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第145話 邪神ちゃんの錬金術師
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新しい街の完成も近づいていたある日の事。
「これは……?」
街の商業組合に寄った一人の人物が、ある貼り紙に目を止める。
「やあ、コネッホ。そいつは新しくできる街の住民募集の貼り紙だな」
「新しい街?」
「そうさ、そこはなんでも、二本足で立つ猫が造ったとかなんとかって言われてる場所だ。二本足で立つっていやあ、コネッホもそうだな」
商業組合の男性職員が、コネッホを見ながら話している。
コネッホは見た目は明るい茶色いウサギだ。二本足で立ち、左目にモノクルを掛け、地面に付きそうなくらい裾の長い長袖のジャケットを着ている。ローブと言ってもいいような上着である。
「ふぅん、二本足で立つ猫ねぇ……。あたいの知ってる奴かも知れないね」
「おっ、そうか? まああんたもそういや魔族だもんな。……まさか、その街に出向くつもりかい?」
「いや、見物をさせてもらうだけさ。あたいが居なくなったら、この街の薬のレベルが下がるし、みんなも困るだろう?」
「まあ、そうだな。さすが魔族とあって、そこらの薬師とは明らかにポーションのレベルが違う。コネッホに居なくなられると、うちの街は大打撃だな」
コネッホの言葉に、男性職員は真剣に悩んでいるようだ。
「そういう事だ。見物しに行くとしても、1ヶ月分くらいは作っていくから安心しておくれ。この街にはあたいを受け入れてくれた恩があるからな」
「おう、ありがたい」
コネッホの言葉に、男性職員はものすごく喜んでいる。けらっけらと表情が明るくなっていた。
「とりあえず、場所の確認をしておきたい。地図は貰えるか?」
「分かった。確かフェリスメルって村の近くだったな……、えっと、地図はどこだ……」
「……フェリス。やっぱりあの猫か」
コネッホはぽつりと呟いた。
「うん? 何か言ったかな?」
「いや別に……。それよりも早く地図を貰えないか?」
「もうちょっと待ってくれ。ええと、どこにしまったかな……」
男性職員はごそごそと棚を探している。そこには物がぐちゃぐちゃに置かれており、何が何だか分からなくなっていた。
「まったく、整理整頓をしないからそういう事になるんだ。もういい、ポーションは納品しておくし、あたい自慢の鼻であいつのところに直接向かうよ」
「えっ、鼻って……」
職員が反応した次の瞬間、コネッホはすでに商業組合の中には居なかった。さすがはウサギである、足が速い。地図を探していた男性職員は、その速さに呆気に取られてしまったのだった。
翌日、商業組合に約1か月分のポーションを納品するコネッホ。数にして約500くらいだ。
「本当にすごいなぁ。たったひと晩でこれだけ作ってしまうなんて」
「まぁ、あたいからすればこのくらい楽勝だよ。本当はこの倍くらい作りたかったけれど、材料が足りなかった」
カウンターの上にはずらりと瓶詰めされたポーションが並ぶ。足りなかったのは実は、このポーションを入れる瓶だった。
「容器も自分で作れれば、あと300くらいは作れたんだけどね。こればっかりは仕方ない。あの頃もハバリーに頼んで作ってもらってたからな」
「ハバリーって?」
「ああ、あたいの古い友人さ。土魔法が得意でね。こういった瓶なんかも簡単に作っちまうのさ」
ハバリーの説明をする時のコネッホの顔は、今までに見た事がないくらい優しい顔になっていた。その顔に、男性職員はものすごく驚いていた。
「それにしても、その鞄は便利だな。それって売ってる物なのか?」
「これはあたいの作ったマジックバッグさ。錬金術の応用で作れるんだ。ただ、自分用以外に作った事はないし、作る気も起きないがね」
「ちぇっ、大儲けだと思ったのに……」
「なに、世の中そんなに甘くないって事さ。あたいがここまで錬金術にはまったのも、フェリスやハバリーたちに出会ってからだからね」
コネッホのこの言葉に、男性職員ははっとする。
「フェリス……。まさかフェリスメルっていう村の名前は!」
あまりの驚き様に、コネッホはにやっと笑っている。
「おそらくそれで合ってると思うよ。フェリスメルのフェリスは、間違いなくあたいの旧友である猫の邪神、フェリスから来てる。ちなみにだけど、あたいもウサギの邪神って言われた時期があるんだよ」
「それじゃ、自慢な鼻っていうのは」
「そっ、あたいの鼻さ。フェリスのにおいは忘れた事はないからね。その気になればどんなに離れてたって嗅ぎつけるさ。それが邪神とまで言われたあたいの自慢だからね」
コネッホはそう言うと、鞄の口を閉めて商業組合から出ていこうとする。
「それじゃ、しばらく出掛けてくる。1か月後くらいには戻ってくるよ」
「おう、戻ってくるのを待ってるからな」
男性職員がそう言った次の瞬間には、もうコネッホの姿はそこには無かった。本当に足が速すぎる。
コネッホが出ていくと、男性職員は大きく背伸びをして、今日の仕事を頑張るべく気合いを入れ直していた。
こうして、フェリスたちの古い仲間がまた一人、フェリスメルへと向かって走っていったのだった。
「これは……?」
街の商業組合に寄った一人の人物が、ある貼り紙に目を止める。
「やあ、コネッホ。そいつは新しくできる街の住民募集の貼り紙だな」
「新しい街?」
「そうさ、そこはなんでも、二本足で立つ猫が造ったとかなんとかって言われてる場所だ。二本足で立つっていやあ、コネッホもそうだな」
商業組合の男性職員が、コネッホを見ながら話している。
コネッホは見た目は明るい茶色いウサギだ。二本足で立ち、左目にモノクルを掛け、地面に付きそうなくらい裾の長い長袖のジャケットを着ている。ローブと言ってもいいような上着である。
「ふぅん、二本足で立つ猫ねぇ……。あたいの知ってる奴かも知れないね」
「おっ、そうか? まああんたもそういや魔族だもんな。……まさか、その街に出向くつもりかい?」
「いや、見物をさせてもらうだけさ。あたいが居なくなったら、この街の薬のレベルが下がるし、みんなも困るだろう?」
「まあ、そうだな。さすが魔族とあって、そこらの薬師とは明らかにポーションのレベルが違う。コネッホに居なくなられると、うちの街は大打撃だな」
コネッホの言葉に、男性職員は真剣に悩んでいるようだ。
「そういう事だ。見物しに行くとしても、1ヶ月分くらいは作っていくから安心しておくれ。この街にはあたいを受け入れてくれた恩があるからな」
「おう、ありがたい」
コネッホの言葉に、男性職員はものすごく喜んでいる。けらっけらと表情が明るくなっていた。
「とりあえず、場所の確認をしておきたい。地図は貰えるか?」
「分かった。確かフェリスメルって村の近くだったな……、えっと、地図はどこだ……」
「……フェリス。やっぱりあの猫か」
コネッホはぽつりと呟いた。
「うん? 何か言ったかな?」
「いや別に……。それよりも早く地図を貰えないか?」
「もうちょっと待ってくれ。ええと、どこにしまったかな……」
男性職員はごそごそと棚を探している。そこには物がぐちゃぐちゃに置かれており、何が何だか分からなくなっていた。
「まったく、整理整頓をしないからそういう事になるんだ。もういい、ポーションは納品しておくし、あたい自慢の鼻であいつのところに直接向かうよ」
「えっ、鼻って……」
職員が反応した次の瞬間、コネッホはすでに商業組合の中には居なかった。さすがはウサギである、足が速い。地図を探していた男性職員は、その速さに呆気に取られてしまったのだった。
翌日、商業組合に約1か月分のポーションを納品するコネッホ。数にして約500くらいだ。
「本当にすごいなぁ。たったひと晩でこれだけ作ってしまうなんて」
「まぁ、あたいからすればこのくらい楽勝だよ。本当はこの倍くらい作りたかったけれど、材料が足りなかった」
カウンターの上にはずらりと瓶詰めされたポーションが並ぶ。足りなかったのは実は、このポーションを入れる瓶だった。
「容器も自分で作れれば、あと300くらいは作れたんだけどね。こればっかりは仕方ない。あの頃もハバリーに頼んで作ってもらってたからな」
「ハバリーって?」
「ああ、あたいの古い友人さ。土魔法が得意でね。こういった瓶なんかも簡単に作っちまうのさ」
ハバリーの説明をする時のコネッホの顔は、今までに見た事がないくらい優しい顔になっていた。その顔に、男性職員はものすごく驚いていた。
「それにしても、その鞄は便利だな。それって売ってる物なのか?」
「これはあたいの作ったマジックバッグさ。錬金術の応用で作れるんだ。ただ、自分用以外に作った事はないし、作る気も起きないがね」
「ちぇっ、大儲けだと思ったのに……」
「なに、世の中そんなに甘くないって事さ。あたいがここまで錬金術にはまったのも、フェリスやハバリーたちに出会ってからだからね」
コネッホのこの言葉に、男性職員ははっとする。
「フェリス……。まさかフェリスメルっていう村の名前は!」
あまりの驚き様に、コネッホはにやっと笑っている。
「おそらくそれで合ってると思うよ。フェリスメルのフェリスは、間違いなくあたいの旧友である猫の邪神、フェリスから来てる。ちなみにだけど、あたいもウサギの邪神って言われた時期があるんだよ」
「それじゃ、自慢な鼻っていうのは」
「そっ、あたいの鼻さ。フェリスのにおいは忘れた事はないからね。その気になればどんなに離れてたって嗅ぎつけるさ。それが邪神とまで言われたあたいの自慢だからね」
コネッホはそう言うと、鞄の口を閉めて商業組合から出ていこうとする。
「それじゃ、しばらく出掛けてくる。1か月後くらいには戻ってくるよ」
「おう、戻ってくるのを待ってるからな」
男性職員がそう言った次の瞬間には、もうコネッホの姿はそこには無かった。本当に足が速すぎる。
コネッホが出ていくと、男性職員は大きく背伸びをして、今日の仕事を頑張るべく気合いを入れ直していた。
こうして、フェリスたちの古い仲間がまた一人、フェリスメルへと向かって走っていったのだった。
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