邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
182 / 290

第182話 邪神ちゃんと行く水源の森

しおりを挟む
 ドラコからの依頼を受けて、レイドたちはフェリスに伴われてマイムの住む水源の森へと歩んでいく。
 ルディの足でも夜通し走る距離だ。人間の足で歩いていくとなると、到着には実に3日を要してしまうのである。フェリスメルとクレアールだと、クレアールの方が近いものの、結論からすれば誤差みたいなものだ。
 道中、フェリスメルにも時々突撃していたボアの群れに遭遇するが、レイドたちは思ったよりも苦戦していた。フェリスが居たから大事には至らなかったものの、正直こんな強さではドラコの依頼をきちんとこなせるかは疑わしい実力である。
 アクアバットとボアとでは、アクアバットの方が魔物のランクは上だ。しかも空を飛ぶ魔物である。それこそ特性を知っていないと、いいようにあしらわれてしまうのがオチである。そんなわけなので、野宿を行う際に、フェリスからアクアバットの特性について話をする時間を設けたのだった。
 さて、予定通りの3日後、マイムの管理する水源の森へとやって来た。
「ここが、アクアバットの出没する森ですか?」
 すっかりフェリスには丁寧語を話すレイドである。
「そうよ。ここはあたしの友人である水の精霊マイムが管轄する森よ。水辺が多いけれど、地面自体は歩きやすいわ。そして、マイムの影響によって水属性の魔物が多く出没する森なのよ」
 フェリスが確認するように説明くさい言葉を話している。
 水源の森は山のふもとに広がる土地で、その面積はかなり広い。迂闊に入ろうものなら迷ってしまいそうである。水源の森という名の通り、山からの湧き水が森の中心に湧き出して泉を形成しており、そこからあちこちへと流れる川の水源地となっているのだ。フェリスメル方向に引いた水路も、この森を水源としている。
「まっ、あたしがマイムのところまで案内するから、今回は迷わないと思うけど、迷ったら助けられないかも知れないからはぐれないでよ?」
 フェリスはにやりと笑みを浮かべてレイドたちを見る。
「いやーん、フェリっちのその表情たまんな~い」
 黙れピックルと思うフェリス。本当にフェリスの印象からしたらウザったらしいようだ。まあ、野宿をする間もひたすら抱きついてこようとしていたのだから、そりゃフェリスの顔も仏頂面になるというものである。残りの3人は比較的常識人だというのに、どうしてこの一人だけおかしいのだろうか。
 そんな感じで少々不機嫌なところもあるが、フェリスは四人を連れて森を分け入っていく。
「この辺りの魔物は比較的弱いから、ボアが倒せているみんななら問題ないでしょうね。問題は山に近い方の区域かしらね」
「つまり奥は魔物が強くなるという事でいいのかな?」
「端的に言えばそういう事ね」
 グルーンの質問に、簡単に答えるフェリス。
 水源の泉までは、とにかく川をたどっていけば着けるのでまだ迷いにくい。しかし、もし川を見失ってしまえば、同じような景色が広がる森は、侵入者に一気に牙を剥いてくる。森に入る前にフェリスが注意した事はそういう事なのだ。マイムは侵入者を基本的に快く思っていない。だから、助けられないかもフェリスは宣言したのである。
「それはそれとして、マイムが快く思っていないから、絶対にあたしから離れないでよ」
「はい♪」
 フェリスがそう言うと、ピックルがぎゅっとフェリスに抱きついてきた。こいつは油断も隙も無い……。
 その時だった。
 急にザザザザという音が聞こえてきたのだ。これにはレイドたちは驚いて身構えた。
「ああ、もう。あたしに急に抱きつくから、マイムが怒ってるじゃないのよ。本当にさ、あたしの話聞いてた?!」
 フェリスが叫んでいる。
「ええ、どういう事だってばよ~……」
 ピックルが眉をひそめている。
「マイムは嫉妬深いの。あたしに馴れ馴れしくするピックルを見て、ものすごく怒っているのよ。……さすがにこれは助けられないわ。試練だと思って戦ってちょうだい!」
 フェリスの言葉に、レイドたちは混乱している。
「ピックル、なんて事してくれたんだ!」
「あ、あたしのせいじゃないしー!」
「どう考えてもあんたのせいでしょ!」
「おい、来るぞ!」
 レイドたちが騒ぐ中、グルーンの声で全員が身構える。
「チュチューッ!」
 現れたのはネズミの群れだった。
 だが、このネズミは大きさが異常だった。
「キャー! なんなのよ、この大きさぁっ!」
 ブルムが悲鳴を上げている。
「あー、ブルム、ネズミ苦手だもんねー」
 それに対して、ものすごく冷めた反応をするピックル。とても元凶とは思えない冷静さである。
「フェリっちを独り占めしようだなんて悪い精霊さんの思い通りにはさせないしー!」
 ピックルは落ち着き払って詠唱を始める。
「バフいくよーっ!」
 ピックルが手を掲げると、レイドたちが光り始める。
「このネズミは『アクアバイトラット』。水をもかみ砕く凶暴なネズミよ」
「了解。さすが猫であるフェリっちには近づかないなー。うらやま」
「とぼけた事言ってないで、頑張りなさいよ。勝てばマイムは認めてくれるから」
「分かった。行くぞっ!」
 フェリスの言葉にレイドが気合いを入れる。
「まあ、ピックルだけは絶対許さないだろうなぁ、マイムの事だから」
 フェリスがボソッと言うと、
「うん? 何か言った、フェリっち?」
「なーんにも?」
 ピックルが反応するものだから、フェリスはとぼけておいた。
 何にしても、レイドたちには大量のネズミが襲い掛かっている。レイドたちは無事にネズミを撃退して、アクアバットの討伐というドラコからの依頼をこなす事ができるのだろうか。そして、ピックルはマイムに許してもらう事はできるのか。フェリスは淡々とその戦いを見守るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。 そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。 冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...