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第176話 邪神ちゃんに威厳はない
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お茶を飲みながら、とりあえずは落ち着く面々。ため息ひとつ吐いたヘンネが話を切り出す。
「クレアールの街はまだできてひと月ほどの若い街です。街の名物は今のところはありませんが、フェリスメルから連れてきた家畜と、ペコラの作る料理が数少ない売り物ですね」
「ふむふむ、できたての街にはよくある話だね。そこに最初から特徴があるわけではないから、余計に大変だろう」
ヘンネの言葉をゼニスはしっかり理解をしていた。
「大体そもそも、何も考えずにここに街を造ろうとしたバカ猫のせいなんですからね。本っ当に責任取ってもらいたいですね」
フェリスを見ながら話すヘンネだが、その言葉は実に刺々しいものだった。実質名指しで文句を言っているのだから当然だろう。明確に苦情を入れられたフェリスは、またもや口笛を吹いてごまかそうとしていた。
「そんなわけでして、牛、馬、クルーク、羊と家畜は揃っていますので、その辺りから売り込みを掛けるしかない現状ですね。農産物については、フェリスメルから距離が近い事を考えると、育つ作物は同じと考えられます。フェリスの力を使えば収穫まではあっという間でしょうが、それでは真の適性を見極められませんので、1年じっくり育ててみるつもりです」
ヘンネは淡々とゼニスに話をしていた。フェリスはやや蚊帳の外、ドラコはすでに興味をなくしていた。
「ねえ、これってあたしたち居るわけ?」
こそっとドラコに話し掛けるフェリスだったが、その直後にヘンネの睨みが飛んできて、体を硬直させるフェリス。その時感じた恐怖は、尻尾の先端まで毛先が逆立つくらいだった。
「ええ、逃げるおつもりですか、フェリス? 誰のせいでこんな苦労をしていると思っているのです。最後までお付き合いなさい!」
「は、はいぃぃっ!!」
ヘンネに怒鳴られて、フェリスの髭がピリピリと震えている。半分涙目になりかけているフェリスの横で、ドラコはやれやれと落ち着いていた。
「そういえば、向こうで作っとらんものをこっちで作ろうかという話もあったようじゃが、それはどうなっておるのかの?」
「それなのですよね。ですが、フェリスメルで必要なものはほぼすべて自前で揃える事ができてしまうのですよ。植生もほぼ同じですから、無理でしょうね」
「まあ、そんなものかのう」
ドラコの質問にヘンネが淡々と答えると、ものすごく納得してドラコはドンと構えて座っていた。
「やるとしても、コネッホが欲しがっとる薬草を育てるくらいか。わしらの魔法を使えば環境を整えるのは楽じゃが、それはどうかのう」
「確かに、それもありだとは思いますよ」
「私もありだと思います。ポーションの類は冒険者から一般人までみんなが使うものですからね。その材料は現状冒険者たちに採集を頼むしかなく、常に不足していますから」
ドラコの提案に、ヘンネとゼニスは賛成のようである。さすがは悠久の時を生きる古龍である。フェリスに比べればまともな提案をしてくる。その様子を見ていたフェリスは、一人でむくれている。
「むぅ……、邪神軍団の中ではあたしがリーダーなのに……」
「何を言うかフェリス。後で調べて分かった事じゃがな、お前さんの飼い主だった魔族が有名じゃったから、みんな下についたようなものじゃぞ?」
「はあ、何それ?」
ドラコから告げられた新たな真実に、フェリスはものすごく顔をしかめている。不機嫌そのものだった。
「お前さん、自分の主人がどんな魔族だったか覚えておらんのか?」
「いや、覚えてるわよ。ものすごく残忍だったって聞いてるわ」
「聞いてるわってな……。お前さんの主人の名前は『サイコシス』。残虐非道で知られる魔族だったんじゃぞ?」
「はあ? あたしものすごく可愛がってもらってたけど?!」
フェリスとドラコの言い合いの間で、ゼニスは話についていけずにヘンネを見ている。
「いえ、フェリスの主人だった魔族の話です。狡猾で残虐非道、笑いながら他人を殺せるような魔族だったんですけれどね……」
「うーん、フェリスさんを見ていると、到底信じられませんね」
ヘンネとゼニスが首を捻っている。もしかしたらそんな魔族でも猫が大好きだったのかも知れない。
それにしても、ヘンネとゼニスの目の前で、フェリスとドラコの喧々囂々とした言い争いは続いている。しかし、この状態が続くようでは、とても話し合いはできそうになかった。
「仕方ないですね。あの二人は放っておいて、さっさと薬草の選定に入りましょうか」
「そうですね。あれではどうしようもありませんからね」
さっさと部屋を出て行くヘンネの後ろで、ゼニスは顔を引きつらせながらフェリスとドラコのけんかを見ていた。
「ゼニスさん、この部屋はドラコが元の姿に戻っても大丈夫ですよ。簡単には壊れませんから」
「いや、そういう問題ですかね……」
不安になるゼニスだったが、ヘンネが大丈夫というのだから大丈夫だろうと、そっと部屋を出て行ったのであった。
ちなみにフェリスとドラコのけんかは、幸い口だけで終わって被害はまったくなかったそうだったが、終わる頃には夜が明けていたそうだ。これだから魔族は恐ろしい。
「クレアールの街はまだできてひと月ほどの若い街です。街の名物は今のところはありませんが、フェリスメルから連れてきた家畜と、ペコラの作る料理が数少ない売り物ですね」
「ふむふむ、できたての街にはよくある話だね。そこに最初から特徴があるわけではないから、余計に大変だろう」
ヘンネの言葉をゼニスはしっかり理解をしていた。
「大体そもそも、何も考えずにここに街を造ろうとしたバカ猫のせいなんですからね。本っ当に責任取ってもらいたいですね」
フェリスを見ながら話すヘンネだが、その言葉は実に刺々しいものだった。実質名指しで文句を言っているのだから当然だろう。明確に苦情を入れられたフェリスは、またもや口笛を吹いてごまかそうとしていた。
「そんなわけでして、牛、馬、クルーク、羊と家畜は揃っていますので、その辺りから売り込みを掛けるしかない現状ですね。農産物については、フェリスメルから距離が近い事を考えると、育つ作物は同じと考えられます。フェリスの力を使えば収穫まではあっという間でしょうが、それでは真の適性を見極められませんので、1年じっくり育ててみるつもりです」
ヘンネは淡々とゼニスに話をしていた。フェリスはやや蚊帳の外、ドラコはすでに興味をなくしていた。
「ねえ、これってあたしたち居るわけ?」
こそっとドラコに話し掛けるフェリスだったが、その直後にヘンネの睨みが飛んできて、体を硬直させるフェリス。その時感じた恐怖は、尻尾の先端まで毛先が逆立つくらいだった。
「ええ、逃げるおつもりですか、フェリス? 誰のせいでこんな苦労をしていると思っているのです。最後までお付き合いなさい!」
「は、はいぃぃっ!!」
ヘンネに怒鳴られて、フェリスの髭がピリピリと震えている。半分涙目になりかけているフェリスの横で、ドラコはやれやれと落ち着いていた。
「そういえば、向こうで作っとらんものをこっちで作ろうかという話もあったようじゃが、それはどうなっておるのかの?」
「それなのですよね。ですが、フェリスメルで必要なものはほぼすべて自前で揃える事ができてしまうのですよ。植生もほぼ同じですから、無理でしょうね」
「まあ、そんなものかのう」
ドラコの質問にヘンネが淡々と答えると、ものすごく納得してドラコはドンと構えて座っていた。
「やるとしても、コネッホが欲しがっとる薬草を育てるくらいか。わしらの魔法を使えば環境を整えるのは楽じゃが、それはどうかのう」
「確かに、それもありだとは思いますよ」
「私もありだと思います。ポーションの類は冒険者から一般人までみんなが使うものですからね。その材料は現状冒険者たちに採集を頼むしかなく、常に不足していますから」
ドラコの提案に、ヘンネとゼニスは賛成のようである。さすがは悠久の時を生きる古龍である。フェリスに比べればまともな提案をしてくる。その様子を見ていたフェリスは、一人でむくれている。
「むぅ……、邪神軍団の中ではあたしがリーダーなのに……」
「何を言うかフェリス。後で調べて分かった事じゃがな、お前さんの飼い主だった魔族が有名じゃったから、みんな下についたようなものじゃぞ?」
「はあ、何それ?」
ドラコから告げられた新たな真実に、フェリスはものすごく顔をしかめている。不機嫌そのものだった。
「お前さん、自分の主人がどんな魔族だったか覚えておらんのか?」
「いや、覚えてるわよ。ものすごく残忍だったって聞いてるわ」
「聞いてるわってな……。お前さんの主人の名前は『サイコシス』。残虐非道で知られる魔族だったんじゃぞ?」
「はあ? あたしものすごく可愛がってもらってたけど?!」
フェリスとドラコの言い合いの間で、ゼニスは話についていけずにヘンネを見ている。
「いえ、フェリスの主人だった魔族の話です。狡猾で残虐非道、笑いながら他人を殺せるような魔族だったんですけれどね……」
「うーん、フェリスさんを見ていると、到底信じられませんね」
ヘンネとゼニスが首を捻っている。もしかしたらそんな魔族でも猫が大好きだったのかも知れない。
それにしても、ヘンネとゼニスの目の前で、フェリスとドラコの喧々囂々とした言い争いは続いている。しかし、この状態が続くようでは、とても話し合いはできそうになかった。
「仕方ないですね。あの二人は放っておいて、さっさと薬草の選定に入りましょうか」
「そうですね。あれではどうしようもありませんからね」
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「ゼニスさん、この部屋はドラコが元の姿に戻っても大丈夫ですよ。簡単には壊れませんから」
「いや、そういう問題ですかね……」
不安になるゼニスだったが、ヘンネが大丈夫というのだから大丈夫だろうと、そっと部屋を出て行ったのであった。
ちなみにフェリスとドラコのけんかは、幸い口だけで終わって被害はまったくなかったそうだったが、終わる頃には夜が明けていたそうだ。これだから魔族は恐ろしい。
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