邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
187 / 290

第187話 邪神ちゃんは引率者

しおりを挟む
「だあっ! なんであたしがお守りをしなきゃいけないのよ!」
 フェリスはブチ切れていた。
 それも無理はないというもの。ドラコに言われて、ブルムには頼み込まれて、フェリスは今レイドたちと一緒にモスレの街へと向かっているのだ。お使いみたいな事で振り回されていて、本当に屈辱的である。
 クレアールからモスレまでは徒歩で7日間ほどだ。道を知っていれば迷う事はないので、一度行った事のあるフェリスが案内には適任だったのである。
「ああ。怒ってるフェリっちも魅力的……」
 ピックルはうっとりしており、平常運転である。その姿にさらに特大のため息を吐くフェリス。レイドたちはそれを呆れたように眺めていた。
 道中はこれといったトラブルもなく、無事にモスレに到着するフェリスたち。あれからというもの、あまり時間が経っていない事もあってフェリスにはあまり久しぶりという感覚はなかった。それは街の住人たちも同じようである。
「おや、猫の嬢ちゃん、また来たのかい?」
「おお、コネッホの知り合いの猫。この街が気に入ったのか?」
 顔を合わせるたびに声を掛けられる始末である。フェリスの顔はにこやかであるものの、レイドたちからの視線に少し表情を引きつらせていた。
「フェリっち、有名人じゃーん?」
「街行く人たちが挨拶をしてくるなんて、本当にすごいな」
 ピックルたちがフェリスに声を掛ける。なぜかピックルだけはにやけ顔である。どうやら殴られたいらしい。とはいえ、フェリスだって長い時間を生きてきた魔族である。殴りたい衝動を必死に抑えて大人の対応をしている。
 そうこうしているうちに、フェリスはコネッホの家へとたどり着いた。見た目はシンプルな一軒家である。
「コネッホ、居る?」
 玄関の扉を叩きながら、フェリスは中に呼び掛ける。しばらくすると、扉がゆっくり開いてコネッホが姿を現した。
「なんだ、フェリスか。あたいに何の用なんだ」
 ちゃんとした服を着た状態でコネッホが出てきた。しかし、よくよく見てみると頭の寝ぐせが酷かった。
「コネッホ、寝ぐせ」
「ああ、今日の商談相手は何も言ってこなかったが、そうか、すまないな」
フェリスに指摘されると、コネッホは魔法で髪を整えていた。すると、ぼさぼさだった髪が一瞬で整ったのだった。
「それよりもフェリス。まさかあんたがこうやって訪ねてくるとは思わなかったな。……後ろの子たちも入りなさい」
 コネッホはそう言いつつも、理由を尋ねる事もなくレイドたちも含めて家の中へと招き入れた。
「散らかってて悪いね。椅子は人数分出せるから、ちょっと待っててくれ」
 コネッホがごそごそと椅子を引っ張り出してくる間、レイドたちは入った場所の状態に目を向けていた。物が少々乱雑に置かれており、お世辞にもきれいとは言えない状態になっていた。だが、今日のこの状態はまだマシな方なのである。
「まあ、大方ドラコに何か言われてきたんだろうが、詳しい話を聞かせておくれ」
 椅子を並べたコネッホは、紅茶を用意しながらフェリスに説明を求めてきた。フェリスは少し間を置きながら、状況を整理してコネッホに話していった。
「はあ、なるほどな。こちらの魔法使いの嬢ちゃんが、あたいに興味をな……。それまたどうしてかな?」
「あんたの錬金術は、その気になれば魔法使いでもできそうな事もあるじゃない。この魔法鞄に特に興味があるみたいよ」
「ああ、これか。空間拡張の魔法陣に興味があるとは、これはなかなか面白い子だな」
 コネッホはちらりとブルムに視線を向ける。すると、ブルムは委縮して肩をすくめていた。
「だが、その魔力量ではこの魔法陣を扱うのは不可能だな。あたいら魔族だから扱えるような代物だ。その魔力量で扱えば、間違いなく死ぬぞ」
 コネッホの言葉に、ブルムは青ざめて震えた。さすがに『死』という単語は恐怖でしかないのだ。
「武術も魔法も、魔族ですら極める事はできん。到達点というのは無数にあるのだからな。だが、その中の一点を極めるというのならまだ望みがないわけではない」
 コネッホは何かを棚から持ってきた。
「あたいが作った一種の測定器だ。周囲の状況を知る事のできる魔法があるだろう? あれを魔法陣として刻んで作った魔道具というものだ。この中央の魔石の上に手をかざす事で、その人物の潜在能力を調べる事ができる。ただし、未完成品ゆえに精度は荒いがな」
 コネッホの説明に、ブルムとピックルがごくりと息を飲む。魔法を使う二人だからこそ、この魔道具がとんでもないものだというのが分かるのである。
「まあ、説明をするのもなんだ。実際に使って見せた方がいいだろう。あたいで試してみるぞ」
 コネッホは魔道具の測定器に手を置く。すると、青白い光が魔石から放たれ、コネッホを包み込む。しばらくすると、手前側に置かれた別の魔石からところどころ隙間のできた光が放たれた。よく見ると、その隙間は文字になっているようで、そこに測定結果が表示されているようだった。
「とまあ、こんな感じだな。あたいは一応魔法使い系という事になる。兎人と言われる種族ゆえに、武術もそれなりに嗜んではいるがな」
 コネッホはすました顔で測定結果を眺めていた。
「さて、効果も分かった事だ。誰から見てみるかな?」
 コネッホの鋭い眼光が、レイドたちに向けられたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

覆面バーの飲み比べで負かした美女は隣国の姫様でした。策略に嵌められて虐げられていたので敵だけど助けます。

サイトウ純蒼
ファンタジー
過去の戦で心に傷を負った男ロレンツが通う『覆面バー』。 そこにお忍びでやって来ていた謎の美女アンナ。実は彼女は敵国の姫様であった。 実はそのアンナの国では国王が行方不明になってしまっており、まだ若き彼女に国政が任されていた。そしてそんなアンナの周囲では、王家の座を狙って彼女を陥れようとする様々な陰謀や謀略が渦巻く。 覆面バー。 酒を飲みながら酔ったアンナがロレンツに言う。 ――私を、救って。 ロレンツはただひと言「分かった」とそれに答える。 過去、そして心に傷を負った孤高の剣士ロレンツが、その約束を果たすために敵国へ乗り込む。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

公務員冒険者は安定したい! ~勇者パーティーを追放されたから公務員になったのに、最強エルフや猫耳少女とSS級ダンジョン攻略してます~

いとうヒンジ
ファンタジー
 冴えない冒険者であるクロス・レーバンは、勇者になった幼馴染のシリー・ハートに誘われ、彼女のパーティーに加入する。だが、実力もなく役職も低いクロスは、パーティーの中で浮いた存在になってしまう。ダンジョン内では唯一の前衛職としてモンスターの攻撃を受け止め、ダンジョンの外では雑用係としてこき使われる日々が続いた。  ある日、B級ダンジョンの最深部に辿り着いたクロスたちは、思いがけない強敵と遭遇する。圧倒的な力の前に手も足も出ない中、勇者シリーはクロスに魔法をかけた。それは、モンスターの攻撃を対象者に誘導する魔法だったのだ。彼を囮にして逃げることに成功したシリーは、去り際に言い放つ――「あなた、首ね」  勇者パーティーを追放され、仲間に裏切られ、絶望的な状況に追い込まれたクロスは覚悟を決めた。そんな時、不意に幼い少女の声が聞こえてくる。杖の封印を解けと要求してくるその声に従うと、謎の人影が現れて強敵を退けた。  謎の声のお陰で九死に一生を得たクロスは冒険者を辞め、昔から憧れていた公務員を目指す。だが、安定した生活を手に入れたいと願う彼の希望とは裏腹に、採用されたのは未踏ダンジョン探索係という、危険の伴う部署だった。  探索係としての初仕事で、クロスは元仲間のシリーたちと組むことになる。しかし、勇者たちは彼の到着を待たずに未踏ダンジョンの奥へと進んでいってしまった。  安定したい公務員冒険者は、再び危険なダンジョンの世界に足を踏み入れていく。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

公爵令嬢は薬師を目指す~悪役令嬢ってなんですの?~【短編版】

ゆうの
ファンタジー
 公爵令嬢、ミネルヴァ・メディシスは時折夢に見る。「治癒の神力を授かることができなかった落ちこぼれのミネルヴァ・メディシス」が、婚約者である第一王子殿下と恋に落ちた男爵令嬢に毒を盛り、断罪される夢を。  ――しかし、夢から覚めたミネルヴァは、そのたびに、思うのだ。「医者の家系《メディシス》に生まれた自分がよりによって誰かに毒を盛るなんて真似をするはずがないのに」と。  これは、「治癒の神力」を授かれなかったミネルヴァが、それでもメディシスの人間たろうと努力した、その先の話。 ※ 様子見で(一応)短編として投稿します。反響次第では長編化しようかと(「その後」を含めて書きたいエピソードは山ほどある)。

妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?

ラララキヲ
ファンタジー
 姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。  両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。  妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。  その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。  姉はそのお城には入れない。  本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。  しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。  妹は騒いだ。 「お姉さまズルい!!」  そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。  しかし…………  末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。  それは『悪魔召喚』  悪魔に願い、  妹は『姉の全てを手に入れる』……── ※作中は[姉視点]です。 ※一話が短くブツブツ進みます ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げました。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...