邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
196 / 290

第196話 邪神ちゃんたちはお酒好き

しおりを挟む
 お酒を造り始めたが、魔法で熟成をしているために、フェリスはヒッポスについて行って馬たちの様子を見る事にした。畜産業も盛んなフェリスメルなので、馬もちゃんと居るのである。
「なんだ、フェリス。結局私について来たのか」
「ええ。お酒は魔法で管理してるから問題ないだろうし、ヒッポスとクーとはここのところ結構話してないじゃないの。だから久しぶりにゆっくり話をしようと思ってね」
 ヒッポスの質問に、フェリスは真顔で答えていた。
「それでどうなの、フェリスメルの馬の様子は」
「まあ、いたって健康だな。フェリスの恩恵があるっていうのは大きい。私だけではあそこまで健康には育たないだろう」
 ヒッポスはお世辞なしにまじめに答えていた。馬に関しては専門家であるヒッポスがそう言うのだ。評価は間違いないだろう。
「ふーん……。まあ、実際に馬を見せてもらうから、楽しみにしているわ」
 フェリスはそう言ってにこやかに笑顔を見せていた。
 フェリスメルで飼われているのは、牛、豚、羊、馬、クルーク、ジャイアントスパイダーの6種類と結構種類に富んでいる。特にクルークとジャイアントスパイダーは特徴的だった。
 そうしてやって来たのは、移住者居住区にある牧場だった。フェリスメルで飼われている家畜の中で馬だけはこの区画にしか居ないのである。ちなみに一部の馬はクレアールに移住させられており、ヒッポスはクレアールにも様子を見に行く事があるのである。
 馬たちは居住区内の丘に近い場所で放牧されている。そこで馬たちは、のんびり歩いてたり駆けまわっていたり牧草を食べていたりと、実に気ままに過ごしていた。ヒッポスが居るので、何かあってもすぐに対処できるのは大きいのである。
「ヒッポス様、お帰りなさいませ」
「ただいま。変わりはないようだね」
「はい、ヒッポス様のおかげです」
 馬の世話をしている住民が、ヒッポスを見つけると挨拶をしてきた。邪神なのは知れ渡ってはいるものの、さすがに普通に会話をしている。最初に見た時はあんなに驚いて腰を抜かしていたのに、これが慣れというものなのだろう。
「餌になるリンゴを貰ってきた。ここでもリンゴを育てられればいいんだが、そうも言ってられないからな」
 この移住者居住区では、ヒッポスの言う通りリンゴは育てられていなかった。ほとんどは畑になっているのである。人参や砂糖大根といったものが育てられているのである。
 それにしても、この居住区はフェリスメルの他の場所と比べても、結構のんびりとしている。ここだって街道に沿った場所にあるのだが、他の場所に比べると明らかに人の数が違うのだ。
 理由としては、お店がないのが一番だろう。あるとはいっても、馬の販売と馬車の手配くらいである。そういった役割は、フェリスメルの本体と職人街が全部請け負ってしまっているのだ。だからこそ、圧倒的に静かなのである。
「おや、フェリス来てたのね」
 フェリスが馬と戯れていると、クーが現れた。ちなみにクーはここで畑仕事や丘に広がる森の管理をしているのである。牛の邪神で力があるからである。
「あら、クーじゃないの。どうしたのかしら」
「午前中の仕事がひと通り片付いたので、ヒッポスとちょっと話をしに来たんです。フェリスメルとクレアールの農業と家畜の世話は、私たちの役目ですから」
 フェリスが尋ねると、クーからは真面目な顔でそう答えていた。クーはのんびり屋でヒッポスは少しせっかちだけれども、性格自体はどちらも真面目なのでこうやって時々話をしているらしいのだ。
「そうか。だったら、フェリスも居る事だし、お昼にしてしまおうか。フェリスがいろいろやらかしてくれていたらしいし、その話をゆっくり聞いてみたいもんだ」
「あら、フェリスったらまたやらかしていたんですか?」
「ちょっと待ってよ。なんでやらかしって言うのよ。あたしだっていろいろ考えてるんだから!」
 ヒッポスとクーにやらかしと言われて怒り出すフェリス。そのやり取りを見た住民が苦笑いをしている。ちなみにこういうやり取りは、別に初めてではないのである。フェリスは昔から何かしらやらかしてきていたのだから。
 とりあえず、フェリスが顔を真っ赤にしている間に、クーが昼食の準備を始めたのだった。
「へえ、ドラコが薬草栽培をね」
 食事をしながら、その話に食いつくヒッポス。
「あら、ヒッポスが食いつくのね、その話」
「まあな。馬ってのは思ったより繊細だからな。怪我をした時の対処は魔法だけでできない事もあるんだよ」
「へぇ~」
 ヒッポスの話に、フェリスは驚いたように聞いている。どうやらフェリスでもこの辺りの事は知らないようだった。
 この後も、クーとヒッポスからは居住地や家畜たちの様子を細かく聞く事ができたフェリス。それを聞くに、二人はずいぶんと忙しく奔走していたようである。
「これだけ忙しいからさ、フェリスが造るお酒っていうのはすごく興味がある。エールもさすがに飲み飽きてきたからな」
「そうね。昔はもっとたくさんの種類のお酒があったから、なかなか飽きなかったわよね」
「なあ、クー。ブドウ育てようぜ、ブドウ」
「いいですね。ワインは高級感がありますし」
 ルディだけじゃなくて、クーやヒッポスたちも他のお酒を所望しているようだった。これは本気で早くなんとかしないといけない話のようである。
「まあ、ワインを作るにはブドウを植えないといけないから、1週間後にできるシードルで我慢してちょうだいよ」
「そうですね。楽しみにしていますよ」
 そんなこんなでいろいろと話の盛り上がるフェリスたちだったのである。
 その後、商業組合を通じてブドウの種を取り寄せる事になったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覆面バーの飲み比べで負かした美女は隣国の姫様でした。策略に嵌められて虐げられていたので敵だけど助けます。

サイトウ純蒼
ファンタジー
過去の戦で心に傷を負った男ロレンツが通う『覆面バー』。 そこにお忍びでやって来ていた謎の美女アンナ。実は彼女は敵国の姫様であった。 実はそのアンナの国では国王が行方不明になってしまっており、まだ若き彼女に国政が任されていた。そしてそんなアンナの周囲では、王家の座を狙って彼女を陥れようとする様々な陰謀や謀略が渦巻く。 覆面バー。 酒を飲みながら酔ったアンナがロレンツに言う。 ――私を、救って。 ロレンツはただひと言「分かった」とそれに答える。 過去、そして心に傷を負った孤高の剣士ロレンツが、その約束を果たすために敵国へ乗り込む。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...