邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
205 / 290

第205話 邪神ちゃんのうっ憤晴らし

しおりを挟む
 突然、ドラコが何かを思いついたようだ。
「そうじゃ。コネッホたちに相談がある」
「どうしたっていうのさ」
 ドラコがにやりと笑うので、コネッホが何となく警戒をし始める。
「なに、わしがちょちょっと出てくる間、お前さんたちにここの世話を頼もうと思うんじゃよ。薬草の勉強になるじゃろうし、わしも動けて一石二鳥じゃぞ」
「……相当にストレス溜めてるのね」
 にこやかに言うドラコに対して、コネッホは冷ややかな視線を送っていた。
「まあそう言うなて。わしとて長年動かなかった事があるから別にどうって事はないのだがのう。いかんせん最近は動きたくて仕方がないのじゃよ。誰のせいじゃろうなぁ……」
 ドラコがそんな事を言うものだから、コネッホはもう文句を言う気力すらなくなってしまった。
「はあ、仕方ないわね。とはいえ、あたいの薬草への知識なんてたかが知れている。基本的な事だけは教えてくれないかしら」
「そのくらい構わんぞ。基本的には普通の植物と同じじゃが、生長が安定するまでは細かく見てやらねばならん。注意点はそこくらいじゃのう」
 コネッホがジト目をドラコに向けると、ドラコは丁寧に世話の仕方を教えていく。コネッホがじっと眺める中、ブルムは熱心にメモを取っていた。
「このくらいでいいじゃろう。マイムの奴にでも会ってくるか」
「ああ、留守の間は任せてもらおう」
 ドラコが区切りをつけると、コネッホはどんと胸を叩いていた。それを見たドラコは、安心したようにドラゴンへと変身して飛び去っていった。
「はあ、何度見てもドラゴンの姿には驚きます……」
 ブルムはそう言って、見えなくなるまでドラコの姿を追っていた。

「ふむ、この辺りじゃな」
 ドラコはマイムの住む森に分け入っていた。さすがにドラゴンの姿のまま入るわけにはいかなかったので、いつもの幼女の姿である。
「おーい、マイム。居るかな?」
 ドラコの呼び掛けに、泉の水が少しずつ振動し始める。そして、ざざっと巻き上がったかと思えば、人の形を取った。
「誰かと思えば、ドラコですか。お久しぶりですね」
「うむ、実に久しいのう」
 相変わらずの無表情のマイムに対し、にこにことしているドラコ。
「それにしても、フェリスにしてもドラコにしても、なぜ私にわざわざ会いに来るのです? あなたたちなら別に自由にして頂いて構いませんのに」
「いやいや、さすがに友人を無視して好き勝手にはできんじゃろうて。わしらの仲といえど、弁えというのは必要じゃろうが」
 呆れたようにしているマイムに対して、ドラコは反論を入れている。親しき仲にも礼儀ありというわけである。邪神だから横柄というかというと、まったくそんな事はなかったのである。気にしないのは多分ルディくらいだ。だから、ルディはマイムに嫌われているのである。
「はあ、あの犬にも見習ってもらいたいものです……」
 フェリスとドラコの態度には、さすがに感服するマイムであった。
「それでは、適当に狩らせてもらうぞ」
「ええ、ドラコの事ですから大丈夫だとは思いますが、ほどほどでお願いしますね」
「分かっておる。これでも知恵ある古龍じゃからな!」
 そう言うと、ドラコは森の中を駆け出していった。マイムは手を振りながらその姿を見送る。
「はあ、本当に邪神と言われているのが信じられませんよ」
 森の中にドラコが消えていったのを確認すると、頬に手を当てながらマイムは微笑みながら呟いていた。

 ドラコは森の中を移動し、アクアバットの群れを見つける。
「ひー、ふー、みー……、大体15匹ほどか。数としては十分じゃな」
 ドラコはざざっと駆け寄っていく。
「キキッ?!」
 アクアバットの方もドラコの接近に気が付いたようで、格上と認識したらしく、逃げる挙動を見せている。
「ふむ、さすがの反応速度じゃの。しかし、逃げられると思うておるのか?」
 ぎゅんとドラコの移動速度が上がる。これでお嬢様スタイルなのだから、どんな脚力と体幹を持っているのだろうか。
「さて、消し飛ばんように手加減はするからの。……往生せい」
 さっきまで明るそうな表情が一変、ギンと獲物を狙う鋭い表情に変わるドラコ。それと同時にまとう空気も一変し、その影響でアクアバットはその動きを鈍らせてしまった。
「ギギッ!?」
 アクアバットたちが一瞬鳴いたかと思うと、ぼとぼとと地面に落ちていく。一体何が起きたというのだろうか。
「ふう、うまくいったようじゃのう。髪の毛を針のようにして飛ばして仕留めるには、このくらいの魔力を込めればよいのか。しかし、これではまるで暗殺術じゃのう。ラータじゃあるまいし、わしには似合わんのう」
 ドラコはそう言いながら、地面に落ちたアクアバットを回収していく。しかし、解体はしない、というかできない。さっきも本人が言っていた通り、ドラコが相手を攻撃すれば、大体の魔物は消し飛んでしまっているからだ。
「冒険者組合にでも頼むか。ヘンネを巻き込めば話くらいは通じるじゃろうて」
 ドラコは回収したアクアバットを、ポイポイと亜空間へと放り込んでいき、回収が終わると文字通り飛んで帰っていったのだった。
「むぅ、こうあっさり終わってしまっては、大したうっ憤晴らしにならん。困ったものよな」
 しかし、重要肝心な課題が片付かずに、すごく不満げな帰宅となったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...