお前さんでも知らぬか。コネッホ、教えてやるといいぞ」
「なんでドラコが偉そうなんだ。いや、実際偉いか」
ドラコに話を振られて、コネッホはちょっと不機嫌な顔をする。だが、すぐに気を取り直して説明を始める。
「エリクサーはポーション類の中でも最高位に存在する薬だ。さすがに死者を生き返らせる事はできないが、生きているならどんな死の淵からでも完全回復させられる奇跡のような薬なんだ」
「そ、そのような薬が……」
コネッホの説明にブルムが言葉を失っていく。なにせ聞いた事もない効果だからだ。
「うむ。それも飲ませる必要はない。体に振りかけるだけでも効果があるのじゃ」
ドラコが説明を追加する。すると、ブルムは完全に固まってしまった。驚きすぎたようである。
「しかも、エリクサーの材料はどれもこれも入手困難なものばかりだ。上級薬草程度で作れたら、それこそ大事件だぞ」
「かっかっかっ、確かにその通りじゃのう」
コネッホが呆れたように言うと、やっぱりドラコは笑っていた。
「じゃが、上級の薬草が採れたところで、現状コネッホにしか卸すつもりはないぞ。他の連中に扱えるとはとても思えんしのう……」
ドラコはそう言いながら、今度はちょっと考え込んでいた。
「ええ、私もその方がいいかと思いますよ。上級ポーションともなると、今は安定して作れるものではありませんからね。レシピがあるのならともかく、手探りで貴重な薬草を無駄使いされては困りますから」
「そうやって思うと、初めて上級薬草を使った奴はすごいものだよな」
コネッホがこう言うが、実際本当にそう思われる。ヘンネがこれだけ慎重になるのだから。
「かっかっかっ、人間も魔族も面白いやつばかりよのう!」
その様子を、ドラコが酒を飲みながら笑っていた。これだけころころ変わるあたり、おそらく酔っているのだろう。
「ちょっとドラコ、飲み過ぎじゃありませんか?」
「まったくだな、顔が赤いぞ」
「かっかっかっ、このくらいなんて事はないぞ」
ヘンネとコネッホが指摘すると、ドラコは笑いながら否定している。
「いけません。まったく久しぶりに飲んでるものだから、弱くなっているのですね。コネッホ、ブルム。ドラコを寝かせますよ」
「そうだな、手伝おう」
「あっ、はい!」
「なんじゃ、酔ってなどおらぬぞ。こら、やめぬか」
バタバタとドラコを取り押さえようとするコネッホたち。
「いけません。あなたはドラゴンなのです。下手に自制ができなくなったらどうなると思っているのですか」
「うむ、それは……」
こう言われてしまえばドラコは黙ってしまった。下手をすれば火の海だって十分あり得るし、目の前には自分が一生懸命育ててきた薬草が生えている。だからこそ、ドラコは冷静になれたのだった。
「そうじゃな、ほどほどにしておこう。久しぶりの酒じゃと思って、気が緩み過ぎたわい」
ドラコは大いに反省したのだった。
「それにしても、フェリスの奴、また懐かしいものを作ってくれたものだな。かれこれ200年ぶりくらいか」
「そ、そんな昔に?!」
そう、そんなに大昔の話なのである。酒といったらどういうわけかエールくらいしか残っていないのである。本当に不思議なものである。
「ふぅ、さすがに酔ったわい。わしは先に寝るから、お前さんたちはもう少し楽しんでおるといいぞ」
ドラコはそう言いながら、ふらふらと寝床へと入っていったのだった。その姿を見ながら、コネッホたちはふふっと笑っていたのだった。
「かっかっかっ、いや、さすがのわしもここまでとは思うておらなんだわ」
ドラコは薬草園の一角に建てられた小屋で飲んでいるようである。
「しかしですね、ドラコ。上級の薬草が安定的に手に入るとなれば、これは流通の世界をぶち壊しますよ。冒険者も仕事が上がったりになりかねません」
ヘンネがそれに付き合いながら半ば愚痴っている。しかし、ドラコはそれすらも笑い飛ばしている。
「まだ仮定の世界じゃ。そう甘くいかんのが世の中ぞ。かっかっかっかっ」
フェリスが造ったシードルを飲みながら、ドラコがヘンネに言っている。
それにしても、見た目幼女が豪快に酒を飲む姿は何とも違和感のある絵面である。これでもドラコは軽く数100年を超えて生きている古の竜なのだ。邪神たちは少なくてもみんな200年は生きているのである。
「しかしまぁ、このシードルとかいう酒は、少々甘いかのう」
「仕方ありませんよ、フェリスメルのリンゴを使って、フェリスが魔法で造り上げたものですからね」
「フェリスが関わっておるなら仕方ないか。意外に甘党じゃからのう」
ヘンネの説明を聞いて納得するドラコなのである。本人が居なくてもネタになってしまうフェリス、さすがである。
「お酒も久しぶりだな。普段は錬金術に没頭しているから、結構飲む事すら忘れるんだ」
「師匠、それはどうかと思います」
コネッホとブルムもご相伴に預かっていた。
「しかしのう、上級の薬草ともなれば、コネッホが使いこなせばエリクサーもできてしまうのではないのか?」
「ドラコ、買いかぶり過ぎだ。いくらあたいでもそれは無理だ」
ドラコが冗談交じりに言えば、コネッホがすぐさま否定する。
「師匠、エリクサーとは?」
ブルムが気になって質問する。そこそこの冒険者でもあるブルムが知らないとは、いったいどんなものだろうか。
「冒険者であるお前さんでも知らぬか。コネッホ、教えてやるといいぞ」
「なんでドラコが偉そうなんだ。いや、実際偉いか」
ドラコに話を振られて、コネッホはちょっと不機嫌な顔をする。だが、すぐに気を取り直して説明を始める。
「エリクサーはポーション類の中でも最高位に存在する薬だ。さすがに死者を生き返らせる事はできないが、生きているならどんな死の淵からでも完全回復させられる奇跡のような薬なんだ」
「そ、そのような薬が……」
コネッホの説明にブルムが言葉を失っていく。なにせ聞いた事もない効果だからだ。
「うむ。それも飲ませる必要はない。体に振りかけるだけでも効果があるのじゃ」
ドラコが説明を追加する。すると、ブルムは完全に固まってしまった。驚きすぎたようである。
「しかも、エリクサーの材料はどれもこれも入手困難なものばかりだ。上級薬草程度で作れたら、それこそ大事件だぞ」
「かっかっかっ、確かにその通りじゃのう」
コネッホが呆れたように言うと、やっぱりドラコは笑っていた。
「じゃが、上級の薬草が採れたところで、現状コネッホにしか卸すつもりはないぞ。他の連中に扱えるとはとても思えんしのう……」
ドラコはそう言いながら、今度はちょっと考え込んでいた。
「ええ、私もその方がいいかと思いますよ。上級ポーションともなると、今は安定して作れるものではありませんからね。レシピがあるのならともかく、手探りで貴重な薬草を無駄使いされては困りますから」
「そうやって思うと、初めて上級薬草を使った奴はすごいものだよな」
コネッホがこう言うが、実際本当にそう思われる。ヘンネがこれだけ慎重になるのだから。
「かっかっかっ、人間も魔族も面白いやつばかりよのう!」
その様子を、ドラコが酒を飲みながら笑っていた。これだけころころ変わるあたり、おそらく酔っているのだろう。
「ちょっとドラコ、飲み過ぎじゃありませんか?」
「まったくだな、顔が赤いぞ」
「かっかっかっ、このくらいなんて事はないぞ」
ヘンネとコネッホが指摘すると、ドラコは笑いながら否定している。
「いけません。まったく久しぶりに飲んでるものだから、弱くなっているのですね。コネッホ、ブルム。ドラコを寝かせますよ」
「そうだな、手伝おう」
「あっ、はい!」
「なんじゃ、酔ってなどおらぬぞ。こら、やめぬか」
バタバタとドラコを取り押さえようとするコネッホたち。
「いけません。あなたはドラゴンなのです。下手に自制ができなくなったらどうなると思っているのですか」
「うむ、それは……」
こう言われてしまえばドラコは黙ってしまった。下手をすれば火の海だって十分あり得るし、目の前には自分が一生懸命育ててきた薬草が生えている。だからこそ、ドラコは冷静になれたのだった。
「そうじゃな、ほどほどにしておこう。久しぶりの酒じゃと思って、気が緩み過ぎたわい」
ドラコは大いに反省したのだった。
「それにしても、フェリスの奴、また懐かしいものを作ってくれたものだな。かれこれ200年ぶりくらいか」
「そ、そんな昔に?!」
そう、そんなに大昔の話なのである。酒といったらどういうわけかエールくらいしか残っていないのである。本当に不思議なものである。
「ふぅ、さすがに酔ったわい。わしは先に寝るから、お前さんたちはもう少し楽しんでおるといいぞ」
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