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第154話 邪神ちゃんのお人好し
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コネッホは商業組合に入ると、迷う事なく一番右端のカウンターに向かう。
「おいおい、人が作業してるのが見えない……って、コネッホか」
「なにさ、その残念そうな反応は。せっかく少し早めに戻ってきたのにさ」
「確かに。まだひと月経ってないな」
男性職員はカウンターに置いてる暦表を見ながら、コネッホに言う。
「にしても、確かに早かったな。一体何があったんだ?」
「なにって、予定通りに帰ろうとしたら、古い友人が送ってくれたのさ」
「友人?」
男性職員は、コネッホの返答に眉を歪めながら聞き返す。
「ほら、フェリス、ドラコ。こっちに来なよ」
コネッホが呼ぶので、フェリスとドラコがカウンターまでやって来た。姿を見せた二人に、男性職員はびっくりしている。
「猫の魔族と……そちらはドラゴンか。すごい組み合わせだな」
顔には冷や汗が見えるものの、冷静に対応しようとする男性職員。さすが仕事人である。とはいえども、どちらも初めて見る種族なので、その心の内はものすごく複雑な感情が入り乱れていた。
「かっかっかっ、表面的には冷静に取り繕うとは、大したもんじゃのう。なーに、わしらはコネッホが申した通り、ただこのモスレまでコネッホを送り届けに来たにすぎん。ただ、コネッホが世話になっているというこの街が気になったからな、何もせんから見物だけさせてもらいたい」
ドラコはコネッホの隣まで移動して、ずずいっとカウンターにせり出す。
「いやぁ、それは構いませんよ。この街は他所とは違って魔族たちにも寛容ですし、コネッホには世話になりっぱなしですからね。ご友人であるのなら、迷惑を掛けない限りはお好きにして頂いて構いませんよ」
「ほうほう、ずいぶんと大きな事を言うのう」
そう言って、ドラコと男性職員は大声で笑っている。普段はトラブルメーカーのフェリスも、呆然とその光景を眺めている。実に珍しい光景である。
「実に気に入ったぞ、おぬし。コネッホとも舌戦をやり合っておるようじゃしな。こいつでも納めてやろう」
「ちょっと、ドラコ?!」
コネッホが驚くのも無理はない。ドラコは自分の髪の毛を1本引き抜いてカウンターに置いたのだから。そして、その髪の毛はみるみるうちに、数枚の鱗へと変わっていった。
「なっ、これはドラゴンの鱗?!?!」
「うむ、なかなかに入手困難なものじゃろうて。わしは気に入った相手にはこうやってお裾分けをするのが趣味でな。なに、鱗は生え変わりが早い、気にせず受け取っておけ」
男性職員は目の色を白黒させながら、完全に言葉を失っていた。ドラゴンの鱗という叫び声を聞いた他の職員たちが、男性職員のカウンターに集まってくる。
「かっかっかっ。わしは古龍じゃぞ。仕入れたいと思うのなら、フェリスメルまで出向くといい。いつでも歓迎するぞ」
ドラコは両手を腰に当てて笑っている。後ろではフェリスが呆れた様子でその光景を見守っていた。
「それは魅力的な提案だな。組合長に掛け合ってみるとするか」
「かっかっかっ、そうかそうか。そいつは楽しみだ」
コネッホすら置き去りにして、ドラコと男性職員が悪い顔をしていた。後ろではドラゴンの鱗で盛り上がっている光景が繰り広げられている。一体何だろうか、このカオスな光景は……。
「とりあえずだ。あたいが戻ってきたからには、またいつも通りポーションの納品はする。在庫を確認させてもらっていいか?」
「ああ、それなら構わない。ついて来い」
見かねたコネッホが咳払いをしながら男性職員に確認を取ると、それはあっさり了承された。
「そうだ。連れの二人も来ていいぞ。コネッホの友人ならそれだけで信用できる。っと、俺はビジーだ、よろしくな」
ビジーはにかっと笑って席を立ってフェリスたちを案内し始めた。
商業組合の倉庫に案内されたフェリスたち。扉を開けると、その室内では様々な物品が保管されていた。その中で案内されたのは、入口からほど近い位置にある棚だった。
「コネッホのポーションは効果が高いから、価格も高いけれど需要が多くてね。すぐに出せるように入口近くに置いてるんだ」
ビジーはそのように説明している。
「ふむ。じゃが、ちょっとこれでは保存の状態がよくないな。こっちの奴はもっと冷たくないと傷んでしまうぞ。逆にこっちのは日の当たらない場所はかえって有毒になってしまう。本当にここは商業組合の倉庫か?」
「そうね。ろくな知識もなく、とにかく一か所で保管すればいいやって感じで置いてあるわね。コネッホが知らないはずないんだけどな……」
ドラコとフェリスの反応にコネッホはうっと胸を痛めるような仕草をした。
「いやあ、二人には悪いんだけど、コネッホがここに入るのは初めてなんだ。ずっとカウンターでの取引だったしね。これだけコネッホが街を離れたのが初めてだから、見せた事がないんだよ」
ビジーがコネッホを擁護する。
「でもまぁ、品質の悪いものを出すわけにもいかないからね。よかったらものの保存について教えてもらえると助かる」
ビジーの微妙な謙虚さに、フェリスとドラコは顔を見合わせる。だが、すぐさまコネッホと一緒に、
「構わぬぞ」
と返事をしたのだった。
こうして、モスレの商業組合の倉庫の改装が始まったのである。
「おいおい、人が作業してるのが見えない……って、コネッホか」
「なにさ、その残念そうな反応は。せっかく少し早めに戻ってきたのにさ」
「確かに。まだひと月経ってないな」
男性職員はカウンターに置いてる暦表を見ながら、コネッホに言う。
「にしても、確かに早かったな。一体何があったんだ?」
「なにって、予定通りに帰ろうとしたら、古い友人が送ってくれたのさ」
「友人?」
男性職員は、コネッホの返答に眉を歪めながら聞き返す。
「ほら、フェリス、ドラコ。こっちに来なよ」
コネッホが呼ぶので、フェリスとドラコがカウンターまでやって来た。姿を見せた二人に、男性職員はびっくりしている。
「猫の魔族と……そちらはドラゴンか。すごい組み合わせだな」
顔には冷や汗が見えるものの、冷静に対応しようとする男性職員。さすが仕事人である。とはいえども、どちらも初めて見る種族なので、その心の内はものすごく複雑な感情が入り乱れていた。
「かっかっかっ、表面的には冷静に取り繕うとは、大したもんじゃのう。なーに、わしらはコネッホが申した通り、ただこのモスレまでコネッホを送り届けに来たにすぎん。ただ、コネッホが世話になっているというこの街が気になったからな、何もせんから見物だけさせてもらいたい」
ドラコはコネッホの隣まで移動して、ずずいっとカウンターにせり出す。
「いやぁ、それは構いませんよ。この街は他所とは違って魔族たちにも寛容ですし、コネッホには世話になりっぱなしですからね。ご友人であるのなら、迷惑を掛けない限りはお好きにして頂いて構いませんよ」
「ほうほう、ずいぶんと大きな事を言うのう」
そう言って、ドラコと男性職員は大声で笑っている。普段はトラブルメーカーのフェリスも、呆然とその光景を眺めている。実に珍しい光景である。
「実に気に入ったぞ、おぬし。コネッホとも舌戦をやり合っておるようじゃしな。こいつでも納めてやろう」
「ちょっと、ドラコ?!」
コネッホが驚くのも無理はない。ドラコは自分の髪の毛を1本引き抜いてカウンターに置いたのだから。そして、その髪の毛はみるみるうちに、数枚の鱗へと変わっていった。
「なっ、これはドラゴンの鱗?!?!」
「うむ、なかなかに入手困難なものじゃろうて。わしは気に入った相手にはこうやってお裾分けをするのが趣味でな。なに、鱗は生え変わりが早い、気にせず受け取っておけ」
男性職員は目の色を白黒させながら、完全に言葉を失っていた。ドラゴンの鱗という叫び声を聞いた他の職員たちが、男性職員のカウンターに集まってくる。
「かっかっかっ。わしは古龍じゃぞ。仕入れたいと思うのなら、フェリスメルまで出向くといい。いつでも歓迎するぞ」
ドラコは両手を腰に当てて笑っている。後ろではフェリスが呆れた様子でその光景を見守っていた。
「それは魅力的な提案だな。組合長に掛け合ってみるとするか」
「かっかっかっ、そうかそうか。そいつは楽しみだ」
コネッホすら置き去りにして、ドラコと男性職員が悪い顔をしていた。後ろではドラゴンの鱗で盛り上がっている光景が繰り広げられている。一体何だろうか、このカオスな光景は……。
「とりあえずだ。あたいが戻ってきたからには、またいつも通りポーションの納品はする。在庫を確認させてもらっていいか?」
「ああ、それなら構わない。ついて来い」
見かねたコネッホが咳払いをしながら男性職員に確認を取ると、それはあっさり了承された。
「そうだ。連れの二人も来ていいぞ。コネッホの友人ならそれだけで信用できる。っと、俺はビジーだ、よろしくな」
ビジーはにかっと笑って席を立ってフェリスたちを案内し始めた。
商業組合の倉庫に案内されたフェリスたち。扉を開けると、その室内では様々な物品が保管されていた。その中で案内されたのは、入口からほど近い位置にある棚だった。
「コネッホのポーションは効果が高いから、価格も高いけれど需要が多くてね。すぐに出せるように入口近くに置いてるんだ」
ビジーはそのように説明している。
「ふむ。じゃが、ちょっとこれでは保存の状態がよくないな。こっちの奴はもっと冷たくないと傷んでしまうぞ。逆にこっちのは日の当たらない場所はかえって有毒になってしまう。本当にここは商業組合の倉庫か?」
「そうね。ろくな知識もなく、とにかく一か所で保管すればいいやって感じで置いてあるわね。コネッホが知らないはずないんだけどな……」
ドラコとフェリスの反応にコネッホはうっと胸を痛めるような仕草をした。
「いやあ、二人には悪いんだけど、コネッホがここに入るのは初めてなんだ。ずっとカウンターでの取引だったしね。これだけコネッホが街を離れたのが初めてだから、見せた事がないんだよ」
ビジーがコネッホを擁護する。
「でもまぁ、品質の悪いものを出すわけにもいかないからね。よかったらものの保存について教えてもらえると助かる」
ビジーの微妙な謙虚さに、フェリスとドラコは顔を見合わせる。だが、すぐさまコネッホと一緒に、
「構わぬぞ」
と返事をしたのだった。
こうして、モスレの商業組合の倉庫の改装が始まったのである。
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