邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
191 / 290

第191話 邪神ちゃんの改装住宅

しおりを挟む
 家が決まったのでレイドたちにその家をプレゼントすると、フェリスはにこにこの笑顔で彼らと別れてコネッホの家へと戻っていく。ちなみに、アクアバイトラットの毛皮で手に入ったお金の一部は彼らに渡しておいた。倒したのは彼らなのだから、当然の権利である。
「さーて、これであたしはお守りから解放ね。明日から何をしようかしらね」
 フェリスは冒険者組合の新しい組合長を見るまで帰らないつもりのようだ。本当に気ままに過ごしている。
「帰れ。眷属の子も寂しがるだろうが」
「えー……」
 コネッホの家に戻ると、しれっとそんな事を言われるフェリス。
 しかし、確かにメルの性格を考えると、とても寂しがっている可能性は捨てきれない。フェリスは思いっきり悩んでいた。
「モスレの街の事など、フェリスには関係ないだろうが。フェリスメルとクレアールの事をちゃんと面倒見ろ。新しい組合長の事など捨て置け」
 それこそ耳が痛いほどに口うるさく言われるフェリス。
「分かった、分かったわよぅ……」
 耳まで掴まれてのお説教に、さすがのフェリスも参ったようだった。
「今夜は泊めてやるから、明日になったら帰れ」
 コネッホは辛辣だった。仲間だからこその態度なのである。ひと晩泊めてくれるだけマシなのだ。
「はあ、仕方ないわね。コネッホ、あの子たちの事をお願いね」
「子守りは勘弁だけど、フェリスの頼みなら仕方ないな。ブルムってのが本気で錬金術を学ぶのなら、まとめて面倒を見てやろう」
 コネッホは面倒だとも思いながらも、フェリスの頼みを聞き届けたのだった。

 その頃のレイドたちは、新しい家にものすごく歓声を上げていた。
「すげえ、フェリスさんの魔法って本当にとんでもないよな」
「見てくれがあれだけボロボロだった、崩壊寸前の家だというのが信じられないな」
 男二人は、二階に駆け上がって部屋を一つ一つ確認しながら興奮気味に叫んでいる。
「厨房もちゃんとなってるわ。家の外からこの精度の魔法……。さすが邪神を自称するだけの事はあるわ」
「お風呂もちゃんとしてるさー。これなら毎日入っちゃうぞ」
 女性二人も唸っている。台所と風呂を見ているあたり、男たちとは視点が違っていた。
「フェリっちったら太っ腹よねー。あたしたちのためにポンと現金一括だもんねー」
「いや、あれはだいぶ足元見てたぞ。銀貨10枚とか、さすがに家の価格としては安すぎる」
「そうね、普通なら賃貸料の月額と同程度よ」
「でもさ、廃屋だったんだからそんなもんだろう。崩壊待ちだったってんなら、なおさらさ」
 レイドたちはあーだこーだと感想やら意見やらを交わしている。思うところはそれぞれにあるようである。
「ただね、この家には問題があるのよ……」
「ああ、確かに。これは大問題だな……」
「えっ、なになに?」
 ブルムとグルーンが腕を組みながら真剣な面持ちで話していると、ピックルが不思議そうな顔をして二人に寄っていく。
「ああ、実に大問題だ。由々しき事態なんだよ、ピックル……」
「レイドまでなんだよー。フェリっちの魔法になんか文句でもあるわけ?」
 ピックルはかんかんに怒っている。どうやらピックルだけがフェリスに酔いしれているために、この家が抱える深刻な問題に気が付いていないようだった。
「なんだよー。はっきり言ってよね、ぷんぷん」
 ピックルが両手を腰に当てて膨れている。
「お前な、気が付かないか?」
「何にさ」
「よく見ろよ。この家……家具がまったくないんだぞ」
「あーーっ!!!」
 グルーンがはっきり告げると、ピックルはようやくその深刻さに気が付いて叫び声を上げていた。どうして気付かないのだろうか。
「たたた、確かにそうじゃん。ベッドもテーブルも椅子も何もないじゃん。どどど、どーすんの? ねえ、どうすんのさーっ?」
 あたふたと慌てるピックル。その姿にレイドたちはため息を吐く。
「どうするってなあ?」
「ああ、やる事はひとつだけだ」
「……買いに来ましょうか。まだ明るいからお店やってるでしょうし」
 そんなわけで、レイドたちはやむなく日が傾き始めたモスレの街へと出掛けていったのだった。
「はあ、商業組合の人が居る間に気付いときゃよかったぜ……」
 今さら愚痴ったところで、もう後の祭りなのである。
「とりあえずは商業組合に行こう。個々の店を回ってもいいが、商業組合なら一括注文ができるはずだからな」
「さっすがレイド。あったまいい~!」
 ピックルが両手を握って振りながらくねくねと踊っている。
「あのなあ、お前サポーターだろうが。こういう時はお前も冷静じゃないとこっちとしちゃ困るんだぞ」
「そうね。ピックルはもふもふが絡むと、一気に頭がパーになるものね。優秀なサポーターなのに、そこが玉に瑕だわ……」
「うぎぎ……、なっによーっ! もふもふ最高じゃないのよーっ!」
 口げんかはするものの、どことなく仲のいい四人組である。
 この日をもって彼らはモスレを拠点として活動する事になったのだが、一体今後はどういう活躍をしてくれるのだろうか。彼らの活躍は、また別のお話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね

たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」 「お父様!何故ですの!」 「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」 「お兄様!それは!」 「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」 こうして私は王女の身分を剥奪されました。 眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...