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第199話 邪神ちゃんと初物の薬草
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翌日、フェリスは商業組合の人を送るついでにクレアールを訪れた。フェリスメルから一番近い入口から入った左側の奥に、ドラコが世話する薬草園がある。
「来たわよ、ドラコ」
「おお、すまんな、フェリス」
互いに挨拶をするフェリスとドラコ。
「それで、薬草をポーションに加工したいんだってね」
「うむ、そうじゃ。取引するとしてもやっぱり十分な性質があるかどうかを知る必要があるからな。コネッホの居るモスレに届けるには7日も掛かってしまう。となれば、コネッホほどではないが錬金術の使えるフェリスに頼むしかなかろうて?」
フェリスが腰に手を当てながら首を傾げて事情を問うと、ドラコからは深刻な事だと言わんばかりに答えが返ってきた。
「……とりあえず事情は分かったわ。で、錬金術の道具はあるのかしら」
「ないのう」
「はあ?!」
道具の事を聞いてみると、即答だった。さすがのフェリスもキレそうになる。
「コネッホは道具も無しにやってみせるじゃろうが。お前さんもそれくらいできるじゃろうて?」
開き直るドラコ。ものすごく圧を掛けるように言い放つので、フェリスもやけくそだった。
「分かったわよ。やってやるわよ。でも、完成品を入れる容器ぐらい用意しておいてちょうだい。煮沸消毒を忘れないでよ!」
ぷんすかと怒るフェリスだったが、やる気は十分のようである。
ドラコは薬草の世話をすると言って薬草園に残ったので、フェリスは職員と一緒に商業組合へと移動する。その手には摘み取られたばかりの薬草が握られていた。
「こちらの部屋をお使い下さい」
フェリスが連れられてきたのは、商業組合の一室である。どうやら商談を行う部屋の一つのようだった。
そこに通されたフェリスは、風魔法と水魔法と火魔法で早速ポーション作りを始める。どんな水を使うかによってポーションの質は左右されるので、水魔法はポーションの質を決める重要な要素だ。正直、触れただけで毛がつやつやになったり植物が実ったりするようなフェリスの魔法で生み出した水を使っていいのか、疑問に思うところである。ただでさえ近くには川も流れているというのにだ。
フェリスはそんな事を気にする事なく、ざくざくと風魔法で薬草を切り刻んで上ですり潰し、水魔法で撹拌しながら火魔法で加熱していく。その動作には一切の迷いはなく、実に手慣れた感じだった。
いい感じに進んでいくために、フェリスは途中から鼻歌みたいなものを歌っていた。そうやっていると、ようやく商業組合の職員が煮沸消毒した瓶を持ってきた。蓋と封印も忘れずにである。
「お待たせしました、フェリスさん」
「誰を連れてきたのかと思ったけど、フェリスでしたのね」
職員と一緒にヘンネが現れた。まあ、クレアールの商業組合の責任者だから当然だろう。
「ああ、ヘンネ。ちょうどいいところに来たわ。鑑定してもらえる?」
フェリスはそう言って、空中に浮かぶ水の球を見る。その姿にヘンネはため息を吐きながら鑑定魔法を使った。
「ふむ、さすがはフェリスが作っただけの事はあるわね。コネッホにも劣らない品質ですよ」
「ふーん、そっかそっか」
ヘンネの評価にフェリスは満足しているようである。コネッホに負けないと言われたら、それは嬉しい限りなのだ。なにせあっちは本職なのだから。
「とりあえず試作品だから20瓶程度しか作ってないけどね。ただ、コネッホや他の錬金術師たちにも同じように作ってもらわないと、あたしだからっていう可能性があるのよね」
「それはあり得ますね。フェリスには変な付与魔法がありますからね」
「ちょっと、変なって何よ、変なって」
ヘンネの言い方に突っ掛かるフェリス。まあ、そう愚痴られてしまうくらいには、フェリスが何気なく触れてしまうとその宿っている不思議な力で妙な事が起こるのである。だからこそ、ドラコもフェリスには薬草園を手伝わせないのだ。下手に変質してまっては元も子もないからだ。どれだけフェリスの能力は警戒されているのだろうか。コントロールできていないから本当に困ったものである。
そういう警戒感はあるものの、今パッと思いつく錬金術師といったらコネッホしかおらず、フェリスはその代理としてやむなく白羽の矢を立てるしかなかったのだ。
結果としてその選択は正解だったらしく、ドラコがじっくり育てた薬草は、立派なポーションとなったのだった。
「まあ、フェリスの恩恵付与があったとしても、それはそれで立派な付加価値ですよ。売るなら売るって言って下さいね。フェリスには利益を受け取る権利があるんですし」
「いや、売るのはいいわよ。でも、売り上げならあたしよりもメルに渡してあげて。あたしの眷属としてけなげに頑張ってるんだから」
ヘンネの言い分に、フェリスはそんな事を言っている。フェリスにとってメルは大事な妹分なのである。
「まったく、相変わらず主人とまったく似てない魔族ですね」
「何とでも言ってちょうだい」
ヘンネにからかわれたフェリスは、嫌な顔をしながら舌を出していた。だが、しばらくすると二人揃って笑い出したのだった。
「それはさておき、売り上げに関してそうさせてもらいますね。この分なら作り方さえちゃんと守ってそこそこの腕があれば、ちゃんとしたポーションになるようですからね」
ヘンネはとても満足そうに笑っていた。
この後、フェリスは結局もう1セットポーションを作ってみたのだが、やはり同じような結果が得られたのだった。そして、でき上がったポーションは『フェリスメルの天使』とかいう恥ずかしい名前で売りに出され、あとで知ったフェリスが顔を真っ赤にしてヘンネに文句を言ったそうだ。
「来たわよ、ドラコ」
「おお、すまんな、フェリス」
互いに挨拶をするフェリスとドラコ。
「それで、薬草をポーションに加工したいんだってね」
「うむ、そうじゃ。取引するとしてもやっぱり十分な性質があるかどうかを知る必要があるからな。コネッホの居るモスレに届けるには7日も掛かってしまう。となれば、コネッホほどではないが錬金術の使えるフェリスに頼むしかなかろうて?」
フェリスが腰に手を当てながら首を傾げて事情を問うと、ドラコからは深刻な事だと言わんばかりに答えが返ってきた。
「……とりあえず事情は分かったわ。で、錬金術の道具はあるのかしら」
「ないのう」
「はあ?!」
道具の事を聞いてみると、即答だった。さすがのフェリスもキレそうになる。
「コネッホは道具も無しにやってみせるじゃろうが。お前さんもそれくらいできるじゃろうて?」
開き直るドラコ。ものすごく圧を掛けるように言い放つので、フェリスもやけくそだった。
「分かったわよ。やってやるわよ。でも、完成品を入れる容器ぐらい用意しておいてちょうだい。煮沸消毒を忘れないでよ!」
ぷんすかと怒るフェリスだったが、やる気は十分のようである。
ドラコは薬草の世話をすると言って薬草園に残ったので、フェリスは職員と一緒に商業組合へと移動する。その手には摘み取られたばかりの薬草が握られていた。
「こちらの部屋をお使い下さい」
フェリスが連れられてきたのは、商業組合の一室である。どうやら商談を行う部屋の一つのようだった。
そこに通されたフェリスは、風魔法と水魔法と火魔法で早速ポーション作りを始める。どんな水を使うかによってポーションの質は左右されるので、水魔法はポーションの質を決める重要な要素だ。正直、触れただけで毛がつやつやになったり植物が実ったりするようなフェリスの魔法で生み出した水を使っていいのか、疑問に思うところである。ただでさえ近くには川も流れているというのにだ。
フェリスはそんな事を気にする事なく、ざくざくと風魔法で薬草を切り刻んで上ですり潰し、水魔法で撹拌しながら火魔法で加熱していく。その動作には一切の迷いはなく、実に手慣れた感じだった。
いい感じに進んでいくために、フェリスは途中から鼻歌みたいなものを歌っていた。そうやっていると、ようやく商業組合の職員が煮沸消毒した瓶を持ってきた。蓋と封印も忘れずにである。
「お待たせしました、フェリスさん」
「誰を連れてきたのかと思ったけど、フェリスでしたのね」
職員と一緒にヘンネが現れた。まあ、クレアールの商業組合の責任者だから当然だろう。
「ああ、ヘンネ。ちょうどいいところに来たわ。鑑定してもらえる?」
フェリスはそう言って、空中に浮かぶ水の球を見る。その姿にヘンネはため息を吐きながら鑑定魔法を使った。
「ふむ、さすがはフェリスが作っただけの事はあるわね。コネッホにも劣らない品質ですよ」
「ふーん、そっかそっか」
ヘンネの評価にフェリスは満足しているようである。コネッホに負けないと言われたら、それは嬉しい限りなのだ。なにせあっちは本職なのだから。
「とりあえず試作品だから20瓶程度しか作ってないけどね。ただ、コネッホや他の錬金術師たちにも同じように作ってもらわないと、あたしだからっていう可能性があるのよね」
「それはあり得ますね。フェリスには変な付与魔法がありますからね」
「ちょっと、変なって何よ、変なって」
ヘンネの言い方に突っ掛かるフェリス。まあ、そう愚痴られてしまうくらいには、フェリスが何気なく触れてしまうとその宿っている不思議な力で妙な事が起こるのである。だからこそ、ドラコもフェリスには薬草園を手伝わせないのだ。下手に変質してまっては元も子もないからだ。どれだけフェリスの能力は警戒されているのだろうか。コントロールできていないから本当に困ったものである。
そういう警戒感はあるものの、今パッと思いつく錬金術師といったらコネッホしかおらず、フェリスはその代理としてやむなく白羽の矢を立てるしかなかったのだ。
結果としてその選択は正解だったらしく、ドラコがじっくり育てた薬草は、立派なポーションとなったのだった。
「まあ、フェリスの恩恵付与があったとしても、それはそれで立派な付加価値ですよ。売るなら売るって言って下さいね。フェリスには利益を受け取る権利があるんですし」
「いや、売るのはいいわよ。でも、売り上げならあたしよりもメルに渡してあげて。あたしの眷属としてけなげに頑張ってるんだから」
ヘンネの言い分に、フェリスはそんな事を言っている。フェリスにとってメルは大事な妹分なのである。
「まったく、相変わらず主人とまったく似てない魔族ですね」
「何とでも言ってちょうだい」
ヘンネにからかわれたフェリスは、嫌な顔をしながら舌を出していた。だが、しばらくすると二人揃って笑い出したのだった。
「それはさておき、売り上げに関してそうさせてもらいますね。この分なら作り方さえちゃんと守ってそこそこの腕があれば、ちゃんとしたポーションになるようですからね」
ヘンネはとても満足そうに笑っていた。
この後、フェリスは結局もう1セットポーションを作ってみたのだが、やはり同じような結果が得られたのだった。そして、でき上がったポーションは『フェリスメルの天使』とかいう恥ずかしい名前で売りに出され、あとで知ったフェリスが顔を真っ赤にしてヘンネに文句を言ったそうだ。
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