170 / 290
第170話 邪神ちゃんと新しい街の名前
しおりを挟む
「どうしたのだ、フェリス」
ペコラが不思議に思って声を掛ける。
「ペコラ、ちょっと時間ある?」
「別に問題ないのだ。ちょうどピークからずれているし、この食堂の料理人は十分に腕前があるのだ。どうしたのだ?」
フェリスの質問に答えた上で、ペコラは再度何があったのかフェリスに声を掛けている。
「思いついたのよ、この街の名前。アファカさんやヘンネのところに行くわよ」
「ちょっと待つのだ、お代を払うのだ」
「ちゃんと払うから安心しなさい。それよりも街の名前だわ」
がばっと立ち上がったフェリスは、ペコラの手をがっちりと握りしめて引っ張っていく。
「みんなー、ちょっと行ってくるのだーっ! 店を頼むのだーっ!」
ペコラは食堂の店員たちに声を掛けながら、あえなくフェリスに引きずられて行ってしまったのだった。
やって来たのは新しい街の商業組合。アファカもヘンネも商業組合で働いているので、今なら二人とも居るはずである。やっと引きずりから解放されたペコラと一緒に、フェリスは商業組合へと入っていく。
「かっかっかっ、来たかフェリスよ」
「フェリス様!」
商業組合に来て真っ先に目に入ったのは、レイドたち四人の冒険者とそれと相対するドラコの姿だった。冒険者たちとは別行動になっていたはずのドラコとメルがなぜここに居るのだろうか。
「不思議そうな顔をしておるのう。なに、そろそろお前さんがやって来るだろうと思って先回りしておいたのじゃ。のう、メル」
「はい、その通りです」
目をキラキラとさせるメルの姿に、フェリスは唖然としている。
それはそうと、なぜ冒険者四人もここに居るのだろうか。ヘンネに連れられて行ったはずなのに、そのヘンネがなぜか居ない。まったくもって状況が分からなかった。
「ねえ、あなたたち。ヘンネ、鳥の邪神はどこに行ったのかしら」
「は、はい。ヘンネさんでしたら、何か登録に必要な書類を取ってくると言って、席を外されています」
そう答えたのは真面目系の魔法使いのブルムだった。
「ふーん、という事はさっきまで街の説明をしていたってところかしら。だったら、戻ってくるまで待たせてもらおうかしらね」
フェリスはそう言って、ドカッと椅子に腰掛けた。ペコラもそれに釣られて椅子に座る。
「なに、そっちのもこもこ髪の子は?!」
サポーターのピックルが、ペコラにものすごく反応している。
「ああ、この子はあたしの古い友人で羊の邪神であるペコラよ。今はフェリスメルを中心として料理をしている料理人よ。商人でもあるのでその辺りの知識もあるわ」
「うっそ、マジマジ? 邪神っていう割にはチョー可愛い子じゃん。やばい、あたし死にそう……」
フェリスの紹介を聞いたピックルが興奮してぶっ倒れそうになっている。こういう子だったのか。支援職にしては軽い感じである。その反応にペコラがもの凄くびっくりしている。
「悪い、可愛いもの好きなんだよ、ピックルは。魔物でも可愛いのが居たら、連れて帰りたがるんだ」
「これさえなければ優秀なサポーターなんだがなぁ……」
レイドとグルーンがため息混じりに話している。よっぽど行動にいろいろ難があるようだった。
そんなこんなと話をしていると、ヘンネが部屋に入ってきた。
「あら、フェリス。こんな所に居るなんて事は、街の名前が決まったのかしら?」
入ってくるなりフェリスの姿を見つけたヘンネは、すぐさまフェリスに言葉を掛けてきた。まったく、こういう時は目がいいのだ。だが、それに対してフェリスは待ってましたとばかりににやりと笑う。
「ええ、新しいものを生み出す街という事で、『クレアール』なんていうのはどうかしら」
そして、自信たっぷりに街の名前を発表するフェリスだったが、どういうわけか周りはまったくもって無反応というか固まってしまっていた。
「ちょっ、どういう反応よ、それは!?」
あまりに無反応すぎてフェリスが慌てている。すると、ヘンネが絶望的な表情をしながら口を開いた。
「いえ、まさかフェリスがそこまで考えた名前を提案するなんて思ってませんでしたから……」
「失礼ねっ! あたしだって頭使うわよ!」
ヘンネの言い分に、フェリスは激怒している。とはいえども、これは普段のフェリスの振る舞いが原因なのである。フェリスは反省してほしい。
「ですが、なかなか良い名前だと思いますよ。アファカと町長様と相談した上で、正式決定致します。今は私預かりという事でご容赦下さい」
「まあ仕方ないわね。てか、町長なんて居たっけ?」
「居ますよ。まったく、そういうところに関心がないのもフェリスらしいですね」
「なーによーっ!」
フェリスとヘンネのやり取りを見ていたレイドたちは、ツボに入ったのか大笑いをしている。ドラコとペコラも遠慮がない。メルだけは必死に笑うのを堪えている。しばらくの間、この部屋からはずっと笑い声とフェリスの怒る声が響き渡っていたのだった。
こうしたやり取りを経て、後日、正式のこの街の名前は『クレアール』と決まったのだった。
ペコラが不思議に思って声を掛ける。
「ペコラ、ちょっと時間ある?」
「別に問題ないのだ。ちょうどピークからずれているし、この食堂の料理人は十分に腕前があるのだ。どうしたのだ?」
フェリスの質問に答えた上で、ペコラは再度何があったのかフェリスに声を掛けている。
「思いついたのよ、この街の名前。アファカさんやヘンネのところに行くわよ」
「ちょっと待つのだ、お代を払うのだ」
「ちゃんと払うから安心しなさい。それよりも街の名前だわ」
がばっと立ち上がったフェリスは、ペコラの手をがっちりと握りしめて引っ張っていく。
「みんなー、ちょっと行ってくるのだーっ! 店を頼むのだーっ!」
ペコラは食堂の店員たちに声を掛けながら、あえなくフェリスに引きずられて行ってしまったのだった。
やって来たのは新しい街の商業組合。アファカもヘンネも商業組合で働いているので、今なら二人とも居るはずである。やっと引きずりから解放されたペコラと一緒に、フェリスは商業組合へと入っていく。
「かっかっかっ、来たかフェリスよ」
「フェリス様!」
商業組合に来て真っ先に目に入ったのは、レイドたち四人の冒険者とそれと相対するドラコの姿だった。冒険者たちとは別行動になっていたはずのドラコとメルがなぜここに居るのだろうか。
「不思議そうな顔をしておるのう。なに、そろそろお前さんがやって来るだろうと思って先回りしておいたのじゃ。のう、メル」
「はい、その通りです」
目をキラキラとさせるメルの姿に、フェリスは唖然としている。
それはそうと、なぜ冒険者四人もここに居るのだろうか。ヘンネに連れられて行ったはずなのに、そのヘンネがなぜか居ない。まったくもって状況が分からなかった。
「ねえ、あなたたち。ヘンネ、鳥の邪神はどこに行ったのかしら」
「は、はい。ヘンネさんでしたら、何か登録に必要な書類を取ってくると言って、席を外されています」
そう答えたのは真面目系の魔法使いのブルムだった。
「ふーん、という事はさっきまで街の説明をしていたってところかしら。だったら、戻ってくるまで待たせてもらおうかしらね」
フェリスはそう言って、ドカッと椅子に腰掛けた。ペコラもそれに釣られて椅子に座る。
「なに、そっちのもこもこ髪の子は?!」
サポーターのピックルが、ペコラにものすごく反応している。
「ああ、この子はあたしの古い友人で羊の邪神であるペコラよ。今はフェリスメルを中心として料理をしている料理人よ。商人でもあるのでその辺りの知識もあるわ」
「うっそ、マジマジ? 邪神っていう割にはチョー可愛い子じゃん。やばい、あたし死にそう……」
フェリスの紹介を聞いたピックルが興奮してぶっ倒れそうになっている。こういう子だったのか。支援職にしては軽い感じである。その反応にペコラがもの凄くびっくりしている。
「悪い、可愛いもの好きなんだよ、ピックルは。魔物でも可愛いのが居たら、連れて帰りたがるんだ」
「これさえなければ優秀なサポーターなんだがなぁ……」
レイドとグルーンがため息混じりに話している。よっぽど行動にいろいろ難があるようだった。
そんなこんなと話をしていると、ヘンネが部屋に入ってきた。
「あら、フェリス。こんな所に居るなんて事は、街の名前が決まったのかしら?」
入ってくるなりフェリスの姿を見つけたヘンネは、すぐさまフェリスに言葉を掛けてきた。まったく、こういう時は目がいいのだ。だが、それに対してフェリスは待ってましたとばかりににやりと笑う。
「ええ、新しいものを生み出す街という事で、『クレアール』なんていうのはどうかしら」
そして、自信たっぷりに街の名前を発表するフェリスだったが、どういうわけか周りはまったくもって無反応というか固まってしまっていた。
「ちょっ、どういう反応よ、それは!?」
あまりに無反応すぎてフェリスが慌てている。すると、ヘンネが絶望的な表情をしながら口を開いた。
「いえ、まさかフェリスがそこまで考えた名前を提案するなんて思ってませんでしたから……」
「失礼ねっ! あたしだって頭使うわよ!」
ヘンネの言い分に、フェリスは激怒している。とはいえども、これは普段のフェリスの振る舞いが原因なのである。フェリスは反省してほしい。
「ですが、なかなか良い名前だと思いますよ。アファカと町長様と相談した上で、正式決定致します。今は私預かりという事でご容赦下さい」
「まあ仕方ないわね。てか、町長なんて居たっけ?」
「居ますよ。まったく、そういうところに関心がないのもフェリスらしいですね」
「なーによーっ!」
フェリスとヘンネのやり取りを見ていたレイドたちは、ツボに入ったのか大笑いをしている。ドラコとペコラも遠慮がない。メルだけは必死に笑うのを堪えている。しばらくの間、この部屋からはずっと笑い声とフェリスの怒る声が響き渡っていたのだった。
こうしたやり取りを経て、後日、正式のこの街の名前は『クレアール』と決まったのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい
戌葉
ファンタジー
チートなもふもふに生まれ変わったオレは、ただいま飼い主のウィオと一緒に、世界中の美味しいものを食べるための食い倒れツアー中。トラブルに巻き込まれることもあるけど、オレはただ美味しいものが食べたいだけだから邪魔しないで!
これは正体を隠した飼い狐志望のルジェが、冒険者の使役獣として世界で活躍する冒険活劇です。多分。
「願いの守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい」の番外編。「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間のお話ですが、主人公たち以外の登場人物は異なります。
『役立たず』のはずが、いつの間にか王宮の救世主だと知ってました? ~放り出してくれて感謝します。おかげで私が本気を出す理由ができました~
昼から山猫
ファンタジー
王子と婚約していた辺境伯の娘サフィールは、控えめで目立たない性格ゆえ「役立たず」と侮られ、ついに破棄を言い渡される。胸の痛みを抱えながらも、「私は本当に無能だろうか?」と自問自答。実は祖母から受け継いだ古代魔法の知識を、ほとんど見せたことがないだけでは――と気づく。
意を決したサフィールは、王都を離れてひっそりと各地を回り、祖母の足跡を辿る旅に出る。
その頃、王都は魔物の侵入と自然災害で大混乱に陥っていた。
私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。
木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。
彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。
しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。
だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。
父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。
そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。
程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。
彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。
戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。
彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。
婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です
sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。
そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。
冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる