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第189話 邪神ちゃんとモスレの職員
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モスレの商業組合に持ち込まれた大量の水属性の毛皮に、職員たちはフェリスに詰め寄っていた。
「これ、どこで手に入れたんですか?」
「出所は内緒よ。とある精霊の管理下にある場所だし、下手に入っても追い返されるだけだから」
職員にそう言っているフェリスだが、半分場所を教えてしまっていた。精霊の影響下にある場所なんて、冒険者組合が把握している場合が多いからだ。
そういえば、冒険者組合ってどうなったのだろうか。前任が不適切として交代させられたのだから、もう後任が決まっていてもいいはずである。レイドたちを連れてあとで向かう事にしたのだ。
「ではこのくらいでいかがでしょうか」
「ふむふむ、なかなかなお値段じゃないの」
商業組合の職員とフェリスが値段の交渉をしていると、見た事のある男がやって来た。
「なんだ、確かコネッホの知り合いの……」
「あら、コネッホにいいようにあしらわれているビジーさんじゃないですか。久しぶりですね」
フェリスは声を掛けられて、すぐさまにんまりとした顔で反応する。こういうところがフェリスなのである。
「まったく、意地の悪い猫だな。今日は何の用で来たんだ?」
ビジーは頭を掻きながらフェリスに尋ねる。
「アクアバイトラットの毛皮を売りに来たんですよ。水属性の加護がついているので、耐火作用があるんですよ」
「な、何だと、見せてみろ!」
フェリスの説明に、ビジーが食いついた。ものすごい勢いでカウンターにやって来る。レイドたちはあまりの剣幕に驚いている。そんな中、フェリスだけは落ち着いてビジーに毛皮を見せている。その毛皮を見たビジーはわなわなと震えていた。
「すごいぞ。変な傷はあるものの、なんて見事な処理なんだ。これなら穴も気にならない。全部買い取らせてくれ」
「いいわよ、あたしは使わないし。それで今そっちの人と買取価格の相談してたんだから、そっちで相談してくれない?」
詰め寄ってくるビジーに対して、フェリスは冷静に言葉を返している。さすがは数100年の時を生きる邪神を名乗る魔族である。その落ち着き具合はさすがだった。
「なんだと! いくら示したんだ、見せてみろ!」
「ちょっ、ちょっとビジーさん、落ち着いて下さいってば!」
ビジーが職員と取っ組み合いでも始めるかのような勢いで確認をしている。
「それはそうと、冒険者組合の方はどうなったんですか? 後任は決まりましたか?」
「ああ、一応次の人が来てくれた。本部が選んだ人だから、信用はできるとは思うが、やはり胡散臭いな……」
「そうですか。この人たちの家を決めてから行こうと思いましたが、毛皮の買取で揉めそうなので先にあっちの用事を済ませてきますね」
「そうしてくれ。それと毛皮は置いていってくれ。もっと状態を詳細に確認したい」
ビジーがそう言うので、フェリスは毛皮をほぼ全部置いていくと、レイドたちを連れて冒険者組合へと向かっていった。レイドたちは大丈夫なのかと心配そうにちらちらと何度も振り返っていた。
商業組合から冒険者組合へとやって来たフェリスたち。そこでは商業組合ほどではないが、忙しく動く職員たちの姿があった。おそらく前任のバサスから後任の組合長への引継ぎが行われているのだと思われる。前任が脳筋の筋肉だるまだっただけに、職員たちは大変だっただろう。
「ごめん、ちょっといいかしら」
フェリスは手の比較的空いていそうな職員を捕まえる。
「は、はい。何の御用でしょうか」
「この冒険者たちをモスレに登録したいんだけど、ちょっといいかしら」
「分かりました。すぐに準備致します」
フェリスの言葉に、気前よく反応してくれる職員。いい職員を捕まえたようだった。
「えっと、あなたたちの冒険証を見せて頂けますか? 新規か他所で登録済みかで手続きが変わりますので、お願い致します」
準備の終わった職員に問われると、レイドたちはごそごそと冒険証を取り出した。
「はい、確認致します」
カードを確認した職員は紙に記入しながら、次の質問をする。
「拠点変更という事でよろしいですかね。拠点を変更すると、これから指名依頼があった場合には、私たちモスレの冒険者組合から連絡が行くようになりますので、その点をご注意下さい」
レイドたちが頷くと、職員はてきぱきと事務処理を行っていく。職員自体は有能なようだ。あの筋肉だるまが例外的に悪かったのである。
「これで変更完了でございます。こちらを拠点とされるという事は、こちらにお住まいをお持ちで?」
「いや、それはこれからね。ちょっと同時に素材の持ち込みをしたら商業組合が騒ぎ出しちゃって、先にこっちを済ませたのよ」
「そうでございましたか。コネッホさんのお知り合いの方ですから、とんでもないものを持ち込んだのでしょうね」
フェリスの説明だけですべてを察する職員。この頭の切れ方はただ者ではないという事だろう。
「そういえば、組合長が交代されたそうで、今度の方はどんな方なんですかね」
「あ、いえ。まだ私たちも知らないんですよ」
「えっ、ビジーさんは来てくれたって言ってたのに」
「正確には案内が来ただけで、本人はまだ来られてないんです。私たちもどんな方なのかと楽しみにしているんですよ」
フェリスが確認すると、冒険者組合の職員はそう答えていた。なんだまだなのかと、肩透かしを食らった気分である。
「それじゃ、来るまで滞在させてもらおうかしら。コネッホともゆっくり話をしたいし」
「はい、その間はモスレでごゆっくりして下さい。コネッホさんのお知り合いの方でしたら、無下にする人たちは居ないでしょうから」
そんなこんなで話を終えたフェリスたちは、商業組合へと戻ったのだった。
それにしても、冒険者組合には一体どんな人が来るのだろうか。フェリスは不思議と期待を寄せてしまったのだった。
「これ、どこで手に入れたんですか?」
「出所は内緒よ。とある精霊の管理下にある場所だし、下手に入っても追い返されるだけだから」
職員にそう言っているフェリスだが、半分場所を教えてしまっていた。精霊の影響下にある場所なんて、冒険者組合が把握している場合が多いからだ。
そういえば、冒険者組合ってどうなったのだろうか。前任が不適切として交代させられたのだから、もう後任が決まっていてもいいはずである。レイドたちを連れてあとで向かう事にしたのだ。
「ではこのくらいでいかがでしょうか」
「ふむふむ、なかなかなお値段じゃないの」
商業組合の職員とフェリスが値段の交渉をしていると、見た事のある男がやって来た。
「なんだ、確かコネッホの知り合いの……」
「あら、コネッホにいいようにあしらわれているビジーさんじゃないですか。久しぶりですね」
フェリスは声を掛けられて、すぐさまにんまりとした顔で反応する。こういうところがフェリスなのである。
「まったく、意地の悪い猫だな。今日は何の用で来たんだ?」
ビジーは頭を掻きながらフェリスに尋ねる。
「アクアバイトラットの毛皮を売りに来たんですよ。水属性の加護がついているので、耐火作用があるんですよ」
「な、何だと、見せてみろ!」
フェリスの説明に、ビジーが食いついた。ものすごい勢いでカウンターにやって来る。レイドたちはあまりの剣幕に驚いている。そんな中、フェリスだけは落ち着いてビジーに毛皮を見せている。その毛皮を見たビジーはわなわなと震えていた。
「すごいぞ。変な傷はあるものの、なんて見事な処理なんだ。これなら穴も気にならない。全部買い取らせてくれ」
「いいわよ、あたしは使わないし。それで今そっちの人と買取価格の相談してたんだから、そっちで相談してくれない?」
詰め寄ってくるビジーに対して、フェリスは冷静に言葉を返している。さすがは数100年の時を生きる邪神を名乗る魔族である。その落ち着き具合はさすがだった。
「なんだと! いくら示したんだ、見せてみろ!」
「ちょっ、ちょっとビジーさん、落ち着いて下さいってば!」
ビジーが職員と取っ組み合いでも始めるかのような勢いで確認をしている。
「それはそうと、冒険者組合の方はどうなったんですか? 後任は決まりましたか?」
「ああ、一応次の人が来てくれた。本部が選んだ人だから、信用はできるとは思うが、やはり胡散臭いな……」
「そうですか。この人たちの家を決めてから行こうと思いましたが、毛皮の買取で揉めそうなので先にあっちの用事を済ませてきますね」
「そうしてくれ。それと毛皮は置いていってくれ。もっと状態を詳細に確認したい」
ビジーがそう言うので、フェリスは毛皮をほぼ全部置いていくと、レイドたちを連れて冒険者組合へと向かっていった。レイドたちは大丈夫なのかと心配そうにちらちらと何度も振り返っていた。
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「ごめん、ちょっといいかしら」
フェリスは手の比較的空いていそうな職員を捕まえる。
「は、はい。何の御用でしょうか」
「この冒険者たちをモスレに登録したいんだけど、ちょっといいかしら」
「分かりました。すぐに準備致します」
フェリスの言葉に、気前よく反応してくれる職員。いい職員を捕まえたようだった。
「えっと、あなたたちの冒険証を見せて頂けますか? 新規か他所で登録済みかで手続きが変わりますので、お願い致します」
準備の終わった職員に問われると、レイドたちはごそごそと冒険証を取り出した。
「はい、確認致します」
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「拠点変更という事でよろしいですかね。拠点を変更すると、これから指名依頼があった場合には、私たちモスレの冒険者組合から連絡が行くようになりますので、その点をご注意下さい」
レイドたちが頷くと、職員はてきぱきと事務処理を行っていく。職員自体は有能なようだ。あの筋肉だるまが例外的に悪かったのである。
「これで変更完了でございます。こちらを拠点とされるという事は、こちらにお住まいをお持ちで?」
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「そういえば、組合長が交代されたそうで、今度の方はどんな方なんですかね」
「あ、いえ。まだ私たちも知らないんですよ」
「えっ、ビジーさんは来てくれたって言ってたのに」
「正確には案内が来ただけで、本人はまだ来られてないんです。私たちもどんな方なのかと楽しみにしているんですよ」
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「それじゃ、来るまで滞在させてもらおうかしら。コネッホともゆっくり話をしたいし」
「はい、その間はモスレでごゆっくりして下さい。コネッホさんのお知り合いの方でしたら、無下にする人たちは居ないでしょうから」
そんなこんなで話を終えたフェリスたちは、商業組合へと戻ったのだった。
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