邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第193話 邪神ちゃんとモーモーアピール

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「はあ、やっと帰ってきたわ……」
 クレアールから文字通り飛んで帰ってきたフェリスは、フェリスメルに降り立つなりそんな事を呟いていた。そして、その足でメルの家へと出向く。メルは一人にしておくと、自分の家によく顔を出しているからだ。
 メルの家に出向いたフェリスは、目論見通りにメルを見つける。その姿を見て、フェリスはとても安心していた。
「あ、フェリス様、お帰りなさい」
「ただいま、メル」
 牛小屋にひょろっと顔を出したフェリスを、メルはすぐに見つけて出迎えてくれた。相変わらずの可愛さだと、フェリスはメルに近寄っていってきゅっと抱き締めていた。
「本当にごめんね。いろいろ押し付けられちゃってあちこち行ってたのよ。寂しくなかった?」
「寂しくないと言えば嘘になりますけど、お父さんたちも居ますので平気でした」
「そっかそっか」
 メルが見せる笑顔に、フェリスはよしよしと頭を撫でている。本当にフェリスはメルに対して甘いのだ。
「これは天使様、戻られていたのですね」
 メルの父親が現れた。麦わら帽子にオーバーオールを着ており、その手にはピッチフォークを持っている。どうやら牛の餌を用意しに来たようだ。
「ええ、ついさっき戻って来たわ。ドラコに頼まれて冒険者の世話をしていたのよ」
 フェリスは疲れた様子を見せて、首を回している。本当にお疲れなのである。
「それはそれは、ご苦労様でございます」
 メルの父親が頭を下げて労ってきた。
「そうです、天使様。ちょうどお昼ですので、うちで食べていかれますか?」
「そうね、そうさせてもらうわ」
 父親からの申し出を、フェリスは快く了承していた。

「こ、これはっ!」
 フェリスは食事の席で驚愕していた。見た事のない白いプルプルした物体を目の当たりにしているからだ。
「うちの牧場で搾った牛乳を使ったプリンでございます。ペコラ様からのご提案で試作していたものでございます」
 なんと、牛乳を固めたものらしい。通常プリンといえば卵である。
 デザートとして出された試作品である牛乳プリンをひと口運ぶフェリス。口に入れた瞬間、にんまりと笑っていた。
「これはいいわね。卵のものとはまた違った味わいだわ」
「ありがとうございます。天使様からも絶賛だったと、ペコラ様にお伝えしてもよろしいですかね」
 にこにことしているフェリスを見て、メルの父親が確認をしてくる。
「いや別にいいわよ、これからあたしが向かうから」
「畏まりました」
 フェリスの回答を、メルの父親は素直に受け入れていた。
「元々酪農と農産物で売っていた村なんだし、牛乳は特産品としてちゃんと宣伝しておかなきゃね。腐りやすいから、卸せたとしてもせいぜいクレアールまでだし、しっかりこの村で消費しなきゃね」
 その言葉を聞いて、メルの父親は誇らしげに笑っていた。
 食事を終えたフェリスは、メルを連れてペコラの居る職人街の食堂へと向かう。1号店と2号店へ交互に顔を出しているらしく、今日は1号店の方に居るそうだ。
「まったく、最近慌ただしかったせいで、ペコラに会うのも久しぶりだわね」
「そうですね。ペコラ様もフェリスの顔を見てなくて寂しがってられましたよ」
 フェリスの呟きにメルがその様に言うと、フェリスは不思議そうな顔をしていた。
「あのペコラがそんな事をねえ……。珍しい事もあるものね」
 そんな事を語らいつつ、職人街の食堂に到着したフェリスたち。お昼のピークは過ぎていたので、食堂の中は閑散としていた。
「あら、ハバリーじゃないの。ちょうどお昼かしら」
「あ、フェリス。久しぶりじゃん」
 周りに人が居るので、ハバリーはちょっと恥ずかしがりながらフェリスの声に反応している。
「おっ、フェリスなのだ。久しぶりなのだ」
 すると、厨房からペコラが顔を出してきた。
「あっ、ペコラ。牛乳プリン、いいんじゃないのかしらね」
「試食してくれたのだ? フェリスからそう言われるとあーしも安心なのだ。早速村の食堂全部で出せるように手配するのだ」
 フェリスが開口一番に牛乳プリンを褒めると、ペコラは早速食堂や宿屋などで提供できるように慌ただしく動き始めた。
「ずいぶんと慌ただしく動くわね。もしかして、あたしの評価待ちだったわけ?」
「ははは、実はそうなのだ。この村で一番偉いのはフェリスなのだ。ちなみにアファカさんとヘンネにはすでに許可をもらっているのだ」
 なんとも行動の速い事である。
「あの二人から許可が出ているんじゃ、あたしの許可なんか要らないでしょうが」
「あーしらのリーダーはフェリスなのだ。だから、フェリスからの許可は重要なのだ」
「ペコラ……、嬉しい事言わないでよ」
 ペコラの言葉に、フェリスは思わず涙ぐんでしまうのだった。
「牛乳プリン? ペコラ、私にもちょうだいよ」
「わははは、ちょっと待つのだ」
 ハバリーが睨むように言うと、ペコラは厨房へと戻っていった。そして、しばらくすると試作品の牛乳プリンを持って戻ってきた。
「これが牛乳プリンなのだ。卵の代わりに牛乳を使った一品になるのだ」
「へえ、これがそうなのか」
 ハバリーがじっと器に入った牛乳プリンを見ている。そして、意を決してスプーンでひとすくいすると、それを口に運んだ。
「こ、これは」
 ハバリーが目を見開いて固まる様を見て、ペコラはとても満足そうに笑っていた。
 こうして、フェリスメルの食堂メニューに牛乳プリンが加わる事が決定したのだった。
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