邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第170話 邪神ちゃんと新しい街の名前

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「どうしたのだ、フェリス」
 ペコラが不思議に思って声を掛ける。
「ペコラ、ちょっと時間ある?」
「別に問題ないのだ。ちょうどピークからずれているし、この食堂の料理人は十分に腕前があるのだ。どうしたのだ?」
 フェリスの質問に答えた上で、ペコラは再度何があったのかフェリスに声を掛けている。
「思いついたのよ、この街の名前。アファカさんやヘンネのところに行くわよ」
「ちょっと待つのだ、お代を払うのだ」
「ちゃんと払うから安心しなさい。それよりも街の名前だわ」
 がばっと立ち上がったフェリスは、ペコラの手をがっちりと握りしめて引っ張っていく。
「みんなー、ちょっと行ってくるのだーっ! 店を頼むのだーっ!」
 ペコラは食堂の店員たちに声を掛けながら、あえなくフェリスに引きずられて行ってしまったのだった。

 やって来たのは新しい街の商業組合。アファカもヘンネも商業組合で働いているので、今なら二人とも居るはずである。やっと引きずりから解放されたペコラと一緒に、フェリスは商業組合へと入っていく。
「かっかっかっ、来たかフェリスよ」
「フェリス様!」
 商業組合に来て真っ先に目に入ったのは、レイドたち四人の冒険者とそれと相対するドラコの姿だった。冒険者たちとは別行動になっていたはずのドラコとメルがなぜここに居るのだろうか。
「不思議そうな顔をしておるのう。なに、そろそろお前さんがやって来るだろうと思って先回りしておいたのじゃ。のう、メル」
「はい、その通りです」
 目をキラキラとさせるメルの姿に、フェリスは唖然としている。
 それはそうと、なぜ冒険者四人もここに居るのだろうか。ヘンネに連れられて行ったはずなのに、そのヘンネがなぜか居ない。まったくもって状況が分からなかった。
「ねえ、あなたたち。ヘンネ、鳥の邪神はどこに行ったのかしら」
「は、はい。ヘンネさんでしたら、何か登録に必要な書類を取ってくると言って、席を外されています」
 そう答えたのは真面目系の魔法使いのブルムだった。
「ふーん、という事はさっきまで街の説明をしていたってところかしら。だったら、戻ってくるまで待たせてもらおうかしらね」
 フェリスはそう言って、ドカッと椅子に腰掛けた。ペコラもそれに釣られて椅子に座る。
「なに、そっちのもこもこ髪の子は?!」
 サポーターのピックルが、ペコラにものすごく反応している。
「ああ、この子はあたしの古い友人で羊の邪神であるペコラよ。今はフェリスメルを中心として料理をしている料理人よ。商人でもあるのでその辺りの知識もあるわ」
「うっそ、マジマジ? 邪神っていう割にはチョー可愛い子じゃん。やばい、あたし死にそう……」
 フェリスの紹介を聞いたピックルが興奮してぶっ倒れそうになっている。こういう子だったのか。支援職にしては軽い感じである。その反応にペコラがもの凄くびっくりしている。
「悪い、可愛いもの好きなんだよ、ピックルは。魔物でも可愛いのが居たら、連れて帰りたがるんだ」
「これさえなければ優秀なサポーターなんだがなぁ……」
 レイドとグルーンがため息混じりに話している。よっぽど行動にいろいろ難があるようだった。
 そんなこんなと話をしていると、ヘンネが部屋に入ってきた。
「あら、フェリス。こんな所に居るなんて事は、街の名前が決まったのかしら?」
 入ってくるなりフェリスの姿を見つけたヘンネは、すぐさまフェリスに言葉を掛けてきた。まったく、こういう時は目がいいのだ。だが、それに対してフェリスは待ってましたとばかりににやりと笑う。
「ええ、新しいものを生み出す街という事で、『クレアール』なんていうのはどうかしら」
 そして、自信たっぷりに街の名前を発表するフェリスだったが、どういうわけか周りはまったくもって無反応というか固まってしまっていた。
「ちょっ、どういう反応よ、それは!?」
 あまりに無反応すぎてフェリスが慌てている。すると、ヘンネが絶望的な表情をしながら口を開いた。
「いえ、まさかフェリスがそこまで考えた名前を提案するなんて思ってませんでしたから……」
「失礼ねっ! あたしだって頭使うわよ!」
 ヘンネの言い分に、フェリスは激怒している。とはいえども、これは普段のフェリスの振る舞いが原因なのである。フェリスは反省してほしい。
「ですが、なかなか良い名前だと思いますよ。アファカと町長様と相談した上で、正式決定致します。今は私預かりという事でご容赦下さい」
「まあ仕方ないわね。てか、町長なんて居たっけ?」
「居ますよ。まったく、そういうところに関心がないのもフェリスらしいですね」
「なーによーっ!」
 フェリスとヘンネのやり取りを見ていたレイドたちは、ツボに入ったのか大笑いをしている。ドラコとペコラも遠慮がない。メルだけは必死に笑うのを堪えている。しばらくの間、この部屋からはずっと笑い声とフェリスの怒る声が響き渡っていたのだった。
 こうしたやり取りを経て、後日、正式のこの街の名前は『クレアール』と決まったのだった。
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