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第162話 邪神ちゃんと青空雑談
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ようやく落ち着いてモスレの街を散策できるフェリスたちである。まったく組合のトラブルで丸1日ほどを無駄にしてしまった。それでもフェリスたちはさっさと気持ちを切り替えて街をうろついていた。
「センティアほどではないけれど、ここもずいぶんと賑わってるわね」
「おや、センティアに行った事があるのか。そういえば聖女がどうのこうも言っていたな。ならばあっても不思議じゃないか」
フェリスの感想に、コネッホは何やらぶつぶつと言っている。
「まぁな、フェリスは今代の聖女の生誕祭に呼ばれおったからな。わしもその場には乱入したがな」
「おい、ドラコは一体何をしてるんだ?!」
ドラコの激白にコネッホは思わずツッコミを入れていた。コネッホもどちらかといえば常識人タイプという事なのだろう。
ただ、今のコネッホの大声で、周りから要らない注目を浴びてしまった。その視線にさらされたコネッホは、こほんとひとつ咳払いをして何事もなかったようにフェリスたちの案内を続ける。
モスレの街の中にはちょっとした広場があるので、コネッホはそこまでフェリスとドラコを連れてきた。
「さて、ここならゆっくり座って食事ができる。ほら、あそこに長椅子が設置してあるんだよ」
コネッホが指を差した場所には、空き地を囲むように長椅子が何脚も置かれていた。よく見ると、モスレの住民らしき人たちが座っている様子が見られる。
コネッホたちがそれを気にせずに長椅子に座ると、その座っていたうちの一人が声を掛けてきた。
「おやおや、コネッホさんではないですか」
「こんにちは。薬は効いてますかね?」
どうやらその声を掛けてきたおばさんは、コネッホとは知り合いのようである。
「ええ、立つのも苦しかったというのに、こうやって散歩できるほどになりましたからね。この後は夕食の買い出しをして家に戻るつもりですよ」
「そうですか。歩けるようになって良かったですね」
さっきまではどことなく不機嫌な顔だったコネッホだが、おばさんと話している間は、嘘のように柔らかい笑顔になっていた。
その様子を見る限り、コネッホは錬金術師というよりは薬師のような感じで街に受け入れられているようである。
「おや、そちらはコネッホさんのお知り合いですか?」
おばさんがフェリスたちに気が付いて顔を覗いてくる。
「ええ、そうですよ。あたいの昔の知り合いでしてね。ちょうどモスレに遊びに来てくれたんで、案内しているところなんです」
「まあ、そうなのね。ふふっ、優しそうな魔族さんたちだね」
おばさんにコネッホが紹介すると、にこやかな笑顔でおばさんはそんな風に言っていた。初対面でこう言ってきた人間はそれほど多くはない。思ってもみなかった反応に、フェリスとドラコは驚いて顔を見合わせた。
それからしばらく、パンを食べながらコネッホは話をしている。どうやらこのおばさんが子どもの頃から、コネッホはこのモスレに住み着いていたらしい。見た目から計算するに少なくとも40年以上は住んでいるようだ。
「なーに、ここも昔はただの農村だったんだ。あたいの錬金術で気が付いたらここまで大きくなってたんだよ。もうどのくらい前だろうかな。ここに今住んでる人間なんて、ほとんどがあたいが住み始めてから後に生まれた人間ばかりさ」
さらりと明かされる驚愕の事実。今フェリスがやってるような事を、コネッホはすでに行っていたのである。
そうは言っても、やはりフェリスたちには意外な話だった。研究者気質であまり他人とは関わる事の少なかったコネッホが、どうして街に居ついているのか。昔を知る者としては、とても気になってしまう。
「なんだ、何かあたいの顔についてるのか?」
じーっと眺めているフェリスたちの視線が気になるコネッホ。
「いや、研究一筋だったあんたが、どうしてこうやって一か所に腰を落ち着けて、他人とも交流しているのか気になってね」
フェリスは正直に聞いた。
「まあ確かにな。フェリスたちの仲間になった時だって、好きなだけ研究させてくれるからだったからな。だが、あの後、訳も分からずに散り散りになって一人になってしまった。さまよってる時に実感したんだよ、フェリスたちとの騒いでいた頃が楽しかった事にな。だから、あたいはこうやって落ち着ける場所を探してたんだ」
コネッホはそうやって話をしながらも、何やら手を動かしている。そして、
「はい、左手に麻痺が見られる。食後にこいつを飲んでおいてくれ。孫の顔が見たいんだろ?」
コネッホたちの話を黙って聞いていたおばさんに、数10粒の丸薬が入った袋を渡していた。話をしながら薬を作っていたらしい。
「おんや、ありがとう。それでは、コネッホさんたちの話の邪魔にならないように、私は帰るかね」
「そうか。病気とかけがとかしたらいつでも来てくれ。できる限り対処しよう」
「ああ、ありがたやありがたや」
おばさんはにこやかな顔でその場を立ち去っていった。
その後もフェリスたちは長椅子に座ったまま、パンを食べながら話し込んでいた。散り散りになった後のコネッホの過去話は、なかなかに興味深いものだった。
ああ、それにしてもパンがおいしい。
「センティアほどではないけれど、ここもずいぶんと賑わってるわね」
「おや、センティアに行った事があるのか。そういえば聖女がどうのこうも言っていたな。ならばあっても不思議じゃないか」
フェリスの感想に、コネッホは何やらぶつぶつと言っている。
「まぁな、フェリスは今代の聖女の生誕祭に呼ばれおったからな。わしもその場には乱入したがな」
「おい、ドラコは一体何をしてるんだ?!」
ドラコの激白にコネッホは思わずツッコミを入れていた。コネッホもどちらかといえば常識人タイプという事なのだろう。
ただ、今のコネッホの大声で、周りから要らない注目を浴びてしまった。その視線にさらされたコネッホは、こほんとひとつ咳払いをして何事もなかったようにフェリスたちの案内を続ける。
モスレの街の中にはちょっとした広場があるので、コネッホはそこまでフェリスとドラコを連れてきた。
「さて、ここならゆっくり座って食事ができる。ほら、あそこに長椅子が設置してあるんだよ」
コネッホが指を差した場所には、空き地を囲むように長椅子が何脚も置かれていた。よく見ると、モスレの住民らしき人たちが座っている様子が見られる。
コネッホたちがそれを気にせずに長椅子に座ると、その座っていたうちの一人が声を掛けてきた。
「おやおや、コネッホさんではないですか」
「こんにちは。薬は効いてますかね?」
どうやらその声を掛けてきたおばさんは、コネッホとは知り合いのようである。
「ええ、立つのも苦しかったというのに、こうやって散歩できるほどになりましたからね。この後は夕食の買い出しをして家に戻るつもりですよ」
「そうですか。歩けるようになって良かったですね」
さっきまではどことなく不機嫌な顔だったコネッホだが、おばさんと話している間は、嘘のように柔らかい笑顔になっていた。
その様子を見る限り、コネッホは錬金術師というよりは薬師のような感じで街に受け入れられているようである。
「おや、そちらはコネッホさんのお知り合いですか?」
おばさんがフェリスたちに気が付いて顔を覗いてくる。
「ええ、そうですよ。あたいの昔の知り合いでしてね。ちょうどモスレに遊びに来てくれたんで、案内しているところなんです」
「まあ、そうなのね。ふふっ、優しそうな魔族さんたちだね」
おばさんにコネッホが紹介すると、にこやかな笑顔でおばさんはそんな風に言っていた。初対面でこう言ってきた人間はそれほど多くはない。思ってもみなかった反応に、フェリスとドラコは驚いて顔を見合わせた。
それからしばらく、パンを食べながらコネッホは話をしている。どうやらこのおばさんが子どもの頃から、コネッホはこのモスレに住み着いていたらしい。見た目から計算するに少なくとも40年以上は住んでいるようだ。
「なーに、ここも昔はただの農村だったんだ。あたいの錬金術で気が付いたらここまで大きくなってたんだよ。もうどのくらい前だろうかな。ここに今住んでる人間なんて、ほとんどがあたいが住み始めてから後に生まれた人間ばかりさ」
さらりと明かされる驚愕の事実。今フェリスがやってるような事を、コネッホはすでに行っていたのである。
そうは言っても、やはりフェリスたちには意外な話だった。研究者気質であまり他人とは関わる事の少なかったコネッホが、どうして街に居ついているのか。昔を知る者としては、とても気になってしまう。
「なんだ、何かあたいの顔についてるのか?」
じーっと眺めているフェリスたちの視線が気になるコネッホ。
「いや、研究一筋だったあんたが、どうしてこうやって一か所に腰を落ち着けて、他人とも交流しているのか気になってね」
フェリスは正直に聞いた。
「まあ確かにな。フェリスたちの仲間になった時だって、好きなだけ研究させてくれるからだったからな。だが、あの後、訳も分からずに散り散りになって一人になってしまった。さまよってる時に実感したんだよ、フェリスたちとの騒いでいた頃が楽しかった事にな。だから、あたいはこうやって落ち着ける場所を探してたんだ」
コネッホはそうやって話をしながらも、何やら手を動かしている。そして、
「はい、左手に麻痺が見られる。食後にこいつを飲んでおいてくれ。孫の顔が見たいんだろ?」
コネッホたちの話を黙って聞いていたおばさんに、数10粒の丸薬が入った袋を渡していた。話をしながら薬を作っていたらしい。
「おんや、ありがとう。それでは、コネッホさんたちの話の邪魔にならないように、私は帰るかね」
「そうか。病気とかけがとかしたらいつでも来てくれ。できる限り対処しよう」
「ああ、ありがたやありがたや」
おばさんはにこやかな顔でその場を立ち去っていった。
その後もフェリスたちは長椅子に座ったまま、パンを食べながら話し込んでいた。散り散りになった後のコネッホの過去話は、なかなかに興味深いものだった。
ああ、それにしてもパンがおいしい。
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