邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第166話 邪神ちゃんと見知らぬ冒険者

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 フェリスたちが上空を通る少し前の事だった。
 街道をゆく冒険者たちが居た。構成はよくある男女二人ずつかつ前衛後衛二人ずつというバランス型のパーティーだ。
 彼らが向かう先は、新しくできたという街。彼らの住んでいた街にも、その新しい街の情報はもたらされていたようだった。
「本当にそんな所に街があるのかな」
「どうなんだろうな。噂じゃ魔族が住みついたらしいから、できてる可能性はあるだろうよ」
「なにそれ。これだから魔族って怖い」
「まっ、その真偽を確かめるためにこうやって出向いてるわけだけどね、あたしたち」
 実にのほほんとした雰囲気の四人のようだ。何にしても、実際に確かめてみない事には信じられないといった考えのようである。
 道中はとても平和で、これといった魔物や盗賊の出現といったものはなかった。だが、いざ目的地が近付いてきた時の事だった。
「この感じは……、来るぞっ!」
 リーダーと思われる男が叫ぶ。それと同時にパーティー全員が構える。
 しばらくすると、地面のあちこちがぼこぼこと盛り上がり始める。
「こいつら、ジャイアントモウルか!」
 地面から湧き出してきたのは、人間の大人ぐらいの大きさを誇るモグラたちだった。
「くそっ、しかも囲まれてる」
「おまけになんなの、この数は?」
 もぞもぞと地面から這い出して来るモウルたち。
「モウルは群れる事があるとは聞いていたけれど、この数は異常過ぎない?」
 気が付けば20匹くらいに囲まれていた。基本的に単独、たまに数匹が群れる程度なので、やはりこの数は異常すぎる。
「しかし、ここは街道だ。このまま捨て置くといろいろと惨事が起きるかも知れない。やむを得ない。倒せるだけ倒すぞ!」
「おう!」
「分かったわ」
「やるしかないのね」
 こうして、冒険者たちとモウルとの戦いが始まったのだった。

「はあああっ!!」
 冒険者たちとモウルの群れの後ろに、ズドーンという大きな音と共にもうもうと土煙が上がる。
「こいつら、ジャイアントモウルね。なんでこんな所に出てるのかしら」
「ま、魔族?!」
 頭を掻きながら愚痴を言うフェリスを見て、冒険者たちが叫ぶ。
「この数の魔物に加えて、魔族まで相手にしなきゃいけないの?」
 この世の終わりのような顔をして冒険者が騒いでいる。さすがにこれにはフェリスはショックを隠し切れない。
「酷いわね。たまたま通りかかったらあんたたちが襲われてるから加勢に来たのに。そんな事言われたら助ける気をなくすわ」
 げんなりとした表情を見せるフェリス。
「でもま、この道は新しい街にとっては重要な道だし、街からもかなり近いから放っておくわけにはいかないわね」
 フェリスはその身から魔力を少しずつ漏れ出させて、モウルたちを挑発する。その魔力にあてられたモウルたちは、ターゲットを冒険者からフェリスへと切り替えていく。
「そうそう。あたしが相手よ。ほうら、かかって来なさい!」
 フェリスが「フシャーッ!」と叫び声を上げると、モウルたちが一斉にフェリス目がけて襲い掛かった。その光景に思わず冒険者たちは目を背けてしまうのだが、次の瞬間、モウルたちが宙を舞っていた。
「ふん、知恵も何もない野生動物の成れの果て風情が……。この邪神フェリス様に敵うと思っているわけ?」
 フェリスはボブカットの髪の毛をふぁさっと掻き上げると、びしっと決めポーズを決めていた。次の瞬間、どさどさという音を立てて、ジャイアントモウルたちは地面に転がった。
「かっかっかっかっ、戦闘能力は衰えておらんのう、フェリス」
 空を舞っていたドラコが降りてくる。そして、地上に降り立つ直前で幼女の姿に変身し、静かに地上に降り立った。
 その光景に、冒険者たち四人は凍り付いている。フェリスと名乗った猫の魔族と、それに話し掛けているドラゴン。圧倒的な魔力と圧倒的な存在感に、完全に気圧されてしまったのだ。
「一応確認はしておるが、この辺りのモウルは全部撃破できたようじゃな」
「そうみたいね。それにしても、これだけの数が一斉に出現するなんてあり得ないわね」
「そうじゃのう。じゃが、こやつらの体からは妙な魔力の残滓が感じられるゆえに、何者かが操っていた可能性があるようじゃのう」
「はあ……、実に面倒ね」
 フェリスは頭を抱えている。
「まあ、それについてはわしが調べておこう。それよりも今はそやつらじゃな」
 ドラコがフェリスの後ろの方を指差す。そこには先程戦っていた四人の冒険者が身構えていた。
「あ、あんたらは一体……」
「名乗ってもいいんだけど、とりあえず武器を下ろしてくれないかな? あたしたちはただの通りすがりなんだからね」
 睨みつけてくる冒険者たちをとりあえず宥めるフェリス。敵意がない事をようやく認めたのか、冒険者たちは武器をしまって構えを解いていった。
「とりあえず自己紹介するわ。あたしは邪神フェリス。見ての通りの猫の魔族よ。こっちはドラコ。始祖龍に次ぐドラゴンである古龍の内の一体で、あたしの友人よ」
 久々に堂々と邪神を名乗れた事に、にこにこが止まらないフェリスである。
 呆気に取られていた冒険者たち。しかし、フェリスたちが事情を聞いてくるし、勝ち目のない相手な上に逃げられる気がしないので、素直に事情の説明を始めたのだった。
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