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第169話 邪神ちゃん、苦悩の果てに
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新しい街の食堂へとやって来たフェリス。そこへ入ってびっくり。
「ペコラ、なんで居るわけよ!」
「フェリスなのか? あーしは料理指導で来ているだけなのだ。フェリスメルから近いから、ここの料理の面倒も見てくれとアファカから頼まれたのだ」
フェリスの戸惑いにペコラは普通に返答をしている。どうやら商業組合の依頼でこっちに来ているらしい。
「それよりも、この街の名前がまだ決まっていないのが気になったのだ。フェリスは知ってるのか?」
「……それを今からあたしが考えるのよ。ヘンネから念押しされたわ」
ペコラが興味たっぷりに聞いてくるので、フェリスは視線を逸らしながらペコラに言う。するとペコラは笑っていた。
「そうなのか。という事は、考える前の腹ごしらえなのだな?」
フェリスの事情を聞いたペコラはにやりと笑っている。
「ならば、そのための料理はあーしに任せるのだ。フェリスはそこの奥の席に座るといいのだ」
ペコラはそう言ってその席を指し示すと、ぱたぱたと厨房へと走っていった。その後ろ姿にどこか安心したフェリスは、ペコラが示した席へと歩いていってちょこんと腰を掛けた。
フェリスはその席でゆったりと座っている。
周りからはちょっとした奇異の目を向けられてはいるものの、この街に来たばかりの人たちなのだろうと、フェリスは特に気に留めるような事はなかった。今のフェリスにとって問題なのはそんな事ではなかった。
(うーん、街の名前かぁ~……。あたし自身が何かに名付けるなんて経験、今までなかったものねぇ)
フェリスはすごく悩んでいた。
フェリスが知り合った者はたくさん居るものの、それ誰もが既に名持ちだったのだ。あのルディでさえ名前を持っていた。それがゆえに名前を付けるのは、地味に初体験なのである。だからこそ、フェリスには何も思いつかないのである。
悶々とフェリスが悩んでいると、ペコラが調理場から料理を持って出てきた。
「クルークの生産もだいぶ落ち着いてきたのだ。なので、今日はそのクルークを使った料理を作ってみたのだ」
ペコラがフェリスの前に、料理の盛り付けられた皿を静かに置いた。
クルーク。それはヘンネが連れてきた鳥の魔物である。温厚でおとなしいタイプの珍しい魔物だが、卵を一定以下に減らすとブチキレるという習性を持つ魔物だ。雌は卵を産むために長く飼育されるが、雄の方はある程度すると出番が無くなってしまう。そういった雄は数の調整のためにこうやって食肉となってしまうのだ。だが、その時すらもクルークはおとなしく、暴れる事はない。さすが、魔物の世界で揉まれてきただけの事はある。
どうやらペコラの出してきた料理は、そうやって処理されたクルークの肉を使った料理のようである。
「手塩にかけて育ててきたクルークだけに、正直殺すのも食べるのも気が引けちゃうわね」
「それでも仕方ないのだ。クルークの事を思えば数の調整は必要なのだ。それに、卵を食している時点ですでにその理論は破綻しているのだ」
「……まあそうね。だったら、せめてちゃんと食してあげるのが、弔いになるわね」
そう言って、フェリスはペコラの作ってきた料理を改めて眺めている。
「うん、さすがはペコラね。でも、これって数100年前にはなかった料理じゃないのかしら」
目の前にある料理を見たフェリスは不思議そうな目を向けている。それもそうだろう。クルークを使ったという割には、見た目はまるでパンにも似たような形をしていたのだから。外見からはどこにもクルークを思わせる要素はなかった。
「ふふん、あーしが考えた料理なのだ。せっかくフェリスメルにはあれだけの食材が揃っているのだ。だったらいろいろと試してみたくなるのだ」
ペコラは得意げな表情をフェリスに向けている。
「悔しいわね。さすがにあたしじゃこれは思いつかないわ」
「クルークのひき肉を使ったクルークパイなのだ。果物のパイとかと基本的な作り方は同じなのだ。ただ、果物を入れる代わりに、調理したクルークのひき肉を入れるのが特徴なのだ」
ペコラは自慢げにフェリスに料理の説明をしている。その説明を聞きながら、フォークとナイフを使って器用に食べるフェリス。黙々と味わいながら食べている様子を、ペコラはにこにことしながら見守っていた。
「ごちそうさまっと。まったくペコラの料理の腕には敵わないわね」
「気に入ってくれたのならよかったのだ。フェリスメルとの違いを打ち出すために、これからもいろいろと研究していくのだ」
「まったく、意欲的ね」
腰に両手を当てて意気込むペコラを見て、ついつい笑ってしまうフェリス。
まったく、ペコラというのは料理人であり商人でもあるので、探求心が旺盛のようである。この分なら、数100年前のレシピ再現どころか、クルークパイのように新しい料理もどんどんと作ってしまいそうである。
そんな時だった。
「あっ、そうだわ……」
急に何かを思いついたかのように、フェリスは笑いを止めて口に手を当てている。一体何を思いついたというのだろうか。
「ペコラ、なんで居るわけよ!」
「フェリスなのか? あーしは料理指導で来ているだけなのだ。フェリスメルから近いから、ここの料理の面倒も見てくれとアファカから頼まれたのだ」
フェリスの戸惑いにペコラは普通に返答をしている。どうやら商業組合の依頼でこっちに来ているらしい。
「それよりも、この街の名前がまだ決まっていないのが気になったのだ。フェリスは知ってるのか?」
「……それを今からあたしが考えるのよ。ヘンネから念押しされたわ」
ペコラが興味たっぷりに聞いてくるので、フェリスは視線を逸らしながらペコラに言う。するとペコラは笑っていた。
「そうなのか。という事は、考える前の腹ごしらえなのだな?」
フェリスの事情を聞いたペコラはにやりと笑っている。
「ならば、そのための料理はあーしに任せるのだ。フェリスはそこの奥の席に座るといいのだ」
ペコラはそう言ってその席を指し示すと、ぱたぱたと厨房へと走っていった。その後ろ姿にどこか安心したフェリスは、ペコラが示した席へと歩いていってちょこんと腰を掛けた。
フェリスはその席でゆったりと座っている。
周りからはちょっとした奇異の目を向けられてはいるものの、この街に来たばかりの人たちなのだろうと、フェリスは特に気に留めるような事はなかった。今のフェリスにとって問題なのはそんな事ではなかった。
(うーん、街の名前かぁ~……。あたし自身が何かに名付けるなんて経験、今までなかったものねぇ)
フェリスはすごく悩んでいた。
フェリスが知り合った者はたくさん居るものの、それ誰もが既に名持ちだったのだ。あのルディでさえ名前を持っていた。それがゆえに名前を付けるのは、地味に初体験なのである。だからこそ、フェリスには何も思いつかないのである。
悶々とフェリスが悩んでいると、ペコラが調理場から料理を持って出てきた。
「クルークの生産もだいぶ落ち着いてきたのだ。なので、今日はそのクルークを使った料理を作ってみたのだ」
ペコラがフェリスの前に、料理の盛り付けられた皿を静かに置いた。
クルーク。それはヘンネが連れてきた鳥の魔物である。温厚でおとなしいタイプの珍しい魔物だが、卵を一定以下に減らすとブチキレるという習性を持つ魔物だ。雌は卵を産むために長く飼育されるが、雄の方はある程度すると出番が無くなってしまう。そういった雄は数の調整のためにこうやって食肉となってしまうのだ。だが、その時すらもクルークはおとなしく、暴れる事はない。さすが、魔物の世界で揉まれてきただけの事はある。
どうやらペコラの出してきた料理は、そうやって処理されたクルークの肉を使った料理のようである。
「手塩にかけて育ててきたクルークだけに、正直殺すのも食べるのも気が引けちゃうわね」
「それでも仕方ないのだ。クルークの事を思えば数の調整は必要なのだ。それに、卵を食している時点ですでにその理論は破綻しているのだ」
「……まあそうね。だったら、せめてちゃんと食してあげるのが、弔いになるわね」
そう言って、フェリスはペコラの作ってきた料理を改めて眺めている。
「うん、さすがはペコラね。でも、これって数100年前にはなかった料理じゃないのかしら」
目の前にある料理を見たフェリスは不思議そうな目を向けている。それもそうだろう。クルークを使ったという割には、見た目はまるでパンにも似たような形をしていたのだから。外見からはどこにもクルークを思わせる要素はなかった。
「ふふん、あーしが考えた料理なのだ。せっかくフェリスメルにはあれだけの食材が揃っているのだ。だったらいろいろと試してみたくなるのだ」
ペコラは得意げな表情をフェリスに向けている。
「悔しいわね。さすがにあたしじゃこれは思いつかないわ」
「クルークのひき肉を使ったクルークパイなのだ。果物のパイとかと基本的な作り方は同じなのだ。ただ、果物を入れる代わりに、調理したクルークのひき肉を入れるのが特徴なのだ」
ペコラは自慢げにフェリスに料理の説明をしている。その説明を聞きながら、フォークとナイフを使って器用に食べるフェリス。黙々と味わいながら食べている様子を、ペコラはにこにことしながら見守っていた。
「ごちそうさまっと。まったくペコラの料理の腕には敵わないわね」
「気に入ってくれたのならよかったのだ。フェリスメルとの違いを打ち出すために、これからもいろいろと研究していくのだ」
「まったく、意欲的ね」
腰に両手を当てて意気込むペコラを見て、ついつい笑ってしまうフェリス。
まったく、ペコラというのは料理人であり商人でもあるので、探求心が旺盛のようである。この分なら、数100年前のレシピ再現どころか、クルークパイのように新しい料理もどんどんと作ってしまいそうである。
そんな時だった。
「あっ、そうだわ……」
急に何かを思いついたかのように、フェリスは笑いを止めて口に手を当てている。一体何を思いついたというのだろうか。
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