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第203話 邪神ちゃんと悩ましい事態
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「ただいま戻りましたよ、ドラコ」
「おー、ヘンネか。してどうじゃったかな?」
ヘンネがモスレの街から戻ってきた。そして、早速ドラコに薬草の件を報告する。
「かっかっかっかっ。コネッホの奴め、相変わらずずいぶんととんでもないものを作ってくれよるな。下級から中級用に使う薬草で上級ポーションとは恐れ入る。それでこそコネッホというものじゃ!」
話を聞いたドラコは、まずそこに感心していた。
「しかし、あの街のは冒険者組合も商業組合も問題児ばかりじゃのう。コネッホは自分の事しか気にせんところがあるから、それをいい事に恩恵の上に胡坐をかいたツケが来たんじゃろうな。かっかっかっ」
ヘンネからの話を聞いたドラコは、大口を開けて笑っている。怒るとかいう感情は湧いてきていないようだった。さすがは長い年月を生きてきたドラゴンである。その程度の事でいちいち怒ったりはしないのである。
「にしても、コネッホはまた一人のままかの。せっかく弟子希望の人間が行ったというに、そういうところも相変わらずじゃのう……」
ドラコは首を捻っていた。
こういう反応を見せているドラコも、マリアやフェリスたちと出会うまでは一人でも何とも思わなかったし、自らはそういう存在だと決めつけていた節があった。しかし、自分と対等に戦い、言葉を交わし合った事でずいぶんと考え方が変わったのである。
そういう事もあってか、始祖龍や古龍の中でも人と積極的に関わるドラゴンは、このドラコ一人くらいなのである。
「そうじゃヘンネ」
「何でしょうか、ドラコ」
「わしを手伝ってくれる人間の手配はできたかの。いや、別に魔族でも構わんのじゃが。このままではわしはここを離れるわけにはいかん」
どこか困ったような表情をするドラコは、それはそれで新鮮なのである。
「探してはいるのですけれどね……。薬草を育てるとなると、他の農産物とはわけが違いますから、なかなか手を上げづらいのでしょう」
「ふーむ、そんなものかのう」
コネッホの言い分に、どこか納得してしまうドラコである。
薬草というのは、確かに育て方が他の植物とは違うところがあった。生長が安定するまではとにかく張り付きっぱなしになるのだ。それに、肥料は魔物から獲れる魔石を砕いて作る。それが一般人が食いつきにくい理由なのだろう。
「なんじゃろうなあ。わしがある程度まで安定化させる他ないか」
「ええ、おそらくそうなるでしょうね。正直言って、怪我や病気、果ては毒物や呪いにも有効ですから、安定して数が欲しいところなんですけどね」
ヘンネは考え込むようにしながら話している。
「まあ仕方ないのう。ある程度安定するまでわし一人で育てるとするか。コネッホがポーションにしてくれるなら、わしも安心して作れるというものじゃぞ」
休憩モードに入っていたドラコは、紅茶を優雅に飲みながら呟いている。さすがはお嬢様スタイルのドラコ、絵になっている。……土いじりで泥だらけになっている事を除けば。ただ、その泥臭い姿も不思議と似合うのがドラコなのである。
「安心と信頼のコネッホですね」
「じゃな」
そう言い合うと、ドラコとヘンネは大きな声で笑っていた。
「じゃがな、そろそろ一つ問題が出る」
「どうしたのですか?」
ドラコの急な真剣な表情に、ヘンネが気になって問い掛ける。
「簡単な話じゃよ。肥料が足りん。一番いいのは水属性の魔石なのじゃがな、アクアバイトラットにしてもアクアバットにしても、マイムの領域に生息する魔物じゃから討伐は難しかろうて」
ドラコの話を聞いて、ヘンネはつい考え込んでしまう。
「同程度の魔物はこの辺りには居らんじゃろうしのう。マイムはわしら、特にフェリスにしか心開いておらんからのう、これは由々しき事態じゃぞ」
「それは大問題ですね。冒険者ギルドに依頼でも出しますか?」
「できるならそれがいいかも知れんな。同程度の魔物で倒しやすいのは、ウィンドウルフといったところかのう」
「それはずいぶんとまた面倒な魔物だと思いますけどね」
ドラコが名を出したウィンドウルフは、属性こそないが動きが素早い事に定評のある魔物である。毛皮がよく靴の材料にされるのだが、そこそこの強さを持つので意外と市場では希少な魔物である。ちなみに、魔物自体は別に希少でも何でもない。ウルフ系は繁殖力が高いので、それなりに数を残しておけばすぐに増えていくのである。中にはオスだけメスだけにされながらも数が戻ったとか。どういう事だってば?!
「ボアの魔石は魔力が少ないからのう。ウィンドウルフの魔石の取引を冒険者組合に出しておいてくれんか。それと、ウィンドウルフの毛皮はフェリスメルの工房に回してくれ。工房に居る職人が嬉しがるだろうからのう」
「分かりました。ドラコがそういうのでしたら、そのように手配しておきます。報酬は上乗せですか?」
「薬草の売値でいい感じになるじゃろうしな。そうじゃな、少し色を付けておいてやってくれ」
ドラコがそう言うと、ヘンネとの間でトントン拍子で話がまとまっていった。
しばらくして、クレアールだけではなくフェリスメルにも同様の依頼が貼り出されたのだった。
「おー、ヘンネか。してどうじゃったかな?」
ヘンネがモスレの街から戻ってきた。そして、早速ドラコに薬草の件を報告する。
「かっかっかっかっ。コネッホの奴め、相変わらずずいぶんととんでもないものを作ってくれよるな。下級から中級用に使う薬草で上級ポーションとは恐れ入る。それでこそコネッホというものじゃ!」
話を聞いたドラコは、まずそこに感心していた。
「しかし、あの街のは冒険者組合も商業組合も問題児ばかりじゃのう。コネッホは自分の事しか気にせんところがあるから、それをいい事に恩恵の上に胡坐をかいたツケが来たんじゃろうな。かっかっかっ」
ヘンネからの話を聞いたドラコは、大口を開けて笑っている。怒るとかいう感情は湧いてきていないようだった。さすがは長い年月を生きてきたドラゴンである。その程度の事でいちいち怒ったりはしないのである。
「にしても、コネッホはまた一人のままかの。せっかく弟子希望の人間が行ったというに、そういうところも相変わらずじゃのう……」
ドラコは首を捻っていた。
こういう反応を見せているドラコも、マリアやフェリスたちと出会うまでは一人でも何とも思わなかったし、自らはそういう存在だと決めつけていた節があった。しかし、自分と対等に戦い、言葉を交わし合った事でずいぶんと考え方が変わったのである。
そういう事もあってか、始祖龍や古龍の中でも人と積極的に関わるドラゴンは、このドラコ一人くらいなのである。
「そうじゃヘンネ」
「何でしょうか、ドラコ」
「わしを手伝ってくれる人間の手配はできたかの。いや、別に魔族でも構わんのじゃが。このままではわしはここを離れるわけにはいかん」
どこか困ったような表情をするドラコは、それはそれで新鮮なのである。
「探してはいるのですけれどね……。薬草を育てるとなると、他の農産物とはわけが違いますから、なかなか手を上げづらいのでしょう」
「ふーむ、そんなものかのう」
コネッホの言い分に、どこか納得してしまうドラコである。
薬草というのは、確かに育て方が他の植物とは違うところがあった。生長が安定するまではとにかく張り付きっぱなしになるのだ。それに、肥料は魔物から獲れる魔石を砕いて作る。それが一般人が食いつきにくい理由なのだろう。
「なんじゃろうなあ。わしがある程度まで安定化させる他ないか」
「ええ、おそらくそうなるでしょうね。正直言って、怪我や病気、果ては毒物や呪いにも有効ですから、安定して数が欲しいところなんですけどね」
ヘンネは考え込むようにしながら話している。
「まあ仕方ないのう。ある程度安定するまでわし一人で育てるとするか。コネッホがポーションにしてくれるなら、わしも安心して作れるというものじゃぞ」
休憩モードに入っていたドラコは、紅茶を優雅に飲みながら呟いている。さすがはお嬢様スタイルのドラコ、絵になっている。……土いじりで泥だらけになっている事を除けば。ただ、その泥臭い姿も不思議と似合うのがドラコなのである。
「安心と信頼のコネッホですね」
「じゃな」
そう言い合うと、ドラコとヘンネは大きな声で笑っていた。
「じゃがな、そろそろ一つ問題が出る」
「どうしたのですか?」
ドラコの急な真剣な表情に、ヘンネが気になって問い掛ける。
「簡単な話じゃよ。肥料が足りん。一番いいのは水属性の魔石なのじゃがな、アクアバイトラットにしてもアクアバットにしても、マイムの領域に生息する魔物じゃから討伐は難しかろうて」
ドラコの話を聞いて、ヘンネはつい考え込んでしまう。
「同程度の魔物はこの辺りには居らんじゃろうしのう。マイムはわしら、特にフェリスにしか心開いておらんからのう、これは由々しき事態じゃぞ」
「それは大問題ですね。冒険者ギルドに依頼でも出しますか?」
「できるならそれがいいかも知れんな。同程度の魔物で倒しやすいのは、ウィンドウルフといったところかのう」
「それはずいぶんとまた面倒な魔物だと思いますけどね」
ドラコが名を出したウィンドウルフは、属性こそないが動きが素早い事に定評のある魔物である。毛皮がよく靴の材料にされるのだが、そこそこの強さを持つので意外と市場では希少な魔物である。ちなみに、魔物自体は別に希少でも何でもない。ウルフ系は繁殖力が高いので、それなりに数を残しておけばすぐに増えていくのである。中にはオスだけメスだけにされながらも数が戻ったとか。どういう事だってば?!
「ボアの魔石は魔力が少ないからのう。ウィンドウルフの魔石の取引を冒険者組合に出しておいてくれんか。それと、ウィンドウルフの毛皮はフェリスメルの工房に回してくれ。工房に居る職人が嬉しがるだろうからのう」
「分かりました。ドラコがそういうのでしたら、そのように手配しておきます。報酬は上乗せですか?」
「薬草の売値でいい感じになるじゃろうしな。そうじゃな、少し色を付けておいてやってくれ」
ドラコがそう言うと、ヘンネとの間でトントン拍子で話がまとまっていった。
しばらくして、クレアールだけではなくフェリスメルにも同様の依頼が貼り出されたのだった。
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