邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
200 / 290

第200話 邪神ちゃんとでき上がったお酒

しおりを挟む
 ドラコが栽培した薬草は厳重に保管されて、モスレのコネッホのもとに届けられる事になった。ドラコが育てた薬草は、コネッホの手に掛かればどんな風になるのだろうか。結果が分かるのは早くても2週間後、フェリスたちは気長に待つ事にしたのだった。
 のんびり過ごす事、数日間。
「あっ、そろそろお酒ができる頃かしら」
「お酒、ですか?」
 フェリスが思い出したかのように言うと、メルがきょとんとしていた。フェリスがお酒を造り始めた事を知らないからである。
 そういうわけで、フェリスは果樹園へとメルを連れて出向いた。果樹園に到着すると、果樹園の主人がフェリスたちを出迎えてくれた。
「天使様、ようこそおいで下さいました」
 果樹園の主人はとてもにこにこしている。どうやら機嫌がよいようだが、一体何があったというのだろうか。
「天使様が仕込まれたお酒ができ上がる日を、今か今かと待ちわびておりました。ささ、早くこちらへ」
 どうやらでき上がったお酒を飲みたいだけらしい。こんな昼間から飲みたがるとは、この主人はのん兵衛のようである。正直フェリスは呆れてしまっているし、メルも笑っている。
 そんな複雑な心境の中、フェリスたちは酒を造っている小屋へと向かう。果樹園の隅の方にポツンと建っている小屋、それこそがフェリスが造っているお酒の樽がある小屋である。
「あたしが最初に入って確認してくるので、ちょっと待ってて下さいね」
 フェリスがそう言うと、メルと果樹園の主人は静かに頷いて待つ事にした。
 小屋に入ったフェリスは、中の様子を確認する。中はフェリスが掛けた魔法のおかげで、きれいな状態が保たれている。
「さーて、出来栄えはどうかしらね」
 フェリスはまずは蓋を開けて、すっかりスッカスカになったリンゴの実を取り出す。搾りかすだが、これは肥料に活用するので、籠に除けておいた。
 それを終えると、樽の下につけておいたコックを開いて、コップに少量注ぐ。
「うーん、いい香り。さてお味はどうかしらね」
 フェリスはちょこっと口に含んで、口の中で転がすようにして味わう。そして、最後はごくんと飲み干した。
「かーっ、自分で言うのもなんだけど、久しぶりに造ってみたけどかなりいい出来じゃない?」
 フェリスはすごく満足そうな顔をしていた。そして、スキップをしながら外へと出ていく。
「ど、どうでしたか、フェリス様」
 外で待っていたメルが、心配そうにフェリスに尋ねる。すると、
「うん、いい感じ。数100年ぶりのお酒造りだったけど、結構おすすめできると思うわよ」
 フェリスは親指を立てて突き出していた。
「試飲会でもしたいんだけど、暇そうな人たち捕まえてきてくれないかな。村人にも飲んでもらわないと、あたしだけじゃ自画自賛でしかないからね」
「畏まりました、フェリス様」
「あっ、ルディは絶対連れてこないで。あの犬っころだけは酒ならどんなまずいものでもガンガン飲んじゃうから」
 村へ出ていこうとするメルに、フェリスは一応注意しておいた。インフェルノウルフという高位の魔物のはずなのにこの扱いである。そのくらいに酒癖が悪いのが悪いのである。
 こうして、メルたちの呼び掛けに応じた村人と冒険者たちが果樹園に集まったのである。その表情を見ると、新しいお酒と聞いて楽しみにしていたり、魔族が造ったお酒と聞いて不安そうな表情を浮かべたりと様々だった。不安ならどうして来たんだとフェリスは突っ込みたくなった。
 集まった人々の前に、フェリスは魔法を使って樽を移動させてくる。小屋も魔法で建てたので、フェリスの魔法で変形し放題である。
 それはそれとして、目の前にデーンと現れた大きな樽に、村人たちはとても驚いている。なにせ、どう見ても木で作ったものではないからだ。目の前にあるのはフェリスの魔法で作られた土の樽である。
「1杯1杯順番に注いでいくから、押さない割り込まないでお願いね」
 フェリスは土魔法でジョッキを作りながら、そのジョッキに半分程度の量を注いでいく。そして、一人、また一人と順番にお酒を受け取っていった。全体としては30人くらいだったので、結構すんなりと全員に行き渡った。
「メルは我慢してね。まだあなたには早いわ」
「うう、我慢します」
 お酒を渡してもらえなかったメルは、ちょっぴり拗ねていた。まだ幼いから仕方ないね。
 こうして、集まった村人たちに振る舞われたお酒だが、さすがにリンゴの果汁を発酵させたものとあって、エールとは違って甘みがあった。これによって評価はまちまちに分かれてしまっていた。男女ともに好評不評がが割れていたのは面白い。
「まあそんなものかな。評価としては割れちゃっているけど、お酒の選択肢が増えたのはいいんじゃないかしらね」
 そんな事を言いながらフェリスは満足げに笑っていた。
 フェリスメルに新しい名物ができたのはいいのだが、また勝手な事をやらかしたフェリスは、アファカに怒られていた。しかし、フェリスが造ったシードルはアファカには好評だったために、村の特産物に付け加えられる事になったのだった。

 200話に到達しました。お祝いのお酒回!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...