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第198話 邪神ちゃんと由々しき事態
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フェリスがお酒造りは始めた頃、ドラコも薬草園の様子を見守っていた。
「ふーむ、フェリスたちに集めさせたアクアバットの魔石と牙は、いい感じの肥料になっておるようじゃのう。順調じゃわい」
どうやら薬草の生育状況は、ドラコが満足いくくらいの生長をしているようだった。
元々のでかい図体からは想像できないくらい、ドラコは丁寧に薬草たちを世話している。下級と中級のポーション類の材料となる薬草は、雑草に毛が生えたようなものなのでそんなに丁寧に扱わなくても生長だけはきちんとする。ただ、その生長要因が特殊なので手に入れるのは難しかったのだ。魔力が栄養になるのだから、魔物が生息する地域にたくさん生えているのは納得できる話だし、人工栽培がうまくいかない事もまた納得できるのだ。
「ご機嫌のようですね、ドラコ」
「おお、ヘンネか。商業組合の仕事はいいのか?」
声を掛けてきたヘンネにドラコが反応する。
「おあいにく様、これはその商業組合の仕事なんですよ」
にやりと笑って答えるヘンネである。
「そうか。今後の取引を見据えて、生長具合を確認しに来たというわけじゃな。ならばゆっくり見てくといい」
「話が早くて助かりますね」
ドラコは相変わらずのドレス姿で薬草の世話をしている。その姿を見ながら、ヘンネは笑いながら話している。まあ、植物の世話をドレス姿でしているドラコの姿は、どこからどう見ても違和感しかないのだから仕方がない話である。
「しかし、本当に魔力を与えるといい感じに育つのですね」
「うむ、これは一部の者しか知らん事だったからな。まあ、魔石を肥料にするなんて考えつかんじゃろうから、仕方あるまいて」
「そうですね。そもそも人間に魔石を砕くのは難しいでしょうからね」
風にさわさわと揺らめく薬草を眺めながら、ドラコとヘンネが話している。
「それにしても、短時間で結構育ってますね」
「薬草なんてそんなもんじゃよ。生育環境が悪い事が多いから、何とか生き残ろうとして成長を早めておるんじゃ。摘み取った後もあまりすぐに枯れんじゃろう?」
「はっ、確かに……!」
ドラコの説明にヘンネははっと気が付く。
「早く生長してその後は生き残るための栄養を多く蓄えておるんじゃよ。じゃから、簡単には枯れんし、ポーションの材料にもなるというわけじゃ。そのまま食べただけでも効果があるのはそういう事じゃぞ」
ドラコは説明が終わるといつものように笑っていた。
「ふむふむなるほど。私も知らなかったので、これは勉強になりますね」
「そうじゃろう、そうじゃろう。わしとてだてに古代竜を自称しておらんという事をしっかりと認識できたじゃろう?」
ドラコはドヤ顔を決めている。悔しいけれどもその通りだから文句が言えなかった。
「まあ、そういう事はさておき、このくらいならそろそろ収穫しても問題ないじゃろうて。調合のできる奴は居るかの?」
ドラコがそう尋ねると、ヘンネはどういうわけか暗い顔をしていた。
「なんともまあ、錬金術師が居らんのか……」
「ええ、まったくなのよね。募集も先日掛けてみたんですけど、今のところ返事はなしですね」
なんともまあ、薬の調合のできる人物が居ないという信じられない状態なのだという。これではせっかく育てた薬草も無駄になってしまう。
「困ったのう。ここを任せられる人物も居らんし、わしは離れるわけにはいかんしのう……」
ドラコはヘンネと一緒に悩み始めた。
「はあ、あまり頼りたくはないですが、フェリスに声を掛けてみますか」
「うむ、それがいいじゃろうのう……」
そんなわけで、二人はフェリスを頼る事にしたのだった。なにせ邪神たちの能力を劣化ながらもかなり持ち合わせているのだから、これ以上都合のいい存在というのは居ないのである。ヘンネは早速商業組合に戻って、フェリスメルへと連絡を取ったのだった。
フェリスメルに使いが着いた頃、フェリスはちょうど工房でハバリーと話をしている頃だった。つまりはもう日暮れ前である。ちょうどフェリスたちが自宅に戻る頃に、クレアールからの使いと見事に出くわしたのである。
「あっ、フェリスさん。ちょうどいいところでお会いしました」
「クレアールの商業組合の人じゃないの。何の用なの?」
「実はですね……」
使いの人が話し始めようとしたのだが、フェリスは往来で話すのは避けた方がいいと、使いの人を自分の家に招いた。そして、そこで改めて話を聞く事にしたのだ。
家に戻ったフェリスたちは、とりあえず飲み物を用意する。ついでに時間が時間なので泊まっていってもらう事にしたのだった。
「申し訳ありません。まさか泊めて頂けるなんて……」
「まあ、日が暮れて危険になるからね。間にはあの川があるんだから」
そう、フェリスが泊めた理由は、クレアールに戻る最中にルディに掘ってもらった溝に流した川があるからである。真っ暗の中進めば、うっかり落っこちて流されかねないのだ。使いの人の安全を真っ先に考えたのである。
そして、使いの人から伝えられた言葉に、フェリスは思いっきり腕を組んで悩み始めたのだった。
「うんまあ、そういう事情なら仕方ないわね。明日、送るついでにそっちに向かうけど、あまり期待しないでちょうだい」
フェリスはその頼み事を了承したのだった。
「ふーむ、フェリスたちに集めさせたアクアバットの魔石と牙は、いい感じの肥料になっておるようじゃのう。順調じゃわい」
どうやら薬草の生育状況は、ドラコが満足いくくらいの生長をしているようだった。
元々のでかい図体からは想像できないくらい、ドラコは丁寧に薬草たちを世話している。下級と中級のポーション類の材料となる薬草は、雑草に毛が生えたようなものなのでそんなに丁寧に扱わなくても生長だけはきちんとする。ただ、その生長要因が特殊なので手に入れるのは難しかったのだ。魔力が栄養になるのだから、魔物が生息する地域にたくさん生えているのは納得できる話だし、人工栽培がうまくいかない事もまた納得できるのだ。
「ご機嫌のようですね、ドラコ」
「おお、ヘンネか。商業組合の仕事はいいのか?」
声を掛けてきたヘンネにドラコが反応する。
「おあいにく様、これはその商業組合の仕事なんですよ」
にやりと笑って答えるヘンネである。
「そうか。今後の取引を見据えて、生長具合を確認しに来たというわけじゃな。ならばゆっくり見てくといい」
「話が早くて助かりますね」
ドラコは相変わらずのドレス姿で薬草の世話をしている。その姿を見ながら、ヘンネは笑いながら話している。まあ、植物の世話をドレス姿でしているドラコの姿は、どこからどう見ても違和感しかないのだから仕方がない話である。
「しかし、本当に魔力を与えるといい感じに育つのですね」
「うむ、これは一部の者しか知らん事だったからな。まあ、魔石を肥料にするなんて考えつかんじゃろうから、仕方あるまいて」
「そうですね。そもそも人間に魔石を砕くのは難しいでしょうからね」
風にさわさわと揺らめく薬草を眺めながら、ドラコとヘンネが話している。
「それにしても、短時間で結構育ってますね」
「薬草なんてそんなもんじゃよ。生育環境が悪い事が多いから、何とか生き残ろうとして成長を早めておるんじゃ。摘み取った後もあまりすぐに枯れんじゃろう?」
「はっ、確かに……!」
ドラコの説明にヘンネははっと気が付く。
「早く生長してその後は生き残るための栄養を多く蓄えておるんじゃよ。じゃから、簡単には枯れんし、ポーションの材料にもなるというわけじゃ。そのまま食べただけでも効果があるのはそういう事じゃぞ」
ドラコは説明が終わるといつものように笑っていた。
「ふむふむなるほど。私も知らなかったので、これは勉強になりますね」
「そうじゃろう、そうじゃろう。わしとてだてに古代竜を自称しておらんという事をしっかりと認識できたじゃろう?」
ドラコはドヤ顔を決めている。悔しいけれどもその通りだから文句が言えなかった。
「まあ、そういう事はさておき、このくらいならそろそろ収穫しても問題ないじゃろうて。調合のできる奴は居るかの?」
ドラコがそう尋ねると、ヘンネはどういうわけか暗い顔をしていた。
「なんともまあ、錬金術師が居らんのか……」
「ええ、まったくなのよね。募集も先日掛けてみたんですけど、今のところ返事はなしですね」
なんともまあ、薬の調合のできる人物が居ないという信じられない状態なのだという。これではせっかく育てた薬草も無駄になってしまう。
「困ったのう。ここを任せられる人物も居らんし、わしは離れるわけにはいかんしのう……」
ドラコはヘンネと一緒に悩み始めた。
「はあ、あまり頼りたくはないですが、フェリスに声を掛けてみますか」
「うむ、それがいいじゃろうのう……」
そんなわけで、二人はフェリスを頼る事にしたのだった。なにせ邪神たちの能力を劣化ながらもかなり持ち合わせているのだから、これ以上都合のいい存在というのは居ないのである。ヘンネは早速商業組合に戻って、フェリスメルへと連絡を取ったのだった。
フェリスメルに使いが着いた頃、フェリスはちょうど工房でハバリーと話をしている頃だった。つまりはもう日暮れ前である。ちょうどフェリスたちが自宅に戻る頃に、クレアールからの使いと見事に出くわしたのである。
「あっ、フェリスさん。ちょうどいいところでお会いしました」
「クレアールの商業組合の人じゃないの。何の用なの?」
「実はですね……」
使いの人が話し始めようとしたのだが、フェリスは往来で話すのは避けた方がいいと、使いの人を自分の家に招いた。そして、そこで改めて話を聞く事にしたのだ。
家に戻ったフェリスたちは、とりあえず飲み物を用意する。ついでに時間が時間なので泊まっていってもらう事にしたのだった。
「申し訳ありません。まさか泊めて頂けるなんて……」
「まあ、日が暮れて危険になるからね。間にはあの川があるんだから」
そう、フェリスが泊めた理由は、クレアールに戻る最中にルディに掘ってもらった溝に流した川があるからである。真っ暗の中進めば、うっかり落っこちて流されかねないのだ。使いの人の安全を真っ先に考えたのである。
そして、使いの人から伝えられた言葉に、フェリスは思いっきり腕を組んで悩み始めたのだった。
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