邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
195 / 290

第195話 邪神ちゃんのお酒造り

しおりを挟む
 フェリスメルに戻ってきたとはいっても、まだ行くところはある。しかし、日が暮れてきてしまったので、フェリスはメルと一緒に我が家に戻ってきた。
「おー、フェリス。戻ってきてたのか」
 家に戻るとルディが出迎えてくれた。
「なんだ、ルディ。もう戻ってきてたの」
「まあな。最近は冒険者たちが餌を用意してくれるもんだから、俺の出番も減ってきてるんだよ。日が暮れるとクモどもは活動を終えて眠りに就くからな。だから、俺もこうやって家に戻ってきたってわけよ」
 ルディはけらっけらと明るく笑っている。普段は犬っころとか言ったりもするフェリスだが、こういう屈託のない笑顔と見せてくるあたり、ルディの事は気に入ってもいるのである。
 夕食を作り終え、その食事の席でルディがフェリスに話し掛けてきた。
「なあ、フェリス」
「なによ」
「エール以外の酒ってないのか?」
 ルディの言葉にきょとんとするフェリス。
「そういえば見てないわね。果物もあるんだし、造ろうと思えば造れるはずだわ」
 そして、何かを思い出したかのように、ぶつぶつと考え込み始めた。
「おっ、フェリスがやる気モードになったぞ」
 その姿を見てにんまりと笑うルディ。その様子にメルは驚き戸惑っていた。
「オレンジやリンゴはあるんだし、あーでもブドウがないわ。むむむむ……」
 急に考え込み始めたフェリスを見て、メルがだんだんと心配になってきていた。
「あの、フェリス様は大丈夫なんでしょうか……」
「心配ないって。今はフェリスが持っている知識から、お酒に関する事を思い出してるところなんだよ。数100年前にはいろんなお酒があったからな」
 メルに説明しながら、なぜかよだれをたらし始めるルディである。どうやらルディはお酒にはいい思い出が多いようだった。ただ、お酒を飲んだ事のないメルには「そうなんですね」という反応しかできなかった。
「くうう、これは楽しみだぜ」
 ルディは楽しみだと言わんばかりに尻尾をばたばたと振るっていた。

 翌日、フェリスは果樹園に顔を出していた。ここで採れるリンゴからお酒を造るためである。
「おお、天使様。リンゴがご入用なのですか。おいくつほどをお渡ししましょうか」
 果樹園の主人は食事用のリンゴだと思っているようで、その数を聞いてきている。しかし、フェリスから返ってきた答えは、
「背負い籠に2つ分よ」
 とんでもない数を要求したのである。
「て、天使様。い、一体何をお作りになるおつもりですか?」
 食堂のアップルパイでも籠1個分の量で済んでいるので、そりゃ驚くというものである。
「お酒。昔あった果実酒の再現をしてみたくなったのよ」
「り、リンゴからお酒が造れるのですか?」
 果樹園の主人が疑いの目を向けている。今の人間たちはエールしか知らないようなのだ。
「造れるわよ。ブドウとリンゴの2種類はあったからね。ルディに言われるまですっかり忘れてたけど」
「おお、そんなお酒があったのですね」
 やっぱり知られていないようである。
 そんなわけで、フェリスはお酒を造るために、どこかいい建物はないかと探して始めた……のだが、見つからなかったので、最終手段と言わんばかりにフェリスは地面に手を置いた。
「はあっ!」
 バゴーンとその場に土でできた建物が出現する。職人街の工房を作った時と同じ魔法だった。それを見た果樹園の主人が言葉を失っている。
 しかし、フェリスのとんでも魔法はそれで終わる事はなかった。土魔法で大きな樽を作り出すと、そこへリンゴを放り込んでいく。水魔法を使ってざばざばときれいにすると、風魔法で切り刻み、細かくなったところに空気で圧縮していく。あっという間に樽の中はリンゴの果汁で満たされていた。ここまでものの数分である。
「これで蓋をして発酵を続ければ、いいお酒になるはずよ」
 フェリスは何とも満足そうな顔をしていた。一方で、果樹園の主人は一体何が起こったのか分からない顔で呆然と立ち尽くしていた。そのくらいに、フェリスはとんでもない魔法を連発したのである。改めて、邪神を自称するだけの事はあると思わされるのだった。
「魔法で促進してあるので、1週間もすればでき上がると思うから、またその時にでも来ましょう」
 フェリスはにっこりとしていた。果樹園の主人はもう何が何だか分からないので、ただただひきつった笑いを浮かべていた。
「おーい、主人。ここに居たのか」
 突然、建物の外から声が聞こえてくる。
「あら、ヒッポスじゃないの。どうしたの?」
 フェリスが振り返ると、そこには馬の邪神であるヒッポスが立っていた。
「馬の餌になるリンゴを貰いに来たんだ。てか、フェリスは何をしにここに?」
「いや、ルディのせいでお酒造りを思い出しちゃってね。シードルを造りに来たの」
「あー、リンゴを発酵させたあれか」
 反応からするに、ヒッポスは思い当たるものがあるらしい。
「飲みたかったが造り方を知らなかったからな。そうか、フェリス、実にありがたい」
 ヒッポスは頭を下げていた。
「まだ造り始めたばかりだし、頭を下げるのは早いわよ。できるのは1週間後になるはずよ」
「そうか。なら試飲会には呼んでほしい。たまに飲みたくなるんだ」
「いいわよ。その時は声を掛けさせてもらうわね」
 そう聞いたヒッポスは機嫌よさそうに、馬の餌となるリンゴをもらい受けると足取り軽やかに去っていった。
 さてさて、フェリスが造り始めた最初のお酒のお味は、一体どんな感じになるのやら。今から楽しみである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...