邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
162 / 290

第162話 邪神ちゃんと青空雑談

しおりを挟む
 ようやく落ち着いてモスレの街を散策できるフェリスたちである。まったく組合のトラブルで丸1日ほどを無駄にしてしまった。それでもフェリスたちはさっさと気持ちを切り替えて街をうろついていた。
「センティアほどではないけれど、ここもずいぶんと賑わってるわね」
「おや、センティアに行った事があるのか。そういえば聖女がどうのこうも言っていたな。ならばあっても不思議じゃないか」
 フェリスの感想に、コネッホは何やらぶつぶつと言っている。
「まぁな、フェリスは今代の聖女の生誕祭に呼ばれおったからな。わしもその場には乱入したがな」
「おい、ドラコは一体何をしてるんだ?!」
 ドラコの激白にコネッホは思わずツッコミを入れていた。コネッホもどちらかといえば常識人タイプという事なのだろう。
 ただ、今のコネッホの大声で、周りから要らない注目を浴びてしまった。その視線にさらされたコネッホは、こほんとひとつ咳払いをして何事もなかったようにフェリスたちの案内を続ける。
 モスレの街の中にはちょっとした広場があるので、コネッホはそこまでフェリスとドラコを連れてきた。
「さて、ここならゆっくり座って食事ができる。ほら、あそこに長椅子が設置してあるんだよ」
 コネッホが指を差した場所には、空き地を囲むように長椅子が何脚も置かれていた。よく見ると、モスレの住民らしき人たちが座っている様子が見られる。
 コネッホたちがそれを気にせずに長椅子に座ると、その座っていたうちの一人が声を掛けてきた。
「おやおや、コネッホさんではないですか」
「こんにちは。薬は効いてますかね?」
 どうやらその声を掛けてきたおばさんは、コネッホとは知り合いのようである。
「ええ、立つのも苦しかったというのに、こうやって散歩できるほどになりましたからね。この後は夕食の買い出しをして家に戻るつもりですよ」
「そうですか。歩けるようになって良かったですね」
 さっきまではどことなく不機嫌な顔だったコネッホだが、おばさんと話している間は、嘘のように柔らかい笑顔になっていた。
 その様子を見る限り、コネッホは錬金術師というよりは薬師のような感じで街に受け入れられているようである。
「おや、そちらはコネッホさんのお知り合いですか?」
 おばさんがフェリスたちに気が付いて顔を覗いてくる。
「ええ、そうですよ。あたいの昔の知り合いでしてね。ちょうどモスレに遊びに来てくれたんで、案内しているところなんです」
「まあ、そうなのね。ふふっ、優しそうな魔族さんたちだね」
 おばさんにコネッホが紹介すると、にこやかな笑顔でおばさんはそんな風に言っていた。初対面でこう言ってきた人間はそれほど多くはない。思ってもみなかった反応に、フェリスとドラコは驚いて顔を見合わせた。
 それからしばらく、パンを食べながらコネッホは話をしている。どうやらこのおばさんが子どもの頃から、コネッホはこのモスレに住み着いていたらしい。見た目から計算するに少なくとも40年以上は住んでいるようだ。
「なーに、ここも昔はただの農村だったんだ。あたいの錬金術で気が付いたらここまで大きくなってたんだよ。もうどのくらい前だろうかな。ここに今住んでる人間なんて、ほとんどがあたいが住み始めてから後に生まれた人間ばかりさ」
 さらりと明かされる驚愕の事実。今フェリスがやってるような事を、コネッホはすでに行っていたのである。
 そうは言っても、やはりフェリスたちには意外な話だった。研究者気質であまり他人とは関わる事の少なかったコネッホが、どうして街に居ついているのか。昔を知る者としては、とても気になってしまう。
「なんだ、何かあたいの顔についてるのか?」
 じーっと眺めているフェリスたちの視線が気になるコネッホ。
「いや、研究一筋だったあんたが、どうしてこうやって一か所に腰を落ち着けて、他人とも交流しているのか気になってね」
 フェリスは正直に聞いた。
「まあ確かにな。フェリスたちの仲間になった時だって、好きなだけ研究させてくれるからだったからな。だが、あの後、訳も分からずに散り散りになって一人になってしまった。さまよってる時に実感したんだよ、フェリスたちとの騒いでいた頃が楽しかった事にな。だから、あたいはこうやって落ち着ける場所を探してたんだ」
 コネッホはそうやって話をしながらも、何やら手を動かしている。そして、
「はい、左手に麻痺が見られる。食後にこいつを飲んでおいてくれ。孫の顔が見たいんだろ?」
 コネッホたちの話を黙って聞いていたおばさんに、数10粒の丸薬が入った袋を渡していた。話をしながら薬を作っていたらしい。
「おんや、ありがとう。それでは、コネッホさんたちの話の邪魔にならないように、私は帰るかね」
「そうか。病気とかけがとかしたらいつでも来てくれ。できる限り対処しよう」
「ああ、ありがたやありがたや」
 おばさんはにこやかな顔でその場を立ち去っていった。
 その後もフェリスたちは長椅子に座ったまま、パンを食べながら話し込んでいた。散り散りになった後のコネッホの過去話は、なかなかに興味深いものだった。
 ああ、それにしてもパンがおいしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...