邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第197話 邪神ちゃんの執着

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 フェリスによって新しいお酒造りが、ドラコによって薬草の栽培が始まった。こういった事をやるあたり、さすが邪神は普通の人間には理解できない存在なのである。
 とはいえども、邪神たちの居る生活というものは、気が付くと日常に馴染んでしまうものである。
「おーし、ガキども、クモたちを撫で回すぞ」
「はーいっ!」
 ジャイアントスパイダーの飼育場では、今日もルディが元気に指揮を執っている。冒険者たちから餌となる肉などが届けられるようになったので、ルディも飼育場に顔を出す事が増えたのだ。相変わらずクモには嫌われているものの、子どもたちからは人気なのである。わんこは人気なのである。
 ジャイアントスパイダーの吐き出す糸は、ストレスがあると毒性を持ってしまう。だが、子どもたちに撫でられたクモたちは、どういうわけかリラックスして質の良い糸を吐き出してくれるのである。多分子どもたちが好きなのだろうが、この理由ははっきりとは分かっていない。だから、飼育場には子どもたちがやって来ているのである。餌と見ているのかも知れないが、ここまで一度も襲い掛かった事例も一人になった子どもが減った事例もないので、単に子ども好きといったところなのだろう。
 だが、クモたちが吐き出した糸を回収するのは大人たちの役目である。子どもたちには重量があり過ぎるのだ。こればかりは仕方がなく、子どもたちと戯れている間にせっせと大人たちが回収しているのである。
「ルディ、頑張ってるわね」
「おう、フェリス。珍しいな、ここに来るなんてよ」
 フェリスが声を掛けると、ルディが反応を返す。
「まあね。さっきまでヒッポスと一緒に居たんだけど、飼育つながりでこっちを見に来たってわけ」
「ああ、あの馬野郎のとこか」
 ルディはヒッポスの事をそんな風に呼んでいる。真面目なヒッポスと気ままなルディはそれなりに気が合わないのである。大体間にはフェリスかヘンネが挟まっており、二人は相当に苦労させられてきたのである。ちなみにだが、ルディは猿の邪神とも仲が悪かった。こんなところでも犬猿の仲はやめてほしい。
「とはいっても、ヒッポスが面倒を見ている馬たちは、評判がいいのよ? スパイダーヤーンに比べれば劣るけど、そこそこの稼ぎ頭なんだからね?」
「へ~」
 ルディは興味なさそうである。
「とりあえず、ここも問題なさそうね。あとは職人街に行ってハバリーの様子でも見てくるわ」
「おう、ここは俺に任してさっさと見てこい。俺ら以外には人見知りするからな、ハバリーは」
 ヒッポスの名が出てきてルディは少々不機嫌のようである。フェリスをさっさと立ち去らせようと手を払っている。本当に仲が悪いんだなと、フェリスはついつい微笑ましくなって笑ってしまう。
「それじゃ、ここは頼んだからね」
 フェリスはそう言って、飼育場を後にしたのだった。

 そして、やって来たのは職人街。ルート的にはこっちの方が移住者居住区からは近いのだが、フェリスは空が飛べるので関係なかった。ちなみに、親子で牛の世話をするメルの様子もちゃっかり覗いてきていた。
「ハバリー、お邪魔するわよ」
「わわわっ、フェリス?!」
 突然のフェリスの来訪に、ハバリーがものすごく慌てていた。その様子を見たフェリスは、つい首を傾げてしまう。
「一体どうしたって言うのよ。いくら何でも大げさすぎない?」
「ご、ごめん。ちょっと作業に集中してたものだから、つい」
 フェリスが咎めると、ハバリーは言い訳をしていた。だが、その言い訳の内容を聞いてフェリスはしょうがないかと思ったのだった。
「それにしても、工房も順調そうね。少しは休む暇はありそうかしら」
「それなら問題ない。私の役目はほとんど金属の取り出しくらいだ。最近は職人が増えてきたから、私も金属加工から解放されたんだよ」
「そう、それならよかったわ」
 ハバリーが現状を説明してくれたので、フェリスの疑問はすっと解消された。
「ウッディは木工、ピールは皮革だから、私の金属加工とはあまり関係がないが、装飾職人のティアラとだけはよく話をするね。ただ、金属から宝石まで幅広く扱うから、かみ合わない事もしばしばあるんだよ」
 裏方で作業をするハバリーは、人見知りが発動していないせいか結構はきはきと喋っている。本当は結構よく喋る目隠れさんなのである。
「そっか、元気そうで何よりね。新しいお酒ができたら、一緒にどうかしらね」
「おー、いいね。私はエールが苦手だから、そうじゃないお酒は楽しみになるな」
 フェリスが今造っているお酒を話題に出すと、ハバリーがもの凄く食いついてきた。どんだけエールで我慢してきたのかが分かる。
「リンゴを発酵させて作るシードルだけど、魔法でちょちょっとずるしてるとはいっても、でき上がるのは一週間後よ。だから、もうちょっと我慢ね」
「おお、いいね。それなら俄然仕事頑張れそうだわ」
 フェリスが新しいお酒の話をすると、いつもとは明らかに違うテンションで反応するハバリーだった。
「よし、今日の金属抽出は終わったから、帳簿の整理でもしてるよ。お酒、楽しみにしてるからね」
「はいはい。まあ頑張ってちょうだい」
 ハバリーが手を振って見送る中、フェリスは工房を後にしたのだった。
「これは、もっと造らないとあっという間に飲み干されそうだわ……」
 フェリスは邪神仲間たちのお酒に対する執着に、ちょっと恐怖を感じたのだった。
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