邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
176 / 290

第176話 邪神ちゃんに威厳はない

しおりを挟む
 お茶を飲みながら、とりあえずは落ち着く面々。ため息ひとつ吐いたヘンネが話を切り出す。
「クレアールの街はまだできてひと月ほどの若い街です。街の名物は今のところはありませんが、フェリスメルから連れてきた家畜と、ペコラの作る料理が数少ない売り物ですね」
「ふむふむ、できたての街にはよくある話だね。そこに最初から特徴があるわけではないから、余計に大変だろう」
 ヘンネの言葉をゼニスはしっかり理解をしていた。
「大体そもそも、何も考えずにここに街を造ろうとしたバカ猫フェリスのせいなんですからね。本っ当に責任取ってもらいたいですね」
 フェリスを見ながら話すヘンネだが、その言葉は実に刺々しいものだった。実質名指しで文句を言っているのだから当然だろう。明確に苦情を入れられたフェリスは、またもや口笛を吹いてごまかそうとしていた。
「そんなわけでして、牛、馬、クルーク、羊と家畜は揃っていますので、その辺りから売り込みを掛けるしかない現状ですね。農産物については、フェリスメルから距離が近い事を考えると、育つ作物は同じと考えられます。フェリスの力を使えば収穫まではあっという間でしょうが、それでは真の適性を見極められませんので、1年じっくり育ててみるつもりです」
 ヘンネは淡々とゼニスに話をしていた。フェリスはやや蚊帳の外、ドラコはすでに興味をなくしていた。
「ねえ、これってあたしたち居るわけ?」
 こそっとドラコに話し掛けるフェリスだったが、その直後にヘンネの睨みが飛んできて、体を硬直させるフェリス。その時感じた恐怖は、尻尾の先端まで毛先が逆立つくらいだった。
「ええ、逃げるおつもりですか、フェリス? 誰のせいでこんな苦労をしていると思っているのです。最後までお付き合いなさい!」
「は、はいぃぃっ!!」
 ヘンネに怒鳴られて、フェリスの髭がピリピリと震えている。半分涙目になりかけているフェリスの横で、ドラコはやれやれと落ち着いていた。
「そういえば、向こうで作っとらんものをこっちで作ろうかという話もあったようじゃが、それはどうなっておるのかの?」
「それなのですよね。ですが、フェリスメルで必要なものはほぼすべて自前で揃える事ができてしまうのですよ。植生もほぼ同じですから、無理でしょうね」
「まあ、そんなものかのう」
 ドラコの質問にヘンネが淡々と答えると、ものすごく納得してドラコはドンと構えて座っていた。
「やるとしても、コネッホが欲しがっとる薬草を育てるくらいか。わしらの魔法を使えば環境を整えるのは楽じゃが、それはどうかのう」
「確かに、それもありだとは思いますよ」
「私もありだと思います。ポーションの類は冒険者から一般人までみんなが使うものですからね。その材料は現状冒険者たちに採集を頼むしかなく、常に不足していますから」
 ドラコの提案に、ヘンネとゼニスは賛成のようである。さすがは悠久の時を生きる古龍である。フェリスに比べればまともな提案をしてくる。その様子を見ていたフェリスは、一人でむくれている。
「むぅ……、邪神軍団の中ではあたしがリーダーなのに……」
「何を言うかフェリス。後で調べて分かった事じゃがな、お前さんの飼い主だった魔族が有名じゃったから、みんな下についたようなものじゃぞ?」
「はあ、何それ?」
 ドラコから告げられた新たな真実に、フェリスはものすごく顔をしかめている。不機嫌そのものだった。
「お前さん、自分の主人がどんな魔族だったか覚えておらんのか?」
「いや、覚えてるわよ。ものすごく残忍だったって聞いてるわ」
「聞いてるわってな……。お前さんの主人の名前は『サイコシス』。残虐非道で知られる魔族だったんじゃぞ?」
「はあ? あたしものすごく可愛がってもらってたけど?!」
 フェリスとドラコの言い合いの間で、ゼニスは話についていけずにヘンネを見ている。
「いえ、フェリスの主人だった魔族の話です。狡猾で残虐非道、笑いながら他人を殺せるような魔族だったんですけれどね……」
「うーん、フェリスさんを見ていると、到底信じられませんね」
 ヘンネとゼニスが首を捻っている。もしかしたらそんな魔族でも猫が大好きだったのかも知れない。
 それにしても、ヘンネとゼニスの目の前で、フェリスとドラコの喧々囂々とした言い争いは続いている。しかし、この状態が続くようでは、とても話し合いはできそうになかった。
「仕方ないですね。あの二人は放っておいて、さっさと薬草の選定に入りましょうか」
「そうですね。あれではどうしようもありませんからね」
 さっさと部屋を出て行くヘンネの後ろで、ゼニスは顔を引きつらせながらフェリスとドラコのけんかを見ていた。
「ゼニスさん、この部屋はドラコが元の姿に戻っても大丈夫ですよ。簡単には壊れませんから」
「いや、そういう問題ですかね……」
 不安になるゼニスだったが、ヘンネが大丈夫というのだから大丈夫だろうと、そっと部屋を出て行ったのであった。
 ちなみにフェリスとドラコのけんかは、幸い口だけで終わって被害はまったくなかったそうだったが、終わる頃には夜が明けていたそうだ。これだから魔族は恐ろしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠
ファンタジー
 最強の魔王ソフィが支配するアレルバレルの地。  彼はこの地で数千年に渡り統治を続けてきたが、圧政だと言い張る勇者マリスたちが立ち上がり、魔王城に攻め込んでくる。  残すは魔王ソフィのみとなった事で勇者たちは勝利を確信するが、肝心の魔王ソフィに全く歯が立たず、片手であっさりと勇者たちはやられてしまう。そんな中で勇者パーティの一人、賢者リルトマーカが取り出したマジックアイテムで、一度だけ奇跡を起こすと言われる『根源の玉』を使われて、魔王ソフィは異世界へと飛ばされてしまうのだった。  最強の魔王は新たな世界に降り立ち、冒険者ギルドに所属する。  そして最強の魔王は、この新たな世界でかつて諦めた願いを再び抱き始める。  彼の願いとはソフィ自身に敗北を与えられる程の強さを持つ至高の存在と出会い、そして全力で戦った上で可能であれば、その至高の相手に完膚なきまでに叩き潰された後に敵わないと思わせて欲しいという願いである。  人間を愛する優しき魔王は、その強さ故に孤独を感じる。  彼の願望である至高の存在に、果たして巡り合うことが出来るのだろうか。  『カクヨム』  2021.3『第六回カクヨムコンテスト』最終選考作品。  2024.3『MFブックス10周年記念小説コンテスト』最終選考作品。  『小説家になろう』  2024.9『累計PV1800万回』達成作品。  ※出来るだけ、毎日投稿を心掛けています。  小説家になろう様 https://ncode.syosetu.com/n4450fx/   カクヨム様 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896551796  ノベルバ様 https://novelba.com/indies/works/932709  ノベルアッププラス様 https://novelup.plus/story/998963655

処理中です...